相続人が遺産を使い込んだ場合の対処方法

「親と同居していた兄弟が親の預貯金を使い込んでいたのですが、取り戻せるでしょうか?」というご相談を受けることがよくあります。

故人と同居していた相続人による預貯金の使い込みが発覚したら、他の相続人には返還請求をする権利が認められます。ただし使い込まれた時期や相手の対応により、とるべき手段が異なってきます。

今回は相続人による預貯金などの遺産の使い込みが発覚した場合に取り戻す方法を、弁護士が解説します。

1.使い込まれた遺産は取り戻せる

親と同居していると財産にアクセスしやすいので、無断で使い込んでしまうケースも少なくありません。

使い込まれる遺産は「預貯金」が大半ですが、株式や投資信託を勝手に売却されて使い込まれたり、保険を勝手に解約されて解約返戻金を使い込まれるケースもあります。故人が賃貸物件を所有していた場合、同居の相続人が家賃を自分のものにしてしまうパターンも多いですし、親が認知症にかかった場合には、親の実印を持ち出して勝手に不動産を売却してしまう方さえいるようです。

財産が使い込まれた場合、使い込まれてしまった被相続人は使い込んだ相手に対し金銭請求の方法で取り戻しを請求できます。財産に対する権利もないのに勝手に使い込むのは「不法行為」となり「不当利得」とも評価できるからです。

相続人は、このような被相続人が使い込んだ相手に対して有する権利を相続するので、この権利を行使して相手へ金銭の支払いを請求できます。なお使い込んだ相手が相続人ではない第三者であっても返還請求は可能です。

請求できる金額は法定相続分に応じた割合になる

相続人が複数いる場合、それぞれの相続人が請求できる金額は「法定相続分」に応じたものとなります。

たとえば父親が死亡して3人の子どもが相続する事案において、父親と同居していた長男が300万円の預金を使い込んだとしましょう。他の相続人である次男や長女は、長男へ対してそれぞれ100万円ずつ(3分の1)の請求ができます。長男にも100万円の相続権があるので、全額の取り戻しを請求できるわけではありません。

2.遺産使い込みの証拠

使い込まれた遺産の取り戻しを請求するには、使い込みの証拠が必要です。

2-1.使い込まれた遺産に関する証拠

「使い込みの事実や使い込まれた額」を証明する証拠の例を挙げます。

  • 故人の預金通帳や取引履歴
  • 故人の証券会社における株式や投資信託などの取引明細書
  • 故人の保険解約の履歴
  • 故人が所有していた不動産の全部事項証明書や売買契約書
  • 賃料が入金されていた通帳や取引明細書

2-2.使い込まれた時期の被相続人の状態を示す証拠

「故人が自らの意思で贈与したものだ」「故人が自分で使った」などと反論されることが多いため、「使い込みがあった時期に被相続人が自分では対応できなかった事情」を示す証拠も集めましょう。なお、仮に、故人が自らの意思で贈与していた場合には、生前贈与という別の問題が生じることになります。

  • 介護記録
  • 要介護認定の際の資料、介護認定通知書
  • カルテや診断書
  • 入院した際の記録

3.使い込まれた遺産の請求方法、手順

STEP1証拠を集める

まずは使い込みの証拠を集めましょう。証拠がないのに請求しても、相手はまず返還に応じないでしょうし、使い込まれた金額も計算できません。

STEP2相手に直接請求する

証拠が揃ったら、相手に直接請求しましょう。話し合いで解決できれば、速やかに支払いを受けられます。

相手が応じない場合の取り戻し方法は遺産が使い込まれた時期によって異なるので、パターン別にご説明します。

STEP3-1使い込み時期が死後の場合

同居の相続人によって預金などの遺産が使い込まれた時期が死後の場合、相手が納得しなくても遺産分割の話の中で同時解決できます。協議がまとまらない場合、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てて、他の遺産と合わせて話し合いによる解決を目指しましょう。

調停が不成立になったら審判になり、裁判官が使い込まれた財産も含めて遺産分割方法を決定してくれます。

STEP3-2使い込み時期が生前の場合

使い込まれた時期が生前の場合、使い込んだ相続人の同意がない限り遺産分割と同時には解決できません。

相手へ直接請求しても払ってもらえない場合、民事訴訟を提起する必要があります。

そして、訴訟で使い込みの事実や使い込まれた金額を証明できれば、使い込んだ相手への請求が認められることになります。

ただし、使い込みに関する訴訟を起こしても遺産分割はできないので、他の遺産については別途遺産分割協議を進めるか、調停や審判を申し立てる必要があります。

4.時効に注意

遺産を取り戻す権利である「不法行為にもとづく損害賠償請求権」や「不当利得返還請求権」にはそれぞれ時効があります。

不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効期間は「損害と加害者を知ってから3年」、不当利得返還請求権の時効期間は「権利発生後10年または権利行使できると知ってから5年の早い方」です。

証拠集めにも時間がかかるので、早期に対応しなければ遺産の取り戻しが難しくなってしまいます。使い込みが発覚したらすぐにでも返還請求の準備を開始しましょう。

当事務所では遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。京都・滋賀・大阪で遺産の使い込み問題にお困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

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