借金を相続しても「相続放棄」すれば支払わずに済みます。
しかし「法定単純承認」が成立してしまったら相続放棄はできなくなるばかりか、既に受理された相続放棄も無効になってしまいます。
法定単純承認はどういったケースで成立してしまうのでしょうか?
今回は相続放棄するときに「法定単純承認が成立するので、絶対にやってはならないこと」を8つ、ご紹介します。借金や負債を相続したくない方は必ずお読みください。
このページの目次
1.法定単純承認に要注意
相続放棄するためには「法定単純承認」に注意が必要です。
法定単純承認とは、法律上当然に「単純承認」が成立してしまうことをいいます。単純承認とは、一切の条件をつけずに資産も負債も相続する相続方法です。単純承認が成立すると家庭裁判所で相続放棄を受理してもらえません。
すでに相続放棄の申述を受理してもらったケースであっても、その後に法定単純承認に該当する行為をしたら無効になってしまいます。
借金やその他の負債を相続したくないなどの事情があり相続放棄を希望するなら「法定単純承認」を成立させてはなりません。
2.法定単純承認が成立するケースとは?
法定単純承認は、以下のような状況において成立します。
- 遺産を「処分」した場合
- 自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月以上相続放棄や限定承認の申述をしなかった場合(熟慮期間を過ぎてしまったとき)
- 限定承認の相続財産目録に故意に相続財産の一部や全部を記載しなかった場合
熟慮期間については別の記事で詳しく説明しているので、こちらでは「遺産を処分した場合」の問題についてくわしくみていきましょう。
3.財産処分にあたる具体例
法定単純承認が成立する「財産処分」とは、所有者でないとできないような行動です。
たとえば以下のような行為が「財産処分」となり、法定単純承認の成立事由となります。
相続放棄したいなら、やってはいけません。
3-1.財産を売却
遺産の中に不動産や車などの価値のある資産が含まれているとき、売却すると処分行為をしたことになります。
3-2.財産の名義変更
不動産や車、株式などの資産を自分名義に変えてしまった場合にも「処分」となって相続放棄できなくなります。
3-3.財産の廃棄、毀損
車などの遺産が不要だからといって廃棄すると、法定単純承認が成立します。勝手に財産を廃棄、毀損してはなりません。
3-4.預金を出金して使用、自分名義の口座への入金
被相続人名義の預金を出金して自分のために使ったり自分名義の口座へ入金したりすると、法定単純承認が成立します。
3-5.株式を売却、換金して受け取る
被相続人名義の株式を売却したり、現金化して受け取ったりするのは処分行為です。法定単純承認が成立し、相続放棄できなくなってしまうのでやってはいけません。
3-6.遺産分割協議
遺産分割協議を行って遺産分けをする行為も処分行為となり、法定単純承認が成立してしまいます。相続放棄するなら遺産分割協議に参加してはなりません。
3-7.債権の取り立て
遺産の中に「債権」が含まれているとき、取り立てをすると法定単純承認が成立してしまいます。
3-8.遺産の中から債務を弁済
被相続人が負債を負っていると、債権者から督促される可能性があります。
そのとき「遺産の中から支払う」と法定単純承認が成立するので注意が必要です。
相続人自身の財産から支払うなら処分行為になりませんが、遺産から支払いを行ってはなりません。
4.財産処分にあたらないケース
以下のような行為は原則的に処分行為に該当せず、法定単純承認が成立しないとされています。但し、判断にあたっては、弁護士に相談してから行うことをお勧めいたします。
4-1.生命保険の受け取り
被相続人が生命保険に加入しており、受取人として指定された人が死亡保険金を受け取っても法定単純承認は成立しません。
4-2.葬儀費用の支払い、仏壇仏具の購入
相続人の財産から支出した場合はもちろん、被相続人の遺産から葬儀費用を出しても原則的に財産処分に該当せず、法定単純承認は成立しません(大阪高裁昭和54年3月22日参照)。
遺産から仏壇や墓石を購入したケースでも、法定単純承認に該当しないと判断された裁判例があります(大阪高裁平成14年7月3日)。
4-3.価値のない遺品の形見分け
特に財産的価値のない被相続人が身につけていた衣類や生前使っていた道具類などの形見分けを行っても法定単純承認は成立しません。
ただし高額なアクセサリーや時計などの経済的価値のあるものを受け取ると法定単純承認が成立するので注意が必要です。
4-4.遺族年金の受け取り
相続放棄した方でも遺族年金は受け取れます。遺族年金を受給しても相続放棄が無効になるわけではないので、安心しましょう。
5.相続放棄できるか迷ったら弁護士まで相談を
法定単純承認に該当する処分行為をしてしまうと、相続放棄ができなくなって負債を相続せざるを得なくなります。不用意に自己判断で行動するのは危険といえるでしょう。
迷ったときには専門家にアドバイスを求めるのが得策です。京都で相続人のお立場になって対応に困ったときには、お気軽に当事務所の弁護士までご相談ください。