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相続人の中に音信不通の人や行方不明者がいる場合の対処法
遺産分割協議を進める際に、音信不通や行方不明の相続人がいる場合、その人を省いて遺産分割協議を行ってもよいのでしょうか?
今回は、相続人の中に音信不通や行方不明の相続人がいる場合の対処方法についてお伝えします。相続人の立場になられた方は、是非参考にされて下さい。
1.遺産分割は相続人全員で行う必要がある
遺産分割協議は、相続人全員で合意をする必要があります。もちろん、相続人の中に、相続放棄などをしている人がいる場合には、その相続人の合意は不要です。
そのため、基本的には、音信不通や行方不明の相続人がいたとしても、その方を省いて、遺産分割の合意をすることはできません。
それでは、音信不通や行方不明の相続人がいた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
2.相続人の中に音信不通の人がいる場合
音信不通の方の住所などが分かっているかどうかで対応も変わってくるので、以下では場合を分けて、ご説明していきます。
2-1.住所などが分かっている場合
音信不通の方の現住所が分かっている場合には、まずは、お手紙を書いてみることをお勧めします。その方は、被相続人がお亡くなりになったことも知らないと思うので、被相続人がお亡くなりになったことと、遺産分割協議を行う必要があることなどを記載しておくことが考えられます。
そのようなお手紙を書いても、何も返信が無い場合には、これ以上ご自身で連絡を取って頂いても進展がないと思います。
そのため、①弁護士に依頼してその方に書面を送付する、又は②家庭裁判所の遺産分割調停などを申し立てるのがよいです。
というのも、これまで相続人からの連絡を無視していた方も、弁護士や家庭裁判所からの連絡であれば、無視してはいけないと考え、対応をすることも多いからです。
2-2.住所などが分からない場合
音信不通の方の現在の住所などが分からなくても、その方の本籍地や過去の住所地が分かっている場合には、現在の住所を調べることができる可能性があります。
相続人同士であれば、市役所に対して、戸籍や住民票の第三者請求という方法をとることができます。
その方の本籍地が分かっている場合には、本籍地の市役所に対して、戸籍の附票の第三者請求を行えば、現在の住所が判明する可能性があります。
また、過去の住所地が分かっている場合には、過去の住所地の市役所に対して、住民票の第三者請求を行えば、現在の住所が判明する可能性があります。
もちろん、このような方法をご自身で取ることが煩わしければ、弁護士にご依頼頂ければ、この辺りの処理も弁護士が行うことが可能です。
■参考:住民票や戸籍の証明の第三者(本人以外の方)の請求
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/kurashi/tetuduki/sekyu/daisansya.html
3.相続人の中に行方不明の人がいる場合
相続人の中に、音信不通を超えて、行方不明者がいる場合には、不在者財産管理人の選任申立を行うことが必要になってきます。ここでいう、「不在者」とは、従来の住所や居所を去って、容易に戻る見込みのない人をいいます。
3-1.裁判所の管轄
不在者財産管理人の選任申立は、「不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所」に行うことになります。
3-2.必要書類
- 不在者財産管理人選任申立書
- 不在者の戸籍謄本及び戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
- 不在の事実を証明する資料
- 不在者の財産に関する資料
- 利害関係を証明する資料(戸籍謄本など)
などです。
もし、ご自身で申立をされる方は、管轄の家庭裁判所に必要書類等の確認をされれば、対応してもらえるかと思いますので、申立前に一度確認した方がよいかと思います。
3-3.費用
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手
不在者の財産内容からして、不在者財産管理人が不在者の財産を管理するために必要な費用(不在者財産管理人に対する報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合には、申立人が予納金を納付しなければいけないことがあります。
3-4.不在者財産管理人に選ばれる人
遺産分割のために、不在者財産管理人の選任申立がされる場合には、弁護士又は司法書士が不在者財産管理人に選ばれることが多いです。
■参考:不在者財産管理人選任(裁判所)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html
4.最後に
今回は、音信不通や行方不明の相続人がいた場合の対処方法について、ご説明いたしました。
今回のケースと同じく、相続人の中に海外居住の方がいる場合や、認知症の方がいる場合には、相続人絡みで問題になります。
このようなケースについては、「海外居住の相続人がいる場合の遺産分割協議」、「相続人に認知症の人がいる場合の対処法」で解説しているので、気になる方は参考にされて下さい。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。
対応に迷ったときなどは、お気軽に当事務所までご相談ください。

当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
お悩みの方は、是非お気軽にお問い合わせ下さい。
遺言書と矛盾する行為をした場合にも、遺言書は有効なの?
一度作成した遺言書は、その内容を書き直したり、破棄しない限り、必ず効力を有するのでしょうか?
