遺産分割
「相続廃除」とはどのような制度か弁護士が解説
相続に関して、「相続廃除」という制度がありますが、あまり耳なじみのない方が多いか思います。
そこで、この記事では、「相続廃除」とはどのような制度か弁護士が解説します。
この機会に、「相続廃除」について、知ってください。
1 相続廃除
相続廃除は、遺留分を持つ推定相続人に、被相続人に対する虐待や重大な侮辱があったとき、その他の著しい非行があったときに、被相続人が請求や遺言によって、その推定相続人の相続権を奪う制度です。
相続廃除の対象となるのは、遺留分を持つ推定相続人(配偶者、直系尊属、直系卑属)のみです。
遺留分を持たない兄弟姉妹は対象になりません。
そして、相続廃除ができるのは、被相続人のみです。
2 相続廃除の3つの要件
相続廃除の要件は、①虐待、②重大な侮辱、③その他著しい非行の3つです。
①虐待は、被相続人に対する暴力などの身体的苦痛を与える行為や身体的苦痛を与える行為をいいます。
②重大な侮辱は、被相続人の名誉や感情を毀損する行為をいいます。
③その他著しい非行は、抽象的な表現となっていますが、虐待や重大な侮辱と匹敵する程度の行為であるといわれています。
3 相続廃除の2つの方法
相続廃除の方法は、①生前廃除、②遺言廃除の2つです。
①生前廃除は、被相続人が相続廃除を家庭裁判所に請求する方法です。
②遺言廃除は、被相続人が遺言で相続廃除の意思表示をして、被相続人の死亡後に遺言執行者が相続廃除を家庭裁判所に請求する方法です。
4 相続廃除の効果
相続廃除の請求が認められた場合には、対象となった推定相続人の相続権が剥奪されます。
5 相続廃除の取消し
被相続人は、相続廃除の取消を家庭裁判所に請求することができるとされています。
被相続人の存命中は、被相続人が家庭裁判所に請求し、被相続人の死亡後は、遺言執行者が家庭裁判所に請求します。
6 まとめ
今回の記事では、「相続廃除」とはどのような制度か弁護士が解説しました。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続事件に力を入れて取り組んでいます。
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代襲相続とは何かについて弁護士が解説
「代襲相続」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。
聞いたことはあるが、その意味について深く知らないという方も多いように思います。
この記事では、代襲相続とは何かについて弁護士が解説します。
興味がある方は、ぜひご一読ください。
1 代襲相続とは
代襲相続とは、相続人となる人が相続開始以前に死亡したときや、相続欠格や相続廃除によって相続権を失ったときに、その人の子が相続人になることで、民法887条2項、889条2項に規定されています。
2 代襲相続の原因
代襲相続の原因は、①相続開始前に相続人が死亡していること、②相続欠格、③相続廃除です。
②相続欠格は、故意に被相続人などを死亡するに至らせた者や、遺言書を偽造、変造した者などについて、相続人となることができないとする制度です。
③相続廃除は、遺留分を持つ推定相続人に被相続人に対する虐待や重大な侮辱があったとき、その他の著しい非行があったときに、被相続人が請求や遺言によって、その推定相続人の相続権を奪う制度です。
ここで注意すべきポイントは、相続放棄は代襲相続の原因とならないということです。
3 代襲される人
代襲される人は、被相続人の子ども及び兄弟姉妹のみとなります。
4 代襲相続人になる人
代襲相続人になるのは、被相続人の子どもの子ども(被相続人の孫)、被相続人の兄弟姉妹の子ども(被相続人のめい、おい)です。
ここで問題となるのは、養子についてどのように考えるかです。
被相続人の養子が相続人である場合、養子の子が代襲相続できるのでしょうか。
民法887条2項ただし書は、被相続人の子どもの子どもが代襲相続人となるのは、被相続人の直系卑属のみとしていることから問題となります。
これについては、養子縁組前に養子の子が生まれていた場合には、代襲相続人となれず、養子縁組後に養子の子が生まれた場合には、代襲相続人になれるとされています。
また、被相続人の子どもに代襲相続の原因があり、被相続人の孫にも代襲相続の原因がある場合には、被相続人の孫の子ども(被相続人のひ孫)が代襲相続人となることとなり、これを再代襲相続といいます。なお、被相続人の子どもについては、再代襲相続は何代でも認められています。
この点、被相続人の兄弟姉妹については、再代襲相続は認められていません(昭和56年1月1日以降に開始された相続について)。
5 代襲相続が発生した場合どうなるか
代襲相続人は、代襲される人の相続分を得ることができます。
