遺産分割
遺産分割において寄与分は考慮されにくいのか?
こんにちは。
弁護士の益川教親です。
遺産分割を行う際、ある相続人が、亡くなった方を献身的に介護しているような場合、その相続人から「寄与分」の主張がされることがあります。
遺産分割の際に、この寄与分が考慮される割合はどのくらいなのでしょうか。
肌感覚として、寄与分の主張は中々認められづらいとの印象がありますが、実際の割合については、私自身も調べたことがありません。
そこで、今回は、司法統計データを調べてみましたので、是非参考にしてみてください。
1.寄与分とは
まず、最初に、寄与分の説明を簡単に行います。
寄与分とは、亡くなった方の財産の形成や維持に特別な貢献をした相続人に認められる、上乗せの相続分を意味します。
例えば、ある相続人が亡くなった方を献身的に介護して介護費用の支出を抑えた場合や、亡くなった方の事業を無給で手伝って財産形成に貢献した場合などに寄与分が認められます。
この寄与分の話は、「寄与分とは」という記事で詳しく解説しているので、興味がある方は、是非参考になさって下さい。
2.寄与分が考慮される割合
それでは、遺産分割事件の際に、この寄与分が考慮される割合はどれくらいなのでしょうか?
今回参照したデータは、令和3年に終結した遺産分割事件(遺産分割調停が成立した事件と審判が認容された事件)のうち、寄与分が考慮された割合となります。
結果は、下記の通りです。
■寄与分の考慮の有無(総数6996件)
有り 134件
無し 6862件
考慮割合 1.91%(約2%)
遺産分割事件において、寄与分が考慮される割合は約2%のようです。
遺産分割事件50件のうち、1件しか寄与分が考慮されていません。
寄与分は中々考慮されづらいと思っていましたが、ここまで考慮されていないとは思いませんでした。
というのも、これまでの私の経験上、肌感覚にはなりますが、遺産分割案件を12件ぐらいやれば、1件ぐらいは寄与分が考慮されていた印象があるからです。
3.寄与分が遺産の総額に占める割合
遺産分割事件において寄与分が考慮されたとして、その寄与分は遺産の総額に対して、どのくらいの割合を占めているのでしょうか。
その結果は、下記の通りになります。
■寄与分が遺産の総額に占める割合(総数134件)
10%以下 74件(1位、約55%)
20%以下 19件(2位、約14%)
30%以下 5件(6位、約4%)
50%以下 13件(4位、約10%)
50%を超える 8件(5位、約6%)
不詳 15件(3位、約11%)
上位のように、寄与分が遺産の総額に占める割合は、10%以下や20%以下のものが多いですが、中には50%を超えているものもあるようです。
但し、寄与分が遺産の総額に占める割合が大きい案件は、そもそも遺産の総額が小さいため、高い割合が出ているのだと思われます。
例えば、寄与分が100万円認められたとしても、遺産の総額が1億円であれば、遺産の総額に占める割合は1%になりますし、逆に遺産の総額が200万円であれば、その寄与分が遺産の総額に占める割合が50%となります。
4.最後に
今回は、遺産分割事件において、寄与分が考慮される割合がどれくらいかについて、解説しました。
結論として、寄与分が考慮される割合は、全体の約2%となります。私自身は、かなり低い数字だなと感じましたが、皆様はどのように感じられたでしょうか。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しております。お困りの際には、お気軽にご相談頂ければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
■参考
令和3年 司法統計年報 3家事編
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遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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相続建物の無償使用が特別受益になるの?
相続人の一人が、被相続人の建物に無償で居住していた場合、他の相続人から、「特別受益」に該当する旨の主張がされることがあります。
被相続人の建物を無償で使用することは、「特別受益」に該当するのでしょうか。
今回は、相続建物の無償使用が「特別受益」に該当するかについて、京都の弁護士が解説します。遺産相続において、相続人の一人が建物を無償使用していることが問題になりそうな方は、是非参考になさって下さい。
1.特別受益とは
まず、前提として、特別受益について、簡単に説明します。
特別受益とは、特定の相続人が遺言によって財産を譲り受けたり、生前に遺産の前渡しとなるような贈与などによって受けた利益のことをいいます。
特別受益を受けた相続人がいる場合、相続人間の公平の観点から、その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。その計算を、「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
このように、その相続人が受けた利益が、特別受益に該当する場合には、特別受益の持ち戻し計算が行われて、その相続人の遺産からの取り分が減ることになるのです。
特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で、詳しく解説していますので、興味がある方は是非参考になさって下さい。
2.同居している場合
それでは、相続人の一人が、被相続人の建物に無償で居住していた場合には、かかる無償使用が「特別受益」に該当するのでしょうか?
まずは、被相続人と同居しているケースについて解説します。
こちらの場合には、相続人による建物の無償使用が、「特別受益」に該当することはありません。
なぜなら、被相続人との同居の場合には、相続人は単なる占有補助者にすぎません。相続人に、独立の占有権限があるとは認められず、使用借権(建物を借りる権利)は認められないためです。
この理由については、法的にもややこしいので、参考程度にして頂ければと思います。
3.別居している場合
それでは、被相続人と同居していない場合はどうでしょうか?
