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遺産相続時における株式の価値はどうやって評価するの?
「遺産分割や遺留分の時に、上場していない株式の価値はどうやって評価するのでしょうか?」といったご相談を受けるケースがあります。
お亡くなりになった方(被相続人)が会社経営者であった場合などは、未上場株式の価値が問題になることも多いです。
今回は、遺産相続時における、株式の評価方法について、京都の弁護士が解説します。相続の際に株式価値が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。
1.上場株式の場合
上場株式の場合、株価が公表されているため、当該価格をもとに、株式数を掛けて、株式の価格を割り出せばよく、さほど問題は生じません。
どの時点の株価を使用するかという、評価時点は問題になりますが、一般的に遺産分割の場合には遺産分割時の株価を、遺留分の場合には相続時点(お亡くなりになった日)の株価を使用します。
この辺りの、遺産の評価時期の話は、「相続不動産の評価方法や基準時について」というコラムで記載しておりますので、気になる方は参考にされて下さい。
2.非上場株式の場合
非上場株式の場合、上場株式の場合と異なり、相場というものがありません。そのため、過去のご依頼者の方の中にも、「上場していない株式の評価は0でしょうか?」と誤解されていた方もいらっしゃいます。
しかし、非上場株式であっても、その評価が0になるわけではありません。そうでないと、どれだけ資産を有して、利益が出ている会社の株式でも評価が0になってしまい、不当な結論になるためです。
そして、非上場株式の評価方法としては、下記の方法があげられます。
2-1.インカムアプローチ(収益還元方式・配当還元方式)
インカムアプローチとは、その会社が将来獲得することが期待される収入や利益に基づいて、株価を評価する方法です。
この手法は、会社の将来の利益獲得能力を加味できる点で優れていますが、将来の計画性が必要となり、事情計画や将来情報に対するバイアス(偏り)を排除することが難しく、客観性が問題となることが多いです。
2-2.マーケットアプローチ(類似業種比準方式)
マーケットアプローチとは、その会社と同業の株価が判明している会社(上場している会社)との時価総額を比較したりすることによって、株価を評価する方法です。
要は、株価が判明している同業他社との比較によって、株価を割り出そうとする方法です。
この手法は、株価が判明している類似会社との比較によって株価を割り出すものであるため、評価の客観性の点で優れていますが、類似する上場会社がないようなケースでは使用できませんし、その会社独自の特徴については、株価に反映させることが出来ない点で一定のデメリットはあります。
2-3.コスト・アプローチ(純資産方式)
コスト・アプローチとは、その会社の純資産をもとに株価を評価する方法です。
この手法は、帳簿上の純資産をもとに株価を割り出すものであるため、評価の客観性の点で優れていますが、将来の利益獲得能力などを加味することが出来ない点で、一定のデメリットがあります。
2-4.混合方式
混合方式とは、上記で説明した方式を組み合わせて、株価を評価する手法です。
実務上、この混合方式を採用することが多いです。
この手法であれば、上であげた各手法の良い面を組み合わせながら、株価を算定することができます。
実際、混合方式を用いる場合には、上記の各方式で評価をした後、当該評価結果を比較検討しながら、最終的に総合評価して、株価を算出することになります。
もちろん、この総合評価の仕方も問題にはなりますが、少なくとも、上記の各方式一つで評価するよりは、合理的に株価を評価できる手法かと思います。
3.実務上の流れ
実際上、相続人間で、非上場株式の価値が争いとなった場合には、当事者間で合意を目指すことになります。
そして、当事者間で合意が出来なければ、裁判所において、鑑定を求めていくことになります。
この鑑定は、裁判所から選任された公認会計士によってなされることになりますが、鑑定を用いる場合には、事前に双方が鑑定を尊重する旨が確認されることが多いです。
4.最後に
今回は、相続時における株式の評価方法について解説しました。
遺産に未上場株式が含まれている場合、株式の価値が問題になることが多く、中々ご自身のみで対応することは難しいかと思います。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。
株式の価値が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
お悩みの方は、是非お気軽にお問い合わせ下さい。
遺言能力とは?認知症の高齢者が作成した遺言書は有効なのか。
亡くなった方の遺言書が出てきた場合、遺言書作成当時、被相続人に遺言能力という能力があったかが問題になることがあります。
遺言書作成時に、被相続人が高齢で、認知症などにより物忘れや記憶障害があった場合には、特に問題になります。
この記事では、遺言能力とは何かや、認知症の方が作成した遺言書が有効か否かなどについて、京都の弁護士が解説します。遺言能力が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。
1.遺言能力とは
遺言能力とは、遺言書作成時に、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る能力を言います。要は、遺言書を作成する意味を理解に、その遺言書によってどのような効果が発生するのかが分かる能力のことです。
この遺言能力というものがなければ、有効に遺言書を作成することができません。
民法上も、「遺言書は、その遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」とされており、遺言書作成には、遺言能力が必要なことを規定しています。
そのため、遺言能力がない人によって作成された遺言書は、無効となります。
2.遺言能力が問題になりやすいケース
