遺産分割

相続人の中に音信不通の人や行方不明者がいる場合の対処法

2023-06-16

遺産分割協議を進める際に、音信不通や行方不明の相続人がいる場合、その人を省いて遺産分割協議を行ってもよいのでしょうか?

今回は、相続人の中に音信不通や行方不明の相続人がいる場合の対処方法についてお伝えします。相続人の立場になられた方は、是非参考にされて下さい。

1.遺産分割は相続人全員で行う必要がある

遺産分割協議は、相続人全員で合意をする必要があります。もちろん、相続人の中に、相続放棄などをしている人がいる場合には、その相続人の合意は不要です。

そのため、基本的には、音信不通や行方不明の相続人がいたとしても、その方を省いて、遺産分割の合意をすることはできません。

それでは、音信不通や行方不明の相続人がいた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

2.相続人の中に音信不通の人がいる場合

音信不通の方の住所などが分かっているかどうかで対応も変わってくるので、以下では場合を分けて、ご説明していきます。

2-1.住所などが分かっている場合

音信不通の方の現住所が分かっている場合には、まずは、お手紙を書いてみることをお勧めします。その方は、被相続人がお亡くなりになったことも知らないと思うので、被相続人がお亡くなりになったことと、遺産分割協議を行う必要があることなどを記載しておくことが考えられます。

そのようなお手紙を書いても、何も返信が無い場合には、これ以上ご自身で連絡を取って頂いても進展がないと思います。

そのため、①弁護士に依頼してその方に書面を送付する、又は②家庭裁判所の遺産分割調停などを申し立てるのがよいです。

というのも、これまで相続人からの連絡を無視していた方も、弁護士や家庭裁判所からの連絡であれば、無視してはいけないと考え、対応をすることも多いからです。

2-2.住所などが分からない場合

音信不通の方の現在の住所などが分からなくても、その方の本籍地や過去の住所地が分かっている場合には、現在の住所を調べることができる可能性があります。

相続人同士であれば、市役所に対して、戸籍や住民票の第三者請求という方法をとることができます

その方の本籍地が分かっている場合には、本籍地の市役所に対して、戸籍の附票の第三者請求を行えば、現在の住所が判明する可能性があります。

また、過去の住所地が分かっている場合には、過去の住所地の市役所に対して、住民票の第三者請求を行えば、現在の住所が判明する可能性があります。

もちろん、このような方法をご自身で取ることが煩わしければ、弁護士にご依頼頂ければ、この辺りの処理も弁護士が行うことが可能です。

■参考:住民票や戸籍の証明の第三者(本人以外の方)の請求

https://www.city.fuchu.tokyo.jp/kurashi/tetuduki/sekyu/daisansya.html

3.相続人の中に行方不明の人がいる場合

相続人の中に、音信不通を超えて、行方不明者がいる場合には、不在者財産管理人の選任申立を行うことが必要になってきます。ここでいう、「不在者」とは、従来の住所や居所を去って、容易に戻る見込みのない人をいいます。

3-1.裁判所の管轄

不在者財産管理人の選任申立は、「不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所」に行うことになります。

3-2.必要書類

  • 不在者財産管理人選任申立書
  • 不在者の戸籍謄本及び戸籍附票
  • 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
  • 不在の事実を証明する資料
  • 不在者の財産に関する資料
  • 利害関係を証明する資料(戸籍謄本など)

などです。

もし、ご自身で申立をされる方は、管轄の家庭裁判所に必要書類等の確認をされれば、対応してもらえるかと思いますので、申立前に一度確認した方がよいかと思います。

3-3.費用

  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手

不在者の財産内容からして、不在者財産管理人が不在者の財産を管理するために必要な費用(不在者財産管理人に対する報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合には、申立人が予納金を納付しなければいけないことがあります。

3-4.不在者財産管理人に選ばれる人

遺産分割のために、不在者財産管理人の選任申立がされる場合には、弁護士又は司法書士が不在者財産管理人に選ばれることが多いです。

■参考:不在者財産管理人選任(裁判所)

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html

4.最後に

今回は、音信不通や行方不明の相続人がいた場合の対処方法について、ご説明いたしました。

今回のケースと同じく、相続人の中に海外居住の方がいる場合や、認知症の方がいる場合には、相続人絡みで問題になります。

このようなケースについては、「海外居住の相続人がいる場合の遺産分割協議」、「相続人に認知症の人がいる場合の対処法」で解説しているので、気になる方は参考にされて下さい。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。

対応に迷ったときなどは、お気軽に当事務所までご相談ください。

遺言書と矛盾する行為をした場合にも、遺言書は有効なの?

2023-06-09

一度作成した遺言書は、その内容を書き直したり、破棄しない限り、必ず効力を有するのでしょうか?

例えば、ある不動産を相続人の一人に相続させるとの遺言書を作成した方が、その後その不動産の違う人に贈与した場合にも、その遺言書は有効なのでしょうか。

今回は、遺言内容が、遺言書作成後の遺言者の行為と矛盾する場合の、遺言書の効力などについて解説します。被相続人の作成した遺言書の効力について知りたい方や、遺言書を書き直した方が良いか迷っている方にお役に立つ内容ですので、是非参考にされて下さい。

1.遺言書の撤回、取消のルールについて

まず、前提として、遺言書を作成しても、遺言書の撤回や取消は、自由にできます

これは、遺言書を作成する方の、最終意思を尊重すべきであるとの考えがあるためです。

一旦、遺言書を作成しても、その後、気が変わったり、事情が変わることもあるかと思います。その場合には、遺言書を作り直して頂く形で構いません。

この辺りの話は、「作り直された遺言書の効力~遺言書の撤回と取消について~」で詳しく解説していますので、気になった方は、こちらをご確認ください。

2.遺言者が遺言内容と矛盾する行為をした場合

それでは、遺言書作成後に、遺言者が遺言内容と矛盾する行為をしても、その遺言書は必ず有効なのでしょうか。

民法では、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合には、その抵触する部分については、前の遺言を撤回したものとみなすと規定されています(民法第1023条2項)。要は遺言書作成後に、遺言者が遺言内容と「抵触」する行為をした際には、その遺言書の「抵触」する部分が撤回されたものとしますという規定です。

この規定は、遺言の法律上の撤回を認めることにより、遺言者の最終意思を重視することを目的にしたものです。

ここで、遺言書と「抵触」という意味が問題になりますが、最高裁判決において、「抵触とは、単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含する」とされています。

分かりづらいので、かみ砕いて説明します

上記判決は、遺言内容と後の行為が同時に実現するのが絶対に不可能な場合だけじゃなくて、さまざまな事情から観察して、後の行為が、前の遺言と両立させない趣旨のもとにされたことが明らかな場合にも「抵触」するとしています。