例えば、ある不動産を相続人の一人に相続させるとの遺言書を作成した方が、その後その不動産の違う人に贈与した場合にも、その遺言書は有効なのでしょうか。
今回は、遺言内容が、遺言書作成後の遺言者の行為と矛盾する場合の、遺言書の効力などについて解説します。被相続人の作成した遺言書の効力について知りたい方や、遺言書を書き直した方が良いか迷っている方にお役に立つ内容ですので、是非参考にされて下さい。
1.遺言書の撤回、取消のルールについて
まず、前提として、遺言書を作成しても、遺言書の撤回や取消は、自由にできます。
これは、遺言書を作成する方の、最終意思を尊重すべきであるとの考えがあるためです。
一旦、遺言書を作成しても、その後、気が変わったり、事情が変わることもあるかと思います。その場合には、遺言書を作り直して頂く形で構いません。
この辺りの話は、「作り直された遺言書の効力~遺言書の撤回と取消について~」で詳しく解説していますので、気になった方は、こちらをご確認ください。
2.遺言者が遺言内容と矛盾する行為をした場合
それでは、遺言書作成後に、遺言者が遺言内容と矛盾する行為をしても、その遺言書は必ず有効なのでしょうか。
民法では、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合には、その抵触する部分については、前の遺言を撤回したものとみなすと規定されています(民法第1023条2項)。要は、遺言書作成後に、遺言者が遺言内容と「抵触」する行為をした際には、その遺言書の「抵触」する部分が撤回されたものとしますという規定です。
この規定は、遺言の法律上の撤回を認めることにより、遺言者の最終意思を重視することを目的にしたものです。
ここで、遺言書と「抵触」という意味が問題になりますが、最高裁判決において、「抵触とは、単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含する」とされています。
分かりづらいので、かみ砕いて説明します。
上記判決は、遺言内容と後の行為が同時に実現するのが絶対に不可能な場合だけじゃなくて、さまざまな事情から観察して、後の行為が、前の遺言と両立させない趣旨のもとにされたことが明らかな場合にも「抵触」するとしています。
まだ少し、わかりづらいので、具体例を用いて、ご説明します。
■具体例
具体例①
例えば、ある不動産を相続人の一人に相続させるとの遺言書を作成した方が、その後その不動産の違う人に贈与したとします。
この場合には、遺言内容(ある不動産を相続人の一人に相続させる)と、後の行為(その不動産を違う人に贈与)を同時に実現するのが絶対に不可能です。亡くなる前に、違う人に不動産をあげているのですから、遺言によって、その不動産を相続人の一人に渡すことはできません。
なので、遺言内容が、後の行為と「抵触」することになるので、遺言書が撤回したものとみなされます。
具体例②
これは、先ほどの最高裁判決で、問題になったケースです。
その事案では、遺言者に、子どもがいなかったため、Aさんから一生面倒をみてもらうことを前提に、遺言者がAさんと養子縁組をした上で、保有する不動産をAさんに相続させるとの遺言書を作成していました。そして、遺言者が、Aさんと同居して共同生活を送っていました。
しかし、その後、遺言者とAさんが仲違いをして、同居を解消した上で、養子縁組の解消も行い、Aさんが遺言者の面倒をみなくなりました。
但し、遺言書を書き直したり、破棄したりはされておらず、その遺言書は残されたままになっています。
最高裁判決は、このような場合にも、遺言書が有効なのかが争われた事案でした。
このケースでは、遺言書で対象とされた不動産を他者に贈与したというわけではないので、遺言書の内容と、後の行為(養子縁組の解消や同居の解消など)を同時に実現するのが絶対に不可能というわけではありません。
なぜなら、養子縁組の解消や同居の解消を行っても、その不動産をAさんに相続させるのは、理屈上は可能だからです。
しかし、このようなケースだと、遺言者は、養子縁組の解消や同居の解消などをした時点で、既に自己が保有する不動産をAさんに相続させる気はなかったと考えられます。
そのため、上記判決においては、これらの事情を考慮して、養子縁組の解消や同居の解消などが、前の遺言書と両立させない趣旨の行為であることが明らかであるとして、遺言書が撤回されていると判断しました。
このように、遺言書と、遺言書作成後の行為が「抵触」するとして、遺言書の撤回をみとめた事例はありますが、これはかなり珍しい事例と評価できるかと思います。
なぜなら、このような遺言書の撤回は、相続人などの法律上の地位に重大な影響を及ぼすものですし、遺言者本人が撤回や取消しの意思表示をしたわけでもないのに、遺言書を撤回したとみなすのは、慎重に判断すべきとされやすいためです。
3.遺言書作成上の注意点
上記のように、遺言書作成時と異なる事態が生じた場合、その遺言書が撤回したとみなされるのか否か、その遺言書をどのように解釈すべきなのか等の争いが生じやすいです。
せっかく、争いが生じないように遺言書を作成しているのに、その遺言書が原因で争いが生じてしまっては本末転倒です。
そのため、遺言書作成時と異なる事態が生じた場合には、遺言書を書き直したり、又は当初の作成時から、後にいかなる事態が生じてもその遺言書の効力に疑義が生じない形で作成しておくのが望ましいといえます。
4.最後に
益川総合法律事務所では、遺言書作成に関するサポートや遺言書の効力を争う事案に積極的に取り組んでいます。
この2つの内容については、一見矛盾するように見えるかもしれません。しかし、遺言書の効力を争う事案に取り組んでいるからこそ、そのような紛争が生じにくい形での遺言書作成のサポートができると考えております。
お困りの方は、当事務所までお気軽にご相談頂ければ幸いです。

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弁護士は休日に何をしているの?