一般的に、遺言能力が問題になりやすいのは、遺言書作成当時、被相続人が高齢で、なおかつ、認知症や統合失調症、意識障害などの精神上の障害を有しているケースです。
このような状況下で、相続人の一人のみに全財産を与えるなど、一人を優遇した内容の遺言書を作成した場合には、遺言能力の争いが生じやすいです。
なお、公正証書遺言という、公証人が立ち会って作成された遺言書であっても、遺言能力が無いと判断されているケースも多くあり、公正証書遺言であれば、必ずしも遺言能力が認められるというわけではありません。
3.遺言能力が争われた場合の判断基準
上記の通り、認知症の方が作成した遺言書が有効かは、遺言能力が認められるか否かによって決まります。
そして、被相続人の遺言能力について、当事者間で合意に至らなかった場合には、遺言無効確認調停や訴訟の中で争われていくことになります。この中で、遺言書の無効を主張する側が、遺言書作成当時、被相続人は遺言能力を有しておらず、遺言書が無効であることを主張立証していく必要があります。
遺言能力については、下記の事情を総合的に考慮して、判断していくことになります。
以下では、一つずつ説明していきます。
3-1.精神上の障害の内容及び程度
まず、一番重要になってくるのは、被相続人が有していた精神上の障害の内容とその程度です。
精神上の障害の内容としては、認知症、統合失調症、意識障害などが挙げられますが、実務上多くの場合は、認知症が問題となってきます。認知症の中でも、その原因により、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レヴィ小体型認知症などに分けられます。
そして、一言に認知症と言っても、その症状の程度(重さ)は人によって異なってきます。
そのため、その症状の程度を裏付けるために、遺言書作成当時又はその前後の、医師の診断書やカルテ、頭部の画像データ、要介護認定の際の資料、介護施設における介護記録などを、証拠として提出していくことになります。
3-2.遺言内容の複雑性
次に、遺言能力が争いとなった時には、遺言内容の複雑性についても、判断要素になってきます。
例えば、遺言書の内容がかなり複雑で理解が難しいものであれば、遺言者にはそれに相応する高い理解能力が要求されることになります。
そのため、遺言書の内容の複雑性については、当該案件において要求される遺言能力の程度を検討する上で重要な要素となってきます。
3-3.遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等
次に、遺言能力が争いとなった時には、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等も、判断要素になってきます。
例えば、「長女に自分の全財産を相続させる」という遺言書が問題となっている時に、遺言書作成当時、被相続人と長男の関係は円満であり、会う回数も多かった一方、長女とは疎遠であったとします。
このような場合に、被相続人において「長女に自分の全財産を相続させる」との遺言書を作成する動機や理由が全くありませんし、当時の人的関係や交際状況からしても、違和感があります。また、遺言に至る経緯としても突拍子もないものとなります。
このように、遺言の動機や理由、その当時の人的関係や交際状況、遺言に至る経緯等からして、そのような遺言書を作成することが通常考えられない場合には、被相続人が遺言能力を有していなかったことを推認させる一つの要素となります。
かかる要素については、同じく遺言の無効事由である、「本人が作成した遺言ではなく偽造である」との主張とも被る要素となります。こちらについて、興味がある方は、「遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何か?」という記事も参考にされてください。
3-4.年齢
最後に、被相続人が遺言書を作成した当時の年齢が問題になることもあります。
例えば、被相続人が100歳の時に当該遺言書を作成した場合には、遺言能力がなかったのではないかという考えに結びつきやすいです。
但し、高齢でも元気な方もいらっしゃるため、実務上、さほど重視されている要素ではありません。
4.最後に
今回は、遺言能力という問題について解説しました。
当職においても、ご依頼者の方に不利な遺言書が作成されており、かつ被相続人が高齢の時に当該遺言書を作成していた場合には、一度は遺言能力の主張を検討しています。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。
遺言書が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
お悩みの方は、是非お気軽にお問い合わせ下さい。
遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何か?
亡くなった方(被相続人)の遺言書が出てきた場合、その遺言書を本当に被相続人が書いたのかが問題となることがあります。
年を取るにつれて、字体が変わってくることもありますし、従前被相続人が言っていた内容と全然違う遺言書が出てきた場合には、なおさら問題になるかと思います。
この記事では、遺言書の偽造が問題になる状況や、その際の判断要素などについて、弁護士が解説します。遺言書の偽造が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。
1.遺言書の偽造が問題になるケースとは
前提として、遺言書の種類としては、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、一般的に、遺言書の偽造が問題となるのは、被相続人が自身でその全文を自書する自筆証書遺言のケースです。
というのも、公正証書遺言や秘密証書遺言では、証人が2人以上立会い、その上公証人という方も立ち会うので、被相続人がその遺言書を作成したことは確認されているからです。
一方、自筆証書遺言については、作成の際に、証人の立会いや公証人の立会いは要求されておらず、被相続人が本当にその遺言書を作成したのかが法律上担保されていません。
上記のように、自筆証書遺言については、本当に被相続人がその遺言書を作成したのかが問題になりやすいのです。