まだ少し、わかりづらいので、具体例を用いて、ご説明します。

■具体例

具体例①

例えば、ある不動産を相続人の一人に相続させるとの遺言書を作成した方が、その後その不動産の違う人に贈与したとします。

この場合には、遺言内容(ある不動産を相続人の一人に相続させる)と、後の行為(その不動産を違う人に贈与)を同時に実現するのが絶対に不可能です。亡くなる前に、違う人に不動産をあげているのですから、遺言によって、その不動産を相続人の一人に渡すことはできません。

なので、遺言内容が、後の行為と「抵触」することになるので、遺言書が撤回したものとみなされます。

具体例②

これは、先ほどの最高裁判決で、問題になったケースです。

その事案では、遺言者に、子どもがいなかったため、Aさんから一生面倒をみてもらうことを前提に、遺言者がAさんと養子縁組をした上で、保有する不動産をAさんに相続させるとの遺言書を作成していました。そして、遺言者が、Aさんと同居して共同生活を送っていました。

しかし、その後、遺言者とAさんが仲違いをして、同居を解消した上で、養子縁組の解消も行い、Aさんが遺言者の面倒をみなくなりました

但し、遺言書を書き直したり、破棄したりはされておらず、その遺言書は残されたままになっています。

最高裁判決は、このような場合にも、遺言書が有効なのかが争われた事案でした。

このケースでは、遺言書で対象とされた不動産を他者に贈与したというわけではないので、遺言書の内容と、後の行為(養子縁組の解消や同居の解消など)を同時に実現するのが絶対に不可能というわけではありません。

なぜなら、養子縁組の解消や同居の解消を行っても、その不動産をAさんに相続させるのは、理屈上は可能だからです。

しかし、このようなケースだと、遺言者は、養子縁組の解消や同居の解消などをした時点で、既に自己が保有する不動産をAさんに相続させる気はなかったと考えられます。

そのため、上記判決においては、これらの事情を考慮して、養子縁組の解消や同居の解消などが、前の遺言書と両立させない趣旨の行為であることが明らかであるとして、遺言書が撤回されていると判断しました。

このように、遺言書と、遺言書作成後の行為が「抵触」するとして、遺言書の撤回をみとめた事例はありますが、これはかなり珍しい事例と評価できるかと思います。

なぜなら、このような遺言書の撤回は、相続人などの法律上の地位に重大な影響を及ぼすものですし、遺言者本人が撤回や取消しの意思表示をしたわけでもないのに、遺言書を撤回したとみなすのは、慎重に判断すべきとされやすいためです。

3.遺言書作成上の注意点

上記のように、遺言書作成時と異なる事態が生じた場合、その遺言書が撤回したとみなされるのか否か、その遺言書をどのように解釈すべきなのか等の争いが生じやすいです。

せっかく、争いが生じないように遺言書を作成しているのに、その遺言書が原因で争いが生じてしまっては本末転倒です。

そのため、遺言書作成時と異なる事態が生じた場合には、遺言書を書き直したり、又は当初の作成時から、後にいかなる事態が生じてもその遺言書の効力に疑義が生じない形で作成しておくのが望ましいといえます。

4.最後に

益川総合法律事務所では、遺言書作成に関するサポートや遺言書の効力を争う事案に積極的に取り組んでいます。

この2つの内容については、一見矛盾するように見えるかもしれません。しかし、遺言書の効力を争う事案に取り組んでいるからこそ、そのような紛争が生じにくい形での遺言書作成のサポートができると考えております。

お困りの方は、当事務所までお気軽にご相談頂ければ幸いです。

遺産相続時における株式の価値はどうやって評価するの?

2023-05-19

「遺産分割や遺留分の時に、上場していない株式の価値はどうやって評価するのでしょうか?」といったご相談を受けるケースがあります。

お亡くなりになった方(被相続人)が会社経営者であった場合などは、未上場株式の価値が問題になることも多いです。

今回は、遺産相続時における、株式の評価方法について、京都の弁護士が解説します。相続の際に株式価値が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。

1.上場株式の場合

上場株式の場合、株価が公表されているため、当該価格をもとに、株式数を掛けて、株式の価格を割り出せばよく、さほど問題は生じません。

どの時点の株価を使用するかという、評価時点は問題になりますが、一般的に遺産分割の場合には遺産分割時の株価を、遺留分の場合には相続時点(お亡くなりになった日)の株価を使用します。

この辺りの、遺産の評価時期の話は、「相続不動産の評価方法や基準時について」というコラムで記載しておりますので、気になる方は参考にされて下さい。

2.非上場株式の場合

非上場株式の場合、上場株式の場合と異なり、相場というものがありません。そのため、過去のご依頼者の方の中にも、「上場していない株式の評価は0でしょうか?」と誤解されていた方もいらっしゃいます。

しかし、非上場株式であっても、その評価が0になるわけではありません。そうでないと、どれだけ資産を有して、利益が出ている会社の株式でも評価が0になってしまい、不当な結論になるためです。

そして、非上場株式の評価方法としては、下記の方法があげられます。

2-1.インカムアプローチ(収益還元方式・配当還元方式)

インカムアプローチとは、その会社が将来獲得することが期待される収入や利益に基づいて、株価を評価する方法です。

この手法は、会社の将来の利益獲得能力を加味できる点で優れていますが、将来の計画性が必要となり、事情計画や将来情報に対するバイアス(偏り)を排除することが難しく、客観性が問題となることが多いです。

2-2.マーケットアプローチ(類似業種比準方式)

マーケットアプローチとは、その会社と同業の株価が判明している会社(上場している会社)との時価総額を比較したりすることによって、株価を評価する方法です。

要は、株価が判明している同業他社との比較によって、株価を割り出そうとする方法です。

この手法は、株価が判明している類似会社との比較によって株価を割り出すものであるため、評価の客観性の点で優れていますが、類似する上場会社がないようなケースでは使用できませんし、その会社独自の特徴については、株価に反映させることが出来ない点で一定のデメリットはあります。

2-3.コスト・アプローチ(純資産方式)

コスト・アプローチとは、その会社の純資産をもとに株価を評価する方法です。

この手法は、帳簿上の純資産をもとに株価を割り出すものであるため、評価の客観性の点で優れていますが、将来の利益獲得能力などを加味することが出来ない点で、一定のデメリットがあります。

