遺言書には、いくつかの種類があります。
作成方法だけではなくトラブルを予防できる効果も異なるので、作成前にそれぞれの遺言書の特徴を正しく押さえておきましょう。
弁護士としては、特に「公正証書遺言」を強くお勧めします。
今回は遺言書の種類や特徴、なぜ公正証書遺言がトラブル予防に有効かご説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。
このページの目次
1.遺産が少額でも相続トラブルが起こっている
「遺産トラブル」というと一部の富裕層における問題であり、一般の方には無関係と思われがちです。しかし現実にはむしろ、一般的な中流家庭においてこそ遺産相続トラブルが多数発生しています。
令和元年の司法統計によると、家庭裁判所で遺産分割調停が起こった総数は7284件、そのうち遺産額1000万円以下の案件が2473件で約34%。遺産額5000万円以下の案件(3103件)を含めると合計5576件となり、割合にすると全体数の約77%にものぼります。
https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/308/011308.pdf
このように全体の8割弱の遺産分割調停は遺産額が5000万円以下のケースであり、遺産トラブルは決して富裕層だけの問題ではありません。
一般のご家庭であっても遺言書を作成してトラブル予防をはかる必要があるといえるでしょう。
2.遺言書の種類
通常時に作成できる遺言書には、以下の3種類があります。
2-1.自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆して作成する遺言書です。
保管は本人が行うか、法務局に預ける制度を利用します。法務局に預けると、相続開始後に相続人が「検認」を受ける必要がありません。検認とは、相続人が遺言書を発見した後に家庭裁判所へ申立をして遺言書の状態や内容を保存する手続きです。
法務局に預けず本人が保管していた場合には検認が必要です。
●メリット
- 法務局に預けると検認を受ける必要がない
- 簡単に作成できる
- 費用がかからない
●デメリット
- 無効になりやすい
- 紛失、偽造変造、破棄や隠匿のリスクが高い
- 発見した相続人が「無効」と言い出してトラブルの要因になる可能性が高い
2-2.公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人に公文書として作成してもらう遺言書です。信用性が高く、無効になりにくい性質があります。
遺言者が自筆できない寝たきりなどの状態でも、公証人に出張してきてもらって口授で作成できます。また公証役場で保管してもらえるので、紛失や書き換え、隠匿などのおそれはありません。公正証書遺言の場合、検認も不要です。
ただし作成の際には公証役場へ申し込まねばならず、費用もかかります。2人の証人も用意しなければなりません(用意できない場合には公証役場から紹介してもらえますが、費用がかかります)。
●メリット
- 無効になりにくい
- 公証役場で保管してもらえる
- 紛失、隠匿、偽造変造などのおそれがない
- 自筆できない状態でも作成できる
- 検認が不要
●デメリット
- 手間と費用がかかる
2-3.秘密証書遺言
秘密証書遺言は、内容を秘密にできる遺言書です。
遺言者が自分で遺言書を作成して封入して公証役場へ持ち込み、存在のみを認証してもらいます。保管は遺言者自身で行わねばなりません。
誰にも内容を見られないメリットがありますが、紛失や破棄隠匿などのおそれはありますし、無効になるリスクも相応にある方法です。
●メリット
- 内容を秘密にできる
●デメリット
- 手間と費用がかかる
- 無効になるリスクがそれなりに高い
- 紛失、隠匿のおそれがある
- 検認が必要
3.公正証書遺言が紛争予防に適している理由
3-1.無効になるリスクが低い
せっかく遺言書を作成しても、無効になっては意味がありません。
公正証書遺言の場合、公証人が要式を守って作成するので無効になるリスクは極めて低いといえます。相続人が「遺言書は無効」といいだしてトラブルになるケースも自筆証書遺言などと比べると少数です。
トラブル予防には最適な方法といえるでしょう。
3-2.偽造や書き換えのリスクがない
自筆証書遺言が自宅で発見されると、一部の相続人が「遺言書は偽造(偽物)だ」「書き換えられている」などと主張するケースが少なくありません。
公正証書遺言であれば公証役場で保管されるので偽造や書き換えは不可能です。不満を持つ相続人がいてもトラブルに発展しにくいメリットがあります。
3-3.発見されやすい
自筆証書遺言や秘密証書遺言を作成して自分で保管していても、発見されるとは限りません。せっかく遺言書を作成しても発見されなければ意味がないでしょう。
公正証書遺言の場合、相続発生後に相続人が公証役場で手続きをとれば、検索して遺言書の有無を調べられます。
発見されないリスクを低下させられることも公正証書遺言のメリットといえるでしょう。
遺言書を作成するときには、多少の手間と費用をかけてもトラブルを予防するため公正証書遺言を利用するようお勧めします。方法がわからない場合、手間を掛けたくない場合には弁護士がサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。