こちらの場合にも、一般的には、相続人による建物の無償使用は、「特別受益」に該当しないとされています。
理由としては、下記の通りです。
①建物の無償使用は、被相続人からの恩恵的な要素が強く、遺産の前渡しという性格が薄い
②建物の使用借権(無償で借りる権利)は、第三者に対する対抗力がないため、明け渡しも容易であり、経済的価値がないものと評価できる
③賃料相当額を特別受益とすると、かなり大きな金額となり、遺産の総額と比べても大きくなってしまう
これらの理由により、別居している場合にも、建物の無償使用は「特別受益」に該当しないとされています。
■収益物件を無償で使用していた場合
被相続人がアパートやマンションなどの賃貸不動産を所有していて、その一室を相続人が無償で使用している場合にも、「特別受益」に該当しないのでしょうか?
その相続人がいなければ、その一室も賃貸でき、賃料が取得できたのですから、他の相続人からも、「特別受益」に該当する旨の主張をされることが多いです。
しかし、一般的には、この場合にも、「特別受益」には該当しないとされています。この場合においても、被相続人からの恩恵的な要素が強く、遺産の前渡しと評価することが難しいためです。
4.相続発生後から遺産分割までの賃料請求はできるか?
生前の相続建物の無償使用が「特別受益」に該当しないとしても、相続発生後から遺産分割までの賃料請求は認められるのでしょうか?
生前、被相続人と相続人が同居していた場合については、最高裁判例上、賃料請求が否定されています。これは、「被相続人と同居の相続人の間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認される」ためです。
対して、被相続人と相続人が同居していない場合については、どうでしょうか?
この点について、当職の知る限り、最高裁判例はありませんが、実務上は、やはり賃料請求が否定される傾向です。
5.最後に
今回は、相続建物の無償使用が「特別受益」になるかについて、解説しました。
結論としては、否定となっており、他の相続人の立場からすれば、残念な結論になっていると言えるでしょう。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。
遺産相続でお困りの際には、お気軽にご相談ください。
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家督相続を相続人たる長男から主張された時の対処法
日本でも、生前は家督相続が採用されていました。
そして、現在でも、長男から他の相続人に対して、「自分が家督を継ぐから、相続財産を全て取得するべきである」旨の話をされることがあります。
そこで、今回は、相続人である長男から家督相続を主張された場合の対処法について、京都の弁護士が解説いたします。同じ状況の方は、是非参考になさってください。
1.家督相続とは
家督相続とは、戦前の日本で採用されていた遺産相続の方法で、家督である長男が相続財産を全て取得する相続方法です。
当時の日本では、家制度が確立されており、家のトップである戸主(長男)が全ての財産を取得していたのです。
この家督相続は、昭和22(1947)年5月2日まで施行されていましたが、戦後において重視された法の下の平等の理念等に反するため、戦後すぐに廃止されました。
しかし、現在でも、長男から、家督相続を主張されることは比較的多くのケースでみられます。
2.遺言書がある場合
長男が家督相続を主張するケースでは、「長男にすべての財産を相続させる」旨の遺言書が作成されていることも多いです。
このような場合には、下記の通り、他の相続人は長男に対して、遺言書が無効である旨を主張するか、又は遺留分の請求を行うことになります。
2-1.遺言書が無効である旨主張する
遺言書が無効である理由としては、①遺言書が偽造である、②遺言書作成当時、被相続人が認知症であり遺言能力がない、との2つの主張がされることが多いです。
①の遺言書が偽造である旨の主張は、遺言書が公証役場で作成されたものでなく、自筆証書遺言である時に、主張されることが多いです。
この場合には、被相続人の筆跡との同一性、遺言書の体裁等、被相続人に遺言書作成の動機があるかや、遺言書作成に至る経緯、遺言書の保管状況や発見状況等をもとに、その遺言書が偽造であるか否かが判断されることになります。
この辺りは、「遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何?」という記事で詳しく解説していますので、興味がある方は参考になさってください。
②の被相続人には遺言能力がない旨の主張は、遺言書作成当時、被相続人が認知症を患っている時に主張されることが多いです。
この場合には、認知症の程度、遺言書の内容の複雑性、被相続人に遺言書作成の動機があるかや、遺言書作成に至る経緯、年齢などをもとに、被相続人に遺言能力が認められるか否かが判断されることになります。
この辺りは、「遺言能力とは?認知症の高齢者が作成した遺言書は有効なのか。」という記事で詳しく解説していますので、興味がある方は参考になさってください。
2-2.遺留分侵害額請求を行う
もし、「長男に全財産を相続させる」との遺言書が有効であったとしても、他の相続人は長男に対して、遺留分侵害額請求を行うことができます。
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、最低限度の遺産取得割合をいいます。
配偶者や子どものみが法定相続人になる場合には、遺留分の割合は2分の1となります。その割合を、各法定相続人が法定相続分に応じて取得します。
例えば、6,000万円の遺産があって、相続人が長男、長女、次男であるとします。
この場合、長女や次男にも6分の1ずつの遺留分が認められます。そのため、長女や次男は、長男に対して、1,000万円ずつの遺留分の請求が可能となるのです。
但し、遺留分侵害額請求には時効があるので、気を付けましょう。
相続開始と遺留分侵害の両方の事実を知ってから、1年以内に請求しないと権利が失われてしまいます。
遺留分については、「遺留分侵害額請求をしたい方へ」との記事で詳しく解説していますので、是非参考になさってください。
3.遺言書がない場合
遺言書がない場合には、長男がいくら家督相続を主張しようが、相続人は法定相続分に応じて、遺産を取得します。
長男であろうが、他の子どもであろうが、法定相続分は変わりません。
そのため、他の相続人は長男に対して、まずは法定相続分が長男と他の相続人で変わらないことを説明することになります。