2-4.混合方式

混合方式とは、上記で説明した方式を組み合わせて、株価を評価する手法です。

実務上、この混合方式を採用することが多いです。

この手法であれば、上であげた各手法の良い面を組み合わせながら、株価を算定することができます。

実際、混合方式を用いる場合には、上記の各方式で評価をした後、当該評価結果を比較検討しながら、最終的に総合評価して、株価を算出することになります。

もちろん、この総合評価の仕方も問題にはなりますが、少なくとも、上記の各方式一つで評価するよりは、合理的に株価を評価できる手法かと思います。

3.実務上の流れ

実際上、相続人間で、非上場株式の価値が争いとなった場合には、当事者間で合意を目指すことになります。

そして、当事者間で合意が出来なければ、裁判所において、鑑定を求めていくことになります。

この鑑定は、裁判所から選任された公認会計士によってなされることになりますが、鑑定を用いる場合には、事前に双方が鑑定を尊重する旨が確認されることが多いです。

4.最後に

今回は、相続時における株式の評価方法について解説しました。

遺産に未上場株式が含まれている場合、株式の価値が問題になることが多く、中々ご自身のみで対応することは難しいかと思います。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。

株式の価値が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

遺言能力とは?認知症の高齢者が作成した遺言書は有効なのか。

2023-05-12

亡くなった方の遺言書が出てきた場合、遺言書作成当時、被相続人に遺言能力という能力があったかが問題になることがあります。

遺言書作成時に、被相続人が高齢で、認知症などにより物忘れや記憶障害があった場合には、特に問題になります。

この記事では、遺言能力とは何かや、認知症の方が作成した遺言書が有効か否かなどについて、京都の弁護士が解説します。遺言能力が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。

1.遺言能力とは

遺言能力とは、遺言書作成時に、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る能力を言います。要は、遺言書を作成する意味を理解に、その遺言書によってどのような効果が発生するのかが分かる能力のことです。

この遺言能力というものがなければ、有効に遺言書を作成することができません。

民法上も、「遺言書は、その遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」とされており、遺言書作成には、遺言能力が必要なことを規定しています。

そのため、遺言能力がない人によって作成された遺言書は、無効となります。

2.遺言能力が問題になりやすいケース

一般的に、遺言能力が問題になりやすいのは、遺言書作成当時、被相続人が高齢で、なおかつ、認知症や統合失調症、意識障害などの精神上の障害を有しているケースです。

このような状況下で、相続人の一人のみに全財産を与えるなど、一人を優遇した内容の遺言書を作成した場合には、遺言能力の争いが生じやすいです。

なお、公正証書遺言という、公証人が立ち会って作成された遺言書であっても、遺言能力が無いと判断されているケースも多くあり、公正証書遺言であれば、必ずしも遺言能力が認められるというわけではありません。

3.遺言能力が争われた場合の判断基準

上記の通り、認知症の方が作成した遺言書が有効かは、遺言能力が認められるか否かによって決まります。

そして、被相続人の遺言能力について、当事者間で合意に至らなかった場合には、遺言無効確認調停や訴訟の中で争われていくことになります。この中で、遺言書の無効を主張する側が、遺言書作成当時、被相続人は遺言能力を有しておらず、遺言書が無効であることを主張立証していく必要があります。

遺言能力については、下記の事情を総合的に考慮して、判断していくことになります。

以下では、一つずつ説明していきます。

3-1.精神上の障害の内容及び程度

まず、一番重要になってくるのは、被相続人が有していた精神上の障害の内容とその程度です。

精神上の障害の内容としては、認知症、統合失調症、意識障害などが挙げられますが、実務上多くの場合は、認知症が問題となってきます。認知症の中でも、その原因により、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レヴィ小体型認知症などに分けられます。

そして、一言に認知症と言っても、その症状の程度(重さ)は人によって異なってきます。

そのため、その症状の程度を裏付けるために、遺言書作成当時又はその前後の、医師の診断書やカルテ、頭部の画像データ、要介護認定の際の資料、介護施設における介護記録などを、証拠として提出していくことになります。

3-2.遺言内容の複雑性

次に、遺言能力が争いとなった時には、遺言内容の複雑性についても、判断要素になってきます。

例えば、遺言書の内容がかなり複雑で理解が難しいものであれば、遺言者にはそれに相応する高い理解能力が要求されることになります。

そのため、遺言書の内容の複雑性については、当該案件において要求される遺言能力の程度を検討する上で重要な要素となってきます。

3-3.遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等

次に、遺言能力が争いとなった時には、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等も、判断要素になってきます。

例えば、「長女に自分の全財産を相続させる」という遺言書が問題となっている時に、遺言書作成当時、被相続人と長男の関係は円満であり、会う回数も多かった一方、長女とは疎遠であったとします。

このような場合に、被相続人において「長女に自分の全財産を相続させる」との遺言書を作成する動機や理由が全くありませんし、当時の人的関係や交際状況からしても、違和感があります。また、遺言に至る経緯としても突拍子もないものとなります。

このように、遺言の動機や理由、その当時の人的関係や交際状況、遺言に至る経緯等からして、そのような遺言書を作成することが通常考えられない場合には、被相続人が遺言能力を有していなかったことを推認させる一つの要素となります。

かかる要素については、同じく遺言の無効事由である、「本人が作成した遺言ではなく偽造である」との主張とも被る要素となります。こちらについて、興味がある方は、「遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何か?」という記事も参考にされてください。

3-4.年齢

最後に、被相続人が遺言書を作成した当時の年齢が問題になることもあります。

例えば、被相続人が100歳の時に当該遺言書を作成した場合には、遺言能力がなかったのではないかという考えに結びつきやすいです。

但し、高齢でも元気な方もいらっしゃるため、実務上、さほど重視されている要素ではありません。

4.最後に

今回は、遺言能力という問題について解説しました。

当職においても、ご依頼者の方に不利な遺言書が作成されており、かつ被相続人が高齢の時に当該遺言書を作成していた場合には、一度は遺言能力の主張を検討しています。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。

遺言書が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何か?