なお、上記の3つの遺言書の内容や特徴などについては、「遺言書の種類と特徴~公正証書遺言はトラブル予防に有効~」という記事でご説明していますので、気になる方は参考にされて下さい。
2.遺言書の偽造が争われた場合の判断要素
遺言書の偽造が争われた場合、以下の要素で判断していくことになります。
2-1.筆跡の同一性
まず、一番問題になってくるのは、被相続人の筆跡との同一性です。
筆跡が異なれば、被相続人がその遺言書を作成したのではないことを強く推認させることになります。
但し、実務上、筆跡が同一かを判断するのは簡単ではありません。というのも、年齢によって字体が変わる方も多いですし、日によって、字体が微妙に変わる方さえいるためです。
このように、筆跡の同一性は、遺言書が偽造かを判断する上で大きな要素にはなりますが、判断が難しいケースも存在します。
筆跡の同一性を判断する証拠としては、被相続人の日記、メモ、手紙、年賀状、被相続人が署名押印している契約書あたりが考えられます。
ご依頼頂く前に、ご相談者の方が依頼して筆跡鑑定書を取っておられることもありますが、裁判においてはあまり重要視されません。なぜなら、一方当事者が依頼する鑑定書は一方が有利になるように作成されることもあり、信用性が高くないですし、筆跡鑑定自体、科学的に確立された手法ではないとの見方もあるからです。
そのため、遺言書の偽造が争われている裁判においても、筆跡鑑定をすることはあまり多くありません。
なお、仮に筆跡鑑定を求める場合にも、一方当事者が業者に鑑定をお願いするのではなく、裁判所に鑑定人を選任してもらって、一方当事者に有利な鑑定がされる状況ではないと裁判所に分かってもらうことが重要です。
2-2.遺言書それ自体の体裁等
次に、遺言書が偽造であるかが争いとなった時には、遺言書それ自体の体裁等についても、判断要素になってきます。
例えば、遺言書の作成時期がかなり昔であるのに、最近作成したかのような綺麗な用紙の状態であったり、綺麗なインクの色合いであった場合、作成時期との兼ね合いで不自然な内容になってきます。
また、遺言書作成当時、被相続人に物忘れが多くなっていたにもかかわらず、長文で理路整然とした文章を作成していた場合や、遺言内容が複雑な内容の場合には、当時の被相続人の能力との兼ね合いで不自然な内容となります。
このように、遺言書それ自体の体裁等も、遺言書の偽造が問題になった際の判断要素になります。
2-3.遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等
次に問題となってくるのは、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等です。
例えば、「次男に全財産を相続させる」という遺言書が問題となっている時に、遺言書作成当時、被相続人と長男は同居しており仲が良い一方、被相続人と次男が喧嘩をしていたり、疎遠であったりした場合を想定します。
このような場合に、被相続人において「次男に全財産を相続させる」との遺言書を作成する動機や理由が全くありませんし、当時の人的関係や交際状況からしても、違和感があります。また、遺言に至る経緯としても突拍子もないものとなります。
このように、遺言の動機や理由、その当時の人的関係や交際状況、遺言に至る経緯等からして、そのような遺言書を作成する理由がなかった場合には、遺言書が偽造であることを推認させる一つの要素となります。
2-4.遺言者の自書能力の存否及び程度
自筆証書遺言においては、「遺言者が、その全文、日付、及び氏名を自書」しなければなりません(民法第968条1項)。
そのため、そもそも被相続人が、遺言書作成時において、自筆で書ける能力がなければ、遺言書を被相続人が作成したものでないことを推認させることになります。
したがって、遺言書の偽造が争われた場合には、遺言者の自書能力も問題になってきます。
2-5.遺言書の保管状況や発見状況等
遺言書の偽造が問題になった場合には、遺言書の保管状況や誰が発見したのかも問題になってきます。
その遺言書を被相続人から渡されたという人がいるのであれば、遺言書を渡された状況についてその人の供述を聞くことになります。
また、その遺言書が誰にも渡されておらず、どこかから出てきたのであれば、遺言書の発見者に発見当時の状況やどこから発見されたかについて、確認することとなります。
この供述が不合理でないかも、遺言書の偽造が争いになった際には問題になってきます。
3.証明責任をどちらが負うか
遺言書が偽造であるかが争いになった場合、遺言書が偽造であると主張する側と遺言書が偽造ではない(有効である)と主張する側の、どちらがそのことを証明しなければならないかが問題となります。
この点については、最高裁判決において、遺言書が偽造ではないと主張する側が証明責任を負うとされています。
なので、遺言書が偽造であると主張している側だけでなく、遺言書が有効であると主張する側も、積極的に主張や証拠を提出していくことが必要となります。
実務上、遺言書が偽造であると主張している側は積極的に主張や証拠を出す一方、遺言書が有効であると主張する側は上記の証明責任の所在を誤解してか、あまり積極的に主張や証拠を出さないという場面もよく見るため、この辺りは注意が必要です。
なお、遺言書の有効性でよく問題になる「遺言能力」という問題については、遺言能力がない(遺言書が無効である)と主張する側が証明責任を負うため、この点で少し証明責任の所在が異なってきます。「遺言能力」という問題については、「遺言書の効力、無効になる場合をパターンごとに弁護士が解説」という記事で、詳細に解説していますので、気になる方は参考にされてください。
4.最後に
京都の益川総合法律事務所では遺産相続関係の案件に力を入れて取り組んでいます。遺言書が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

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賃借権や使用借権が存在する相続不動産(土地)の評価方法は?
土地上に賃借権や使用借権が設定されている場合、不動産はどのように評価されるのでしょうか?