こんにちは。
弁護士の益川教親です。
時々、ご依頼者の方から、「休日は何をして過ごしているのですか?」とお尋ね頂くことがあります。
普段、中々休日の過ごし方をお話しする機会もないので、今回は私が休日に何をしているかについてお話しさせて頂きます。
需要があるのか分かりませんが、最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。
1.ジムに行く
基本的に、土曜日の朝はジムに行って体を鍛えています。
ジムに行っている理由は2つです。
①身体のメンテナンス
1つ目は30歳になった辺りで、急に体調不良になることが多くなったので、身体のメンテナンスのためです。
ジムに定期的に行くようになってからは、あまり身体を壊すこともなくなりました。
あと、職業柄、精神的に疲弊することもたまにあるのですが、ジムで身体を動かすとメンタルも整います。
サウナも好きですが、個人的には、サウナに負けないぐらい、整うんじゃないかなと思っています。
②相手から殴りかかられた時のため
2つ目は、事件の相手方から殴りかかられた時に対処できるようにするためです(笑)
私は、幸い、事件の相手方から物理的な攻撃を受けたことはないのですが、職業柄その機会が絶対にないとはいえないので、その時に備えて鍛えています。
ただ、もちろん殴りかかられたくはないですが。。。
2.ゴルフに行く
次に、休日、ゴルフに行くことも多いです。
元々、仕事がらみでやり出したのですが、今ではプライベートでも行くほどゴルフにはまっています。
以前、ライザップゴルフにも通ったことがあるのですが、全くスコアが向上しなかったので、おそらくセンスはないんだと思います(笑)
元々自然が好きで、ゴルフをすれば、自然に囲まれることができるので、だからこそゴルフも好きになりました。
3.家族と過ごす
休日で仕事をしない時は、家族(妻)と過ごすことが多いです。
特に何をするというわけでもないのですが、一緒の空間で一緒に過ごすだけで、私は楽しいです。妻はどう思っているのか、分かりませんが(笑)
後は、美味しいご飯を食べるのが好きで、休日に妻とご飯屋さんに行くことが多いです。
4.最後に
今回は、休日の過ごし方についてお話ししました。
基本的には、上の3つの方法で過ごしますが、なんだかんだ仕事をしていることもあります。
趣味が仕事という面もあるのかもしれませんね。
もし、お会いすることがあれば、一緒に休日の話ができれば嬉しいです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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遺産相続時における株式の価値はどうやって評価するの?
