遺産分割を行う際に、高額な生前贈与を受けた相続人がいると、「特別受益」に該当する可能性があります。
そして、「特別受益」を受けた相続人がいる場合、特別受益の持ち戻し計算を行って、その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。
それでは、このような特別受益は常に考慮されるのでしょうか?
今回は、「特別受益の持ち戻し免除」といわれる事柄について、京都の弁護士が解説します。遺産相続において、特別受益が問題になりそうな方は是非参考にされて下さい。
このページの目次
1.特別受益とは
まず、前提として、特別受益について、簡単に説明します。
特別受益とは、特定の相続人が生前贈与や遺贈などによって受けた利益のことをいいます。
高額な財産を生前贈与されたり、遺贈を受けた相続人がいる場合、その財産を無視して、法定相続分通りに遺産分割をすると、不公平になってしまいます。
そこで、生前贈与や遺贈を受けた相続人がいる場合、その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。その計算を、「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
その相続人が受けた生前贈与などが、特別受益に該当する時は、特別受益の持ち戻し計算が行われて、その相続人の遺産からの取り分が減ることになるのです。
特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で、詳しく解説していますので、興味がある方は参考にされて下さい。
2.特別受益の持ち戻し免除とは
それでは、相続人の中に特別受益を受けた人がいる場合、常にこの特別受益が考慮されるのでしょうか?
結論としては、被相続人(亡くなった方)が、「特別受益の持ち戻し計算免除」の意思表示をしていた場合には、特別受益は考慮されなくなります。
例えば、被相続人が遺言書で、「特別受益の持戻し計算を免除する」と記載していれば、その相続人の特別受益は考慮されなくなります。
このように、被相続人が遺言書などで、「特別受益の持ち戻し計算免除」の意思を表示している場合には、特別受益を考慮せずに、遺産を分配することになるのです。
また、被相続人が、遺言書などで明示的には意思を表示していないとしても、黙示的な、持ち戻し免除の意思表示が認められて、特別受益を考慮しないことがあります。
黙示的な、持ち戻し計算免除の意思が認められやすいのは、下記のような場合です。
■黙示の持ち戻し計算免除の意思表示が認められやすい場合
①被相続人が生前贈与の見返りに利益を受けている場合
②相続人全員に生前贈与をしていたり、遺贈をしている場合
③家業を受け継ぐ相続人に対して、家業に必要な財産を渡している場合
④病気その他の理由により、その相続人が、相続分以上の財産を必要とする特別な事情ある場合。配偶者の老後の生活を支えるための贈与も含む。
⑤被相続人の居住する地方の社会的慣行や風習として、財産を渡している場合
このように、特別受益の持ち戻し免除の意思表示が認められる場合には、特別受益は考慮されなくなるのです。
3.夫婦間の持ち戻し免除意思の推定規定
婚姻期間の長い夫婦間の贈与の場合には、持ち戻し免除の意思が推定されることがあります。
具体的には、①婚姻期間が20年以上の夫婦が、②居住用不動産の贈与又は遺贈をした場合には、持ち戻し免除の意思が推定されます。
これは、婚姻期間の長い夫婦の一方が、他方に対して居住用不動産を生前贈与したり遺贈したりする場合には、通常それまでの長年の貢献に報いるとともに、老後の生活を図る目的であると考えられるためです。
もちろん、あくまで持ち戻し免除の意思が推定されるにすぎないので、被相続人が異なる意思表示をしていた場合には、特別受益として考慮されることになります。
4.遺留分侵害額請求の際には考慮されない
遺留分とは、兄妹姉妹以外の法定相続人に認められた、最低限の遺産取得割合をいいます。
例えば、被相続人が、生前贈与や遺言書によって、財産のほとんどを相続人の一人に渡した場合には、他の相続人の遺留分を侵害することになります。
この場合には、遺留分を侵害された相続人が、財産を譲り受けた相続人に対して、遺留分侵害請求を行うことができます。
この遺留分については、「遺留分侵害額請求をしたい方へ」という記事で、詳しく解説しているので、興味がある方は参考にされて下さい。
そして、この遺留分請求の際には、先ほど解説した、特別受益の持ち戻し免除は問題になりません。
なぜなら、被相続人による持ち戻し免除の意思の問題を、遺留分制度にも適用させると、各相続人に遺留分という最低限度の権利を認めた意味が無くなってしまうためです。
そのため、「特別受益の持ち戻し免除の意思」が問題となるのは、主として遺産分割の話の際になります。
5.最後に
特別受益が問題になる場合、相続人間での話合いは難しいことが多いです。
なぜなら、被相続人から財産をもらった相続人と、他の相続人の間で、それぞれが考える解決の方向性に大きな差があることが多いためです。
京都の益川総合法律事務所では、今回の特別受益も含めて、遺産相続案件に注力しております。
遺産相続でお困りの際には、お気軽にご相談ください。
当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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