遺言書が遺されたとき、すべての財産の分け方について指示されているとは限りません。
一部の財産の分割方法や遺贈のみが記載されていたら、相続人としてはどのように対応すれば良いのでしょうか?
今回は、遺言書に一部の財産の分け方のみが書いてあった場合の対処方法を弁護士がお伝えします。遺言書を発見したけれども、どのように対応すればよいかわからない方は、ぜひ参考にしてみてください。
このページの目次
1.一部の財産の分け方を指定する遺言書も有効
そもそも、一部の財産の分け方しか書いていない遺言書は有効なのでしょうか?
例えば、遺産全体としては自宅不動産とA銀行の預金、B銀行の預金、C会社の株式があったとします。その中で「自宅不動産とA銀行の預金を長男に遺贈する」と書かれており、その他の遺産については特に言及されていなかったとしましょう。
法的には、このような遺言書も有効です。遺言書の内容は、遺言者が自由に決められるものであり、必ずしもすべての遺産についての分け方を指定する必要はありません。
一部の遺産の分け方のみが書いてある内容でも有効なので、相続人は基本的にその内容に従って遺産分割や遺贈の対応を進める必要があります。
2.残りの財産は遺産分割協議で分ける必要がある
一部の財産のみの分け方が指定されている遺言書がある場合、分け方を指定されていない財産についてはどのように分ければ良いのでしょうか?
残りの財産については「遺言書がないのと同じ」になります。
つまり、相続人が自分たちで遺産分割協議を行って分け方を決めなければなりません。前提として、相続人調査や他の遺産内容の調査も必要となります。遺産分割協議が整ったら遺産分割協議書を作成し、名義変更などの対応をする必要もあります。
2-1.遺言書で指定されていない財産の分け方の流れ
遺言書で指定されていない財産の分け方の流れをまとめると、以下のとおりです。
- 相続人調査、相続財産調査
- 遺産分割協議
- 遺産分割協議書を作成する
- 名義変更や預貯金払い戻しなどの相続手続き
相続人としては、上記と遺贈を並行して行わねばなりません。
2-2.相続税が発生する可能性もある
遺贈された財産額と、分け方を指定されていなかった財産額の合計が「相続税の基礎控除」を超えると、受遺者や相続人は相続税を払わねばなりません。
3.相続人への遺贈は特別受益になる
遺言書によって相続人へ財産が遺贈されると、原則的に「特別受益」になります。
特別受益とは、特定の相続人が遺贈や贈与によって受ける利益です。
特別受益が成立すると、遺産分割協議の際に、当該利益を受けた相続人の取得分を減らす計算方法を適用できます。受益を受けた相続人がいる場合、単純に法定相続分によって遺産を分けるとかえって不公平となってしまう可能性があるからです。
実質的な公平を図るために、受遺者の取得分を減らすための計算方法を「特別受益の持戻計算」といいます。
特別受益持戻計算の具体例
例えば、遺産全体の評価額が3000万円、相続人は子ども3人、遺産のうち自宅不動産(1000万円分)が長男へ遺贈(遺言書によって贈与)されたとしましょう。この場合、残りの2000万円分については相続人らが自分たちで話し合って遺産分割しなければなりません。
長男はすでに1000万円の不動産を遺贈されているので、特別受益の持戻計算を適用できます。
具体的には、長男の遺産取得分が0円となり、次男と三男が1000万円ずつの遺産を取得する結果となります。
結果として、長男は遺贈された1000万円分の不動産を受け取り、次男と三男はそれぞれ1000万円ずつの別の遺産を受け取るので公平に遺産分割ができます。
4.持戻免除の意思表示があるかどうかで対応が変わる
特別受益の持戻計算は、すべてのケースで適用されるとは限りません。
そもそも、相続人のうち誰も「持戻計算を行うべき」と主張しなければ適用されないのです。例えば、上記の事例でも、次男や三男が主張しなければ残りの2000万円についても法定相続分に応じて分配することとなるでしょう。
また、遺言者自身の希望により、特別受益の持戻計算を免除できます。
例えば、上記の事例でも、死亡した被相続人自身が遺言書に、「特別受益の持戻計算は免除する」と記載していれば、特別受益の持戻計算は適用されません。
具体的にいうと長男は遺贈を受けた上、さらに2000万円の3分の1である666万円を相続できます。
この場合、次男と三男は666万円ずつの遺産しか受け取れず長男は1666万円分の遺産を受け取れるので不公平とも思えますが、遺言者の希望があるのでやむを得ません。
なお、特別受益の持戻免除の意思表示は遺言書以外の方法でもできます。例えば、エンディングノートなどに特別受益の持戻免除の意思表示が行われた場合であっても、それが本当に本人の書いたものであれば有効です。
5.遺言書についてのご相談はお気軽に
相続人が遺言書を発見したときには、内容に応じて適切な対応をとる必要があります。間違った対応をすると後にトラブルになったりして、不利益を受けてしまいます。迷ったときには、お気軽に京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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