2023-05-05

亡くなった方(被相続人)の遺言書が出てきた場合、その遺言書を本当に被相続人が書いたのかが問題となることがあります。

年を取るにつれて、字体が変わってくることもありますし、従前被相続人が言っていた内容と全然違う遺言書が出てきた場合には、なおさら問題になるかと思います。

この記事では、遺言書の偽造が問題になる状況や、その際の判断要素などについて、弁護士が解説します。遺言書の偽造が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。

1.遺言書の偽造が問題になるケースとは

前提として、遺言書の種類としては、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、一般的に、遺言書の偽造が問題となるのは、被相続人が自身でその全文を自書する自筆証書遺言のケースです。

というのも、公正証書遺言や秘密証書遺言では、証人が2人以上立会い、その上公証人という方も立ち会うので、被相続人がその遺言書を作成したことは確認されているからです。

一方、自筆証書遺言については、作成の際に、証人の立会いや公証人の立会いは要求されておらず、被相続人が本当にその遺言書を作成したのかが法律上担保されていません。

上記のように、自筆証書遺言については、本当に被相続人がその遺言書を作成したのかが問題になりやすいのです。

なお、上記の3つの遺言書の内容や特徴などについては、「遺言書の種類と特徴~公正証書遺言はトラブル予防に有効~」という記事でご説明していますので、気になる方は参考にされて下さい。

2.遺言書の偽造が争われた場合の判断要素

遺言書の偽造が争われた場合、以下の要素で判断していくことになります。

2-1.筆跡の同一性

まず、一番問題になってくるのは、被相続人の筆跡との同一性です。

筆跡が異なれば、被相続人がその遺言書を作成したのではないことを強く推認させることになります。

但し、実務上、筆跡が同一かを判断するのは簡単ではありません。というのも、年齢によって字体が変わる方も多いですし、日によって、字体が微妙に変わる方さえいるためです。

このように、筆跡の同一性は、遺言書が偽造かを判断する上で大きな要素にはなりますが、判断が難しいケースも存在します。

筆跡の同一性を判断する証拠としては、被相続人の日記、メモ、手紙、年賀状、被相続人が署名押印している契約書あたりが考えられます。

ご依頼頂く前に、ご相談者の方が依頼して筆跡鑑定書を取っておられることもありますが、裁判においてはあまり重要視されません。なぜなら、一方当事者が依頼する鑑定書は一方が有利になるように作成されることもあり、信用性が高くないですし、筆跡鑑定自体、科学的に確立された手法ではないとの見方もあるからです。

そのため、遺言書の偽造が争われている裁判においても、筆跡鑑定をすることはあまり多くありません。

なお、仮に筆跡鑑定を求める場合にも、一方当事者が業者に鑑定をお願いするのではなく、裁判所に鑑定人を選任してもらって、一方当事者に有利な鑑定がされる状況ではないと裁判所に分かってもらうことが重要です。

2-2.遺言書それ自体の体裁等

次に、遺言書が偽造であるかが争いとなった時には、遺言書それ自体の体裁等についても、判断要素になってきます。

例えば、遺言書の作成時期がかなり昔であるのに、最近作成したかのような綺麗な用紙の状態であったり、綺麗なインクの色合いであった場合、作成時期との兼ね合いで不自然な内容になってきます。

また、遺言書作成当時、被相続人に物忘れが多くなっていたにもかかわらず、長文で理路整然とした文章を作成していた場合や、遺言内容が複雑な内容の場合には、当時の被相続人の能力との兼ね合いで不自然な内容となります。

このように、遺言書それ自体の体裁等も、遺言書の偽造が問題になった際の判断要素になります。

2-3.遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等

次に問題となってくるのは、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等です。

例えば、「次男に全財産を相続させる」という遺言書が問題となっている時に、遺言書作成当時、被相続人と長男は同居しており仲が良い一方、被相続人と次男が喧嘩をしていたり、疎遠であったりした場合を想定します。

このような場合に、被相続人において「次男に全財産を相続させる」との遺言書を作成する動機や理由が全くありませんし、当時の人的関係や交際状況からしても、違和感があります。また、遺言に至る経緯としても突拍子もないものとなります。

このように、遺言の動機や理由、その当時の人的関係や交際状況、遺言に至る経緯等からして、そのような遺言書を作成する理由がなかった場合には、遺言書が偽造であることを推認させる一つの要素となります。

2-4.遺言者の自書能力の存否及び程度

自筆証書遺言においては、「遺言者が、その全文、日付、及び氏名を自書」しなければなりません(民法第968条1項)。

そのため、そもそも被相続人が、遺言書作成時において、自筆で書ける能力がなければ、遺言書を被相続人が作成したものでないことを推認させることになります。

したがって、遺言書の偽造が争われた場合には、遺言者の自書能力も問題になってきます。

2-5.遺言書の保管状況や発見状況等

遺言書の偽造が問題になった場合には、遺言書の保管状況や誰が発見したのかも問題になってきます。

その遺言書を被相続人から渡されたという人がいるのであれば、遺言書を渡された状況についてその人の供述を聞くことになります。

また、その遺言書が誰にも渡されておらず、どこかから出てきたのであれば、遺言書の発見者に発見当時の状況やどこから発見されたかについて、確認することとなります。

この供述が不合理でないかも、遺言書の偽造が争いになった際には問題になってきます。

3.証明責任をどちらが負うか

遺言書が偽造であるかが争いになった場合、遺言書が偽造であると主張する側と遺言書が偽造ではない(有効である)と主張する側の、どちらがそのことを証明しなければならないかが問題となります。

この点については、最高裁判決において、遺言書が偽造ではないと主張する側が証明責任を負うとされています。

なので、遺言書が偽造であると主張している側だけでなく、遺言書が有効であると主張する側も、積極的に主張や証拠を提出していくことが必要となります。

実務上、遺言書が偽造であると主張している側は積極的に主張や証拠を出す一方、遺言書が有効であると主張する側は上記の証明責任の所在を誤解してか、あまり積極的に主張や証拠を出さないという場面もよく見るため、この辺りは注意が必要です。

なお、遺言書の有効性でよく問題になる「遺言能力」という問題については、遺言能力がない(遺言書が無効である)と主張する側が証明責任を負うため、この点で少し証明責任の所在が異なってきます。「遺言能力」という問題については、「遺言書の効力、無効になる場合をパターンごとに弁護士が解説」という記事で、詳細に解説していますので、気になる方は参考にされてください。

4.最後に

京都の益川総合法律事務所では遺産相続関係の案件に力を入れて取り組んでいます。遺言書が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

賃借権や使用借権が存在する相続不動産(土地)の評価方法は?

2023-05-01

土地上に賃借権や使用借権が設定されている場合、不動産はどのように評価されるのでしょうか?

