一度作成した遺言書は、その内容を書き直したり、破棄しない限り、必ず効力を有するのでしょうか?
例えば、ある不動産を相続人の一人に相続させるとの遺言書を作成した方が、その後その不動産の違う人に贈与した場合にも、その遺言書は有効なのでしょうか。
今回は、遺言内容が、遺言書作成後の遺言者の行為と矛盾する場合の、遺言書の効力などについて解説します。被相続人の作成した遺言書の効力について知りたい方や、遺言書を書き直した方が良いか迷っている方にお役に立つ内容ですので、是非参考にされて下さい。
このページの目次
1.遺言書の撤回、取消のルールについて
まず、前提として、遺言書を作成しても、遺言書の撤回や取消は、自由にできます。
これは、遺言書を作成する方の、最終意思を尊重すべきであるとの考えがあるためです。
一旦、遺言書を作成しても、その後、気が変わったり、事情が変わることもあるかと思います。その場合には、遺言書を作り直して頂く形で構いません。
この辺りの話は、「作り直された遺言書の効力~遺言書の撤回と取消について~」で詳しく解説していますので、気になった方は、こちらをご確認ください。
2.遺言者が遺言内容と矛盾する行為をした場合
それでは、遺言書作成後に、遺言者が遺言内容と矛盾する行為をしても、その遺言書は必ず有効なのでしょうか。
民法では、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合には、その抵触する部分については、前の遺言を撤回したものとみなすと規定されています(民法第1023条2項)。要は、遺言書作成後に、遺言者が遺言内容と「抵触」する行為をした際には、その遺言書の「抵触」する部分が撤回されたものとしますという規定です。
この規定は、遺言の法律上の撤回を認めることにより、遺言者の最終意思を重視することを目的にしたものです。
ここで、遺言書と「抵触」という意味が問題になりますが、最高裁判決において、「抵触とは、単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含する」とされています。
分かりづらいので、かみ砕いて説明します。
上記判決は、遺言内容と後の行為が同時に実現するのが絶対に不可能な場合だけじゃなくて、さまざまな事情から観察して、後の行為が、前の遺言と両立させない趣旨のもとにされたことが明らかな場合にも「抵触」するとしています。
まだ少し、わかりづらいので、具体例を用いて、ご説明します。
■具体例
具体例①
例えば、ある不動産を相続人の一人に相続させるとの遺言書を作成した方が、その後その不動産の違う人に贈与したとします。
この場合には、遺言内容(ある不動産を相続人の一人に相続させる)と、後の行為(その不動産を違う人に贈与)を同時に実現するのが絶対に不可能です。亡くなる前に、違う人に不動産をあげているのですから、遺言によって、その不動産を相続人の一人に渡すことはできません。
なので、遺言内容が、後の行為と「抵触」することになるので、遺言書が撤回したものとみなされます。
具体例②
これは、先ほどの最高裁判決で、問題になったケースです。
その事案では、遺言者に、子どもがいなかったため、Aさんから一生面倒をみてもらうことを前提に、遺言者がAさんと養子縁組をした上で、保有する不動産をAさんに相続させるとの遺言書を作成していました。そして、遺言者が、Aさんと同居して共同生活を送っていました。
しかし、その後、遺言者とAさんが仲違いをして、同居を解消した上で、養子縁組の解消も行い、Aさんが遺言者の面倒をみなくなりました。
但し、遺言書を書き直したり、破棄したりはされておらず、その遺言書は残されたままになっています。
最高裁判決は、このような場合にも、遺言書が有効なのかが争われた事案でした。
このケースでは、遺言書で対象とされた不動産を他者に贈与したというわけではないので、遺言書の内容と、後の行為(養子縁組の解消や同居の解消など)を同時に実現するのが絶対に不可能というわけではありません。
なぜなら、養子縁組の解消や同居の解消を行っても、その不動産をAさんに相続させるのは、理屈上は可能だからです。
しかし、このようなケースだと、遺言者は、養子縁組の解消や同居の解消などをした時点で、既に自己が保有する不動産をAさんに相続させる気はなかったと考えられます。
そのため、上記判決においては、これらの事情を考慮して、養子縁組の解消や同居の解消などが、前の遺言書と両立させない趣旨の行為であることが明らかであるとして、遺言書が撤回されていると判断しました。
このように、遺言書と、遺言書作成後の行為が「抵触」するとして、遺言書の撤回をみとめた事例はありますが、これはかなり珍しい事例と評価できるかと思います。
なぜなら、このような遺言書の撤回は、相続人などの法律上の地位に重大な影響を及ぼすものですし、遺言者本人が撤回や取消しの意思表示をしたわけでもないのに、遺言書を撤回したとみなすのは、慎重に判断すべきとされやすいためです。
3.遺言書作成上の注意点
上記のように、遺言書作成時と異なる事態が生じた場合、その遺言書が撤回したとみなされるのか否か、その遺言書をどのように解釈すべきなのか等の争いが生じやすいです。
せっかく、争いが生じないように遺言書を作成しているのに、その遺言書が原因で争いが生じてしまっては本末転倒です。
そのため、遺言書作成時と異なる事態が生じた場合には、遺言書を書き直したり、又は当初の作成時から、後にいかなる事態が生じてもその遺言書の効力に疑義が生じない形で作成しておくのが望ましいといえます。
4.最後に
益川総合法律事務所では、遺言書作成に関するサポートや遺言書の効力を争う事案に積極的に取り組んでいます。
この2つの内容については、一見矛盾するように見えるかもしれません。しかし、遺言書の効力を争う事案に取り組んでいるからこそ、そのような紛争が生じにくい形での遺言書作成のサポートができると考えております。
お困りの方は、当事務所までお気軽にご相談頂ければ幸いです。
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