「遺産分割や遺留分の時に、上場していない株式の価値はどうやって評価するのでしょうか?」といったご相談を受けるケースがあります。
お亡くなりになった方(被相続人)が会社経営者であった場合などは、未上場株式の価値が問題になることも多いです。
今回は、遺産相続時における、株式の評価方法について、京都の弁護士が解説します。相続の際に株式価値が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。
1.上場株式の場合
上場株式の場合、株価が公表されているため、当該価格をもとに、株式数を掛けて、株式の価格を割り出せばよく、さほど問題は生じません。
どの時点の株価を使用するかという、評価時点は問題になりますが、一般的に遺産分割の場合には遺産分割時の株価を、遺留分の場合には相続時点(お亡くなりになった日)の株価を使用します。
この辺りの、遺産の評価時期の話は、「相続不動産の評価方法や基準時について」というコラムで記載しておりますので、気になる方は参考にされて下さい。
2.非上場株式の場合
非上場株式の場合、上場株式の場合と異なり、相場というものがありません。そのため、過去のご依頼者の方の中にも、「上場していない株式の評価は0でしょうか?」と誤解されていた方もいらっしゃいます。
しかし、非上場株式であっても、その評価が0になるわけではありません。そうでないと、どれだけ資産を有して、利益が出ている会社の株式でも評価が0になってしまい、不当な結論になるためです。
そして、非上場株式の評価方法としては、下記の方法があげられます。
2-1.インカムアプローチ(収益還元方式・配当還元方式)
インカムアプローチとは、その会社が将来獲得することが期待される収入や利益に基づいて、株価を評価する方法です。
この手法は、会社の将来の利益獲得能力を加味できる点で優れていますが、将来の計画性が必要となり、事情計画や将来情報に対するバイアス(偏り)を排除することが難しく、客観性が問題となることが多いです。
2-2.マーケットアプローチ(類似業種比準方式)
マーケットアプローチとは、その会社と同業の株価が判明している会社(上場している会社)との時価総額を比較したりすることによって、株価を評価する方法です。
要は、株価が判明している同業他社との比較によって、株価を割り出そうとする方法です。
この手法は、株価が判明している類似会社との比較によって株価を割り出すものであるため、評価の客観性の点で優れていますが、類似する上場会社がないようなケースでは使用できませんし、その会社独自の特徴については、株価に反映させることが出来ない点で一定のデメリットはあります。
2-3.コスト・アプローチ(純資産方式)
コスト・アプローチとは、その会社の純資産をもとに株価を評価する方法です。
この手法は、帳簿上の純資産をもとに株価を割り出すものであるため、評価の客観性の点で優れていますが、将来の利益獲得能力などを加味することが出来ない点で、一定のデメリットがあります。
2-4.混合方式
混合方式とは、上記で説明した方式を組み合わせて、株価を評価する手法です。
実務上、この混合方式を採用することが多いです。
この手法であれば、上であげた各手法の良い面を組み合わせながら、株価を算定することができます。
実際、混合方式を用いる場合には、上記の各方式で評価をした後、当該評価結果を比較検討しながら、最終的に総合評価して、株価を算出することになります。
もちろん、この総合評価の仕方も問題にはなりますが、少なくとも、上記の各方式一つで評価するよりは、合理的に株価を評価できる手法かと思います。
3.実務上の流れ
実際上、相続人間で、非上場株式の価値が争いとなった場合には、当事者間で合意を目指すことになります。
そして、当事者間で合意が出来なければ、裁判所において、鑑定を求めていくことになります。
この鑑定は、裁判所から選任された公認会計士によってなされることになりますが、鑑定を用いる場合には、事前に双方が鑑定を尊重する旨が確認されることが多いです。
4.最後に
今回は、相続時における株式の評価方法について解説しました。
遺産に未上場株式が含まれている場合、株式の価値が問題になることが多く、中々ご自身のみで対応することは難しいかと思います。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。
株式の価値が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

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遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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遺言能力とは?認知症の高齢者が作成した遺言書は有効なのか。
亡くなった方の遺言書が出てきた場合、遺言書作成当時、被相続人に遺言能力という能力があったかが問題になることがあります。
遺言書作成時に、被相続人が高齢で、認知症などにより物忘れや記憶障害があった場合には、特に問題になります。
この記事では、遺言能力とは何かや、認知症の方が作成した遺言書が有効か否かなどについて、京都の弁護士が解説します。遺言能力が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。
1.遺言能力とは
遺言能力とは、遺言書作成時に、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る能力を言います。要は、遺言書を作成する意味を理解に、その遺言書によってどのような効果が発生するのかが分かる能力のことです。
この遺言能力というものがなければ、有効に遺言書を作成することができません。
民法上も、「遺言書は、その遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」とされており、遺言書作成には、遺言能力が必要なことを規定しています。
そのため、遺言能力がない人によって作成された遺言書は、無効となります。
2.遺言能力が問題になりやすいケース