遺産相続すると、遺産の「評価」が重要な課題となります。評価額が確定しないと相続税も計算できませんし、遺産分割協議も進められません。

この記事では、賃借権や使用借権が設定されている不動産(土地)の評価方法をお伝えします。

1.土地の原則的な評価方法

遺産相続の場面において、土地はどのように評価するのでしょうか?まずは原則的な評価方法を押さえておきましょう。

1-1.相続税評価の場合

土地の評価方法は、相続税評価の場合と遺産分割の場合とで異なります。

相続税評価の場合には、通常「相続税路線価」を利用します。相続税路線価とは、宅地の1㎡あたりの単価です。

基本的に「相続税路線価×面積」で、その土地の評価額を算出します。

相続税路線価の設定のないエリアでは、評価倍率を使って計算します。

「固定資産税評価額×評価倍率」で、その土地の評価額を算出できます。

1-2.遺産分割の場合

遺産分割時には、時価を使って算定します。時価とは、実際に不動産が流通する場合の価格です。固定資産評価額から時価を割り出したり、取引事例を参照したり、不動産会社に査定を依頼したり、不動産鑑定士に鑑定を依頼したりして、時価を求めるのが一般的です。

不動産の原則的な評価方法には、「相続不動産の評価方法や基準時について」というこちらの記事で詳細に解説しておりますので、参考にされてださい。

2.賃借権が設定されている土地は評価額が下がる

土地上に賃借権が設定されている場合、その土地は自用地よりも評価額が下がります。

自用地とは、賃借権などが設定されておらず自分で使用している土地のことです。

土地を他人に賃貸している場合、自分では自由に使うことができません。その分評価が下がることになります。

このとき、多くの場合、「借地権割合」という割合を使って土地評価額を算定します。

賃借権が設定されている場合の土地の評価額は以下のようになります。

  • 貸地の評価額=自用地の価格×(1-借地権割合)

借地権割合はエリアによって異なります(30%~90%)が、一般的な住宅地では60~70%となるケースが多数です。

例えば、自用地としての価値が1000万円の土地で借地権割合が60%のエリアの場合、貸地の評価額は以下の通りとなります。

1000万円×(1-60%)=400万円

このように、土地に賃借権が設定されている場合、一般的に土地の評価額は下がることになります。そのため、土地を賃貸すると、相続税の節税効果が生まれることになります。

■土地上に貸家が建っている場合

土地上に被相続人の建物が建っており、当該建物を貸している場合の土地評価額についてもみてみましょう。

土地上に建物が建っている場合、借地権割合だけではなく「借家権割合」も考慮しなければなりません。

具体的な計算式は以下のとおりとなります。

  • 貸家つき土地の評価額=自用地価格×(1-借地権割合×借家権割合)

借家権割合は全国一律30%です。

例えば、1000万円の土地で借地権割合が60%のエリアの場合、貸家つき土地の評価額は以下の通りとなります。

1000万円×(1-60%×30%)=820万円

土地上に建物を建てて賃貸している場合の土地評価額は、おおむね自用地の8割程度の評価額となるのが一般的です。

3.小規模宅地の特例

土地を貸付事業に提供している場合には、小規模宅地の特例を適用して評価を50%減にできる可能性があります。小規模宅地の特例とは、亡くなった人が貸していた土地などの小規模宅地について、一定の要件を満たした場合に、その評価額を減額できる税務上の制度をいいます。

貸付事業用宅地が小規模宅地の特例を受ける場合、200㎡までの部分について評価額を50%減額してもらえます。

小規模宅地の特例を適用するには、以下の要件を満たさねばなりません。

  • 相続開始直前まで被相続人や同一生計の親族が土地を貸付事業に提供していた
  • 相続税申告期限まで継続して貸付事業を行っている
  • 相続税申告期限まで土地を保有している
  • 相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地等ではない(3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている)

土地を賃貸すると借地権割合や借家権割合の分、減額されるだけではなく小規模宅地の特例による減額まで受けられるので、税務上、土地の評価額を大きく下げることが可能となります。

4.使用借権が設定されている土地の場合

次に「使用借権」が設定されている土地の評価方法をみてみましょう。

使用借権とは、無償で対象物を使用できる権利です。当事者間で使用貸借契約を締結することで使用借権を設定できます。

使用借権は貸主が死亡すると相続人へ貸主の地位が引き継がれます(なお借主が死亡すると使用借権は原則として消滅しますが、建物利用のための使用借権は相続人に引き継がれる可能性があります)。

4-1.相続税評価の場合

税務上は、使用借権が設定されていても、土地の評価方法に影響は及びません。

使用借権は、原則として、貸主の都合でいつでも設定を解除できるからです。賃借権のような価値がないので、土地評価額からは減額されません。

使用借権が設定されている場合、その土地は「自用地」として評価します。

例えば、1000万円の土地に使用借権が設定されている場合、その土地の評価額は1000万円のままです。

もちろん、貸付事業用宅地としての小規模宅地の特例も利用できません(他の小規模宅地の特例を適用できる可能性はあります)。

使用借権を設定するだけでは相続税対策にはつながりにくいといえるでしょう。

4-2.遺産分割の場合

遺産分割の場合、木造や軽量鉄骨などの非堅固な建物については、原則として、土地の評価を10%下げ、その他の事情によっては20%まで土地の評価を下げている印象です。

対して、コンクリート造りなどの堅固な建物については、原則として土地の評価を20%下げ、その他の事情によっては30%まで土地の評価を下げている印象です。

但し、遺産分割の場において、このような評価減の主張がされないことも多く、一律に何か決まった指標が用いられるのではなく、事案に応じて個別的に判断されることが多いです。

5.最後に

京都の益川総合法律事務所では遺産相続案件に積極的に取り組んでいます。
土地の評価を始め、相続問題でご不明点がありましたら、お気軽にご相談ください。

遺言書に遺産の一部のみが記載されている場合の対処方法

2023-03-28

遺言書が遺されたとき、すべての財産の分け方について指示されているとは限りません。

一部の財産の分割方法や遺贈のみが記載されていたら、相続人としてはどのように対応すれば良いのでしょうか?

今回は、遺言書に一部の財産の分け方のみが書いてあった場合の対処方法を弁護士がお伝えします。遺言書を発見したけれども、どのように対応すればよいかわからない方は、ぜひ参考にしてみてください。

1.一部の財産の分け方を指定する遺言書も有効

そもそも、一部の財産の分け方しか書いていない遺言書は有効なのでしょうか?

例えば、遺産全体としては自宅不動産とA銀行の預金、B銀行の預金、C会社の株式があったとします。その中で「自宅不動産とA銀行の預金を長男に遺贈する」と書かれており、その他の遺産については特に言及されていなかったとしましょう。

法的には、このような遺言書も有効です。遺言書の内容は、遺言者が自由に決められるものであり、必ずしもすべての遺産についての分け方を指定する必要はありません。

一部の遺産の分け方のみが書いてある内容でも有効なので、相続人は基本的にその内容に従って遺産分割や遺贈の対応を進める必要があります。

2.残りの財産は遺産分割協議で分ける必要がある

一部の財産のみの分け方が指定されている遺言書がある場合、分け方を指定されていない財産についてはどのように分ければ良いのでしょうか?