遺産相続すると、遺産の「評価」が重要な課題となります。評価額が確定しないと相続税も計算できませんし、遺産分割協議も進められません。
この記事では、賃借権や使用借権が設定されている不動産(土地)の評価方法をお伝えします。
1.土地の原則的な評価方法
遺産相続の場面において、土地はどのように評価するのでしょうか?まずは原則的な評価方法を押さえておきましょう。
1-1.相続税評価の場合
土地の評価方法は、相続税評価の場合と遺産分割の場合とで異なります。
相続税評価の場合には、通常「相続税路線価」を利用します。相続税路線価とは、宅地の1㎡あたりの単価です。
基本的に「相続税路線価×面積」で、その土地の評価額を算出します。
相続税路線価の設定のないエリアでは、評価倍率を使って計算します。
「固定資産税評価額×評価倍率」で、その土地の評価額を算出できます。
1-2.遺産分割の場合
遺産分割時には、時価を使って算定します。時価とは、実際に不動産が流通する場合の価格です。固定資産評価額から時価を割り出したり、取引事例を参照したり、不動産会社に査定を依頼したり、不動産鑑定士に鑑定を依頼したりして、時価を求めるのが一般的です。
不動産の原則的な評価方法には、「相続不動産の評価方法や基準時について」というこちらの記事で詳細に解説しておりますので、参考にされてださい。
2.賃借権が設定されている土地は評価額が下がる
土地上に賃借権が設定されている場合、その土地は自用地よりも評価額が下がります。
自用地とは、賃借権などが設定されておらず自分で使用している土地のことです。
土地を他人に賃貸している場合、自分では自由に使うことができません。その分評価が下がることになります。
このとき、多くの場合、「借地権割合」という割合を使って土地評価額を算定します。
賃借権が設定されている場合の土地の評価額は以下のようになります。
- 貸地の評価額=自用地の価格×(1-借地権割合)
借地権割合はエリアによって異なります(30%~90%)が、一般的な住宅地では60~70%となるケースが多数です。
例えば、自用地としての価値が1000万円の土地で借地権割合が60%のエリアの場合、貸地の評価額は以下の通りとなります。
1000万円×(1-60%)=400万円
このように、土地に賃借権が設定されている場合、一般的に土地の評価額は下がることになります。そのため、土地を賃貸すると、相続税の節税効果が生まれることになります。
■土地上に貸家が建っている場合
土地上に被相続人の建物が建っており、当該建物を貸している場合の土地評価額についてもみてみましょう。
土地上に建物が建っている場合、借地権割合だけではなく「借家権割合」も考慮しなければなりません。
具体的な計算式は以下のとおりとなります。
- 貸家つき土地の評価額=自用地価格×(1-借地権割合×借家権割合)
借家権割合は全国一律30%です。
例えば、1000万円の土地で借地権割合が60%のエリアの場合、貸家つき土地の評価額は以下の通りとなります。
1000万円×(1-60%×30%)=820万円
土地上に建物を建てて賃貸している場合の土地評価額は、おおむね自用地の8割程度の評価額となるのが一般的です。
3.小規模宅地の特例
土地を貸付事業に提供している場合には、小規模宅地の特例を適用して評価を50%減にできる可能性があります。小規模宅地の特例とは、亡くなった人が貸していた土地などの小規模宅地について、一定の要件を満たした場合に、その評価額を減額できる税務上の制度をいいます。
貸付事業用宅地が小規模宅地の特例を受ける場合、200㎡までの部分について評価額を50%減額してもらえます。
小規模宅地の特例を適用するには、以下の要件を満たさねばなりません。
- 相続開始直前まで被相続人や同一生計の親族が土地を貸付事業に提供していた
- 相続税申告期限まで継続して貸付事業を行っている
- 相続税申告期限まで土地を保有している
- 相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地等ではない(3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている)
土地を賃貸すると借地権割合や借家権割合の分、減額されるだけではなく小規模宅地の特例による減額まで受けられるので、税務上、土地の評価額を大きく下げることが可能となります。
4.使用借権が設定されている土地の場合
次に「使用借権」が設定されている土地の評価方法をみてみましょう。
使用借権とは、無償で対象物を使用できる権利です。当事者間で使用貸借契約を締結することで使用借権を設定できます。
使用借権は貸主が死亡すると相続人へ貸主の地位が引き継がれます(なお借主が死亡すると使用借権は原則として消滅しますが、建物利用のための使用借権は相続人に引き継がれる可能性があります)。
4-1.相続税評価の場合
税務上は、使用借権が設定されていても、土地の評価方法に影響は及びません。
使用借権は、原則として、貸主の都合でいつでも設定を解除できるからです。賃借権のような価値がないので、土地評価額からは減額されません。
使用借権が設定されている場合、その土地は「自用地」として評価します。
例えば、1000万円の土地に使用借権が設定されている場合、その土地の評価額は1000万円のままです。
もちろん、貸付事業用宅地としての小規模宅地の特例も利用できません(他の小規模宅地の特例を適用できる可能性はあります)。
使用借権を設定するだけでは相続税対策にはつながりにくいといえるでしょう。
4-2.遺産分割の場合
遺産分割の場合、木造や軽量鉄骨などの非堅固な建物については、原則として、土地の評価を10%下げ、その他の事情によっては20%まで土地の評価を下げている印象です。
対して、コンクリート造りなどの堅固な建物については、原則として土地の評価を20%下げ、その他の事情によっては30%まで土地の評価を下げている印象です。
但し、遺産分割の場において、このような評価減の主張がされないことも多く、一律に何か決まった指標が用いられるのではなく、事案に応じて個別的に判断されることが多いです。
5.最後に
京都の益川総合法律事務所では遺産相続案件に積極的に取り組んでいます。
土地の評価を始め、相続問題でご不明点がありましたら、お気軽にご相談ください。

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法律相談をしたら必ず弁護士に依頼しなければならないの?