代襲相続人が複数いる場合には、代襲される人の相続分を人数で割って平等に得ることになります。
6 まとめ
今回の記事では、代襲相続が何かについて弁護士が解説しました。
代襲相続について、少しでもイメージを持って頂ければ幸いです。
遺産分割事件は京都の益川総合法律事務所にご相談ください。

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遺産分割調停の申立書が届いた場合の対応について
相続人間で遺産分割協議を行っていたが、話がまとまらなかったという場合などに、家庭裁判所から遺産分割調停の申立書が届くことがあります。
では、遺産分割調停の申立書が届いた場合、どのように対応すればよいでしょうか。
この記事では、遺産分割調停の申立書が届いた場合の対応について、京都の弁護士が解説します。
遺産分割の協議中であるという方などは、ぜひ参考にしてください。
1 申立書の内容を確認する
遺産分割調停は、遺産の分割について、当事者双方の主張を聞いたうえで、当事者間での合意を目指す手続きです。
遺産分割調停については、「遺産分割手続きの種類~遺産分割協議、調停、審判~」というページでも解説しているので、参考にしてください。
遺産分割調停が申し立てられた場合には、遺産分割調停の申立書が届きます。
まず、申立書の内容をしっかり確認してください。
申立書は、あくまでも申立人の主張を記載したものです。
自分の認識と違う部分について把握するようにしましょう。
2 書面を作成、提出する
申立書の内容を十分に確認したうえで、申立書に記載してある事項についての自分の認識などを記載した書面を作成し、期限までに提出するようにしましょう。
ここで提出する書面の記載内容は、とても重要ですので、後述するとおり、提出前に弁護士に相談することをおすすめします。
3 調停の期日に出頭する
指定された調停の期日に出頭しましょう。
もし、指定された調停の期日の都合が悪い場合には、放置するのではなく、裁判所に連絡して、日程変更ができるか等について相談したほうが良いでしょう。
4 弁護士への相談がおすすめです
遺産分割調停に対応するにあたっては、弁護士への相談が役に立ちます。
相手の主張が法的に妥当であるかの判断もつきやすくなりますし、有利な条件での解決を目指すことができます。
また、調停の見通しや今後の流れについても相談できるため、安心できるでしょう。
遺産分割調停の申立書が届いた場合には、早めの弁護士への相談がおすすめです。
当事務所では、遺産分割事件に力を入れ取り組んでいますので、遺産分割調停の申立書が届いてお困りの方はお気軽にご相談ください。
法律相談をしたからといって、必ず依頼しないといけないということはありませんので、弁護士との相性の確認等の観点からも活用して頂ければと思います。
遺産分割事件は京都の益川総合法律事務所にご相談ください。

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「特別受益」について具体例をまじえて解説
遺産分割の際に「特別受益」が問題になることがあります。
では、「特別受益」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
この記事では、「特別受益」について具体例をまじえて解説します。
遺産分割の協議中であるという方などは、ぜひ参考にしてください。
1 「特別受益」とは
「特別受益」とは、相続人が被相続人から生前に受けていた贈与や遺贈などを指します。
共同相続人の中に、特別受益を受けた者がいる場合、これを考慮せずに遺産分割を行うと、特別受益を受けていない相続人との間で不公平となってしまいます。
そこで、民法は、特別受益を相続財産に加えて相続分を算定することにしています。
なお、上で述べたように、特別受益はあくまでも相続人に対するものであり、相続人以外の者に対しての贈与や遺贈などは特別受益とはなりません。
2 特別受益の種類と具体例
特別受益となるものは、①遺贈、②生前贈与、③死因贈与です。
① 遺贈
遺贈とは、遺言によって財産を贈与するものですが、遺贈を受ける者が相続人である場合には、特別受益に当たります。
② 生前贈与
生前贈与のうち、婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本としての贈与は特別受益に当たります。
ポイントは、贈与の金額、贈与の趣旨、贈与の時期等を考慮して、相続財産の前渡しといえるかどうかです。
特別受益に当たるかが問題となるものとしては、婚姻、養子縁組のための持参金や支度金、住宅購入資金の贈与、事業用の資金の贈与、海外留学費用、大学院の費用、借地権の承継・設定などがあげられます。
