海外居住の相続人がいる場合の遺産分割協議


相続人の中に海外居住の人がいる場合、遺産分割協議の際に通常の事案とは異なる対応を要求されます。たとえば海外居住の方は印鑑証明書や実印を用意できないので「サイン証明書」を取得しなければなりません。

今回は海外居住の相続人がいる場合の遺産分割協議の進め方や遺産分割協議書の書き方について解説します。

1.遺産分割協議の進め方と注意点

海外居住の相続人がいる場合でも、遺産分割協議には相続人全員が参加し、全員が合意しなければなりません。とはいえ直接会って話し合うのは中々困難です。今はオンライン会議やメール、電話などの通信手段が充実しているので、こういったツールを用いて話し合いを進めましょう。

トラブルになりやすい傾向も

海外居住の相続人がいる場合、他の相続人において「故人とほとんどかかわっていないのだから取得する遺産を減らすべき」と考えるケースがあります。一方で海外居住の相続人は「法定相続分とおりに分割してほしい」と希望するでしょうから、意見が合わずにトラブルになりやすい傾向にあります。

法律的には海外居住で故人とのかかわりが薄くても、法定相続分を取得する権利が認められます。一方、他の相続人の貢献が寄与分として認めることもあります。

当事者同士ではどうしても折り合いがつかない場合、弁護士を代理人に立てて交渉を進めると解決しやすくなるケースがよくあります。

2.遺産分割協議書作成に際しての注意点

海外居住の相続人がいる場合、遺産分割協議書を作成する段階でも注意点があります。

2-1.「印鑑証明書」の代わりに「サイン証明書」を用意する

遺産分割協議書には、基本的に実印で押印すべきです。そうでないと不動産の名義変更ができませんし、預金払い戻しなども受け付けてもらえないケースが多いからです。

しかし海外在住者には日本の住民票を抹消している人も多く、その場合実印がなく印鑑証明書も取得できません。

実印や印鑑証明書がない場合「サイン証明書」を用意する必要があります。

サイン証明書とは、申請者が領事の面前で署名を行い、領事が「たしかに面前で署名した」と証明するものです。

サイン証明書を取得するには、本人が居住国の日本領事館などの「在外公館」へ出向いて申請しなければなりません。

サイン証明を遺産分割協議書に添付すれば、不動産の名義変更などの手続きを進められます。

2-2.住民票の代わりに「在留証明書」を用意する

不動産の登記申請時には、相続人の住民票も必要です。海外居住で住民票を抹消していたら、住民票を取得できません。

その場合「在留証明書」を取得しましょう。

在留証明書は在留国の日本領事館で取得できます。パスポートや運転免許証などの証明書類を提示すれば発行してもらえるので、サイン証明書の手続きを行う際に、同時に申請するとよいでしょう。

2-3.日本国籍を抜いている場合

海外生活が長い方の場合、居住国で国籍を取得して日本国籍を抜いている場合もあります。

日本人ではなくなると「外国人」扱いとなるので戸籍がなくなり、戸籍謄本や戸籍附票を取得できません。また日本人ではないので、現地の日本領事館に行ってもサイン証明書や在留証明書を発給してもらえません。そのままでは遺産分割協議書を作成できず、遺産の名義変更に必要な戸籍も揃えられない問題があります。

日本国籍を抜いた相続人がいる場合には、現地の公証人の面前で「宣誓供述書」に署名し、認証してもらって各種手続きに対応するのが一般的です。宣誓供述書には、相続に必要な事項をまとめて記載します。

なお印鑑証明や住民票の制度がある国であれば、そういった証明書を相続手続きに使えます。

3.海外から相続人調査や相続財産調査を行う方法

海外居住の相続人がいる場合でも、国内に相続人がいれば相続人調査や相続財産調査を国内の相続人に任せるとよいでしょう。

しかし海外居住の相続人しかいない場合、こういった国内での手続きが非常に煩雑で困難です。

相続人調査の方法としては、被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本類を取得しなければなりません。海外からでは申請に膨大な手間と費用がかかってしまうのです。

困ったときには国内の弁護士などの専門家に任せましょう。労力や時間をかけずに済みます。

また海外居住の状態では、遺産の調査も困難です。預金の確認のためには金融機関へ行かねばなりませんし、不動産の確認のためには法務局や役所へ申請しなければなりません。負債の調査も困難となるでしょう。

やはり国内の弁護士へ依頼するのが得策です。なお財産調査については、国内に他の相続人がいる場合でも、信用できない場合には別途弁護士に財産調査を依頼される方もいます。

4.海外居住の相続人が相続したくない場合

海外居住の相続人の場合、遺産に関心がなく相続を希望しないケースもあるでしょう。

その場合「自分のために相続があったことを知ってから3か月以内」であれば相続放棄ができます。

3か月以内に財産調査を終えるのが難しい場合、熟慮期間伸長の申立をすれば期間を数か月延ばしてもらえる可能性があります。

海外居住で財産調査に時間がかかりそうな場合、期間内に熟慮期間伸長の申立を行いましょう。

相続放棄や熟慮期間伸長の申立も弁護士が承りますので、お気軽にご相談ください。

5.最後に

相続人に海外居住者が含まれていると、遺産分割協議の進め方が一気に複雑になってしまいます。困ったときにはお気軽に弁護士までご相談ください。

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