こんにちは。
京都の弁護士の益川教親です。
今回は、「法律相談をしたら必ず弁護士に依頼しなければならないのか」というテーマで、お話しさせて頂きます。
これから弁護士と初回法律相談をする方で、気になっている方もいらっしゃると思いますので、参考になれば幸いです。
1.結論
結論から申し上げると、法律相談をされても、必ず弁護士にご依頼頂く必要はありません。
これは当事務所のみならず、他の弁護士事務所も同様かと思います。
以下では、理由を述べさせて頂きます。
2.必ず弁護士にご依頼頂く必要がない理由
(1)しっかり相性を確認して頂きたい
まず、「当事務所が初回法律相談を無料で行う理由」というコラムでもお伝えしましたが、初回法律相談では、その弁護士との相性をしっかりご確認頂く必要があります。
なぜなら、弁護士にご依頼頂く案件の性質からして、それなりの期間、その弁護士と付き合っていく必要があるためです。
自身が依頼した弁護士との相性が良くなく、話しているだけでも苦痛なんてことにならないためにも、初回の法律相談では、弁護士との相性をしっかりご確認頂く必要があります。
他の弁護士にご依頼されていて、当事務所が交代して弁護をさせて頂くことになった際に、このようなことを仰っていたご依頼者の方もおられましたので、弁護士との相性はしっかりご確認頂ければと思います。
(2)費用対効果が合わない可能性がある
弁護士にご依頼頂いた場合には、弁護士費用というものが発生します。
そして、例えば、30万円を取得するために、弁護士費用が50万円かかるなんて状況であれば、弁護士に依頼などしない方がよいでしょう。
また、例えば、遺産相続案件で、相手方から1000万円が提示されているけれども、弁護士に依頼した場合900万円になる可能性があるということであれば、弁護士に依頼などしない方がよいでしょう。遺産相続案件において、このようなケースは滅多にないですが、稀にご相談者の方が、お亡くなりになった方から多額の生前贈与をうけていて、相手方もそれを認識しているにもかかわらず、そのことを考慮せずに提案をしてきている場合には、このような状況になります。
そのような場合には、当事務所の方から、弁護士に依頼頂くのをお止めすることがあります。
このように、そもそも弁護士に依頼しても費用倒れになるのであれば、弁護士にご依頼頂く意味が全くありません。
(3)他の専門家の専門分野である
我々弁護士は、法律のご依頼をお受けすることができますが、税務や登記業務などの他の専門家の専門分野のご依頼を受けることはできません。税務は税理士ですし、登記は司法書士であり、弁護士の専門分野ではありません。
なので、初回相談で、このような内容を依頼したいとの要望を頂いても、弁護士ではお受けすることができません。
当事務所では、電話で簡単にご相談内容を伺うことは多いので、このようなことはありませんが、事前にご相談内容を一切伺わない事務所では、このような事態も生じるかと思います。
3.最後に
今回は、法律相談をしたら必ず依頼しなければならないのか、をお伝えいたしました。
事務所によっては、初回相談をしたら、何度も連絡が来ることもあるようですが、当事務所ではそのようなことはしませんので、安心してご相談下さい。
このコラムをお読み頂いた方のお悩みが解決することを願っております。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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初回の法律相談をお受けするにあたって気をつけていること
こんにちは。
弁護士の益川教親です。
以前は、ご相談者の方が、「初めて法律相談をするときのコツ」というテーマで、コラムを書かせて頂きました。
今回は、このような初回相談をお受けするにあたって、私自身が気を付けていることや心構えなどについて、お話しさせて頂きます。
ざっと読める内容になっていますので、ご一読頂ければ幸いです。
1.じっくりお話しを聞く
初回の法律相談で特に意識していることは、お話しをじっくり聞くということです。
事前にお電話などで、ご相談の大まかな内容を伺っていることもありますが、多くの場合、初回相談をお受けするまで、ご相談内容の詳細までは把握できておりません。
なので、初回の法律相談というのは、私が、ご相談内容の詳細を把握する最初の機会となります。ここで、しっかりお話しを伺わないと、見通しがずれてしまいますし、今後の道筋が誤ってしまうことにもなりかねません。
当事務所が初回無料法律相談を時間無制限で行っておりますが、その理由はこの点が大きく関係します。
特に、遺産相続案件の場合は、ご相談者の方やその御家族のこれまでの人生が関係してくることも多いですし、それ故しっかりお話しを聞く必要があります。
今後の私の活動は、初回法律相談にて、ご相談者の方が、何を望んでおり、どの点を重要視されているかを把握することから始まります。
2.見通しは率直にお伝えする
次に、心がけていることは、見通しは率直にお伝えすることです。
もし、負ける可能性が高いとしても、そのことを率直にお伝えいたします。
なぜ、このことを心がけているかというと、このような見通しを把握した上で、ご依頼頂きたいからです。
弁護士の中には、負ける可能性が高いにもかかわらず、ご相談者に、「勝てると思う」と言って依頼を受ける方もいるとされています。その場合、負けた時には、裁判官や相手方のせいにするようです。
もちろん、勝てる可能性が高いと言った方が、ご相談者の方には優秀な弁護士に見えて、ご依頼頂く可能性が高いのかもしれません。
しかし、私は、嘘をつくのは嫌いですし、勝つのが難しい案件こそ、対策を練って、ご依頼者の方に可能な限り有利な解決を図ることが重要であると考えています。しかし、見通しを率直にお伝えしなければ、このような対策を打つことすらできません。
そのような意味でも、私は見通しを率直にお伝えすることが重要であると考えています。
また、初回の法律相談では、見通しのみならず、ご依頼頂いた場合の今後の流れについても可能な限り詳細にお伝えさせて頂いております。ご相談者の方も、先が見えないとご不安になられると考えているためです。
3.弁護士費用を明確にお伝えする
3つ目に心がけていることは、弁護士費用を明確にお伝えすることです。
弁護士費用については、ご相談者の方も、特に気にされている部分だと思います。
なので、基本的には、その場で、ご依頼頂いた場合の弁護士費用を明確にお伝えするようにしています。
遺産相続案件の場合には、弁護士費用は、スタート段階で頂く着手金と、案件終了時に成功の程度に応じて頂く報酬金になります。
この弁護士費用について、消費税の金額も示した上で、お伝えしております。中々消費税の金額までお伝えする弁護士は少ないようで、ご相談者の方から、こちらが聞く前に弁護士費用の消費税を伝えてもらったのは初めてですと言って頂いたこともあります。
