こんにちは。
弁護士の益川教親です。
遺産分割を行う際、特定の相続人が、亡くなった方から生前贈与などを受けていた場合、他の相続人が特別受益の主張を行うことになります。
遺産分割の際に、この特別受益が考慮される割合はどのくらいなのでしょうか。
私が弁護士として関与する際には、特別受益の主張をして、認められることも多いのですが、私自身も実際の割合については、正直よく分かっていません。
そこで、今回は、最新のデータを調べてみましたので、もし良かったら参考になさって下さい。
このページの目次
1.特別受益とは
まず、前提として、特別受益の説明を簡単に行います。
特別受益とは、特定の相続人が、亡くなった方から遺贈や生前贈与などによって受けた利益をいいます。
遺贈や生前贈与を受けた相続人がいる場合には、法律上、その相続人の取り分を減らすことができ、その計算方法を「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
要は、一部の相続人が、亡くなった方から生前贈与などを受けていた場合には、他の相続人との間に不公平が生じるので、遺産の取り分を減らせる制度になります。
この特別受益の話は、「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で詳しく解説しているので、興味がある方は、是非参考になさって下さい。
2.特別受益が考慮される割合
それでは、遺産分割事件において、この特別受益が考慮される割合はどれくらいなのでしょうか?
今回参照したデータは、令和3年に終結した遺産分割事件(遺産分割調停が成立した事件と審判が認容された事件)において、特別受益が考慮された割合となります。
結果は、下記の通りです。
■特別受益の考慮の有無(総数6996件)
有り 588件
無し 5693件
不詳 715件
考慮割合 9.36%(約10%)
遺産分割事件において、特別受益が考慮される割合は約10%のようです。
遺産分割事件10件のうち、1件しか特別受益が考慮されていません。
当初の私の予想では、3件に1件ぐらいは特別受益が考慮されていると思っていたので、この結果は正直驚きました。
以下では、なぜ特別受益を考慮される割合がこんなに低いのかについて、考察していきます。
3.なぜ特別受益を考慮される割合が低いのか
3-1.当事者から主張されていない
弁護士からすれば当然なのですが、当事者から、特別受益の主張がされなければ、裁判所は、その点を一切考慮しません。
当事者から主張されていない生前贈与などは、なかったものとして扱われます。
裁判所は、当事者から特別受益の主張が出なければ、その点を考えることすらしないのです。
弁護士が相手方の代理人になっているケースでも、相手方から生前贈与の主張が出てこないこともあるので、この点は特別受益が考慮される割合が低いことに関係していると思います。
3-2.当事者から証拠が提出されない
裁判所においては、事実を、証拠を基に認定します。
特別受益の主張をして、相手方が認めるケースは証拠も不要ですが、実際そのようなケースはあまりないので、特別受益の主張をする側が、生前贈与などを裏付ける証拠を提出する必要があります。
そして、この証拠の収集については、弁護士でなければ、難しい側面があります。
(弁護士同士でも、この証拠収集への熱量は人によって異なります。)
結局、他の相続人などから、生前贈与の主張がされても、有効な証拠が提出されずに、特別受益が認定されないことが多いのだと思います。
4.最後に
今回は、遺産分割事件において、特別受益が考慮される割合がどれくらいかについて、解説しました。
全体として、約10%という数字を、どのように感じられたでしょうか。
私はかなり低いと感じましたが、これは人によって評価が違うと思います。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。
もしお困りのことなどがあれば、お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
■参考
令和3年 司法統計年報 3家事編
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遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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