残りの財産については「遺言書がないのと同じ」になります。

つまり、相続人が自分たちで遺産分割協議を行って分け方を決めなければなりません。前提として、相続人調査や他の遺産内容の調査も必要となります。遺産分割協議が整ったら遺産分割協議書を作成し、名義変更などの対応をする必要もあります。

2-1.遺言書で指定されていない財産の分け方の流れ

遺言書で指定されていない財産の分け方の流れをまとめると、以下のとおりです。

  • 相続人調査、相続財産調査
  • 遺産分割協議
  • 遺産分割協議書を作成する
  • 名義変更や預貯金払い戻しなどの相続手続き

相続人としては、上記と遺贈を並行して行わねばなりません。

2-2.相続税が発生する可能性もある

遺贈された財産額と、分け方を指定されていなかった財産額の合計が「相続税の基礎控除」を超えると、受遺者や相続人は相続税を払わねばなりません。

3.相続人への遺贈は特別受益になる

遺言書によって相続人へ財産が遺贈されると、原則的に「特別受益」になります。

特別受益とは特定の相続人が遺贈や贈与によって受ける利益です。

特別受益が成立すると、遺産分割協議の際に、当該利益を受けた相続人の取得分を減らす計算方法を適用できます。受益を受けた相続人がいる場合、単純に法定相続分によって遺産を分けるとかえって不公平となってしまう可能性があるからです。

実質的な公平を図るために、受遺者の取得分を減らすための計算方法を「特別受益の持戻計算」といいます。

特別受益持戻計算の具体例

例えば、遺産全体の評価額が3000万円、相続人は子ども3人、遺産のうち自宅不動産(1000万円分)が長男へ遺贈(遺言書によって贈与)されたとしましょう。この場合、残りの2000万円分については相続人らが自分たちで話し合って遺産分割しなければなりません。

長男はすでに1000万円の不動産を遺贈されているので、特別受益の持戻計算を適用できます。

具体的には、長男の遺産取得分が0円となり、次男と三男が1000万円ずつの遺産を取得する結果となります。

結果として、長男は遺贈された1000万円分の不動産を受け取り、次男と三男はそれぞれ1000万円ずつの別の遺産を受け取るので公平に遺産分割ができます。

4.持戻免除の意思表示があるかどうかで対応が変わる

特別受益の持戻計算は、すべてのケースで適用されるとは限りません。

そもそも、相続人のうち誰も「持戻計算を行うべき」と主張しなければ適用されないのです。例えば、上記の事例でも、次男や三男が主張しなければ残りの2000万円についても法定相続分に応じて分配することとなるでしょう。

また、遺言者自身の希望により、特別受益の持戻計算を免除できます。

例えば、上記の事例でも、死亡した被相続人自身が遺言書に、「特別受益の持戻計算は免除する」と記載していれば特別受益の持戻計算は適用されません。

具体的にいうと長男は遺贈を受けた上、さらに2000万円の3分の1である666万円を相続できます。

この場合、次男と三男は666万円ずつの遺産しか受け取れず長男は1666万円分の遺産を受け取れるので不公平とも思えますが、遺言者の希望があるのでやむを得ません。

なお、特別受益の持戻免除の意思表示は遺言書以外の方法でもできます。例えば、エンディングノートなどに特別受益の持戻免除の意思表示が行われた場合であっても、それが本当に本人の書いたものであれば有効です。

5.遺言書についてのご相談はお気軽に

相続人が遺言書を発見したときには、内容に応じて適切な対応をとる必要があります。間違った対応をすると後にトラブルになったりして、不利益を受けてしまいます。迷ったときには、お気軽に京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

不動産が遺贈されてしまった場合の対処法

2023-03-05

不動産が特定の相続人に遺贈された場合、他の相続人は十分な遺産を受け取れなくなってしまう可能性が高まります。

他の相続人としては、どのようにして権利を守れば良いのでしょうか?

この記事では、不動産が遺贈された場合の法的な対処方法を弁護士がお伝えします。

不公平な遺言書が遺されて納得できない方は参考にしてみてください。

1.不動産が遺贈された場合の影響

特定の相続人に不動産が遺贈されると、他の相続人には以下のような影響が及ぶ可能性が高まります。遺贈とは、遺言によって財産を特定の人へ受け継がせることです。

1-1.他の相続人の遺産取得分が減る

特定の相続人に不動産が遺贈されると、他の相続人の遺産取得分が減ってしまいます。

例えば、長男にのみ実家の土地建物が遺贈されると、遺産全体の価値は実家の分だけ減ってしまうでしょう。そうなると、他の相続人は実家を除いた遺産からしか財産を受け取れないので、結果的に取得できる遺産が減ってしまいます。

1-2.他の相続人は遺産を受け取れない可能性がある

特定の相続人に不動産が遺贈されると、他の相続人が遺産を受け取れなくなる可能性もあります。例えば、遺された遺産が実家の土地建物のみであった場合、実家の土地建物が長男に遺贈されると他の子どもは遺産を一切受け取れなくなってしまうでしょう。

このように不動産が特定の相続人へ遺贈されると他の相続人に不利益が及ぶ可能性があるので、注意が必要です。

以下では、特定の相続人へ不動産が遺贈されたとき、他の相続人として何ができるのかみてみましょう。

2.遺産分割で「特別受益の持戻計算」を行う

1つ目は、遺産分割の際に「特別受益の持戻計算」を行う対処方法です。

特別受益の持戻計算とは、特別受益を受けた相続人がいる場合にその相続人の遺産取得割合を減らす計算方法です。

特別受益とは、特定の相続人が遺贈や贈与によって受けた特別な利益であり、遺贈が行われた場合にも特別受益になります。

特別受益の持戻計算を適用すると、特別受益を受けた相続人の遺産取得分を減らして他の相続人が取得する遺産相続分が増えるので、公平に遺産分割しやすくなります。

特別受益の持戻計算免除について

特別受益の持戻計算は、常に適用できるとは限りません。

被相続人(亡くなった人)が「特別受益の持戻計算免除」の意思表示をしていた場合、特別受益の持戻計算を適用できないからです。

例えば、遺言書で「特別受益の持戻計算を免除する」と書かれていたら、遺産分割時に特別受益の持戻計算ができなくなってしまいます。20年以上連れ添った配偶者へ居住用不動産を遺贈した場合には、明示的な意思表示がなくても特別受益の持戻計算免除意思が推定されます。