また、後から弁護士費用で予想以上に高いとご相談者の方が感じないように、報酬金については、その時点で分かる範囲で、一番高くなった時の金額をお伝えすることが多いです。
このコラム執筆時点までで、私の記憶する限り、ご依頼者の方から報酬が予想以上に高いと言われたり、報酬で揉めたことはありませんが、これは、初回の法律相談の際に、弁護士費用を明確にお伝えしているからだと考えています。
他の弁護士に弁護士費用で揉めたことがないと言うと、かなり珍しいと言われることが多いです。
もちろんですが、初回のご相談時には、実費(案件解決に実際にかかる、郵便費用や調停等の際の印紙代などの費用)についても明確にお伝えいたします。
4.最後に
今回は、初回の法律相談をお受けするにあたって気をつけていることをお伝えいたしました。
初回の法律相談の際には、私から色々お話しを伺うと思いますが、それがご依頼者の方の満足する解決に繋がると信じています。
これまで、遺産相続案件について、多くのご相談をお受けしてきましたが、ご相談者の方の中でも、何に重きを置くかは人によって異なります。
初回法律相談では、可能な限り、そのご相談者の方の価値観までも把握したいと考えておりますので、多少時間がかかることはご容赦頂ければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
お悩みの方は、是非お気軽にお問い合わせ下さい。
家族信託を途中で解除する(やめること)ができるのか?
いったんは家族信託を利用しても、さまざまな事情で解除したいと考えるケースが少なくありません。家族信託の契約は途中解除できるのでしょうか?
当事者同士で合意解除すれば簡単に途中終了できますが、それ以外の場合には解除できない場合もあります。
この記事では家族信託の契約を途中で解除できるのはどういったケースなのか、解除のトラブルを防ぐにはどうすれば良いのかを弁護士が解説します。家族信託を利用してみたい方は、是非参考にしてみてください。
1.家族信託を解除できるケースとは
家族信託の契約は、途中でも終了させることが可能です。
家族信託を途中で解除できるのは以下の2つのケースです。
- 委託者と受託者の間で解約の合意をした場合
- 信託行為で定めた終了事由が発生した場合
以下でそれぞれのケースについて、詳しく確認しましょう。
1-1.委託者と受託者の間で解約の合意をした場合
家族信託の契約は、委託者と受託者との間の信託契約です。
委託者と受託者の双方が合意すれば、合意によって解約が可能です。
家族信託の契約を終わらせたければ、契約の相手方へ解約の打診をしてみると良いでしょう。
ただし、解約するには双方の合意が必要なので、相手方が拒否した場合には合意による解約はできません。また、委託者が高齢者で認知症が進んでしまった場合にも有効な意思表示ができないために解約できない可能性があります。
1-2.信託契約で定めた終了事由が発生した場合
委託者と受託者の双方が合意できず家族信託契約を解約できない場合でも、信託契約であらかじめ定めておいた契約の終了事由に該当すれば契約を解約できます。
たとえば、「受託者が死亡したとき」「○年○月○日」などの具体的な終了事由を定めておくと良いでしょう。
1-3.信託契約を終了させるべき主な事情
家族信託の契約を終了させるべき主な事情として、以下のようなものがあります。
- 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき
- 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき
- 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき
- 受託者が費用等の償還又は費用の前払を受けることができず、信託を終了させたとき
- 信託の併合がされたとき
- 信託の終了を命ずる裁判があったとき
- 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき
- 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、信託契約の解除がされたとき
- 信託行為において定めた終了事由が生じたとき
1-4.裁判が必要になるケースもある
家族信託の終了事由を契約で定めていなかった場合、契約を途中終了させるには訴訟を起こす必要があります。家族信託契約を終了させる合理的な事情があれば、裁判所が家族信託契約の終了を命じます。
2.家族信託終了後の財産帰属について
家族信託の契約では、委託者や受託者の死亡を終了事由と定めるケースも少なくありません。契約が終了すると、信託財産は誰のものになるのでしょうか?
2-1.残余財産の帰属先
家族信託が終了したときに残っている財産を「残余財産」といいます。
家族信託が終了した場合の残余財産の帰属方法については、信託契約で定めることが可能です。よって信託契約書に「残余財産の帰属先指定」が行われていれば、その内容に従って財産の帰属先が決まります。
一方、信託契約書で残余財産帰属先の指定がない場合や、帰属先に指定された人が権利を放棄した場合、委託者に権利が戻ります。委託者が死亡していればその相続人が帰属権利者となります。
委託者も委託者の相続人もいない場合、残余財産は「清算受託者」のものとなります。
2-2.受益者が財産をもらえるわけではない
家族信託で利益を受ける権利者は受益者です。ただ家族信託の契約が終了したとき、受益者が財産を受け取れるわけではありません。受益者が相続人でもない場合には一切の権利を受け取れない可能性もあります。
受益者に財産を帰属させたい場合には、契約書にその旨記載しておくべきといえるでしょう。
2-3.残余財産の帰属先は契約で決められる
家族信託の残余財産については、帰属先を予め契約で定められます。
委託者や受託者の死亡などによって家族信託が意図せず終了してしまった場合に備え、契約において帰属先の指定を行っておきましょう。
3.家族信託の設定や解除は弁護士へ相談を
家族信託契約を設定する際にはトラブルを防ぐため、契約の終了事由まで見据えて内容を決定しておくべきです。
また、どのようなスキームで家族信託契約を設定するかも非常に重要です。法律の専門知識がないと、適切な対応は困難となるでしょう。家族信託を利用したいときには、弁護士へ相談するようおすすめします。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続関係の案件に力を入れて取り組んでいます。家族信託を利用してみたい方や方法がわからない方などは、お気軽にご相談ください。

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遺言書に遺産の一部のみが記載されている場合の対処方法
遺言書が遺されたとき、すべての財産の分け方について指示されているとは限りません。
一部の財産の分割方法や遺贈のみが記載されていたら、相続人としてはどのように対応すれば良いのでしょうか?