それで、長男が納得すれば、法定相続分に応じて、相続人が平等に遺産を取得すれば良いです。
他方、説明してもなお長男が納得しなければ、弁護士に依頼頂くのが良いと思います。弁護士がおらず、兄妹だけの話合いであれば、長男も他の兄妹を押し切れると考えがちですが、弁護士が入ると諦めることが多いからです。
もちろん、弁護士に依頼頂いたからといって、弁護士がご依頼者の意向を無視して対応することはありません、もし、ご依頼者に、全部は嫌だけど少しだけ長男に多く遺産を渡したい等のご意向があれば、そのご意向を踏まえて対応を行っていくことになります。
4.最後に
今回は、相続人である長男から家督相続を主張された場合の対処法を解説いたしました。
戦後すぐに家督相続という制度は廃止されていますが、今でも長男から家督相続の主張がされることは少なくありません。
益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。長男から家督相続の主張をうけた方などは、是非お気軽にご相談ください。
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相続登記の義務化とは?令和6年4月1日から施行
これまで相続登記の申請は義務ではなかったのですが、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されることになります。
そこで、今回は、そもそも相続登記とは何かや、相続登記の義務化の内容について、京都の弁護士が解説します。相続によって不動産を取得する方は、是非参考になさってください。
1.相続登記とは
相続登記とは、相続した不動産について、不動産登記簿の権利者の名義を相続人に変更することを言います。
この名義変更を行うためには、法務局に申請をする必要があります。
この相続登記を行うことによって初めて、登記簿上からも、相続によって不動産の所有権が相続人に移転したことが分かることになります。
不動産の所有者を調べるときは、一般的にこの不動産登記簿を確認します。そのため、相続登記を行うことによって、第三者からも相続不動産の所有者が当該相続人であることが分かるのです。
2.相続登記の義務化の内容
今回の相続登記の義務化によって、
①相続人は、不動産(土地・建物)を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をすることが義務となりました。
②正当な理由がないのに、相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
③この相続登記の義務化の施行(開始)時期は、令和6年(2024年)4月1日です。
以下では、それぞれの内容について解説していきます。
2-1.3年以内に相続登記の申請を行う必要がある
相続人は、相続により不動産(土地・建物)を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請を行うことが義務となりました。
それでは、もし3年以内に遺産分割が成立しない場合などは、どのようにすればよいのでしょうか。以下では、実際のケース毎に、登記申請の内容を解説していきます。
■実際のケース毎に登記申請の内容を解説
①3年以内に遺産分割が成立しなかった場合
相続登記の義務化に伴って、早期の遺産分割が難しい場合などのために、「相続人申告登記」という新たな登記が設けられました。これは、戸籍などを提出して自分が相続人であることを申告する登記であり、簡易な手続きで行うことができます。
そのため、遺産分割が成立しない場合には、まずは、3年以内に相続人申告登記を行うことになります。
その後、実際に遺産分割が完了した場合には、その遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を踏まえた相続登記を行うことになります。
②3年以内に遺産分割が成立した場合
3年以内に遺産分割が成立した場合には、その遺産分割の内容を踏まえた相続登記を行うことになります。
但し、実際に遺産分割が完了したのが3年ギリギリのところで、3年以内に相続登記を行うのが難しいなどの場合には、3年以内に相続人申告登記を行った上で、後は遺産分割が成立した日から3年以内に、遺産分割の内容を踏まえた相続登記を行うことになります。
③遺言書がある場合
遺言書がある場合には、その遺言書によって不動産の所有権を取得した人が、取得を知った日から3年以内に、登記の申請を行うことになります。法務省の資料によると、この登記の申請は、相続登記ではなく、相続人申告登記でもよいとされています。
2-2.相続登記をしない場合に過料が科せられる
正当な理由がないのに、上記の相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
「正当な理由」とは、①数次相続が発生して相続人が極めて多数になり、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合、②遺言の有効性等が争われている場合、③重病等である場合、④DV被害者等である場合、⑤経済的に困窮している場合をいうとされています。
法務省の資料によれば、登記義務に違反しても、登記官がいきなり裁判所への過料通知(裁判所に過料を科す裁判を求める通知)を行うわけではないようです。登記官が、あらかじめ登記申請の義務を負う者に催告をして、それでも催告を受けた人が登記申請を行わなかった時にはじめて、裁判所への過料通知を行うようです。
2-3.令和6年4月1日から開始
相続登記の義務化は、令和6年(2024年)4月1日から開始されます。
そして、注意が必要なのは、この相続登記の義務化は、令和6年4月1日よりも前に相続が発生していたケースでも、登記義務が課せられることです。要は、相続が発生した時期を問わず、全てのケースで相続登記が要求されるため、過去に相続によって不動産を取得しているのに、相続登記をしていなかった人も登記義務を負うことになります。
令和6年4月1日よりも前に相続した不動産については、令和9年3月31日までに相続登記申請を行うことが必要になります。令和9年3月31日というのは、相続登記の義務化の開始日である令和6年4月1日から3年間猶予が与えられていることになります。
3.相続登記が義務化された背景
これまで相続登記の申請が義務ではなく、相続登記をしない人が一定数存在しました。これにより、登記簿を見ても所有者が分からない「所有者不明土地」が全国で増加しました。
