相続人の一人が、被相続人の建物に無償で居住していた場合、他の相続人から、「特別受益」に該当する旨の主張がされることがあります。
被相続人の建物を無償で使用することは、「特別受益」に該当するのでしょうか。
今回は、相続建物の無償使用が「特別受益」に該当するかについて、京都の弁護士が解説します。遺産相続において、相続人の一人が建物を無償使用していることが問題になりそうな方は、是非参考になさって下さい。
このページの目次
1.特別受益とは
まず、前提として、特別受益について、簡単に説明します。
特別受益とは、特定の相続人が遺言によって財産を譲り受けたり、生前に遺産の前渡しとなるような贈与などによって受けた利益のことをいいます。
特別受益を受けた相続人がいる場合、相続人間の公平の観点から、その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。その計算を、「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
このように、その相続人が受けた利益が、特別受益に該当する場合には、特別受益の持ち戻し計算が行われて、その相続人の遺産からの取り分が減ることになるのです。
特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で、詳しく解説していますので、興味がある方は是非参考になさって下さい。
2.同居している場合
それでは、相続人の一人が、被相続人の建物に無償で居住していた場合には、かかる無償使用が「特別受益」に該当するのでしょうか?
まずは、被相続人と同居しているケースについて解説します。
こちらの場合には、相続人による建物の無償使用が、「特別受益」に該当することはありません。
なぜなら、被相続人との同居の場合には、相続人は単なる占有補助者にすぎません。相続人に、独立の占有権限があるとは認められず、使用借権(建物を借りる権利)は認められないためです。
この理由については、法的にもややこしいので、参考程度にして頂ければと思います。
3.別居している場合
それでは、被相続人と同居していない場合はどうでしょうか?
こちらの場合にも、一般的には、相続人による建物の無償使用は、「特別受益」に該当しないとされています。
理由としては、下記の通りです。
①建物の無償使用は、被相続人からの恩恵的な要素が強く、遺産の前渡しという性格が薄い
②建物の使用借権(無償で借りる権利)は、第三者に対する対抗力がないため、明け渡しも容易であり、経済的価値がないものと評価できる
③賃料相当額を特別受益とすると、かなり大きな金額となり、遺産の総額と比べても大きくなってしまう
これらの理由により、別居している場合にも、建物の無償使用は「特別受益」に該当しないとされています。
■収益物件を無償で使用していた場合
被相続人がアパートやマンションなどの賃貸不動産を所有していて、その一室を相続人が無償で使用している場合にも、「特別受益」に該当しないのでしょうか?
その相続人がいなければ、その一室も賃貸でき、賃料が取得できたのですから、他の相続人からも、「特別受益」に該当する旨の主張をされることが多いです。
しかし、一般的には、この場合にも、「特別受益」には該当しないとされています。この場合においても、被相続人からの恩恵的な要素が強く、遺産の前渡しと評価することが難しいためです。
4.相続発生後から遺産分割までの賃料請求はできるか?
生前の相続建物の無償使用が「特別受益」に該当しないとしても、相続発生後から遺産分割までの賃料請求は認められるのでしょうか?
生前、被相続人と相続人が同居していた場合については、最高裁判例上、賃料請求が否定されています。これは、「被相続人と同居の相続人の間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認される」ためです。
対して、被相続人と相続人が同居していない場合については、どうでしょうか?
この点について、当職の知る限り、最高裁判例はありませんが、実務上は、やはり賃料請求が否定される傾向です。
5.最後に
今回は、相続建物の無償使用が「特別受益」になるかについて、解説しました。
結論としては、否定となっており、他の相続人の立場からすれば、残念な結論になっていると言えるでしょう。
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