今回は、遺言書に一部の財産の分け方のみが書いてあった場合の対処方法を弁護士がお伝えします。遺言書を発見したけれども、どのように対応すればよいかわからない方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.一部の財産の分け方を指定する遺言書も有効
そもそも、一部の財産の分け方しか書いていない遺言書は有効なのでしょうか?
例えば、遺産全体としては自宅不動産とA銀行の預金、B銀行の預金、C会社の株式があったとします。その中で「自宅不動産とA銀行の預金を長男に遺贈する」と書かれており、その他の遺産については特に言及されていなかったとしましょう。
法的には、このような遺言書も有効です。遺言書の内容は、遺言者が自由に決められるものであり、必ずしもすべての遺産についての分け方を指定する必要はありません。
一部の遺産の分け方のみが書いてある内容でも有効なので、相続人は基本的にその内容に従って遺産分割や遺贈の対応を進める必要があります。
2.残りの財産は遺産分割協議で分ける必要がある
一部の財産のみの分け方が指定されている遺言書がある場合、分け方を指定されていない財産についてはどのように分ければ良いのでしょうか?
残りの財産については「遺言書がないのと同じ」になります。
つまり、相続人が自分たちで遺産分割協議を行って分け方を決めなければなりません。前提として、相続人調査や他の遺産内容の調査も必要となります。遺産分割協議が整ったら遺産分割協議書を作成し、名義変更などの対応をする必要もあります。
2-1.遺言書で指定されていない財産の分け方の流れ
遺言書で指定されていない財産の分け方の流れをまとめると、以下のとおりです。
- 相続人調査、相続財産調査
- 遺産分割協議
- 遺産分割協議書を作成する
- 名義変更や預貯金払い戻しなどの相続手続き
相続人としては、上記と遺贈を並行して行わねばなりません。
2-2.相続税が発生する可能性もある
遺贈された財産額と、分け方を指定されていなかった財産額の合計が「相続税の基礎控除」を超えると、受遺者や相続人は相続税を払わねばなりません。
3.相続人への遺贈は特別受益になる
遺言書によって相続人へ財産が遺贈されると、原則的に「特別受益」になります。
特別受益とは、特定の相続人が遺贈や贈与によって受ける利益です。
特別受益が成立すると、遺産分割協議の際に、当該利益を受けた相続人の取得分を減らす計算方法を適用できます。受益を受けた相続人がいる場合、単純に法定相続分によって遺産を分けるとかえって不公平となってしまう可能性があるからです。
実質的な公平を図るために、受遺者の取得分を減らすための計算方法を「特別受益の持戻計算」といいます。
特別受益持戻計算の具体例
例えば、遺産全体の評価額が3000万円、相続人は子ども3人、遺産のうち自宅不動産(1000万円分)が長男へ遺贈(遺言書によって贈与)されたとしましょう。この場合、残りの2000万円分については相続人らが自分たちで話し合って遺産分割しなければなりません。
長男はすでに1000万円の不動産を遺贈されているので、特別受益の持戻計算を適用できます。
具体的には、長男の遺産取得分が0円となり、次男と三男が1000万円ずつの遺産を取得する結果となります。
結果として、長男は遺贈された1000万円分の不動産を受け取り、次男と三男はそれぞれ1000万円ずつの別の遺産を受け取るので公平に遺産分割ができます。
4.持戻免除の意思表示があるかどうかで対応が変わる
特別受益の持戻計算は、すべてのケースで適用されるとは限りません。
そもそも、相続人のうち誰も「持戻計算を行うべき」と主張しなければ適用されないのです。例えば、上記の事例でも、次男や三男が主張しなければ残りの2000万円についても法定相続分に応じて分配することとなるでしょう。
また、遺言者自身の希望により、特別受益の持戻計算を免除できます。
例えば、上記の事例でも、死亡した被相続人自身が遺言書に、「特別受益の持戻計算は免除する」と記載していれば、特別受益の持戻計算は適用されません。
具体的にいうと長男は遺贈を受けた上、さらに2000万円の3分の1である666万円を相続できます。
この場合、次男と三男は666万円ずつの遺産しか受け取れず長男は1666万円分の遺産を受け取れるので不公平とも思えますが、遺言者の希望があるのでやむを得ません。
なお、特別受益の持戻免除の意思表示は遺言書以外の方法でもできます。例えば、エンディングノートなどに特別受益の持戻免除の意思表示が行われた場合であっても、それが本当に本人の書いたものであれば有効です。
5.遺言書についてのご相談はお気軽に
相続人が遺言書を発見したときには、内容に応じて適切な対応をとる必要があります。間違った対応をすると後にトラブルになったりして、不利益を受けてしまいます。迷ったときには、お気軽に京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

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消費者志向自主宣言
益川総合法律事務所では、消費者庁などが目指している、「消費者志向経営」に誠実に取り組むことを自主宣言いたします。
1.経営理念
1.ご依頼者のより良い明日を創造する
2.ご依頼者の真の満足を追求する
3.ご依頼者のためにより良い方法を考え抜く
2.取組方針
①「みんなの声を聴き、かついかすこと」
ご相談者・ご依頼者の方の心情に配慮し、悩みを共有したうえで、最適な選択をするお手伝いをします。
②「未来・次世代のために取り組むこと」
ご相談者・ご依頼者の未来・次世代をも考え、法的な視点からの検討と最適な選択をするお手伝いをします。
③「法令の遵守/コーポレートガバナンスの強化をすること」
弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命としています(弁護士法1条1項)。 弁護士は、この使命に基づいて誠実に職務を行うものです。
