退職金制度のある会社に勤めていた方が、退職前にお亡くなりになった場合には、ご遺族に死亡退職金が支給されます。
このような場合に、死亡退職金が相続財産に含まれて、遺産分割の対象になるか否かが問題になります。
そこで、今回は、死亡退職金が遺産分割などの対象になるかについて、京都の弁護士が解説します。死亡退職金が問題になっている方は、是非参考にしてみてください。
このページの目次
1.死亡退職金が遺産分割の対象になるか
死亡退職金には、大きく分けて、故人への賃金の後払いとしての性質と、ご遺族の生活保障としての性質の2つの性質があります。
そして、故人への賃金の後払いとしての性質を重視すれば、死亡退職金が遺産に含まれるという方向に近づきます。
一方、ご遺族の生活保障としての性質を重視すれば、死亡退職金は遺産とは別物であるとの考えに近づきます。
そして、実務上、死亡退職金が、相続財産に含まれて遺産分割の対象になるかは、亡くなった方の勤務先の規定次第になってきます。
そこで、以下では、場合を分けて解説していきます。
1-1.受取人が定められている場合
被相続人が公務員ではなく、企業に勤めていた場合、退職金制度を設けている会社の多くは、死亡退職金の受取人やその順位を定めています。
このような場合、配偶者→子ども→父母→孫→祖父母→兄妹姉妹などの順に受取人を定めており、配偶者がいる場合には、子どもは一切死亡退職金を取得できないことが多いです。
民法の規定からすれば、配偶者と子どもの取得割合が1対1になるはずですが、会社の退職金規定では、受取人について民法と異なる定めがされているのです。
このように、受取人について、民法と異なる規定となっている場合には、死亡退職金が受取人固有の財産になるため、遺産分割の対象になりません。
なぜなら、受取人について、わざわざ民法と異なる規定を定めている場合、その死亡退職金がご遺族の生活保障を目的としていると判断されるためです。
1-2.国家公務員の死亡退職手当
国家公務員の方が在職中に亡くなった場合には、ご遺族に死亡退職手当が支給されます。
死亡退職手当も、本来被相続人がもらうはずだった退職金をご遺族が取得するという点で、死亡退職金と意味合いは変わりませんので、ここでは同じものと思って頂いて構いません。
国家公務員の死亡退職手当の場合にも、国家公務員退職手当法という法律で、受取人の範囲や順位を定めていますが、配偶者がいる場合には、子どもは一切手当を受け取れないなど、民法と異なる規定となっています。
そのため、国家公務員の死亡退職手当についても、受取人固有の財産となるため、遺産分割の対象にはなりません。
1-3.地方公務員の死亡退職手当
地方公務員の方が在職中に亡くなった場合にも、ご遺族に死亡退職手当が支給されます。
地方公務員の死亡退職手当についても、死亡退職金と同じものだと思って頂いて構いません。
地方公務員の死亡退職手当については、その内容を条例で定めることになっています。但し、総務省から、国家公務員の制度に準じて作成するように、条例案が示されていることから、多くの条例では、受取人が民法と異なる規定となっています。
そのため、地方公務員の死亡退職手当についても、多くの場合には、受取人固有の財産になるため、遺産分割の対象にはなりません。
1-4.受取人の定めがない場合
退職金制度を設けている会社の場合、退職金規定などで死亡退職金の受取人を定めていることが多いでしょうが、仮に会社が死亡退職金の受取人を定めていなかった場合、どのように扱われるのでしょうか。
この点については、最高裁判決がないため、実務上の判断が分かれているところです。結局は、その死亡退職金が、賃金の後払いとしての性質が大きいのか、遺族の生活保障としての性質が大きいのかを個別に判断するしかありません。
■類似事案の最高裁判決
退職金の支給規程のない法人が、理事長の死亡後に、同人の妻に死亡退職金を支給する旨の決定をして、これを支払った事案については、最高裁判決があります。
この判決では、①元々法人には退職金の支給規程が存在していないこと、②それにもかかわらず、法人が妻に死亡退職金を支払う旨の決定をして支払ったことなどを重視して、死亡退職金が相続財産に含まれないと判断しました。このような場合には、ご遺族の生活保障としての性質が大きいためです。
この最高裁判決は、あくまで、その法人に元々退職金の支給規程がなかった事案です。
退職金の支給規定があったにもかかわらず、死亡退職金の受取人の規定がなかった場合とは、一線を画すと考えられます。なぜなら、元々その会社に退職金の支給規程がある場合、賃金の後払いとしての性質も大きくなってくるためです。
2.死亡退職金が特別受益になるのか?
上記の通り、死亡退職金(手当)は多くの場合、相続財産とは別物であり、遺産分割の対象になりません。
但し、相続人の一人が死亡退職金を受け取った場合、これが特別受益にあたり、その相続人の遺産の取得分が減るのではないかが問題となります。
この特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係」という記事で、詳しく解説していますので、気になる方は参考にされて下さい。
死亡退職金が、特別受益(又はそれに準ずるもの)に該当するか否かについては、その死亡退職金支給規定の内容や、当該退職金支給の目的等に照らして、特別受益に該当するかが事案毎に判断されることになります。
但し、多くのケースでは、死亡退職金が、ご遺族の生活保障を目的とした制度に依拠して支出されたものであることが考慮され、特別受益(又はそれに準ずるもの)に該当しないと判断されている印象です。
3.死亡退職金の取り扱いで迷ったら弁護士へ相談を
今回は、死亡退職金が相続財産に含まれて、遺産分割の対象になるのかを解説しました。
遺産相続が発生した場合、死亡退職金の判断のみならず、多くの判断が必要となってくるものです。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力していますので、相続に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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