もっとも、特別受益に当たるか否かについては、個別の事案に応じて判断されます。
③ 死因贈与
死因贈与は、贈与者の死亡により効力を生じる契約であり、贈与を受ける者が相続人である場合には、特別受益に当たります。
3 まとめ
この記事では、特別受益について具体例をまじえて解説しました。
特別受益に当たるか否かは、個別の事案に応じて判断がなされることに注意が必要です。
特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事でも説明しているので、参考にしてみてください。
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遺産相続事件についてトラブルとなっており困っているという方は、お気軽にご連絡ください。

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内縁主張の相手方がいる遺産相続案件の【お客様の声】
・ご回答者様
男性
・ご年齢
50代
・ご依頼内容
遺産相続
・弁護士の説明はいかがでしたか。
■非常によい ▢よい ▢普通 ▢悪い ▢非常に悪い
・弁護士、事務員の対応はいかがでしたか。
■非常によい ▢よい ▢普通 ▢悪い ▢非常に悪い
・解決結果についてご納得頂けましたか。
□非常に納得 ■納得 ▢どちらともいえない ▢納得できない ▢全く納得できない
・お困りの方に、益川総合法律事務所を紹介したいですか。
■紹介したい ▢どちらともいえない ▢紹介したくない
・担当弁護士、事務員に対するご意見やご感想を頂ければ幸いです。
今回は多大なる御協力いただき、ありがとうございました。
コメント
被相続人がお亡くなりになり、そのお子さんから、遺産相続関連のご依頼を頂いた案件です。
まずは、他の相続人の方と協議を行い、ご依頼者が全ての遺産を取得する内容で遺産分割協議書を締結しました。
遺産には、不動産も含まれていたのですが、この不動産に、被相続人と約30年間同居している人が当時も居住していました。
そして、その人(以下では「相手方」と言います)から、①自分は被相続人の内縁の立場にあるし、自身も不動産の購入費用を負担しており、不動産を取得する立場にある、②この不動産にずっと居住する権利があるなどの主張がされていました。
まずは、当職が示談交渉を行ったものの、示談交渉では決着がつかず、訴訟提起を行いました。
訴訟においては、裏付け資料をもとに、被相続人が不動産の購入費用を全額負担したことや、内縁関係にあったとしても、相続する権利はないし、ずっと不動産に居住できる権利があるわけではないこと等を適切に主張していきました。
最終的には、①不動産の所有権はご依頼者が有していることを確認した上で、②相手方がご依頼者に賃料を支払うことを内容とする、勝訴的和解を行いました。
ご依頼者としても、ご自身が不動産の所有者であることを確定できた上、継続的に相手方から賃料を取得できることになったため、一定程度ご満足頂ける内容となりました。
和解成立後には、不動産の現状確認のため、ご依頼者と一緒に相手方居住不動産にも行きました。ご依頼者からは、和解後にも、最後まで寄り添って対応してもらえたとのがありがたかったとのお声を頂戴いたしました。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しておりますので、お悩みの方はお気軽にご相談下さい。

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遺産分割において寄与分は考慮されにくいのか?
こんにちは。
弁護士の益川教親です。
遺産分割を行う際、ある相続人が、亡くなった方を献身的に介護しているような場合、その相続人から「寄与分」の主張がされることがあります。
遺産分割の際に、この寄与分が考慮される割合はどのくらいなのでしょうか。
肌感覚として、寄与分の主張は中々認められづらいとの印象がありますが、実際の割合については、私自身も調べたことがありません。
そこで、今回は、司法統計データを調べてみましたので、是非参考にしてみてください。
1.寄与分とは
まず、最初に、寄与分の説明を簡単に行います。
寄与分とは、亡くなった方の財産の形成や維持に特別な貢献をした相続人に認められる、上乗せの相続分を意味します。
例えば、ある相続人が亡くなった方を献身的に介護して介護費用の支出を抑えた場合や、亡くなった方の事業を無給で手伝って財産形成に貢献した場合などに寄与分が認められます。
この寄与分の話は、「寄与分とは」という記事で詳しく解説しているので、興味がある方は、是非参考になさって下さい。
2.寄与分が考慮される割合
それでは、遺産分割事件の際に、この寄与分が考慮される割合はどれくらいなのでしょうか?
