遺言や贈与によって遺留分を侵害されたとき、相手に遺留分侵害額の支払いを請求しても応じてもらえないケースが少なくありません。
無視されるだけではなく、ときには相手が逆切れをしてトラブルにつながる場合もあります。
相手が遺留分侵害額請求に応じない場合、以下のように対応しましょう。
このページの目次
1.弁護士に交渉を依頼する
ご本人が遺留分侵害額請求を行うと対応しない相手でも、弁護士が代理人として請求すると交渉に応じるケースはよくあります。弁護士が請求すると法律の要件に照らして説得できますし、相手も感情を抑えて冷静に判断しやすいからです。
たとえば本人から請求があっても「遺留分なんて知らない」「そんなものを払う必要はない」と考える方が多く、「兄妹から遺留分を請求されるなんて心外だ」ととらえる人さえいます。
そんな相手でも、弁護士が法律的な観点から「遺留分とはなにか」「法的に支払い義務があること」「いくらが適正な金額か」など説明すると、「仕方がないかな」と考え得るものです。
「このまま請求に応じない場合、家庭裁判所で調停を申し立てざるを得ない」と伝えると、相手にとってはプレッシャーとなります。
自分で遺留分侵害額請求をして話にならなかった方や、話にならなさそうな方は、一度弁護士への依頼を検討してみてください。
2.遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
どうしても相手との交渉がうまく行かない場合、家庭裁判所で「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てましょう。
「遺留分侵害額の請求調停」とは、家庭裁判所の調停委員会のサポートを受けながら、当事者が遺留分の有無や金額、支払い方法を話し合って決めるための手続きです。
相手と直接話すのではなく、裁判所の調停委員が間に入って調整してくれます。
遺留分が侵害されている場合、調停委員からも相手を説得してもらえるので、自分で話すより支払いに応じてもらえる可能性が高くなります。
2-1.遺留分侵害額調停の申立方法
■申立てができる人
遺留分を侵害された相続人
遺留分を侵害された相続人から権利を承継した人(相続人や相続分の譲受人)
■申立先の裁判所
遺留分侵害額請求調停の管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
■費用
収入印紙:1,200円分
連絡用の郵便切手(裁判所によって異なりますが、~数千円程度です)
■申立書類
- 申立書と写し
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍、除籍、改製原戸籍謄本
- 相続人全員分の戸籍謄本
- 遺言書の写しや遺言書の検認調書謄本の写し
- 遺産に関する資料(通帳の写し、取引明細書、残高証明書、不動産全部事項証明書、固定資産評価証明書、株式に関する資料など)
2-2.遺留分侵害額の請求調停の進み方
■第1回期日
遺留分侵害額の請求調停を申し立てると、家庭裁判所から全当事者へ呼出状が届きます。
当日家庭裁判所へ行くと、申立人と相手方が別々の待合室で待機し、調停委員から順番に呼び出されて話をします。
1回で話がまとまれば調停が成立しますが、1回で成立するケースはほとんどありません。
合意できない場合、次回の期日の予定を入れて解散します。
■第2回期日以降、話し合いの継続
調停期日は1か月に1回程度の頻度で開かれ、話し合いを継続します。
調停が開かれるのは平日の午前または午後の2時間程度です。
■調停成立
合意ができたら調停が成立します。
成立した日はそのまま帰宅しますが、1~3日程度で家庭裁判所から「調停調書」が送られてきます。
調停調書には強制執行力があるので、相手が支払いをしなかったら相手名義の預金口座や不動産などを差し押さえて回収できます。
3.遺留分侵害額訴訟を提起する
調停は話し合いで解決する方法なので、相手が応じなければ成立しません。合意できなければ「不成立」になって終了してしまいます。
次のステップとしては、地方裁判所(簡易裁判所)で「遺留分侵害額請求訴訟」を提起しましょう。
遺留分侵害額請求訴訟は裁判所が遺留分の有無や金額を決めて、判決を下す手続きです。
相手が納得しなくても遺留分が侵害されていることを証明できれば、判決で支払い命令を出してもらえます。
3-1.申立先の裁判所
遺留分侵害額請求訴訟の申立先は、地方裁判所または簡易裁判所です。
請求金額が140万円以下の場合には簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所が管轄します。
調停とは違い、家庭裁判所ではないので間違えないよう注意しましょう。
3-2.訴訟を起こすときの注意点
訴訟で遺留分侵害額請求を認めてもらうには、遺言や贈与、遺産に関する資料を提出して「遺留分が侵害された事実」と「侵害額」を立証しなければなりません。法律的に正しい主張を行う必要もあります。素人の方にはハードルが高いので、必ず弁護士に依頼しましょう。
訴訟では相手も弁護士に依頼する可能性が高いですし、相手のみに弁護士がついてこちらにはいない状態になると、著しく不利になってしまいます。
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