配偶者居住権についての相続法改正

近年、相続法が改正されて「配偶者居住権」が新設されました。

配偶者居住権とは、夫や妻に先立たれて遺された配偶者が家に住み続ける権利です。

相続時に配偶者が配偶者居住権を取得すると、家の所有権を取得するよりも有利に遺産分割をできる可能性があります。

ただし、配偶者居住権にはデメリットもあるので、正しく理解した上で対応を決めていただいた方がよいです。

そこで、今回は配偶者居住権に関する相続法改正について京都の弁護士が解説します。

1.配偶者居住権とは

配偶者居住権は、相続開始時に被相続人(亡くなった方)の所有する自宅に居住していた配偶者に認められる権利です。

配偶者が配偶者居住権を取得すると、所有権がなくても家に住み続けることができます。

また、所有権は配偶者以外の別の相続人が取得するので、家の権利が「所有権」の部分と「配偶者居住権」の部分に分かれます。

1-1.配偶者居住権が発生するケース

配偶者居住権が発生するのは、以下の場合です。

  • 遺産分割で配偶者が配偶者居住権を取得する場合
  • 被相続人が遺贈によって配偶者居住権を取得させた場合
  • 死因贈与契約によって配偶者が配偶者居住権を取得した場合

ただし、自宅を被相続人や配偶者以外の第三者と共有している場合、配偶者居住権は設定できません。

1-2.配偶者居住権の期間

配偶者居住権の期間は自由に定められます。たとえば10年としてもかまいませんし、終身(配偶者が亡くなるまで)としてもかまいません。期間が短い方が、配偶者居住権の評価額は低くなります。

1-3.配偶者居住権と登記

配偶者居住権は登記できる権利です。

登記しないと配偶者は第三者へ配偶者居住権を対抗できないので、遺産分割などで配偶者居住権を取得したら早めに法務局で登記の申請をしましょう。

2.配偶者居住権には相続税がかかる

配偶者が配偶者居住権を取得した場合、評価額に応じて相続税が課税されます。

配偶者居住権の相続税評価額は、物件価額や配偶者居住権の存続期間、建物の耐用年数等の条件によって変わります。

基本的な計算式は、以下のとおりです。

国税庁

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4666.htm

ただし、配偶者が遺産相続する場合には、相続税の配偶者控除が認められ、法定相続分または1億6千万円までの分が控除されるので、実際に配偶者が相続税を納める事例はあまり多くないでしょう。

3.配偶者居住権を取得するメリット

3-1.家に住み続ける権利が保障される

配偶者が配偶者居住権を取得すると、権利が存続する間は家に住む権利が保障されます。

被相続人亡き後の配偶者の生活が守られるメリットがあるといえるでしょう。

3-2.他の遺産を相続しやすくなる

配偶者居住権の評価額は、所有権よりも低くなりますし、配偶者居住権を設定すると子どもなどの他の相続人が所有権を相続します。

遺産分割時、配偶者が配偶者居住権を取得して子どもなどの他の相続人が所有権を取得すると配偶者の遺産取得枠が大きくなり、預貯金などの他の遺産を相続しやすくなるメリットがあります。家に住めるだけではなく、多めの遺産を取得できるので生活を維持しやすくなるでしょう。

3-3.代償金を払わなくても家に住める

配偶者が家の所有権を取得するには、他の相続人へ代償金を払わねばならないケースもあり、払えない場合には家を出ていかざるを得えないケースもありました。

配偶者居住権を取得すれば他の相続人へ所有権を取得させられるので、代償金を払わなくても家に住み続けやすくなります。

4.配偶者居住権の注意点

配偶者居住権を設定する際には以下のような点に注意しましょう。

4-1.配偶者居住権は売却できない

配偶者居住権は配偶者のみに認められる権利なので、売却できません。

たとえば介護施設へ入所するのにまとまったお金を用意したいとき、配偶者居住権を取得した配偶者は家を売ってお金を得ることができません。

配偶者居住権を放棄する代わりに建物の所有者に対価を求めるか、所有者の承諾を得て第三者に賃貸するくらいしか、お金を得る方法がないので注意が必要です。

4-2.修繕などの費用負担の問題がある

不動産を維持していくには、修繕費などの費用が発生するものです。

配偶者が配偶者居住権を取得すると、配偶者と所有者が話し合って費用負担方法を決めなければなりません。

配偶者と所有者の関係が円満でない場合やコミュニケーションをとりにくい場合、費用負担の話し合いがスムーズに進まず精神的負担も大きくなるでしょう。

4-3.所有者による売却が困難になる

配偶者居住権が設定されている家も、所有者は売却できます。ただし配偶者居住権がついている以上、購入者は実際に居住できません。

買い手がつきにくいため配偶者居住権つきの家を売るのは、現実的に難しくなるケースが多数です。

5.配偶者居住権の施行時期

配偶者居住権に関する規定が施行されたのは2020年4月1日であり、現在すでに有効です。配偶者が遺産分割時に希望して全員が合意すれば、配偶者居住権を取得できます。

6.配偶者居住権については弁護士へご相談を

配偶者居住権にはメリットもデメリットもあるので、設定の際には所有者との関係性なども踏まえて慎重に検討すべきです。そのため、弁護士から法律的なアドバイスを受けてから判断されるのが良いです。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れていますので、関心や疑問がありましたらお気軽にご相談ください。

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