今回参照したデータは、令和3年に終結した遺産分割事件(遺産分割調停が成立した事件と審判が認容された事件)のうち、寄与分が考慮された割合となります。
結果は、下記の通りです。
■寄与分の考慮の有無(総数6996件)
有り 134件
無し 6862件
考慮割合 1.91%(約2%)
遺産分割事件において、寄与分が考慮される割合は約2%のようです。
遺産分割事件50件のうち、1件しか寄与分が考慮されていません。
寄与分は中々考慮されづらいと思っていましたが、ここまで考慮されていないとは思いませんでした。
というのも、これまでの私の経験上、肌感覚にはなりますが、遺産分割案件を12件ぐらいやれば、1件ぐらいは寄与分が考慮されていた印象があるからです。
3.寄与分が遺産の総額に占める割合
遺産分割事件において寄与分が考慮されたとして、その寄与分は遺産の総額に対して、どのくらいの割合を占めているのでしょうか。
その結果は、下記の通りになります。
■寄与分が遺産の総額に占める割合(総数134件)
10%以下 74件(1位、約55%)
20%以下 19件(2位、約14%)
30%以下 5件(6位、約4%)
50%以下 13件(4位、約10%)
50%を超える 8件(5位、約6%)
不詳 15件(3位、約11%)
上位のように、寄与分が遺産の総額に占める割合は、10%以下や20%以下のものが多いですが、中には50%を超えているものもあるようです。
但し、寄与分が遺産の総額に占める割合が大きい案件は、そもそも遺産の総額が小さいため、高い割合が出ているのだと思われます。
例えば、寄与分が100万円認められたとしても、遺産の総額が1億円であれば、遺産の総額に占める割合は1%になりますし、逆に遺産の総額が200万円であれば、その寄与分が遺産の総額に占める割合が50%となります。
4.最後に
今回は、遺産分割事件において、寄与分が考慮される割合がどれくらいかについて、解説しました。
結論として、寄与分が考慮される割合は、全体の約2%となります。私自身は、かなり低い数字だなと感じましたが、皆様はどのように感じられたでしょうか。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しております。お困りの際には、お気軽にご相談頂ければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
■参考
令和3年 司法統計年報 3家事編

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相続建物の無償使用が特別受益になるの?
相続人の一人が、被相続人の建物に無償で居住していた場合、他の相続人から、「特別受益」に該当する旨の主張がされることがあります。
被相続人の建物を無償で使用することは、「特別受益」に該当するのでしょうか。
今回は、相続建物の無償使用が「特別受益」に該当するかについて、京都の弁護士が解説します。遺産相続において、相続人の一人が建物を無償使用していることが問題になりそうな方は、是非参考になさって下さい。
1.特別受益とは
まず、前提として、特別受益について、簡単に説明します。
特別受益とは、特定の相続人が遺言によって財産を譲り受けたり、生前に遺産の前渡しとなるような贈与などによって受けた利益のことをいいます。
特別受益を受けた相続人がいる場合、相続人間の公平の観点から、その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。その計算を、「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
このように、その相続人が受けた利益が、特別受益に該当する場合には、特別受益の持ち戻し計算が行われて、その相続人の遺産からの取り分が減ることになるのです。
特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で、詳しく解説していますので、興味がある方は是非参考になさって下さい。
2.同居している場合
それでは、相続人の一人が、被相続人の建物に無償で居住していた場合には、かかる無償使用が「特別受益」に該当するのでしょうか?
