遺言と家族信託の違いや選び方を弁護士が解説

遺言と家族信託は似ている部分もありますが、まったく異なる制度です。

それぞれの違いやできることを知り、効果的な相続対策、生前対策を行いましょう。

今回は遺言と家族信託の違いや選び方、活用方法を京都の弁護士がお伝えします。

将来の認知症対策、死後の相続対策を検討している方はぜひ参考にしてみてください。

【家族信託と遺言の違い 一覧表】

 家族信託遺言
生前の財産管理や認知症対策できるできない
2代以上先の財産承継方法指定できるできない
子どもの認知や相続人廃除、取消などできないできる
行為の性質契約単独行為
撤回の可否合意がないとできないが条件を満たせば解約は可能できる
要式(手続きの方法)委託者と受託者が合意して契約する遺言書を作成する(厳格な要式を守らねばならない)

■家族信託とは

家族信託とは、信頼できる家族へ財産を預けて管理・処分してもらう信託契約です。

預けた財産は委託者の希望するとおりに管理や処分をしてもらえます。

生前から効力を発生させられますし、死後にまでも効力を及ぼすことが可能です。

■遺言とは

遺言とは、遺言者が死後の財産承継方法や身分行為などについて指定するための書面です。

たとえば相続分や遺産分割方法、寄付や遺贈、子どもの認知などを定められます。

効力を発生させられるのは死亡と同時であり、生前には効力がありません。

1.家族信託にしかできないこと

家族信託と遺言にはさまざまな違いがあります。
まずは、家族信託にしかできない事項をみていきましょう。

1-1.生前の財産管理や認知症対策

生前の財産管理や認知症対策は、家族信託にしかできません。遺言は「死後」にしか効力を発生させられないためです。

たとえば認知症になったときの預貯金の管理、不動産の管理処分や株式、投資用物件の運用などを家族に任せたい場合、家族信託を検討しましょう。

1-2.障害のあるお子さんの生活保障

障害のあるお子さんがおられる方は、ご自身が亡くなった後のお子さんの生活が心配になるでしょう。遺言の場合、障害のあるお子さんに財産を残すとしても死亡時に一括で渡すことになってしまいます。お子さん自身に管理能力がなければうまく使っていくのが難しくなるでしょう。

家族信託であれば、障害のない親族に預貯金や不動産を委託して障害のあるお子さんのために管理処分してもらえます。本人に管理能力がなくても月々の生活費を出してもらったり家を管理してもらえたりするので安心です。

1-3.生前の事業承継への活用

生前の事業承継対策も家族信託にしかできません。

家族信託を利用すると、先代が後継者に会社株式や事業用資産を預けて様子を見ることができます。先代に指図権を残せるので議決権行使できますし、後継者として不適切な場合には解約も可能です。

遺言では死亡時に一括して株式や事業用資産を相続または遺贈してしまうので、後継者が不適切かどうか見届けることはできません。

生前に様子を見たい場合には家族信託が適しているでしょう。

1-4.二代以上先の財産承継方法指定

家族信託を利用すると、2代以上先の財産承継方法を指定できます。たとえばまずは配偶者に財産を遺し、配偶者の死亡後は長男に受け継がせ、さらにその後は次男の子ども(孫)へ家を継がせるなどの希望を実現可能です。

遺言の場合、本人の直後の相続や遺贈しか指定できません。相続人がどのように財産を受け継がせるかは相続人が決定するので、遺言者が決められないのです。

2代以上先の財産承継を指定したいなら家族信託を利用しましょう。

2.遺言にしかできないこと

遺言にしかできないこともあるので、ご紹介します。

2-1.子どもの認知や相続人廃除など

子どもの認知や相続人廃除、その取消などの身分的な行為は遺言でしかできません。

2-2.遺言執行者の指定

遺言執行者の指定は遺言にて行う必要があり、家族信託では指定できません。

2-3.遺留分侵害額請求の順序指定

遺留分侵害額請求の順序は遺言によって指定できます。家族信託では指定できないので、遺留分トラブルを防止したいなら遺言の方が有効でしょう。

2-4.祭祀承継者の指定や特別受益の持ち戻し免除なども遺言の方が適している

先祖を祀るための財産を承継する「祭祀承継者」は先代の祭祀主宰者が指定する必要があります(指定がなければ慣習や家庭裁判所の指定によって決まります)。

また被相続人が生前贈与や遺贈を行う場合には、被相続人の意思で特別受益の持ち戻し計算を免除できます。

祭祀承継者の指定や特別受益の持ち戻し免除は遺言でなくてもできますが、遺言書で明らかにしておくとわかりやすいでしょう。

少なくとも契約行為である家族信託には適さない行為といえます。

3.行為の性質や方式の違い

家族信託は委託者と受託者の契約行為なので、双方の合意が必要です。特に厳格な要式は要求されません。ただし契約内容を明らかにするため、公正証書化が推奨されますし、信託財産に不動産が含まれていたら信託登記すべきです。

一方、遺言は遺言者が行う単独行為です。受贈者や相続人の合意は要りません。

厳格な要式行為なので、要式を満たさないと無効になってしまいます。

家族信託と遺言では設定方法が大きく異なるので、それぞれにおいて適切に対処しましょう。

4.最後に

当事務所では相続が発生した後はもちろんのこと、生前の財産管理対策にも力を入れて取り組んでいます。京都、滋賀、大阪、兵庫で家族信託や遺言に関心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

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