その場合、以下に記載する遺留分侵害額請求を検討するなどの方法を取るしかなくなるでしょう。

また、遺産内容が遺贈された不動産しかない場合にも、特別受益の持戻計算をするまでもなく他の相続人は遺産を受け取れなくなってしまいます。その場合にも、以下でご説明する遺留分侵害額請求を検討する必要性が高くなります。

3.遺留分侵害額請求を行う

特定の相続人に不動産が遺贈された場合、他の相続人は遺贈を受けた相続人に対し、遺留分侵害額請求できる可能性があります。

遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分を金銭的に取り戻すための手続きです。

兄弟姉妹以外の法定相続人には、最低限の遺産取得割合である遺留分が認められます。

遺留分は遺言によっても侵害できないので、遺贈によって遺留分を侵害された場合、遺留分権利者は遺留分侵害者へ遺留分侵害額請求ができます。

3-1.遺留分侵害額請求の効果

遺留分侵害額請求をすると、侵害された遺留分に相当する金銭を払ってもらえます。

なお、遺留分侵害額請求権は遺産そのものを取り戻す手続きではありません。請求しても不動産が共有になったり不動産そのものの所有権を取り戻せたりするものではないので、勘違いしないように注意しましょう。

3-2.遺留分侵害額請求の時効

遺留分侵害額請求には時効があります。基本的には「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内」に請求者なければなりません。

1年が経過すると、時効により遺留分を取り戻せなくなってしまいます。

不動産が遺贈されて納得できないなら、早めに遺留分侵害額請求を行う判断をして、請求手続きを進めましょう。

また、遺留分侵害額請求を行う際には、確実に時効の期間内に請求した証拠を残すため、内容証明郵便を利用するようおすすめします。

4.遺言書が無効なら遺言無効確認請求を行う

遺言書に「不動産を遺贈する」が書かれていても、遺言書が無効であれば遺贈の効果は生じません。例えば、自筆証書遺言で自筆以外の部分があったり偽造変造されたりしている場合や、遺言者の意思能力が低下してから遺言書(公正証書遺言を含む)が作成された場合などには遺言書が無効になる可能性もあります。

遺言書が無効となる疑いがあるなら、遺言無効確認請求を行うのも一つの手です。調停や訴訟を行えば、遺言書が無効かどうかを法的に確認できます。

不動産が遺贈されると他の相続人の遺産取得分が減ってしまい、不公平な状況となってしまう可能性が高まります。不動産の遺贈に納得できない相続人の方は、お早めに弁護士までご相談ください。

不動産が生前贈与されていた場合の対処法

2023-02-08

特定の相続人へ不動産が生前贈与されていたら、不動産の贈与が「特別受益」に該当する可能性があります。特別受益になる場合、「特別受益の持戻計算」によって贈与を受けた相続人の遺産取得割合が減ることになります。

また、生前贈与によって他の相続人が取得できる遺産が減ってしまった場合、「遺留分侵害額請求」によって一定額を取り戻せる可能性もあります。

この記事では、不動産が生前贈与されていた場合に他の相続人がとりうる対処方法をお伝えします。不公平な生前贈与が行われて納得できない方などは、ぜひ参考にしてください。

1.不動産の生前贈与が特別受益になるケース

不動産が生前贈与されると、その相続人に特別受益が成立する可能性が高くなります。

特別受益とは、特定の相続人が遺贈や贈与によって受けた特別な利益です。

遺贈や生前贈与が行われた場合、贈与を受けた相続人に特別受益が成立する可能性があります。

生前贈与が特別受益になるのは、その贈与が婚姻や養子縁組、生計の資本として贈与された場合です。例えば、結婚や養子縁組の際に不動産の贈与が行われた場合や、住むための家が贈与された場合などには通常、特別受益が成立すると考えて良いでしょう。

2.特別受益の持戻計算について

特定の相続人が不動産の生前贈与を受けて特別受益が成立する場合、贈与を無視して法定相続分に従って遺産分割すると不公平になってしまいます。特別受益を受けた相続人の財産取得分が多くなってしまうためです。

そこで、特別受益が成立する場合には、「特別受益の持戻計算」を行って特別受益を受けた相続人の遺産取得割合を減らすことになります。

特別受益の持戻計算を適用すると、特別受益を受けた相続人の遺産取得割合を減らして他の相続人の取得分が増えるので、公平に遺産分割しやすくなります。

3.特別受益の持戻計算を適用する方法

特別受益の持戻計算は、どのようにして適用すれば良いのでしょうか?

基本的には、遺産分割の際に、他の相続人が「特別受益の持戻計算を適用したい」と主張しなければなりません。

話し合いによって全員が以下の内容に合意できれば、特別受益を考慮して遺産分割ができます。

  • 特別受益の持戻計算を適用すること
  • 特別受益の持戻計算の方法(財産評価額や各自の遺産取得割合、具体的な遺産分割方法など)

贈与を受けられなかった相続人が特別受益の持戻計算をしたい場合には、遺産分割協議の際に特別受益の持戻計算を適用するよう主張しましょう。

合意できない場合には家庭裁判所で調停や審判を申し立てる必要があります。

4.不動産の生前贈与によって遺留分侵害額請求できるケース

不動産が生前贈与された場合、他の相続人の「遺留分」が侵害される可能性があります。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。

不公平な生前贈与によって遺留分すら受け取れなくなってしまった場合、他の相続人は侵害者(贈与を受けた人)に対し、遺留分侵害額請求を行って金銭で清算を求めることができます。

5.遺留分侵害額請求の対象となる贈与

生前贈与が行われても、すべての贈与が遺留分侵害額請求の対象になるわけではありません。贈与によって遺留分侵害額請求できるのは以下のような場合です。

  • 死亡前1年以内の贈与
  • 当事者が遺留分を侵害すると知って行った贈与
  • 死亡前10年以内の特別受益に該当する贈与

不動産の生前贈与の場合、死亡前10年以内に行われたものであれば遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります。

6.遺留分を請求できる相続人

遺留分はすべての相続人に認められるわけではありません。請求できるのは、「兄弟姉妹やその代襲相続人である甥姪以外の相続人です。つまり、以下のような相続人であれば遺留分侵害額を請求できます。

  • 配偶者
  • 子どもや孫、ひ孫などの直系卑属
  • 親や祖父母、曾祖父母などの直系尊属

一方、兄弟姉妹やその代襲相続人である甥姪は遺留分侵害額請求できないので、遺された遺産の中から遺産分割で遺産を取得するしかありません。

7.遺留分侵害額請求は金銭を求める権利

遺留分侵害額請求は金銭を求める権利であり、遺産そのものの引き渡しを求められるものではありません。

あくまで、「遺留分侵害額」という金銭支払を請求できるだけです。

例えば、不動産が贈与されて遺留分を侵害されたとしても、不動産そのものの引き渡しを求めたり共有にしたりできません。遺留分侵害額を計算して、遺留分侵害額請求を行いましょう。