このような「所有者不明土地」は、不動産がしっかり管理されないことも多く、隣接する土地への悪影響が発生していました。また、所有者が分からない場合には、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引も阻害されることになってしまっていました。
このような問題解決のために、法律が改正され、相続登記が義務化されたのです。
4.最後に
今回は、相続登記の義務化について解説しました。
今回の改正により、3年以内に遺産分割を完了しないと、相続人申告登記と相続登記という2回の登記が必要になるので、早期に遺産分割協議を始めることが必要になったといえます。
もし相続人同士で話し合っても、中々合意できない場合には、弁護士にご相談頂ければと思います。弁護士が入ることにより、遺産分割が速やかに解決できることもありますので。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。遺産分割がなかなか進まず困っている方がおられましたら、お気軽にご相談ください。
【参考資料】
令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(法務省民事局)
https://www.moj.go.jp/content/001401146.pdf
当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
お悩みの方は、是非お気軽にお問い合わせ下さい。
遺産分割協議の期限は10年間?京都の弁護士が解説
「相続法改正によって、遺産分割協議の期限が10年になったと聞いたのですが、本当ですか?」といった趣旨のご質問をお受けすることがあります。
そこで、今回は、令和3年の相続法改正によって、遺産分割協議の期限が10年になったと言われる理由について、京都の弁護士が解説いたします。気になった方は是非参考になさって下さい。
1.遺産分割協議に期間制限はない
まず、前提として、相続法改正によっても、遺産分割協議に期間制限は設けられていません。
なので、相続開始から10年が経過したとしても、相続人が遺産の分け方について協議し、遺産分割を行うことは可能です。
2.特別受益や寄与分の主張が10年に制限された
それでは、なぜ、相続法改正によって、遺産分割協議を10年以内にしなければならないとの誤解が生じたのでしょうか。
それは、相続法改正によって、相続開始から10年以内の遺産分割でなければ、特別受益や寄与分の主張が出来ないとされたためです。
特別受益とは、特定の相続人が生前贈与や遺贈などによって受けた利益のことを言います。また、寄与分とは、被相続人の財産の形成や維持に特別な貢献をした相続人に認められる、上乗せの相続分を意味します。
この特別受益については「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で、また、寄与分については「寄与分とは」という記事で詳細に解説しています。特別受益や、寄与分について興味がある方は、そちらの記事を参照なさってください。
上記のように、特別受益や寄与分の主張が出来なくなると、遺産分割においては、生前贈与や特定の相続人の貢献を無視して、法定相続分によって画一的に遺産分割を処理することになります。
特別受益や寄与分の主張に期間制限が設けられた理由は、主に2つあります。
1点目は、遺産分割がされないまま、長期間放置されると、相続人が亡くなり更に相続が発生するなど、相続が繰り返され、遺産の管理・処分が困難になるので、長期間放置されるケースを解消するためです。
2点目は、相続開始から長期間が経過するうちに、特別受益や寄与分に関する具体的な証拠等も無くなってしまい、これらを考慮するのが難しくなるためです。
■特別受益や寄与分を考慮したい場合
上記のように、相続開始から10年経過すると、特別受益や寄与分の主張ができなくなるため、10年以内に遺産分割を行う必要があります。
もし、相続開始からもうすぐ10年が経ちそうだけれど、中々遺産分割協議がまとまる気配がない場合には、家庭裁判所に、遺産分割調停や審判を申し立てるのをオススメします。10年以内に、これらの処理をしておけば、実際に遺産分割がまとまるのが、10年を経過していたとしても、特別受益や寄与分の主張を行うことができ、これらを考慮することができるようになります。
なお、家庭裁判所への調停等の処理を行わず、相続開始から10年が経過したとしても、相続人全員が合意すれば、特別受益や寄与分が考慮することはできます。但し、通常は不利益を受ける相続人が同意しないと考えられます。
3.いつから新しいルールが適用されるか
先ほどの、特別受益や寄与分の期間制限のルールについては、令和5年4月1日から適用されています。そして、この新しいルールについては、令和5年4月1日よりも前に発生している相続についても全て適用されることになります。
但し、一定の猶予期間は認められ、令和5年4月1日時点で相続開始から10年間が経っていたとしても、令和10年3月31日までの間は、特別受益や寄与分の主張ができることとなります。
4.遺産分割後に相続登記をしなければならない
令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されます。
これにより、遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割をした日から3年以内に、相続登記の申請をしなければならなくなります。
また、早期に遺産分割をすることが困難な場合には、法定相続分による相続登記申請を行うか、又は「相続人申告登記」という手続きを法務局にとる必要が出てきます。これらの相続登記との関係でも、早めに遺産分割を行った方がよいです。
5.最後に
今回は、相続法改正によって規定された、特別受益や寄与分の主張の期間制限について、解説しました。相続開始から長期間放置された場合、特別受益や寄与分の主張が出来なくなりますし、場合によっては相続人が亡くなってしまい、関係者が増え協議がまとまりづらくなります。
もし相続人同士で話し合っても、早めに遺産分割するのが難しければ、弁護士に相談してください。弁護士が間に入れば、相続人同士で直接話さなくて良いので、お互いに感情を抑えて話し合いができます。
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異父兄弟や異母兄弟に相続権が認められるの?
