こんにちは。弁護士の益川教親です。
私は遺産相続案件に注力しているのですが、それを知っている方から、プライベートの時に、「うちは遺産が少ないから子どもたちは揉めないわ」と言われることがあります。
「遺産が少ないと相続人が揉めない」というのは本当なのでしょうか?
一応肌感覚として、私自身も答えをもっているのですが、実際にはどうなのかが気になったので、データを調べてみました。
最新(令和3年)のデータをもとに解説しますので、良かったら参考にしてみてください。
このページの目次
1.遺産分割調停(審判)事件の遺産の価格について
まず、令和3年に終結した遺産分割事件のうち、調停が成立した案件と審判が認容された案件の総数は、6996件となっています。
これらの案件については、相続人間で話し合っても決着がつかずに、家庭裁判所に持ち込まれた案件なので、揉めた案件といってよいと思います。
それでは、これらの案件の中に、遺産が少ない案件はないのでしょうか?
遺産の価格については、下記のようになっています。
■遺産の価格(総数6996件)
1000万円以下 2310件(2位)
5000万円以下 3052件(1位)
1億円以下 866件(3位)
5億円以下 493件
5億円を超える 28件
算定不能・不詳 247件
上記のように、1000万円以下の案件が2310件の2位で、全体の約3分の1となっています。
もちろん1000万円以下の中には、遺産が100万円以下の案件から、1000万円近い案件も含まれており、遺産が1000万円近い案件についても、遺産が少ないと言っていいかは評価が分かれるところかもしれません。
ですが、遺産が1000万円以下の案件が、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件の、全体の約3分の1になっていることは、知っておいた方が良いかと思います。
私の経験上、遺産が100万円以下で、相続人同士が揉めている案件を見たことがあります。なので、必ずしも、遺産が少なければ揉めないわけではありません。
遺産相続案件は、家族間のこれまでのいきさつ、いわば家族の歴史が丸ごと問題になることも多いため、揉めるときは遺産の価格に関わらず、揉める印象です
2.遺産が少なければ審理期間は短いのか?
次に、遺産が少なければ、遺産分割調停や遺産分割審判が早く終わるのかについて、解説します。
遺産の価格ごとの審理期間については、下記のようになっています。
■1000万円以下(総数2310件)
1月以内 27件
3月以内 252件
6月以内 493件(3位)
1年以内 744件(1位)
2年以内 580件(2位)
3年以内 163件
3年を超える 51件
■5000万円以下(総数3052件)
1月以内 4件
3月以内 170件
6月以内 484件(3位)
1年以内 928件(2位)
2年以内 1052件(1位)
3年以内 304件
3年を超える 110件
■1億円以下(総数866件)
1月以内 6件
3月以内 21件
6月以内 87件
1年以内 207件(2位)
2年以内 315件(1位)
3年以内 151件(3位)
3年を超える 79件
■1億円を超える(総数521件)
1月以内 2件
3月以内 18件
6月以内 40件
1年以内 97件(3位)
2年以内 166件(1位)
3年以内 110件(2位)
3年を超える 88件
上記のように、遺産の価格が1000万円以下の案件でも、総数2310件のうち、審理期間が1年を超えている案件は794件もあり、全体の3分の1以上は、審理期間が1年を超えています。
また、3年を超えている案件も51件あり、遺産の価格が1000万円以下の案件でも、審理が長期化している案件もあります。
そのため、遺産の価格が少なければ、審理期間が短いとは必ずしもいえなさそうです。
但し、遺産の価格が、1000万以下は1位が1年以内であるのに対して、1000万円を超える価格は全て1位が2年以内となっています。
なので、遺産の価格が少ないと、審理期間が少し短くなるとはいえそうです。
3.最後に
今回は、遺産が少ないと相続人が揉めないのかについて、解説しました。
結論としては、遺産が少なくても揉める時は揉めます。
これは、遺産相続案件の場合、単純に金銭だけではなく、これまでの家族の関係性や歴史が問題になるためだと思います。
当事務所は、遺産相続案件に注力していますので、もしご相談等があれば、お気軽にご相談頂ければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また、次回のコラムでお会いしましょう。
■参考
令和3年 司法統計年報 3家事編
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遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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