遺留分を算定するときには「生前贈与」が大きく関わります。
「遺留分侵害者」(遺留分を侵害する人)が生前贈与を受けた場合には、生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。
「遺留分権利者」(遺留分を請求する人)が生前贈与を受けた場合には、遺留分侵害額から生前贈与分を控除しなければなりません。
今回は遺留分と生前贈与の関係について解説します。「遺留分侵害者が生前贈与された場合」と「遺留分権利者が生前贈与された場合」とに分けてみていきましょう。
このページの目次
1.遺留分侵害者が生前贈与された場合
まずは、遺留分侵害者が生前贈与されたケースを検討します。
遺留分侵害者とは、相続人の遺留分を侵害する人です。具体的には、被相続人から多額の遺贈や贈与を受けた人が該当します。
遺留分侵害者が生前贈与を受けた場合には、生前贈与分が遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります。
生前贈与の対象には、以下のものが含まれるからです(民法1044条)
- 遺贈
- 相続開始前1年間における生前贈与
- 遺留分を侵害すると知って行われた生前贈与
- 相続人に対する相続開始前10年間における生前贈与
相続人に対する生前贈与については「相続開始前10年間」のものが遺留分侵害額請求の対象になります。死亡の10年より前に生前贈与が行われたとしても、遺留分侵害額請求の対象になりません。
なお、法改正前は相続人への生前贈与に期間制限がありませんでしたが、法改正により、遺留分侵害額請求の対象が「相続開始前10年間」に限定されました。
近年改正されたばかりで間違えて理解している方もいるので、正しい知識をもって計算を行いましょう。
遺留分と生前贈与、計算の具体例
例えば、父親が2022年9月に死亡したケースで、2013年10月に長男へ不動産が贈与されていたとしましょう。これについては遺留分侵害額請求の対象になります。
一方、2011年8月に次男へ預金が贈与されていた場合、その預金は原則として遺留分侵害額請求の対象になりません。
2.遺留分権利者が生前贈与された場合
次に、遺留分権利者が生前贈与された場合についてみてみましょう。
遺留分権利者とは、遺留分を請求する人です。
遺留分権利者も被相続人の生前に財産の贈与を受けるケースがあります。そのような場合、贈与された財産額を遺留分侵害額から控除する必要があります。
贈与を受けているなら、その分は引き算しないと遺留分侵害額と贈与財産の2重取りになってしまうからです。
遺留分権利者が受ける贈与に関する控除には、10年間などの期間制限がありません。過去に贈与を受けていたら、基本的にすべて遺留分からの控除の対象になります。
遺留分と生前贈与、計算の具体例
例えば、父親が2022年9月に死亡したケースで長男が高額な遺贈を受け取る内容の遺言書が残されていたとしましょう。長女は遺留分侵害額請求を検討していますが、過去に1000万円の預金の生前贈与を受けていました。
この場合、長女は長男へ遺留分侵害額請求できますが、遺留分侵害額からは過去に受け取った1000万円を控除しなければなりません。なお1000万円が贈与された時期は問いません。
3.遺留分侵害額の算定手順
遺留分侵害額を計算する際には、以下の手順で進めます。
STEP1 相続財産に遺留分侵害者への贈与分(相続開始前10年間の分など)を加算する
まずは相続財産を洗い出し、どのくらいの評価額になるのかを明らかにしましょう。
そこへ遺留分侵害者の受けた生前贈与分を加算します。
遺留分侵害者が相続人である場合、加算できるのは基本的に「相続開始前10年間」に行われた生前贈与分のみです。
ただし遺留分を侵害すると知って行われた場合には、10年より前の贈与分を足せるケースもあります。
STEP2 負債を控除する
遺留分からは相続債務を控除します。相続財産に借金などの債務が含まれていたら、引き算しましょう。
STEP3 遺留分割合をあてはめる
遺留分権利者の遺留分割合を当てはめて、具体的な遺留分侵害額の金額を算定します。
STEP4 遺留分権利者の受けた贈与分を控除する
遺留分権利者が生前贈与を受けていた場合、その評価額は遺留分侵害額から控除します。この場合に控除対象となる贈与には年数制限がなく、10年より前の分も控除対象となります。
STEP5 遺留分権利者が負担する負債額を加算する
遺留分権利者が負債を負担する場合には、遺留分侵害額に加算できます。
4.遺留分侵害額請求は弁護士へお任せください
遺留分侵害額請求を行うときには、弁護士へ依頼するのが得策です。遺留分侵害額の計算は非常に複雑で、素人判断では間違ってしまうケースも多いからです。
また、遺留分侵害額請求をすると相手とトラブルになり、もめて解決できなくなる事例も多々あります。できるだけスムーズに遺留分侵害額を払ってもらうには、弁護士による助けが必要といえるでしょう。
京都の益川総合法律事務所では遺産相続や遺留分の問題に積極的に取り組んでいます。
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