異父兄弟や異母兄弟も遺産相続をすることができるのでしょうか?
といったご相談を頂くことがあります。
そこで、今回は、異父兄弟や異母兄弟に相続権が認められるかについて、京都の弁護士が解説します。気になっておられる方は、是非参考になさってください。
1.異父兄妹や異母兄妹とは?
異父兄弟とは、母親が同じで父親が異なる兄妹を言います。
例えば、母親が離婚して、その母親が再婚した場合、前の夫との子どもと、現在の夫との子どもがいることがあります。このような場合には、子ども達は異父兄弟となります。
反対に、父親が離婚して、その父親が再婚した場合、前妻との子どもと、現在の妻との子どもがいることがあり、このような場合には、子ども達は異母兄弟となります。
また、父親が離婚していなくても、父親が認知した子どもがいる場合、妻との子どもと認知した子どもの関係は、父親を共にする異母兄弟となります。
以下では、記載の便宜上、異父兄弟と異母兄弟をともに「異母兄弟」として、記載しますが、異父兄弟にも通じる内容になっております。
それでは、異母兄弟に相続権が認められるのでしょうか?以下では、亡くなった方を分けて記載します。
2.父親(母親)が亡くなった場合
異母兄弟において、父親が亡くなった場合、異母兄弟達にとっては、それぞれ自分の血のつながった父親が亡くなったことになります。
そして、父親が離婚して、前妻との子どもの親権者にならなかったとしても、その前妻との子どもである異母兄弟も、父親の相続人になります。
仮に、離婚して以降、父親が前妻との子どもと会っていなかったとしても、その子どもには相続権が認められますし、相続権を取得するために、何か特別な手続きが必要なわけでもありません。
なぜなら、子どもが常に第1順位の相続人であり、これは離婚しようが親権者でなかろうが関係ないためです。
3.異母兄弟姉妹や異父兄弟姉妹が亡くなった場合
それでは、異母兄弟姉妹が亡くなった場合はどうでしょうか。例えば、現在の妻との子どもが亡くなり、前妻との子どもは相続権を取得するのでしょうか。
法律的には、異母兄弟姉妹も相続権を取得しうることになります。
具体的には、亡くなった方に子どもがおらず、両親も既に亡くなっていた場合には、異母兄弟姉妹にも相続権が発生することになります。
そもそも、法律上、配偶者は常に相続人になり、残りの相続について第1順位の相続人は子ども、第2順位の相続人は直系尊属(両親)、第3順位の相続人は兄妹姉妹になります。そして、異母兄弟姉妹もこの第3順位の兄妹姉妹に含まれるのです。
但し、異母兄弟姉妹の相続割合は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続割合の半分とされています。
例えば、父親には前妻との子どもが1人おり、その後再婚して子どもが2人できたとします。そして、再婚して出来た子どものうち、1人が亡くなり、その子には配偶者や子どもがおらず、両親も既に亡くなっていたとします。この場合、前妻との子どもと、再婚後の子どもが兄妹姉妹として相続人になります。但し、前妻との子どもについては、再婚後の子どもの相続割合の半分になります。そのため、前妻との子どもが3分の1、再婚後の子どもが3分の2の遺産を取得することになります。
■異母兄弟姉妹や異父兄弟姉妹に相続をさせない方法
異母兄弟姉妹同士は、前妻の子どもと現在の妻の子どもという関係にあるため、会ったことさえないこともあります。そのため、異母兄弟姉妹に、自身の遺産を相続させたくないとの考えに至ることもあるかと思います。
異母兄弟姉妹に相続をさせない方法としては、「遺言書を作成する」方法があります。遺言書において、異母兄弟姉妹とは異なる人に財産を渡す旨記載しておけば、異母兄弟姉妹に遺産が渡ることを防ぐことができます。
亡くなった方の兄弟姉妹には、遺留分という法律上最低限保証されている権利もありませんので、遺言書を作成すれば、異母兄弟姉妹に遺産がいくことは一切ありません。
4.最後に
今回は、異父兄弟や異母兄弟に相続権が認められるのかについて、解説しました。
結論としては、異父兄弟や異母兄弟にも、相続権が認められることになります。
異父兄弟や異母兄弟がいらっしゃる場合には、相続で揉めやすいため、事前に遺言書を作成しておくのが無難です。また、両親が亡くなったが、遺言書が無く、揉めそうと思われた場合などは、早めに弁護士に相談された方がよいです。
京都の益川総合法律事務所では遺産相続のサポートに力を入れて取り組んでいます。お悩みごとがありましたら、お気軽にご相談ください。
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遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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撤回された遺言書の効力が復活する場合とは?