一般的に、遺言能力が問題になりやすいのは、遺言書作成当時、被相続人が高齢で、なおかつ、認知症や統合失調症、意識障害などの精神上の障害を有しているケースです。
このような状況下で、相続人の一人のみに全財産を与えるなど、一人を優遇した内容の遺言書を作成した場合には、遺言能力の争いが生じやすいです。
なお、公正証書遺言という、公証人が立ち会って作成された遺言書であっても、遺言能力が無いと判断されているケースも多くあり、公正証書遺言であれば、必ずしも遺言能力が認められるというわけではありません。
3.遺言能力が争われた場合の判断基準
上記の通り、認知症の方が作成した遺言書が有効かは、遺言能力が認められるか否かによって決まります。
そして、被相続人の遺言能力について、当事者間で合意に至らなかった場合には、遺言無効確認調停や訴訟の中で争われていくことになります。この中で、遺言書の無効を主張する側が、遺言書作成当時、被相続人は遺言能力を有しておらず、遺言書が無効であることを主張立証していく必要があります。
遺言能力については、下記の事情を総合的に考慮して、判断していくことになります。
以下では、一つずつ説明していきます。
3-1.精神上の障害の内容及び程度
まず、一番重要になってくるのは、被相続人が有していた精神上の障害の内容とその程度です。
精神上の障害の内容としては、認知症、統合失調症、意識障害などが挙げられますが、実務上多くの場合は、認知症が問題となってきます。認知症の中でも、その原因により、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レヴィ小体型認知症などに分けられます。
そして、一言に認知症と言っても、その症状の程度(重さ)は人によって異なってきます。
そのため、その症状の程度を裏付けるために、遺言書作成当時又はその前後の、医師の診断書やカルテ、頭部の画像データ、要介護認定の際の資料、介護施設における介護記録などを、証拠として提出していくことになります。
3-2.遺言内容の複雑性
次に、遺言能力が争いとなった時には、遺言内容の複雑性についても、判断要素になってきます。
例えば、遺言書の内容がかなり複雑で理解が難しいものであれば、遺言者にはそれに相応する高い理解能力が要求されることになります。
そのため、遺言書の内容の複雑性については、当該案件において要求される遺言能力の程度を検討する上で重要な要素となってきます。
3-3.遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等
次に、遺言能力が争いとなった時には、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等も、判断要素になってきます。
例えば、「長女に自分の全財産を相続させる」という遺言書が問題となっている時に、遺言書作成当時、被相続人と長男の関係は円満であり、会う回数も多かった一方、長女とは疎遠であったとします。
このような場合に、被相続人において「長女に自分の全財産を相続させる」との遺言書を作成する動機や理由が全くありませんし、当時の人的関係や交際状況からしても、違和感があります。また、遺言に至る経緯としても突拍子もないものとなります。
このように、遺言の動機や理由、その当時の人的関係や交際状況、遺言に至る経緯等からして、そのような遺言書を作成することが通常考えられない場合には、被相続人が遺言能力を有していなかったことを推認させる一つの要素となります。
かかる要素については、同じく遺言の無効事由である、「本人が作成した遺言ではなく偽造である」との主張とも被る要素となります。こちらについて、興味がある方は、「遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何か?」という記事も参考にされてください。
3-4.年齢
最後に、被相続人が遺言書を作成した当時の年齢が問題になることもあります。
例えば、被相続人が100歳の時に当該遺言書を作成した場合には、遺言能力がなかったのではないかという考えに結びつきやすいです。
但し、高齢でも元気な方もいらっしゃるため、実務上、さほど重視されている要素ではありません。
4.最後に
今回は、遺言能力という問題について解説しました。
当職においても、ご依頼者の方に不利な遺言書が作成されており、かつ被相続人が高齢の時に当該遺言書を作成していた場合には、一度は遺言能力の主張を検討しています。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。
遺言書が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

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遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何か?
亡くなった方(被相続人)の遺言書が出てきた場合、その遺言書を本当に被相続人が書いたのかが問題となることがあります。
年を取るにつれて、字体が変わってくることもありますし、従前被相続人が言っていた内容と全然違う遺言書が出てきた場合には、なおさら問題になるかと思います。
この記事では、遺言書の偽造が問題になる状況や、その際の判断要素などについて、弁護士が解説します。遺言書の偽造が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。
1.遺言書の偽造が問題になるケースとは
前提として、遺言書の種類としては、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、一般的に、遺言書の偽造が問題となるのは、被相続人が自身でその全文を自書する自筆証書遺言のケースです。
というのも、公正証書遺言や秘密証書遺言では、証人が2人以上立会い、その上公証人という方も立ち会うので、被相続人がその遺言書を作成したことは確認されているからです。
一方、自筆証書遺言については、作成の際に、証人の立会いや公証人の立会いは要求されておらず、被相続人が本当にその遺言書を作成したのかが法律上担保されていません。
上記のように、自筆証書遺言については、本当に被相続人がその遺言書を作成したのかが問題になりやすいのです。
