判例紹介

撤回された遺言書の効力が復活する場合とは?

2023-08-11

遺言書を一度作成しても、その後気が変われば、遺言書を自由に撤回することができます。これは、遺言者の最終的な意思を尊重すべきだからです。

それでは、遺言書を一度撤回してしまうと、その遺言書の効力が復活することはないのでしょうか。

今回は、京都の弁護士が、撤回された遺言書の効力が復活する場合について、解説します。遺言書の撤回が問題になっている方などは、是非参考にしてみてください。

1.撤回された遺言書の効力は復活しない(原則)

一度、遺言書の撤回をしてしまうと、その後気が変わって、「撤回の撤回」をしようとしても原則できません。

なぜなら、撤回の撤回を簡単に認めると、法律関係がややこしくなり争いが生じやすくなりますし、これを認めなくても、元の遺言書と同じ内容の遺言書を作成すれば、撤回の撤回と同じ状況を作り出せるためです。

2.撤回された遺言書の効力が復活する場面(例外)

それでは、撤回された遺言書の効力が復活する場面はないのでしょうか?

この場合について、民法第1025条が規定しています。

第1025条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

民法の規定上、錯誤や詐欺、強迫によって遺言書を撤回してしまった場合にのみ、撤回の撤回によって、元の遺言書の効力が復活することになります。

それでは、錯誤や詐欺、強迫によって遺言書を撤回してしまった場合以外は、元の遺言書の効力が復活することはないのでしょうか?

これが問題になったのが、最高裁平成9年11月13日判決です。

■最高裁平成9年11月13日判決

この裁判では、第1遺言が第2遺言によって撤回され、そして第3遺言には、「第2遺言を無効とし、第1遺言を有効とする」との記載がされていました。

先ほどの民法の規定を前提にすると、遺言者は、錯誤や詐欺、強迫によって第1遺言を撤回したわけではないので、第3遺言によって、第1遺言の効力を復活させることはできないはずです。

もっとも、遺言者の最終的な意思は、第1遺言を有効にしたいとの内容であることが第3遺言から明らかでした。それなのに、第1遺言の復活を認めないのでよいのかという点が問題意識になります。

裁判所は、「遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法1025条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解する」と判示しました。

要は、遺言書の内容からして、遺言者が一度撤回した遺言書の復活を希望することが明らかな時は、元々の遺言書の効力を復活させるとの内容です。

そして、この裁判では、第3遺言の記載からして、第1遺言の復活を希望していることが明らかであるとして、第1遺言の復活を認めています。

なお、この裁判では、第1遺言の復活が認められましたが、仮に、第1遺言の復活を認めなければ、どうなるのでしょうか?この場合は、第3遺言によって、第2遺言も無効になっているので、遺言書がないケースと同様、法定相続分に応じて相続を行うことになります。

3最後に

今回は、撤回された遺言書の効力が復活する場合について、解説しました。

上でご説明した裁判の事例についても、そもそもちゃんと第3遺言を作っておけば、争いが生じない事例でした。

このように、遺言書の撤回方法を間違えると、相続人が揉めるのを防ぐために作成した遺言書が、かえって相続人が揉める原因にもなってしまいます。

この記事では、遺言書の撤回や取消の方法などについては、詳しく解説していませんが、こちらについては、「作り直された遺言書の効力~遺言書の撤回と取消について~」で解説しています。気になった方は、是非参考になさってください。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。

もし、お困りの方がおられましたら、お気軽にご相談下さい。

マンションによる「過度な相続税対策」が否定された最高裁判例(令和4年4月19日)