遺言書を一度作成しても、その後気が変われば、遺言書を自由に撤回することができます。これは、遺言者の最終的な意思を尊重すべきだからです。
それでは、遺言書を一度撤回してしまうと、その遺言書の効力が復活することはないのでしょうか。
今回は、京都の弁護士が、撤回された遺言書の効力が復活する場合について、解説します。遺言書の撤回が問題になっている方などは、是非参考にしてみてください。
1.撤回された遺言書の効力は復活しない(原則)
一度、遺言書の撤回をしてしまうと、その後気が変わって、「撤回の撤回」をしようとしても原則できません。
なぜなら、撤回の撤回を簡単に認めると、法律関係がややこしくなり争いが生じやすくなりますし、これを認めなくても、元の遺言書と同じ内容の遺言書を作成すれば、撤回の撤回と同じ状況を作り出せるためです。
2.撤回された遺言書の効力が復活する場面(例外)
それでは、撤回された遺言書の効力が復活する場面はないのでしょうか?
この場合について、民法第1025条が規定しています。
第1025条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
民法の規定上、錯誤や詐欺、強迫によって遺言書を撤回してしまった場合にのみ、撤回の撤回によって、元の遺言書の効力が復活することになります。
それでは、錯誤や詐欺、強迫によって遺言書を撤回してしまった場合以外は、元の遺言書の効力が復活することはないのでしょうか?
これが問題になったのが、最高裁平成9年11月13日判決です。
■最高裁平成9年11月13日判決
この裁判では、第1遺言が第2遺言によって撤回され、そして第3遺言には、「第2遺言を無効とし、第1遺言を有効とする」との記載がされていました。
先ほどの民法の規定を前提にすると、遺言者は、錯誤や詐欺、強迫によって第1遺言を撤回したわけではないので、第3遺言によって、第1遺言の効力を復活させることはできないはずです。
もっとも、遺言者の最終的な意思は、第1遺言を有効にしたいとの内容であることが第3遺言から明らかでした。それなのに、第1遺言の復活を認めないのでよいのかという点が問題意識になります。
裁判所は、「遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法1025条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解する」と判示しました。
要は、遺言書の内容からして、遺言者が一度撤回した遺言書の復活を希望することが明らかな時は、元々の遺言書の効力を復活させるとの内容です。
そして、この裁判では、第3遺言の記載からして、第1遺言の復活を希望していることが明らかであるとして、第1遺言の復活を認めています。
なお、この裁判では、第1遺言の復活が認められましたが、仮に、第1遺言の復活を認めなければ、どうなるのでしょうか?この場合は、第3遺言によって、第2遺言も無効になっているので、遺言書がないケースと同様、法定相続分に応じて相続を行うことになります。
3最後に
今回は、撤回された遺言書の効力が復活する場合について、解説しました。
上でご説明した裁判の事例についても、そもそもちゃんと第3遺言を作っておけば、争いが生じない事例でした。
このように、遺言書の撤回方法を間違えると、相続人が揉めるのを防ぐために作成した遺言書が、かえって相続人が揉める原因にもなってしまいます。
この記事では、遺言書の撤回や取消の方法などについては、詳しく解説していませんが、こちらについては、「作り直された遺言書の効力~遺言書の撤回と取消について~」で解説しています。気になった方は、是非参考になさってください。
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相続人に未成年の子どもがいる場合の対処法
遺産分割協議を行う際に、相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者自身が遺産分割協議を行うことができるのでしょうか?
また、親権者が未成年者の代理人として、遺産分割協議を行うことができるのでしょうか?
未成年者が相続人になるケースもあり、その際の対応に困ることもあるかと思います。
今回は、相続人の中に未成年の子どもがいる場合の対処法について、京都の弁護士が解説いたします。
1.未成年の子どもは自身で遺産分割を行えるのか?
遺産分割協議は、相続人全員で合意をする必要があるため、未成年者も含めて協議を行う必要があります。
それでは、未成年者は、自身で遺産分割を行えるのでしょうか?
結論としては、未成年者は自身で遺産分割を行うことはできません。
なぜなら、未成年者は、自身で法律行為をすることができないためです。
法律行為(契約など)については、通常、親権者が法定代理人として、未成年者に代わりに行うことになります。
2.親権者が代理人として遺産分割を行えるのか?
それでは、親権者が未成年者の代理人として、遺産分割を行うことができるのでしょうか?
結論としては、原則として、親権者が、遺産分割を行うことはできません。親が未成年者の代理人として、遺産分割を行っても、その遺産分割が無効になってしまいます。
なぜなら、多くのケースでは、未成年者が相続人になる場合、親権者である親も相続人となっており、親と子どもの利益が相反するためです。
例えば、お父さんとお母さん、お子さん1人の家庭で、お父さんがお亡くなりになったとします。この時、相続人は、お母さんとお子さんです。この場合、お母さんが遺産を多く取得すればお子さんの取得出来る遺産は減りますし、一方、お子さんが多く遺産を取得すれば、お母さんの取得できる遺産が減ることになります。
このように、相続人であるお母さんの立場と、お子さんの立場は、利益が相反するのです。
そのため、法律上、親権者が未成年者の代理人として、遺産分割を行うことは原則禁止されているのです。
ただし、以下の場面では、例外的に、親権者が子どもの法定代理人として、遺産分割を行うことが許容されています。
■親が代理人になることができる例外的な場面
①親権者が相続人とならない場合
親権者が相続人にならない場合、親権者が未成年者の代理人として、遺産分割を行うことができます。例えば、父母が離婚後、母が親権者となり、父が亡くなった場合には、母は相続人とはならないため、子どもの法定代理人として遺産分割を行うことができます。
②親権者が相続放棄をした場合
親権者が相続放棄をした場合には、親権者は子の法定代理人として、遺産分割を行うことができます。ただし、自身が相続放棄をするのであれば、お子さんも相続放棄をすることになる可能性が高いので、あまり現実的な場面ではないです。
※上記の①②の場合にも、親権者である親が法定代理人として関与できるのは、子ども1名についてだけであり、他の子どもには法定代理人として関与することはできません。
3.特別代理人の選任申立
それでは、相続人の中に未成年の子どもがいる場合には、どうすればよいのでしょうか?