なお、上記の3つの遺言書の内容や特徴などについては、「遺言書の種類と特徴~公正証書遺言はトラブル予防に有効~」という記事でご説明していますので、気になる方は参考にされて下さい。
2.遺言書の偽造が争われた場合の判断要素
遺言書の偽造が争われた場合、以下の要素で判断していくことになります。
2-1.筆跡の同一性
まず、一番問題になってくるのは、被相続人の筆跡との同一性です。
筆跡が異なれば、被相続人がその遺言書を作成したのではないことを強く推認させることになります。
但し、実務上、筆跡が同一かを判断するのは簡単ではありません。というのも、年齢によって字体が変わる方も多いですし、日によって、字体が微妙に変わる方さえいるためです。
このように、筆跡の同一性は、遺言書が偽造かを判断する上で大きな要素にはなりますが、判断が難しいケースも存在します。
筆跡の同一性を判断する証拠としては、被相続人の日記、メモ、手紙、年賀状、被相続人が署名押印している契約書あたりが考えられます。
ご依頼頂く前に、ご相談者の方が依頼して筆跡鑑定書を取っておられることもありますが、裁判においてはあまり重要視されません。なぜなら、一方当事者が依頼する鑑定書は一方が有利になるように作成されることもあり、信用性が高くないですし、筆跡鑑定自体、科学的に確立された手法ではないとの見方もあるからです。
そのため、遺言書の偽造が争われている裁判においても、筆跡鑑定をすることはあまり多くありません。
なお、仮に筆跡鑑定を求める場合にも、一方当事者が業者に鑑定をお願いするのではなく、裁判所に鑑定人を選任してもらって、一方当事者に有利な鑑定がされる状況ではないと裁判所に分かってもらうことが重要です。
2-2.遺言書それ自体の体裁等
次に、遺言書が偽造であるかが争いとなった時には、遺言書それ自体の体裁等についても、判断要素になってきます。
例えば、遺言書の作成時期がかなり昔であるのに、最近作成したかのような綺麗な用紙の状態であったり、綺麗なインクの色合いであった場合、作成時期との兼ね合いで不自然な内容になってきます。
また、遺言書作成当時、被相続人に物忘れが多くなっていたにもかかわらず、長文で理路整然とした文章を作成していた場合や、遺言内容が複雑な内容の場合には、当時の被相続人の能力との兼ね合いで不自然な内容となります。
このように、遺言書それ自体の体裁等も、遺言書の偽造が問題になった際の判断要素になります。
2-3.遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等
次に問題となってくるのは、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等です。
例えば、「次男に全財産を相続させる」という遺言書が問題となっている時に、遺言書作成当時、被相続人と長男は同居しており仲が良い一方、被相続人と次男が喧嘩をしていたり、疎遠であったりした場合を想定します。
このような場合に、被相続人において「次男に全財産を相続させる」との遺言書を作成する動機や理由が全くありませんし、当時の人的関係や交際状況からしても、違和感があります。また、遺言に至る経緯としても突拍子もないものとなります。
このように、遺言の動機や理由、その当時の人的関係や交際状況、遺言に至る経緯等からして、そのような遺言書を作成する理由がなかった場合には、遺言書が偽造であることを推認させる一つの要素となります。
2-4.遺言者の自書能力の存否及び程度
自筆証書遺言においては、「遺言者が、その全文、日付、及び氏名を自書」しなければなりません(民法第968条1項)。
そのため、そもそも被相続人が、遺言書作成時において、自筆で書ける能力がなければ、遺言書を被相続人が作成したものでないことを推認させることになります。
したがって、遺言書の偽造が争われた場合には、遺言者の自書能力も問題になってきます。
2-5.遺言書の保管状況や発見状況等
遺言書の偽造が問題になった場合には、遺言書の保管状況や誰が発見したのかも問題になってきます。
その遺言書を被相続人から渡されたという人がいるのであれば、遺言書を渡された状況についてその人の供述を聞くことになります。
また、その遺言書が誰にも渡されておらず、どこかから出てきたのであれば、遺言書の発見者に発見当時の状況やどこから発見されたかについて、確認することとなります。
この供述が不合理でないかも、遺言書の偽造が争いになった際には問題になってきます。
3.証明責任をどちらが負うか
遺言書が偽造であるかが争いになった場合、遺言書が偽造であると主張する側と遺言書が偽造ではない(有効である)と主張する側の、どちらがそのことを証明しなければならないかが問題となります。
この点については、最高裁判決において、遺言書が偽造ではないと主張する側が証明責任を負うとされています。
なので、遺言書が偽造であると主張している側だけでなく、遺言書が有効であると主張する側も、積極的に主張や証拠を提出していくことが必要となります。
実務上、遺言書が偽造であると主張している側は積極的に主張や証拠を出す一方、遺言書が有効であると主張する側は上記の証明責任の所在を誤解してか、あまり積極的に主張や証拠を出さないという場面もよく見るため、この辺りは注意が必要です。
なお、遺言書の有効性でよく問題になる「遺言能力」という問題については、遺言能力がない(遺言書が無効である)と主張する側が証明責任を負うため、この点で少し証明責任の所在が異なってきます。「遺言能力」という問題については、「遺言書の効力、無効になる場合をパターンごとに弁護士が解説」という記事で、詳細に解説していますので、気になる方は参考にされてください。
4.最後に
京都の益川総合法律事務所では遺産相続関係の案件に力を入れて取り組んでいます。遺言書が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

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遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
お悩みの方は、是非お気軽にお問い合わせ下さい。
賃借権や使用借権が存在する相続不動産(土地)の評価方法は?
土地上に賃借権や使用借権が設定されている場合、不動産はどのように評価されるのでしょうか?
