亡くなった方(被相続人)の遺言書が出てきた場合、その遺言書を本当に被相続人が書いたのかが問題となることがあります。
年を取るにつれて、字体が変わってくることもありますし、従前被相続人が言っていた内容と全然違う遺言書が出てきた場合には、なおさら問題になるかと思います。
この記事では、遺言書の偽造が問題になる状況や、その際の判断要素などについて、弁護士が解説します。遺言書の偽造が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。
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1.遺言書の偽造が問題になるケースとは
前提として、遺言書の種類としては、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、一般的に、遺言書の偽造が問題となるのは、被相続人が自身でその全文を自書する自筆証書遺言のケースです。
というのも、公正証書遺言や秘密証書遺言では、証人が2人以上立会い、その上公証人という方も立ち会うので、被相続人がその遺言書を作成したことは確認されているからです。
一方、自筆証書遺言については、作成の際に、証人の立会いや公証人の立会いは要求されておらず、被相続人が本当にその遺言書を作成したのかが法律上担保されていません。
上記のように、自筆証書遺言については、本当に被相続人がその遺言書を作成したのかが問題になりやすいのです。
なお、上記の3つの遺言書の内容や特徴などについては、「遺言書の種類と特徴~公正証書遺言はトラブル予防に有効~」という記事でご説明していますので、気になる方は参考にされて下さい。
2.遺言書の偽造が争われた場合の判断要素
遺言書の偽造が争われた場合、以下の要素で判断していくことになります。
2-1.筆跡の同一性
まず、一番問題になってくるのは、被相続人の筆跡との同一性です。
筆跡が異なれば、被相続人がその遺言書を作成したのではないことを強く推認させることになります。
但し、実務上、筆跡が同一かを判断するのは簡単ではありません。というのも、年齢によって字体が変わる方も多いですし、日によって、字体が微妙に変わる方さえいるためです。
このように、筆跡の同一性は、遺言書が偽造かを判断する上で大きな要素にはなりますが、判断が難しいケースも存在します。
筆跡の同一性を判断する証拠としては、被相続人の日記、メモ、手紙、年賀状、被相続人が署名押印している契約書あたりが考えられます。
ご依頼頂く前に、ご相談者の方が依頼して筆跡鑑定書を取っておられることもありますが、裁判においてはあまり重要視されません。なぜなら、一方当事者が依頼する鑑定書は一方が有利になるように作成されることもあり、信用性が高くないですし、筆跡鑑定自体、科学的に確立された手法ではないとの見方もあるからです。
そのため、遺言書の偽造が争われている裁判においても、筆跡鑑定をすることはあまり多くありません。
なお、仮に筆跡鑑定を求める場合にも、一方当事者が業者に鑑定をお願いするのではなく、裁判所に鑑定人を選任してもらって、一方当事者に有利な鑑定がされる状況ではないと裁判所に分かってもらうことが重要です。
2-2.遺言書それ自体の体裁等
次に、遺言書が偽造であるかが争いとなった時には、遺言書それ自体の体裁等についても、判断要素になってきます。
例えば、遺言書の作成時期がかなり昔であるのに、最近作成したかのような綺麗な用紙の状態であったり、綺麗なインクの色合いであった場合、作成時期との兼ね合いで不自然な内容になってきます。
また、遺言書作成当時、被相続人に物忘れが多くなっていたにもかかわらず、長文で理路整然とした文章を作成していた場合や、遺言内容が複雑な内容の場合には、当時の被相続人の能力との兼ね合いで不自然な内容となります。
このように、遺言書それ自体の体裁等も、遺言書の偽造が問題になった際の判断要素になります。
2-3.遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等
次に問題となってくるのは、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等です。
例えば、「次男に全財産を相続させる」という遺言書が問題となっている時に、遺言書作成当時、被相続人と長男は同居しており仲が良い一方、被相続人と次男が喧嘩をしていたり、疎遠であったりした場合を想定します。
このような場合に、被相続人において「次男に全財産を相続させる」との遺言書を作成する動機や理由が全くありませんし、当時の人的関係や交際状況からしても、違和感があります。また、遺言に至る経緯としても突拍子もないものとなります。
このように、遺言の動機や理由、その当時の人的関係や交際状況、遺言に至る経緯等からして、そのような遺言書を作成する理由がなかった場合には、遺言書が偽造であることを推認させる一つの要素となります。
2-4.遺言者の自書能力の存否及び程度
自筆証書遺言においては、「遺言者が、その全文、日付、及び氏名を自書」しなければなりません(民法第968条1項)。
そのため、そもそも被相続人が、遺言書作成時において、自筆で書ける能力がなければ、遺言書を被相続人が作成したものでないことを推認させることになります。
したがって、遺言書の偽造が争われた場合には、遺言者の自書能力も問題になってきます。
2-5.遺言書の保管状況や発見状況等
遺言書の偽造が問題になった場合には、遺言書の保管状況や誰が発見したのかも問題になってきます。
その遺言書を被相続人から渡されたという人がいるのであれば、遺言書を渡された状況についてその人の供述を聞くことになります。
また、その遺言書が誰にも渡されておらず、どこかから出てきたのであれば、遺言書の発見者に発見当時の状況やどこから発見されたかについて、確認することとなります。
この供述が不合理でないかも、遺言書の偽造が争いになった際には問題になってきます。
3.証明責任をどちらが負うか
遺言書が偽造であるかが争いになった場合、遺言書が偽造であると主張する側と遺言書が偽造ではない(有効である)と主張する側の、どちらがそのことを証明しなければならないかが問題となります。
この点については、最高裁判決において、遺言書が偽造ではないと主張する側が証明責任を負うとされています。
なので、遺言書が偽造であると主張している側だけでなく、遺言書が有効であると主張する側も、積極的に主張や証拠を提出していくことが必要となります。
実務上、遺言書が偽造であると主張している側は積極的に主張や証拠を出す一方、遺言書が有効であると主張する側は上記の証明責任の所在を誤解してか、あまり積極的に主張や証拠を出さないという場面もよく見るため、この辺りは注意が必要です。
なお、遺言書の有効性でよく問題になる「遺言能力」という問題については、遺言能力がない(遺言書が無効である)と主張する側が証明責任を負うため、この点で少し証明責任の所在が異なってきます。「遺言能力」という問題については、「遺言書の効力、無効になる場合をパターンごとに弁護士が解説」という記事で、詳細に解説していますので、気になる方は参考にされてください。
4.最後に
京都の益川総合法律事務所では遺産相続関係の案件に力を入れて取り組んでいます。遺言書が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。
当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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