まずは、被相続人と同居しているケースについて解説します。
こちらの場合には、相続人による建物の無償使用が、「特別受益」に該当することはありません。
なぜなら、被相続人との同居の場合には、相続人は単なる占有補助者にすぎません。相続人に、独立の占有権限があるとは認められず、使用借権(建物を借りる権利)は認められないためです。
この理由については、法的にもややこしいので、参考程度にして頂ければと思います。
3.別居している場合
それでは、被相続人と同居していない場合はどうでしょうか?
こちらの場合にも、一般的には、相続人による建物の無償使用は、「特別受益」に該当しないとされています。
理由としては、下記の通りです。
①建物の無償使用は、被相続人からの恩恵的な要素が強く、遺産の前渡しという性格が薄い
②建物の使用借権(無償で借りる権利)は、第三者に対する対抗力がないため、明け渡しも容易であり、経済的価値がないものと評価できる
③賃料相当額を特別受益とすると、かなり大きな金額となり、遺産の総額と比べても大きくなってしまう
これらの理由により、別居している場合にも、建物の無償使用は「特別受益」に該当しないとされています。
■収益物件を無償で使用していた場合
被相続人がアパートやマンションなどの賃貸不動産を所有していて、その一室を相続人が無償で使用している場合にも、「特別受益」に該当しないのでしょうか?
その相続人がいなければ、その一室も賃貸でき、賃料が取得できたのですから、他の相続人からも、「特別受益」に該当する旨の主張をされることが多いです。
しかし、一般的には、この場合にも、「特別受益」には該当しないとされています。この場合においても、被相続人からの恩恵的な要素が強く、遺産の前渡しと評価することが難しいためです。
4.相続発生後から遺産分割までの賃料請求はできるか?
生前の相続建物の無償使用が「特別受益」に該当しないとしても、相続発生後から遺産分割までの賃料請求は認められるのでしょうか?
生前、被相続人と相続人が同居していた場合については、最高裁判例上、賃料請求が否定されています。これは、「被相続人と同居の相続人の間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認される」ためです。
対して、被相続人と相続人が同居していない場合については、どうでしょうか?
この点について、当職の知る限り、最高裁判例はありませんが、実務上は、やはり賃料請求が否定される傾向です。
5.最後に
今回は、相続建物の無償使用が「特別受益」になるかについて、解説しました。
結論としては、否定となっており、他の相続人の立場からすれば、残念な結論になっていると言えるでしょう。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。
遺産相続でお困りの際には、お気軽にご相談ください。

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家督相続を相続人たる長男から主張された時の対処法
日本でも、生前は家督相続が採用されていました。
そして、現在でも、長男から他の相続人に対して、「自分が家督を継ぐから、相続財産を全て取得するべきである」旨の話をされることがあります。
そこで、今回は、相続人である長男から家督相続を主張された場合の対処法について、京都の弁護士が解説いたします。同じ状況の方は、是非参考になさってください。
1.家督相続とは
家督相続とは、戦前の日本で採用されていた遺産相続の方法で、家督である長男が相続財産を全て取得する相続方法です。
当時の日本では、家制度が確立されており、家のトップである戸主(長男)が全ての財産を取得していたのです。
この家督相続は、昭和22(1947)年5月2日まで施行されていましたが、戦後において重視された法の下の平等の理念等に反するため、戦後すぐに廃止されました。
しかし、現在でも、長男から、家督相続を主張されることは比較的多くのケースでみられます。
2.遺言書がある場合
長男が家督相続を主張するケースでは、「長男にすべての財産を相続させる」旨の遺言書が作成されていることも多いです。
このような場合には、下記の通り、他の相続人は長男に対して、遺言書が無効である旨を主張するか、又は遺留分の請求を行うことになります。
2-1.遺言書が無効である旨主張する
遺言書が無効である理由としては、①遺言書が偽造である、②遺言書作成当時、被相続人が認知症であり遺言能力がない、との2つの主張がされることが多いです。
①の遺言書が偽造である旨の主張は、遺言書が公証役場で作成されたものでなく、自筆証書遺言である時に、主張されることが多いです。
この場合には、被相続人の筆跡との同一性、遺言書の体裁等、被相続人に遺言書作成の動機があるかや、遺言書作成に至る経緯、遺言書の保管状況や発見状況等をもとに、その遺言書が偽造であるか否かが判断されることになります。
この辺りは、「遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何?」という記事で詳しく解説していますので、興味がある方は参考になさってください。