遺産相続すると、遺産の「評価」が重要な課題となります。評価額が確定しないと相続税も計算できませんし、遺産分割協議も進められません。
この記事では、賃借権や使用借権が設定されている不動産(土地)の評価方法をお伝えします。
1.土地の原則的な評価方法
遺産相続の場面において、土地はどのように評価するのでしょうか?まずは原則的な評価方法を押さえておきましょう。
1-1.相続税評価の場合
土地の評価方法は、相続税評価の場合と遺産分割の場合とで異なります。
相続税評価の場合には、通常「相続税路線価」を利用します。相続税路線価とは、宅地の1㎡あたりの単価です。
基本的に「相続税路線価×面積」で、その土地の評価額を算出します。
相続税路線価の設定のないエリアでは、評価倍率を使って計算します。
「固定資産税評価額×評価倍率」で、その土地の評価額を算出できます。
1-2.遺産分割の場合
遺産分割時には、時価を使って算定します。時価とは、実際に不動産が流通する場合の価格です。固定資産評価額から時価を割り出したり、取引事例を参照したり、不動産会社に査定を依頼したり、不動産鑑定士に鑑定を依頼したりして、時価を求めるのが一般的です。
不動産の原則的な評価方法には、「相続不動産の評価方法や基準時について」というこちらの記事で詳細に解説しておりますので、参考にされてださい。
2.賃借権が設定されている土地は評価額が下がる
土地上に賃借権が設定されている場合、その土地は自用地よりも評価額が下がります。
自用地とは、賃借権などが設定されておらず自分で使用している土地のことです。
土地を他人に賃貸している場合、自分では自由に使うことができません。その分評価が下がることになります。
このとき、多くの場合、「借地権割合」という割合を使って土地評価額を算定します。
賃借権が設定されている場合の土地の評価額は以下のようになります。
- 貸地の評価額=自用地の価格×(1-借地権割合)
借地権割合はエリアによって異なります(30%~90%)が、一般的な住宅地では60~70%となるケースが多数です。
例えば、自用地としての価値が1000万円の土地で借地権割合が60%のエリアの場合、貸地の評価額は以下の通りとなります。
1000万円×(1-60%)=400万円
このように、土地に賃借権が設定されている場合、一般的に土地の評価額は下がることになります。そのため、土地を賃貸すると、相続税の節税効果が生まれることになります。
■土地上に貸家が建っている場合
土地上に被相続人の建物が建っており、当該建物を貸している場合の土地評価額についてもみてみましょう。
土地上に建物が建っている場合、借地権割合だけではなく「借家権割合」も考慮しなければなりません。
具体的な計算式は以下のとおりとなります。
- 貸家つき土地の評価額=自用地価格×(1-借地権割合×借家権割合)
借家権割合は全国一律30%です。
例えば、1000万円の土地で借地権割合が60%のエリアの場合、貸家つき土地の評価額は以下の通りとなります。
1000万円×(1-60%×30%)=820万円
土地上に建物を建てて賃貸している場合の土地評価額は、おおむね自用地の8割程度の評価額となるのが一般的です。
3.小規模宅地の特例
土地を貸付事業に提供している場合には、小規模宅地の特例を適用して評価を50%減にできる可能性があります。小規模宅地の特例とは、亡くなった人が貸していた土地などの小規模宅地について、一定の要件を満たした場合に、その評価額を減額できる税務上の制度をいいます。
貸付事業用宅地が小規模宅地の特例を受ける場合、200㎡までの部分について評価額を50%減額してもらえます。
小規模宅地の特例を適用するには、以下の要件を満たさねばなりません。
- 相続開始直前まで被相続人や同一生計の親族が土地を貸付事業に提供していた
- 相続税申告期限まで継続して貸付事業を行っている
- 相続税申告期限まで土地を保有している
- 相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地等ではない(3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている)
土地を賃貸すると借地権割合や借家権割合の分、減額されるだけではなく小規模宅地の特例による減額まで受けられるので、税務上、土地の評価額を大きく下げることが可能となります。
4.使用借権が設定されている土地の場合
次に「使用借権」が設定されている土地の評価方法をみてみましょう。
使用借権とは、無償で対象物を使用できる権利です。当事者間で使用貸借契約を締結することで使用借権を設定できます。
使用借権は貸主が死亡すると相続人へ貸主の地位が引き継がれます(なお借主が死亡すると使用借権は原則として消滅しますが、建物利用のための使用借権は相続人に引き継がれる可能性があります)。
4-1.相続税評価の場合
税務上は、使用借権が設定されていても、土地の評価方法に影響は及びません。
使用借権は、原則として、貸主の都合でいつでも設定を解除できるからです。賃借権のような価値がないので、土地評価額からは減額されません。
使用借権が設定されている場合、その土地は「自用地」として評価します。
例えば、1000万円の土地に使用借権が設定されている場合、その土地の評価額は1000万円のままです。
もちろん、貸付事業用宅地としての小規模宅地の特例も利用できません(他の小規模宅地の特例を適用できる可能性はあります)。
使用借権を設定するだけでは相続税対策にはつながりにくいといえるでしょう。
4-2.遺産分割の場合
遺産分割の場合、木造や軽量鉄骨などの非堅固な建物については、原則として、土地の評価を10%下げ、その他の事情によっては20%まで土地の評価を下げている印象です。
対して、コンクリート造りなどの堅固な建物については、原則として土地の評価を20%下げ、その他の事情によっては30%まで土地の評価を下げている印象です。
但し、遺産分割の場において、このような評価減の主張がされないことも多く、一律に何か決まった指標が用いられるのではなく、事案に応じて個別的に判断されることが多いです。
5.最後に
京都の益川総合法律事務所では遺産相続案件に積極的に取り組んでいます。
土地の評価を始め、相続問題でご不明点がありましたら、お気軽にご相談ください。

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法律相談をしたら必ず弁護士に依頼しなければならないの?