益川総合法律事務所では、法令の遵守やコーポレートガバナンスの強化に積極的に取り組んでいます。

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遺言執行者に関する相続法改正の内容
2019年7月1日より、民法が改正されて遺言執行者に関する規定にも変更が加えられました。
これまで不明確だった遺言執行者の立場がより明確になり、業務を進めやすくなっています。
これから遺言書を作成するなら、遺言執行者をつけておくメリットが大きくなったといえるでしょう。
この記事では遺言執行者に関する相続法改正内容をお伝えします。
遺言書作成をご検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言内容を実現する職務を行う人です。
たとえば以下のようなことを行います。
- 具体的な相続手続き(預金払戻しや相続人への分配、登記名義の変更など)
- 遺贈
- 寄付
- 子どもの認知
- 相続人の廃除や取消し
- 保険金受取人の変更
遺言執行者を指定しておくと、遺言内容が実現されやすくなります。また相続人が相続手続きをしなくて良いので、負担を軽減させる効果も期待できます。
遺言によって遺言執行者を指定できるので、信頼できる人を遺言執行者にしておくと良いでしょう。今すぐに遺言執行者を決められない場合、遺言執行者を指定すべき人を決めておくことも可能です。
2.改正法における遺言執行者に関する変更点
2019年7月の民法改正により、遺言執行者の立場が明確化されて業務の範囲も広がりました。以下では改正民法で遺言執行者にどういった変更があったのか、みていきましょう。
3.遺言執行者の立場や権限の明確化
改正前の民法では、遺言執行者は相続人の「代理人」とみなされていました。
しかし遺言執行者は、必ずしも相続人の利益のために動くとは限りません。
すると相続人から「代理人なのになぜ意思に反することをするのか」と責められ、トラブルになるケースがみられました。
そこで、改正法では、「相続人の代理人とみなす」のではなく、「遺言執行者としての独立した立場」を与えました。同時に遺言執行者の行為には相続人へ直接効力が発生することも明記されました。
このように、遺言執行者の立場や権限が明確化されたのが、1つ目の大きな改正点といえます。
民法第1012条(遺言執行者の権利義務)
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
民法第1015条(遺言執行者の行為の効果)
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
4.遺言執行者の任務開始の通知義務
2つ目は、遺言執行者に相続人への通知義務が課されたことです。
法改正前は、遺言執行者が就任して任務を開始しても、相続人に通知する必要がありませんでした。それでは相続人としては不安定な立場に立たされてしまいます。相続人の知らないうちに遺言執行が進められるケースもありました。
そこで、改正法では、遺言執行者として指定された人が遺言執行を開始した場合、遅滞なく遺言内容を相続人に通知しなければならないことになったのです。
民法第1007条(遺言執行者の任務の開始)
遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
5.遺言執行者による相続登記の申請
民法改正により「特定財産承継遺言」に関する取り扱いも変わります。
特定財産承継遺言とは、ある特定の不動産のような特定財産を承継させる旨の遺言です。
特定財産承継遺言の例
「A不動産を子どもXに相続させる」
これまで特定不動産を相続人へ相続させる旨の遺言が遺されていた場合、遺言執行者は単独では登記申請ができませんでした。相続人と一緒に相続登記申請しなければならないので、手間がかかっていたのです。
改正法では、遺言執行者が単独で相続登記の申請をできるようになっています。
6.遺言執行者の預貯金解約や払戻し
これまでの法律下でも、遺言執行者は、預金の払い戻し権限は解釈上、認められていました。
ただし、明文上では規定されていなかったのです。
そこで改正民法下では、遺言によって預貯金の承継が指定されている場合、遺言執行者が預金の解約や払戻しをできることが明記されました。
なお解約できる範囲は、「預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合」に限られ、一部のみの承継が指定されている場合には払い戻しなどができません。
たとえば「1000万円のA銀行における預金のうち300万円のみを子どもBに相続させる」という遺言がある場合、遺言執行者は300万円分のみの預金の解約払い戻しができないので注意が必要です。
民法第1014条3項
前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
7.復任権
改正民法では、遺言執行者の復任権も明確に認められました。
復任権とは、業務を他人に任せられる権限をいいます。改正前の民法下では復任権については「やむをえない事由」がある場合しか認められませんでした。
改正法下では、遺言者によって復任が禁止されていない限り、遺言執行者は自分の判断で第三者に業務を任せられます。
民法第1016条(遺言執行者の復任権)
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
まとめ
改正相続法において、遺言執行者の権限が強められ、選任する意義が高まっているといえます。弁護士が遺言執行者へ就任することもできるので、京都でこれから遺言書を作成する方がおられましたらお気軽にご相談ください。

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