無償で借りている不動産(使用借権)の相続について

被相続人が無償で不動産を借りていた場合、不動産を使用する権利は相続人へ引き継がれるのでしょうか?

不動産などの「物」を無償で借りる契約を「使用貸借」といいます。使用貸借の場合、賃貸借と違って借主の地位は基本的に相続対象になりません。

ただし、一定のケースでは使用貸借の権利も相続人が引き継げます。

今回は、無償で借りている不動産(使用借権)の相続について、京都の弁護士が解説します。

1.使用貸借とは

使用貸借とは、借主が無償で物を使用させてもらう契約です。

たとえば、不動産を無償で借りて居住している場合などが、典型的な使用貸借契約となります。

使用貸借契約の最大の特徴は「無償」となる点です。

貸主と借主の人間関係が重視されるため、借主の地位については「一身専属的」なものと考えられています。

2.使用貸借と賃貸借の違い

使用貸借も賃貸借も、どちらも「他人の物を利用させてもらう契約」です。

両者の違いはどういったところにあるのでしょうか?

最大の違いは有償か無償か

使用貸借と賃貸借の最大の違いは「有償契約」か「無償契約」かという点です。

無償であれば使用貸借契約となり、有償なら賃貸借契約になります。

また、使用貸借の場合、借主の地位は一身専属的となりますが、賃貸借契約の場合には一身専属的ではありません。

解約申入れについての制限も異なります。賃貸借契約の場合、賃借人は強く保護されるので、きちんと賃料を払うなどしていれば契約を解除されることはありません。また、契約期間が終了しても更新が原則となります。

使用貸借の場合、借主はさほど強く保護されず、期間や目的が定められていない場合には、貸主は任意のタイミングで解約を申し入れることができます。期間が満了したときの更新拒絶に正当事由も要りません。

3.使用貸借は相続の対象にならないのが原則

物件を無償で利用していた被相続人が死亡した場合、相続人は「使用貸借の借主の地位」を引き継げるのでしょうか?

法律上、原則として使用借権は相続対象になりません。

使用貸借の場合、貸主と借主との間に人間関係があるのが通常であり、借主の地位は一身専属的と考えられるからです。

よって、相続人は使用貸借の借主の地位を引き継げないのが原則です。

相続発生とともに契約が終了するので、貸主が借主の相続人へ退去を求めてきたら、相続人としては退去に応じざるを得ません。

4.例外的に使用貸借が相続の対象となるケース

ただし、以下のような場合、使用貸借の借主の地位が例外的に相続対象になり得ます。

4-1.当事者間の合理的な意思解釈

まずは「契約当事者間の合理的な意思解釈により、使用貸借契約を相続人へ引き継ぐべきケース」が考えられます。

たとえば、建物所有を目的とする土地の使用貸借契約の場合、借主が死亡したからといって建物を収去して明け渡さねばならないとすると経済的損失も大きくなるでしょう。一般的には、建物使用や収益の必要性がある限り、底地の使用貸借を認めるのが当事者の考え方に沿うと考えられます。

そこで「借主が死亡しても使用収益の必要性が失われない」として、借主の地位や権利の相続が認められると考えられています(東京地判昭和56年3月12日、東京高判平成13年4月18日、最判平成8年12月17日など)。

建物所有目的の使用貸借権の相続を認めた裁判例(東京地裁平成5年9月14日)

裁判例の一部を抜粋します。

「土地に関する使用貸借契約がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有の目的が重視されるべきであって、特段の事情がない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了することにならないというべきである。」

このように、建物所有目的の土地の使用貸借については、基本的に借主の権利が相続人へ引き継がれると考えてよいでしょう。

4-2.当事者間に別段の定めがある場合

次に、当事者間で別途定めをした場合にも相続人は使用借権を引き継げます。

「借主の死亡によって使用貸借契約が終了する」という民法597条の規定は、任意規定だからです。

使用貸借契約書を作成して「借主の死亡時には相続人が借主の地位を引き継ぐ(相続する)」「借主の相続発生時には貸主は借主の相続人に引き続きの物件使用を認める」などと記載されていれば、相続人は引き続いて物件を利用できると考えましょう。

4-3.明示や黙示の承諾がある場合

借主が死亡したあとに相続人が引き続いて対象物を使用し続けており貸主がはっきり使用を認めた場合には明示の承諾があったと捉えられます。

明示的に承諾しなくても、相続人によって使用されている事実を知りながら特段異議を述べなかった場合には黙示の承諾があったと捉えられる可能性があります。

こういった状況下においても、使用貸借契約が継続する余地があるでしょう。

5.最後に

使用貸借契約や賃貸借契約の相続が発生すると、当事者の方が対処方法に迷われるケースが多々あります。法律的に正しい対応をするために弁護士によるアドバイスやサポートを受けましょう。

京都で相続人になった方がおられましたら、お気軽に益川総合法律事務所の弁護士までご相談ください。

keyboard_arrow_up

0752555205 問い合わせバナー 無料法律相談について