②の被相続人には遺言能力がない旨の主張は、遺言書作成当時、被相続人が認知症を患っている時に主張されることが多いです。
この場合には、認知症の程度、遺言書の内容の複雑性、被相続人に遺言書作成の動機があるかや、遺言書作成に至る経緯、年齢などをもとに、被相続人に遺言能力が認められるか否かが判断されることになります。
この辺りは、「遺言能力とは?認知症の高齢者が作成した遺言書は有効なのか。」という記事で詳しく解説していますので、興味がある方は参考になさってください。
2-2.遺留分侵害額請求を行う
もし、「長男に全財産を相続させる」との遺言書が有効であったとしても、他の相続人は長男に対して、遺留分侵害額請求を行うことができます。
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、最低限度の遺産取得割合をいいます。
配偶者や子どものみが法定相続人になる場合には、遺留分の割合は2分の1となります。その割合を、各法定相続人が法定相続分に応じて取得します。
例えば、6,000万円の遺産があって、相続人が長男、長女、次男であるとします。
この場合、長女や次男にも6分の1ずつの遺留分が認められます。そのため、長女や次男は、長男に対して、1,000万円ずつの遺留分の請求が可能となるのです。
但し、遺留分侵害額請求には時効があるので、気を付けましょう。
相続開始と遺留分侵害の両方の事実を知ってから、1年以内に請求しないと権利が失われてしまいます。
遺留分については、「遺留分侵害額請求をしたい方へ」との記事で詳しく解説していますので、是非参考になさってください。
3.遺言書がない場合
遺言書がない場合には、長男がいくら家督相続を主張しようが、相続人は法定相続分に応じて、遺産を取得します。
長男であろうが、他の子どもであろうが、法定相続分は変わりません。
そのため、他の相続人は長男に対して、まずは法定相続分が長男と他の相続人で変わらないことを説明することになります。
それで、長男が納得すれば、法定相続分に応じて、相続人が平等に遺産を取得すれば良いです。
他方、説明してもなお長男が納得しなければ、弁護士に依頼頂くのが良いと思います。弁護士がおらず、兄妹だけの話合いであれば、長男も他の兄妹を押し切れると考えがちですが、弁護士が入ると諦めることが多いからです。
もちろん、弁護士に依頼頂いたからといって、弁護士がご依頼者の意向を無視して対応することはありません、もし、ご依頼者に、全部は嫌だけど少しだけ長男に多く遺産を渡したい等のご意向があれば、そのご意向を踏まえて対応を行っていくことになります。
4.最後に
今回は、相続人である長男から家督相続を主張された場合の対処法を解説いたしました。
戦後すぐに家督相続という制度は廃止されていますが、今でも長男から家督相続の主張がされることは少なくありません。
益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。長男から家督相続の主張をうけた方などは、是非お気軽にご相談ください。

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相続登記の義務化とは?令和6年4月1日から施行
これまで相続登記の申請は義務ではなかったのですが、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されることになります。
そこで、今回は、そもそも相続登記とは何かや、相続登記の義務化の内容について、京都の弁護士が解説します。相続によって不動産を取得する方は、是非参考になさってください。
1.相続登記とは
相続登記とは、相続した不動産について、不動産登記簿の権利者の名義を相続人に変更することを言います。
この名義変更を行うためには、法務局に申請をする必要があります。
この相続登記を行うことによって初めて、登記簿上からも、相続によって不動産の所有権が相続人に移転したことが分かることになります。
不動産の所有者を調べるときは、一般的にこの不動産登記簿を確認します。そのため、相続登記を行うことによって、第三者からも相続不動産の所有者が当該相続人であることが分かるのです。
2.相続登記の義務化の内容
今回の相続登記の義務化によって、
①相続人は、不動産(土地・建物)を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をすることが義務となりました。
②正当な理由がないのに、相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
③この相続登記の義務化の施行(開始)時期は、令和6年(2024年)4月1日です。
以下では、それぞれの内容について解説していきます。
2-1.3年以内に相続登記の申請を行う必要がある
相続人は、相続により不動産(土地・建物)を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請を行うことが義務となりました。