2022-05-10

2022年4月19日、最高裁において相続税の節税対策に関する極めて重要な判決がくだされました。

この事例では、原告(上告人)らがマンション投資によって相続税を大きく節税したのですが、裁判所はそのスキームを否定したのです。

原告らは当初相続税を0円として収めませんでしたが、最高裁判所は国税局による約3億円の追徴課税を有効なものと認めました。

今回はマンション投資を使った節税スキームと最高裁判所の判決内容について、京都の弁護士が解説します。

相続税の節税対策に関心をお持ちの方にとっては非常に重要な判決なので、ぜひ参考にしてみてください。

1.事案の概要

本件の原告(上告人)は、父親の遺産を相続した相続人らです。

生前、父親は約13億9000万円でマンションを2棟、購入しました。

購入に際しては投資用のローンを組み、約10億円の借り入れを利用しました。

(1)マンション購入による相続税の減額

一般的にマンションを購入すると、現金をもっているより大きく相続税額を下げられます。

マンションの相続税評価額は現金より低くなるためです。

不動産の原則的な相続税評価方法は以下のとおりとされています。

  • 土地…相続税路線価で評価

相続税路線価は、時価の8割程度です。

  • 建物…固定資産税評価額で評価

固定資産税評価額は、建築価格の5割から7割程度です。

マンションの場合、建物部分は固定資産税評価額、敷地部分は相続税路線価で評価し、合計額を評価額とします。

単純計算をしてもマンションを購入すると、現金を所持し続ける場合に比べて評価額を8割以下におさえられるのです。

(2)ローン借入による相続税額の減少

本件で被相続人である父親は、マンションを購入する際にローンを組んでいます。

ローンなどの借財は遺産額から差し引けるので、ローンを組むとさらに相続税額を抑えることが可能です。

本件では父親がマンションを購入して高額なローンを組んだため、相続人たちが支払うべき相続税額が「0円」となり、原告らは相続税の納付をしませんでした。

(3)税務署による追徴課税

上記の原告らによる節税手法に対し、税務署は「過剰な節税」と判断して相続税評価額に関する例外規定を適用しました。

「申告内容が著しく不適当な場合、税務署が独自に評価額を再評価できる」という規定を用いて、マンションを「相続税路線価」や「固定資産税評価額」ではなく「時価」で計算したのです。

その結果、追徴税額は約3億円となりました。

(4)相続人らによる訴訟提起

相続人らは、国税庁の通達によって正しく相続税額を申告したにも関わらず高額な追徴課税を受けたことを不服として、訴訟を提起しました。

国税庁による追徴課税の取り消しを求めたのが本件の裁判です。

2.一審と二審の判決

一審と二審は、国税当局による課税を適切なものと判断し、原告らの請求を棄却しました。

理由は以下のとおりです。

  • 相続税の課税は、平等に行われなければならない
  • ただし本件各不動産の価額については、原則的な評価通達の定める方法(相続税路線価や固定資産税評価額)により評価すると実質的な租税負担の公平を著しく害し不当な結果を招くため、他の合理的な方法によって評価することが許される
  • 本件各鑑定評価額は客観的な交換価値としての時価と認められるから、これを基礎とする本件各更正処分は適法で、賦課決定処分(追徴課税)も適法である

以上のように判断し、国税当局による課税を妥当なものと判断しました。

3.最高裁の判決

原告らは一審と二審の判決を不服として上告しました。

結果として、最高裁も一審と二審同様、国税当局の判断を妥当なものとし、原告らによる請求を棄却しました。

判断の理由の概要は以下のとおりです。

  • 相続税の課税は画一的かつ平等に行われなければならない。
  • 特定の納税者あるいは特定の相続財産の価額についてのみ、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって、その価格を評価することは、原則として許されない。
  • 形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の実質的公平を著しく害するといえる特別の事情がある場合には、例外的に他の合理的な方法によって評価することが許される。

つまり基本的に課税は平等に行われなければなりませんが、特別の事情があれば例外規定を適用しても違法にならないとする判断です。そのうえで本件においては実質的な租税負担の公平にかんがみて、例外規定に基づく追徴課税を適法と判断しました。

結果として国税当局による課税が有効なものとして確定し、原告らは追徴額を払わねばなりませんでした。

4.相続税対策は慎重に

本件で、原告の父親は通達の定める原則に従って節税したのであり、決して違法行為に及んだわけではありません。それでも「実質的な公平」の観点により、節税スキームを否定されました。

相続税の節税対策を行う際には慎重な姿勢を要求されます。安全を期するため、相続税に詳しい税理士などの専門家に相談するのがよいでしょう。

当事務所でも相続税に力を入れている税理士と提携していますので、京都、滋賀、大阪、兵庫で遺産相続対策に関心のある方はお気軽にご相談ください。

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