遺産分割と生前贈与の関係について

遺産分割を行う際、高額な生前贈与を受けた相続人がいたら、「特別受益」になる可能性があります。

特別受益を受けた相続人がいる場合、特別受益の持戻計算を行って各相続人の相続割合を修正する必要があります。

生前贈与を受けた相続人がいると、特別受益の持戻計算を巡って相続人同士でトラブルになるケースも少なくありません。スムーズに遺産相続できるよう、正しい知識をもって対応しましょう。

今回は、生前贈与により特別受益が成立する範囲や、生前贈与を受けた相続人がいる場合の対処方法についてお伝えします。

1.特別受益が成立する範囲

特別受益とは、特定の相続人が遺贈や贈与によって受けた利益です。

高額な財産を遺贈されたり生前贈与を受けたりした相続人がいる場合、遺贈や贈与された財産を無視して法定相続分通りに遺産分割すると、不公平になってしまいます。そこで、遺贈や生前贈与を受けた相続人がいる場合、その相続人の遺産相続分を減らせるのです。

その計算方法を「特別受益の持戻計算」といいます。

特別受益が成立するのは、以下のような遺贈や贈与が行われた場合です(民法903条)。

  • 遺贈
  • 婚姻や養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与

生前贈与が特別受益になる場合、贈与が行われた時期に制限はありません。相続開始の10年前でも20年前でも、相続人へ贈与が行われたら特別受益の持戻計算の対象になります。

■特別受益と遺留分の期間の違い

特定の相続人へ生前贈与が行われると、「遺留分侵害額請求」の対象になる可能性もあります。

遺留分侵害額請求とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められる遺留分が侵害されたとき、侵害された金額の支払いを求めることです。

遺留分侵害額請求の場合、対象となるのは「相続開始前10年間の特別受益」です。つまり相続開始前10年間の期間制限が適用されます(民法1044条3項)。

これに対し、特別受益の持戻計算の場合には10年の期間制限がありません。

特別受益と遺留分侵害額請求では「生前贈与が行われた時期」の考え方が違うので、間違えないように注意しましょう。

2.特別受益の持戻計算の基準時

生前贈与が行われたために特別受益の持戻計算を行う際には、贈与財産を評価しなければなりません。

例えば、不動産が贈与されたときには、贈与時と相続開始時と遺産分割時で価値が変動するでしょう。いつの時点の評価額を基準時とすべきか定める必要があります。

生前贈与が行われた場合の贈与財産の評価時は、基本的に「相続開始時」と理解されています。

例えば、生前贈与された不動産の価額が、以下の通りだったとします。

  • 贈与時…1500万円
  • 相続開始時…2000万円
  • 遺産分割時…2300万円

この場合、不動産は2000万円の評価の資産として計上します。

現預金の場合

現金や預金の場合、不動産のように価額が変動しません。

しかし、貨幣価値が変わるので、贈与された価額をそのまま適用すると不都合が生じるケースも考えられます。

そこで、理屈上は、物価変動率を考慮して、生前贈与時の価値を相続開始時の価値にスライドさせて調整を行うこととなりますが、実務上このような処理をすることは滅多にありません。

3.生前贈与が行われるとトラブルが大きくなりやすい

生前贈与が行われると、一部の相続人が「特別受益の持戻計算を行うべき」と主張し、他の相続人は「特別受益を受けていない」と反論するなどして、もめてしまうケースが多々あります。相続人同士で話し合っても解決できない場合には、遺産分割協議が成立しません。

家庭裁判所で遺産分割調停を行う必要があります。

調停では調停委員が間に入って話し合いを進めてくれますが、調停でも解決できない場合には遺産分割審判になって、裁判官が遺産分割の方法を指定します。

審判になると特別受益があったのか、特別受益の評価額なども裁判官が判断するので、ようやく最終的に決着がつきます。

このように、生前贈与が行われると相続トラブルが大きくなりやすいので、スムーズに解決するために弁護士に依頼するようおすすめします。

4.配偶者への贈与の場合の推定

特別受益の持戻計算が適用されると、相続人同士でトラブルになってしまうケースが少なくありません。

もめごとを回避するためにはどうすれば良いのでしょうか?

具体的には、被相続人が特別受益の持戻計算を免除できます。

例えば、遺言書などで「長男への贈与について特別受益持戻計算を免除する」と書き残していれば、特別受益の持戻計算は適用されません。

また、20年以上連れ添った配偶者へ居住用の不動産を贈与した場合には、特別受益の持戻計算の免除意思が推定され、基本的に免除されます。

被相続人が特に「特別受益も持戻計算を免除する」と意思表示しなくても、持戻計算の免除意思が推定されるのです。

5.まとめ

生前贈与が行われると、相続人同士でトラブルになって解決が困難となるケースも多々あります。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいますので、お悩みの際にはお気軽にご相談ください。

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