それでは、もし3年以内に遺産分割が成立しない場合などは、どのようにすればよいのでしょうか。以下では、実際のケース毎に、登記申請の内容を解説していきます。
■実際のケース毎に登記申請の内容を解説
①3年以内に遺産分割が成立しなかった場合
相続登記の義務化に伴って、早期の遺産分割が難しい場合などのために、「相続人申告登記」という新たな登記が設けられました。これは、戸籍などを提出して自分が相続人であることを申告する登記であり、簡易な手続きで行うことができます。
そのため、遺産分割が成立しない場合には、まずは、3年以内に相続人申告登記を行うことになります。
その後、実際に遺産分割が完了した場合には、その遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を踏まえた相続登記を行うことになります。
②3年以内に遺産分割が成立した場合
3年以内に遺産分割が成立した場合には、その遺産分割の内容を踏まえた相続登記を行うことになります。
但し、実際に遺産分割が完了したのが3年ギリギリのところで、3年以内に相続登記を行うのが難しいなどの場合には、3年以内に相続人申告登記を行った上で、後は遺産分割が成立した日から3年以内に、遺産分割の内容を踏まえた相続登記を行うことになります。
③遺言書がある場合
遺言書がある場合には、その遺言書によって不動産の所有権を取得した人が、取得を知った日から3年以内に、登記の申請を行うことになります。法務省の資料によると、この登記の申請は、相続登記ではなく、相続人申告登記でもよいとされています。
2-2.相続登記をしない場合に過料が科せられる
正当な理由がないのに、上記の相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
「正当な理由」とは、①数次相続が発生して相続人が極めて多数になり、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合、②遺言の有効性等が争われている場合、③重病等である場合、④DV被害者等である場合、⑤経済的に困窮している場合をいうとされています。
法務省の資料によれば、登記義務に違反しても、登記官がいきなり裁判所への過料通知(裁判所に過料を科す裁判を求める通知)を行うわけではないようです。登記官が、あらかじめ登記申請の義務を負う者に催告をして、それでも催告を受けた人が登記申請を行わなかった時にはじめて、裁判所への過料通知を行うようです。
2-3.令和6年4月1日から開始
相続登記の義務化は、令和6年(2024年)4月1日から開始されます。
そして、注意が必要なのは、この相続登記の義務化は、令和6年4月1日よりも前に相続が発生していたケースでも、登記義務が課せられることです。要は、相続が発生した時期を問わず、全てのケースで相続登記が要求されるため、過去に相続によって不動産を取得しているのに、相続登記をしていなかった人も登記義務を負うことになります。
令和6年4月1日よりも前に相続した不動産については、令和9年3月31日までに相続登記申請を行うことが必要になります。令和9年3月31日というのは、相続登記の義務化の開始日である令和6年4月1日から3年間猶予が与えられていることになります。
3.相続登記が義務化された背景
これまで相続登記の申請が義務ではなく、相続登記をしない人が一定数存在しました。これにより、登記簿を見ても所有者が分からない「所有者不明土地」が全国で増加しました。
このような「所有者不明土地」は、不動産がしっかり管理されないことも多く、隣接する土地への悪影響が発生していました。また、所有者が分からない場合には、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引も阻害されることになってしまっていました。
このような問題解決のために、法律が改正され、相続登記が義務化されたのです。
4.最後に
今回は、相続登記の義務化について解説しました。
今回の改正により、3年以内に遺産分割を完了しないと、相続人申告登記と相続登記という2回の登記が必要になるので、早期に遺産分割協議を始めることが必要になったといえます。
もし相続人同士で話し合っても、中々合意できない場合には、弁護士にご相談頂ければと思います。弁護士が入ることにより、遺産分割が速やかに解決できることもありますので。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。遺産分割がなかなか進まず困っている方がおられましたら、お気軽にご相談ください。
【参考資料】
令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(法務省民事局)
https://www.moj.go.jp/content/001401146.pdf

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遺産分割協議の期限は10年間?京都の弁護士が解説