8.遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権には時効があるので要注意です。「相続開始と遺留分侵害の事実」を知ってから遺留分を請求しないで1年が経過すると、時効が成立して遺留分を請求できなくなってしまいます。

不動産の生前贈与によって遺留分侵害を受けて納得できないなら、早めに遺留分侵害額請求を行いましょう。

相手と話し合っても遺留分侵害額の支払方法について合意できない場合、調停や訴訟で争う必要があります。

9.不動産が生前贈与されて納得できない場合、弁護士までご相談ください

不動産が生前贈与されると、他の相続人の遺産取得分が減ってしまう可能性があります。

そのような場合でも、特別受益の持戻計算をしたり遺留分侵害額請求を行ったりして不公平感を是正できるケースが多数です。

どのように対応するのが最適か、判断しかねる場合には弁護士までご相談ください。弁護士が遺産分割や遺留分侵害額請求の代理人となることも可能です。

京都の益川総合法律事務所では相続人さまの支援に力を入れておりますので、お気軽にご相談ください。

独身の方(おひとり様)の遺産相続や対策方法を弁護士が解説

2023-01-20

独身の方がお亡くなりになると、誰が遺産相続するかご存知でしょうか?将来の相続に備えて、法定相続人や法定相続人がいない場合の相続方法についても知っておきましょう。

この記事では独身の「おひとり様」の場合にどのように遺産相続が行われるのか、弁護士が解説します。独身の方はぜひ参考にしてみてください。

1.独身の方の法定相続人

独身のおひとりさまであっても、法定相続人がいれば法定相続人が遺産を相続します。

法定相続人とは、民法の定める相続人です。

独身者の法定相続人は以下のとおりです。

1-1.第1順位は子どもや孫など

独身者であっても子どもがいるケースがあります。その場合、第1順位として子どもが優先的に相続人になります。

子どもがご本人より先に死亡していて孫がいたら、孫が代襲相続によって相続人になります。孫も先に死亡していてひ孫がいたら、ひ孫が相続人になります。このように直系卑属の代襲相続は、延々と続いていきます。

1-2.第2順位は親や祖父母など

独身の方に子どもや孫などの直系卑属がいない場合には、親が第2順位の法定相続人として遺産を相続します。親が先に死亡していて祖父母が生きていたら、祖父母が相続します。

1-3.第3順位は兄弟姉妹か甥姪

お亡くなりになった方に子どもなどの直系卑属も親などの直系尊属もいない場合には、第3順位である兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹ご本人より先に死亡していて甥や姪がいたら甥姪が代襲相続人として相続します。甥姪がご本人より先に死亡していても、甥姪の子どもは相続人になりません。

2.独身の方に法定相続人がいない場合の相続方法

独身のおひとり様の場合、近親者がまったくいないケースもあるでしょう。その場合「相続財産管理人」により、以下のような順番で遺産が配分されます。相続財産管理人とは、遺産を管理する職務を担う人です。利害関係人などによって家庭裁判所で選任されます。

以下でどういった人に遺産が配分されるのか、みてみましょう。

2-1.債権者

死亡した方に支払うべき債務がある場合、まずは遺産の中から債権者への支払いが行われます。たとえば以下のような負債がある場合です。

  • 借金していた
  • 家賃を払っていなかった
  • 税金を払っていなかった
  • 水道光熱費やスマホ代を払っていなかった

2-2.特定受遺者

特定受遺者とは、遺言によって遺産のうち特定の財産を受け取る人です。遺言が遺されていて、ある人に特定の財産を受け継がせるよう指定されている場合には、遺言とおりに遺産が受遺者に受け継がれます。

独身のおひとりさまの場合、お世話になった人などに遺産を遺したい場合もあるでしょう。そういったケースでは遺言書を作成して遺贈しておくようおすすめします。

2-3.特別縁故者

特別縁故者とは、被相続人と特別に親しい関係にあった人です。債権者や受遺者への支払をしても遺産にあまりがある場合には、特別縁故者への財産分与が行われます。特別縁故者に該当するのは、以下のような人です。

  • 被相続人を療養看護していた人
  • 被相続人と生計を同一にしていた内縁の夫や妻
  • 事実上の養子養親など

ただし、特別縁故者が財産を受け取るには、指定された期間内に家庭裁判所へ「特別縁故者への財産分与の申立て」をしなければならず、手間がかかります。お世話になった人などへ財産を譲りたい場合には、生前贈与するか遺言書を作成しておく方が良いでしょう。

2-4.財産の共有者

不動産などの財産については、他人と共有しているケースが珍しくありません。共有物件の場合、債権者も受遺者も特別縁故者もいなければ、他の共有者へ権利が引き継がれます。

2-5.国庫に帰属

財産を引き継ぐべき債権者も受遺者も特別縁故者もいない場合、最終的に財産は国のものとなります。

3.おひとりさまの相続対策

以上のように、おひとりさまが遺産相続について何の対応もしていなかった場合、最終的には遺産は国のものとなってしまいます。そういった事態を避けたい場合、遺言書を作成しておきましょう。

遺言書を作成すると、遺言書で指定したとおりに遺産を受け継がせることができるので、死後も自分の意思を実現できます。特別縁故者がいる場合でも、はじめから遺言書で近しい人を相続財産全部の「受遺者」として指定しておいたら、わざわざ相続財産管理人の選任や特別縁故者への財産分与の申立てをさせずに済みます。

3-1.法定相続人がいても遺言書は必要

法定相続人がいる場合でも、遺言書を作成しておく必要性は高いといえます。独身の方に子どもも親もいない場合、兄弟姉妹やその子どもである甥姪に遺産が引き継がれるためです。普段かかわりのない遠縁の親族に遺産が引き継がれるのを望まないなら、遺言によって近しい人へ遺産を遺しましょう。

3-2.遺言執行者を指定する

お一人様が遺言書を作成する際には、必ず遺言執行者をつけておくようおすすめします。遺言執行者がいないと遺言内容を実現する人がおらず、手続きが滞ってしまう可能性が高いからです。遺言書によって信頼できる人を指定しておきましょう。

4.相続対策は弁護士までご相談ください

京都の益川総合法律事務所では相続対策に力を入れて取り組んでいます。遺言書の作成や遺言執行者の就任も積極的にお引き受けいたします。独身の方で相続が気になっている場合、お気軽にご相談ください。

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