結論としては、家庭裁判所に対して、特別代理人の選任を申し立てることになります。特別代理人とは、未成年者などの代わりに、遺産分割などの特定の法律行為をするために選任される代理人のことを言います。
3-1.裁判所の管轄
特別代理人選任の申立は、「子の住所地の家庭裁判所」に行うことになります。
3-2.必要書類
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本
- 親権者の戸籍謄本
- 特別代理人選任候補者の住民票又は戸籍附票
- 利益相反が分かる資料(遺産分割協議書案など)
- 利害関係人からの申立の場合には、利害関係を証明する資料
などです。
3-3.費用
- 収入印紙800円分(子ども1人につき)
- 連絡用の郵便切手
3-4.特別代理人の選任者
遺産分割のために、未成年者の特別代理人の選任申立がされる場合には、弁護士、司法書士、親族等のいずれかが選任される可能性が高いです。
多くの場合には、弁護士か司法書士が選ばれている印象ですが、遺産分割調停中において、既に遺産分割の内容が定まっており、その内容が未成年者に不利益でない場合には、相続人でない親族などが選ばれることも多い印象です。
■参考:特別代理人選任(親権者と子との利益相反の場合)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_11/index.html
4.最後に
今回は、相続人の中に、未成年の子どもがいた場合の対処方法について、解説しました。
益川総合法律事務所では、遺産分割をはじめとした遺産相続案件に注力しています。
お困りの際には、お気軽に当事務所までご相談ください。
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遺産相続の際における老朽化した建物の取扱いについて
遺産の中に、老朽化した建物がある場合、遺産の評価の際に老朽化した建物の解体費用を考慮できるのでしょうか?
また、遺産分割前に、老朽化している相続建物を解体することは認められているのでしょうか?
この記事では、遺産相続の際における老朽化した建物の取扱いについて、京都の弁護士が解説します。相続財産の中に、老朽化した建物がある方は、是非参考になさってください。
1.遺産の評価の際に建物の解体費用を考慮できるのか?
それでは、遺産の中に老朽化した建物がある場合、遺産の評価額を決める際に、その建物の解体費用を考慮できるのでしょうか。
建物の解体費用を考慮できるのであれば、建物の価格は0円と評価して、その上解体費用も差し引くことになります。
これが問題になる典型的な場面は、下記の通りです。
■問題になる典型的な場面
①遺産分割において、相続人の一人が老朽化した建物に加えてその建物が存在する土地の取得を希望している場合に、その相続人が、土地建物の評価にあたって、解体費用を考慮すべきと主張する場面
②遺言書によって、その老朽化した建物も含めて遺産全部を相続人の一人が取得して、他の相続人が遺留分侵害額請求をした際に、遺産全部を取得した相続人が、老朽化した建物の解体費用を考慮すべきと主張する場面
このように、老朽化した建物の解体費用を考慮できるかは、遺産分割においても遺留分においても、どちらのケースでも問題になります。なお、遺留分については、「遺留分侵害額請求をしたい方へ」という記事で詳しく解説していますので、興味がある方は、参考になさってください。
そして、老朽化した建物であっても、遺産の評価の際に、建物の解体費用は考慮できないのが一般的です。
なぜなら、遺産分割においても、遺留分においても、遺産をそのままの状態で評価すべきであり、建物の解体については、遺産取得後の事後的な事情にすぎないためです。
但し、相続人全員が同意した場合には、建物の解体費用を考慮することができます。そのため、建物の解体費用を考慮したいのであれば、まずは他の相続人にその申し出を行ってみるのがよいでしょう。
特に、遺産分割の場合には、だれもその老朽化した建物の取得を望まない場合、その建物が相続人全員の共有になってしまいます。他の相続人も、その老朽化した建物が共有になってしまうぐらいなら、建物の解体費用を考慮した方がマシだと考えることもありますので、遺留分の場合に比べれば、解体費用を考慮してもらえる可能性は高いでしょう。
2.遺産分割前に建物を解体することはできるのか?
それでは、遺産分割前に、老朽化している建物を解体することはできるのでしょうか?
