「兄の妻と子どもが父の養子になっているのですが、そういった養子にも遺産を分け与えないといけないのでしょうか?」
といった趣旨のご相談を受けるケースがあります。
遺産相続の際には、相続税対策などのために養子縁組するケースが少なくありません。養子にも相続権が認められるので、養子縁組が有効である限り基本的には遺産を分け与える必要があります。
ただし、一定のケースでは養子縁組が無効になる可能性もあります。
この記事では、他の相続人の配偶者や子どもが被相続人の養子になっている場合の対象方法や、養子縁組が無効になるケースについて解説します。
このページの目次
1.親族の養子にも相続権が認められる
特定の相続人の配偶者や子どもが、被相続人と養子縁組していると、その家族の遺産取得分が増えてしまいます。
養子にも実子と同様の相続権が認められるからです。
民法上、子どもは第一順位の相続人となっており、優先的に遺産を相続します。
相続人となる「子ども」には実子も養子も含まれますし、親族の養子だからといって相続できなくなる規定もありません。相続分も実子と養子で同等です。
よって、特定の相続人の配偶者や子どもが被相続人と養子縁組していると、その人達にも実子と同等の遺産を与えなければならないのが基本となります。
親族を養子縁組した場合の具体例
父親が亡くなり、子ども3人がおり(長男、長女、次男)、長男の妻と子ども(被相続人の孫)が養子になっていたケース。
この場合、もともとの子ども3人と長男の妻と子ども(孫)の合計5人が相続人となります。
よって、それぞれの相続人の遺産取得割合は5分の1ずつになります。
2.養子縁組が無効になるケース
被相続人と、特定の相続人の配偶者や子どもが養子縁組した場合、養子縁組が無効になる可能性はないのでしょうか?
一定の場合には、養子縁組が無効になる可能性があります。
養子縁組が無効になると相続人が減るので、他の相続人の遺産取得割合が増加します。例えば、先の例で、長男の配偶者と子どもの養子縁組が無効になれば、長男、次男、長女それぞれの遺産取得割合は3分の1ずつになります。
2-1.養子縁組の要件
養子縁組が有効に成立するには、以下の2つの要件を満たさねばなりません。
- 親子関係を作る意思(縁組意思)
- 養子縁組の届出をする意思(届出意思)
被相続人などの当事者に親子関係を作る意思がなければ、養子縁組が無効になる可能性があります。
また、養子縁組の届出が相続人などによって勝手に行われ、被相続人が了解していない場合には届出意思を欠くので養子縁組が無効になります。
2-2.養子縁組が無効になるケース
以下のようなケースでは、養子縁組が無効になる可能性があるでしょう。
- 縁組によって親子関係を作る意思がなく、単に相続税の基礎控除枠を増やして節税するためだけに養子縁組をした場合
- 当事者の一方が勝手に養子縁組届を作成し、養子縁組が受け付けられてしまった場合
2-3.養子縁組を無効とした裁判例
裁判例の中にも養子縁組を無効と判断したものがあります。
例えば、養親となった人が日常的に養子縁組に否定的な発言を行っており、養子縁組した当時において認知証などと診断されていて寝たきりで失語症があった場合において、養子縁組が無効と判断された裁判例があります(名古屋家裁平成22年9月3日)。
養子縁組が行われて戸籍が書き換えられているからといって、必ずしも養子縁組が有効とは限らないので即断しないように注意しましょう。
2-4.他の相続人を排除するための養子縁組
養子縁組を行うとき、他の相続人の相続分を減らす目的を有するケースもあります。
他の相続人の相続分を減らす目的がある養子縁組は縁組意思を欠くものとして無効にならないのでしょうか?
この点については、たとえ他の相続人の相続分を排する目的があったとしても、親子としてのつながりを作る意思があるなら養子縁組は無効にならないと判断された判例があります(最高裁昭和38年12月20日)。
他の相続人を排除する目的のみでは養子縁組は無効になりません。
2-5.追認について
養子縁組が行われた時期には当事者に縁組意思や届出意思がなく、養子縁組が無効であっても、その後に追認されれば養子縁組は有効になる可能性があります。
例えば、父親の知らない間に長男が勝手に妻や子どもと父親との養子縁組届けを提出したとしましょう。
この場合でも、事情を知った父親が後から養子縁組を承諾したら養子縁組は有効になりえます。
3.養子縁組の無効を主張する方法
養子縁組の無効を主張するには、まずは家庭裁判所で養子縁組無効確認調停を申し立てなければなりません。
調停で話し合っても合意できない場合、家庭裁判所で養子縁組無効確認訴訟を提起する必要があります。
養子縁組の無効を主張する際には裁判所の複雑な手続きが必要となるので、困ったときには弁護士へ相談しましょう。
4.最後に
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続トラブルの解決に力を入れて取り組んでいます。
これまで養子縁組に関する事案も多数取り扱って参りました。
遺産相続で納得できないことがあれば、お早めにご相談ください。
当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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