「相続法改正によって、遺産分割協議の期限が10年になったと聞いたのですが、本当ですか?」といった趣旨のご質問をお受けすることがあります。
そこで、今回は、令和3年の相続法改正によって、遺産分割協議の期限が10年になったと言われる理由について、京都の弁護士が解説いたします。気になった方は是非参考になさって下さい。
1.遺産分割協議に期間制限はない
まず、前提として、相続法改正によっても、遺産分割協議に期間制限は設けられていません。
なので、相続開始から10年が経過したとしても、相続人が遺産の分け方について協議し、遺産分割を行うことは可能です。
2.特別受益や寄与分の主張が10年に制限された
それでは、なぜ、相続法改正によって、遺産分割協議を10年以内にしなければならないとの誤解が生じたのでしょうか。
それは、相続法改正によって、相続開始から10年以内の遺産分割でなければ、特別受益や寄与分の主張が出来ないとされたためです。
特別受益とは、特定の相続人が生前贈与や遺贈などによって受けた利益のことを言います。また、寄与分とは、被相続人の財産の形成や維持に特別な貢献をした相続人に認められる、上乗せの相続分を意味します。
この特別受益については「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で、また、寄与分については「寄与分とは」という記事で詳細に解説しています。特別受益や、寄与分について興味がある方は、そちらの記事を参照なさってください。
上記のように、特別受益や寄与分の主張が出来なくなると、遺産分割においては、生前贈与や特定の相続人の貢献を無視して、法定相続分によって画一的に遺産分割を処理することになります。
特別受益や寄与分の主張に期間制限が設けられた理由は、主に2つあります。
1点目は、遺産分割がされないまま、長期間放置されると、相続人が亡くなり更に相続が発生するなど、相続が繰り返され、遺産の管理・処分が困難になるので、長期間放置されるケースを解消するためです。
2点目は、相続開始から長期間が経過するうちに、特別受益や寄与分に関する具体的な証拠等も無くなってしまい、これらを考慮するのが難しくなるためです。
■特別受益や寄与分を考慮したい場合
上記のように、相続開始から10年経過すると、特別受益や寄与分の主張ができなくなるため、10年以内に遺産分割を行う必要があります。
もし、相続開始からもうすぐ10年が経ちそうだけれど、中々遺産分割協議がまとまる気配がない場合には、家庭裁判所に、遺産分割調停や審判を申し立てるのをオススメします。10年以内に、これらの処理をしておけば、実際に遺産分割がまとまるのが、10年を経過していたとしても、特別受益や寄与分の主張を行うことができ、これらを考慮することができるようになります。
なお、家庭裁判所への調停等の処理を行わず、相続開始から10年が経過したとしても、相続人全員が合意すれば、特別受益や寄与分が考慮することはできます。但し、通常は不利益を受ける相続人が同意しないと考えられます。
3.いつから新しいルールが適用されるか
先ほどの、特別受益や寄与分の期間制限のルールについては、令和5年4月1日から適用されています。そして、この新しいルールについては、令和5年4月1日よりも前に発生している相続についても全て適用されることになります。
但し、一定の猶予期間は認められ、令和5年4月1日時点で相続開始から10年間が経っていたとしても、令和10年3月31日までの間は、特別受益や寄与分の主張ができることとなります。
4.遺産分割後に相続登記をしなければならない
令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されます。
これにより、遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割をした日から3年以内に、相続登記の申請をしなければならなくなります。
また、早期に遺産分割をすることが困難な場合には、法定相続分による相続登記申請を行うか、又は「相続人申告登記」という手続きを法務局にとる必要が出てきます。これらの相続登記との関係でも、早めに遺産分割を行った方がよいです。
5.最後に
今回は、相続法改正によって規定された、特別受益や寄与分の主張の期間制限について、解説しました。相続開始から長期間放置された場合、特別受益や寄与分の主張が出来なくなりますし、場合によっては相続人が亡くなってしまい、関係者が増え協議がまとまりづらくなります。
もし相続人同士で話し合っても、早めに遺産分割するのが難しければ、弁護士に相談してください。弁護士が間に入れば、相続人同士で直接話さなくて良いので、お互いに感情を抑えて話し合いができます。
京都の益川総合法律事務所では、遺産分割案件に力を入れて取り組んでいます。遺産分割がなかなか進まず困っている方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

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