他の相続人全員が同意している場合は、遺産分割前であっても、老朽化している建物の解体を行うことが可能です。
一方、相続人の中に、1人でも解体に同意していない人がいる場合には、原則として、建物の解体は許されていません。なぜなら、遺産分割が完了するまでは、その老朽化している建物も、相続人全員の共有状態になっているためです。
この不動産の共有の話については、「共同相続した不動産を分割する方法」という記事で、詳しく説明していますので、興味がある方は参考になさってください。
そして、他の共有者の同意なく、建物の解体を行ってしまった場合、他の共有者から損害賠償請求を受けてしまったり、最悪の場合、建造物損壊罪で刑事告訴などがされかねませんので、注意が必要です。
一部例外として、建物が今にも倒壊して隣家に迷惑がかかりそうな場合などには、共有者全員の同意がなくても、保存行為として、建物の解体が許容されることはありますが、その判断が難しい上、例外的なケースですので、弁護士に相談の上、行って頂くのがよいでしょう。
3.最後に
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。
老朽化した建物を含めて、相続問題でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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特別受益は常に考慮される?特別受益の持ち戻し免除について解説
遺産分割を行う際に、高額な生前贈与を受けた相続人がいると、「特別受益」に該当する可能性があります。
そして、「特別受益」を受けた相続人がいる場合、特別受益の持ち戻し計算を行って、その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。
それでは、このような特別受益は常に考慮されるのでしょうか?
今回は、「特別受益の持ち戻し免除」といわれる事柄について、京都の弁護士が解説します。遺産相続において、特別受益が問題になりそうな方は是非参考にされて下さい。
1.特別受益とは
まず、前提として、特別受益について、簡単に説明します。
特別受益とは、特定の相続人が生前贈与や遺贈などによって受けた利益のことをいいます。
高額な財産を生前贈与されたり、遺贈を受けた相続人がいる場合、その財産を無視して、法定相続分通りに遺産分割をすると、不公平になってしまいます。
そこで、生前贈与や遺贈を受けた相続人がいる場合、その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。その計算を、「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
その相続人が受けた生前贈与などが、特別受益に該当する時は、特別受益の持ち戻し計算が行われて、その相続人の遺産からの取り分が減ることになるのです。
特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で、詳しく解説していますので、興味がある方は参考にされて下さい。
2.特別受益の持ち戻し免除とは
それでは、相続人の中に特別受益を受けた人がいる場合、常にこの特別受益が考慮されるのでしょうか?
結論としては、被相続人(亡くなった方)が、「特別受益の持ち戻し計算免除」の意思表示をしていた場合には、特別受益は考慮されなくなります。
例えば、被相続人が遺言書で、「特別受益の持戻し計算を免除する」と記載していれば、その相続人の特別受益は考慮されなくなります。
このように、被相続人が遺言書などで、「特別受益の持ち戻し計算免除」の意思を表示している場合には、特別受益を考慮せずに、遺産を分配することになるのです。
また、被相続人が、遺言書などで明示的には意思を表示していないとしても、黙示的な、持ち戻し免除の意思表示が認められて、特別受益を考慮しないことがあります。
黙示的な、持ち戻し計算免除の意思が認められやすいのは、下記のような場合です。
■黙示の持ち戻し計算免除の意思表示が認められやすい場合
①被相続人が生前贈与の見返りに利益を受けている場合
②相続人全員に生前贈与をしていたり、遺贈をしている場合
③家業を受け継ぐ相続人に対して、家業に必要な財産を渡している場合
④病気その他の理由により、その相続人が、相続分以上の財産を必要とする特別な事情ある場合。配偶者の老後の生活を支えるための贈与も含む。
⑤被相続人の居住する地方の社会的慣行や風習として、財産を渡している場合
このように、特別受益の持ち戻し免除の意思表示が認められる場合には、特別受益は考慮されなくなるのです。
3.夫婦間の持ち戻し免除意思の推定規定
婚姻期間の長い夫婦間の贈与の場合には、持ち戻し免除の意思が推定されることがあります。
具体的には、①婚姻期間が20年以上の夫婦が、②居住用不動産の贈与又は遺贈をした場合には、持ち戻し免除の意思が推定されます。
これは、婚姻期間の長い夫婦の一方が、他方に対して居住用不動産を生前贈与したり遺贈したりする場合には、通常それまでの長年の貢献に報いるとともに、老後の生活を図る目的であると考えられるためです。
もちろん、あくまで持ち戻し免除の意思が推定されるにすぎないので、被相続人が異なる意思表示をしていた場合には、特別受益として考慮されることになります。
4.遺留分侵害額請求の際には考慮されない
遺留分とは、兄妹姉妹以外の法定相続人に認められた、最低限の遺産取得割合をいいます。
例えば、被相続人が、生前贈与や遺言書によって、財産のほとんどを相続人の一人に渡した場合には、他の相続人の遺留分を侵害することになります。
この場合には、遺留分を侵害された相続人が、財産を譲り受けた相続人に対して、遺留分侵害請求を行うことができます。
この遺留分については、「遺留分侵害額請求をしたい方へ」という記事で、詳しく解説しているので、興味がある方は参考にされて下さい。
そして、この遺留分請求の際には、先ほど解説した、特別受益の持ち戻し免除は問題になりません。
なぜなら、被相続人による持ち戻し免除の意思の問題を、遺留分制度にも適用させると、各相続人に遺留分という最低限度の権利を認めた意味が無くなってしまうためです。
そのため、「特別受益の持ち戻し免除の意思」が問題となるのは、主として遺産分割の話の際になります。
5.最後に
特別受益が問題になる場合、相続人間での話合いは難しいことが多いです。
なぜなら、被相続人から財産をもらった相続人と、他の相続人の間で、それぞれが考える解決の方向性に大きな差があることが多いためです。
京都の益川総合法律事務所では、今回の特別受益も含めて、遺産相続案件に注力しております。
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