こんにちは。
京都の弁護士の益川教親です。
今回は、「法律相談をしたら必ず弁護士に依頼しなければならないのか」というテーマで、お話しさせて頂きます。
これから弁護士と初回法律相談をする方で、気になっている方もいらっしゃると思いますので、参考になれば幸いです。
1.結論
結論から申し上げると、法律相談をされても、必ず弁護士にご依頼頂く必要はありません。
これは当事務所のみならず、他の弁護士事務所も同様かと思います。
以下では、理由を述べさせて頂きます。
2.必ず弁護士にご依頼頂く必要がない理由
(1)しっかり相性を確認して頂きたい
まず、「当事務所が初回法律相談を無料で行う理由」というコラムでもお伝えしましたが、初回法律相談では、その弁護士との相性をしっかりご確認頂く必要があります。
なぜなら、弁護士にご依頼頂く案件の性質からして、それなりの期間、その弁護士と付き合っていく必要があるためです。
自身が依頼した弁護士との相性が良くなく、話しているだけでも苦痛なんてことにならないためにも、初回の法律相談では、弁護士との相性をしっかりご確認頂く必要があります。
他の弁護士にご依頼されていて、当事務所が交代して弁護をさせて頂くことになった際に、このようなことを仰っていたご依頼者の方もおられましたので、弁護士との相性はしっかりご確認頂ければと思います。
(2)費用対効果が合わない可能性がある
弁護士にご依頼頂いた場合には、弁護士費用というものが発生します。
そして、例えば、30万円を取得するために、弁護士費用が50万円かかるなんて状況であれば、弁護士に依頼などしない方がよいでしょう。
また、例えば、遺産相続案件で、相手方から1000万円が提示されているけれども、弁護士に依頼した場合900万円になる可能性があるということであれば、弁護士に依頼などしない方がよいでしょう。遺産相続案件において、このようなケースは滅多にないですが、稀にご相談者の方が、お亡くなりになった方から多額の生前贈与をうけていて、相手方もそれを認識しているにもかかわらず、そのことを考慮せずに提案をしてきている場合には、このような状況になります。
そのような場合には、当事務所の方から、弁護士に依頼頂くのをお止めすることがあります。
このように、そもそも弁護士に依頼しても費用倒れになるのであれば、弁護士にご依頼頂く意味が全くありません。
(3)他の専門家の専門分野である
我々弁護士は、法律のご依頼をお受けすることができますが、税務や登記業務などの他の専門家の専門分野のご依頼を受けることはできません。税務は税理士ですし、登記は司法書士であり、弁護士の専門分野ではありません。
なので、初回相談で、このような内容を依頼したいとの要望を頂いても、弁護士ではお受けすることができません。
当事務所では、電話で簡単にご相談内容を伺うことは多いので、このようなことはありませんが、事前にご相談内容を一切伺わない事務所では、このような事態も生じるかと思います。
3.最後に
今回は、法律相談をしたら必ず依頼しなければならないのか、をお伝えいたしました。
事務所によっては、初回相談をしたら、何度も連絡が来ることもあるようですが、当事務所ではそのようなことはしませんので、安心してご相談下さい。
このコラムをお読み頂いた方のお悩みが解決することを願っております。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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初回の法律相談をお受けするにあたって気をつけていること
こんにちは。
弁護士の益川教親です。
以前は、ご相談者の方が、「初めて法律相談をするときのコツ」というテーマで、コラムを書かせて頂きました。
今回は、このような初回相談をお受けするにあたって、私自身が気を付けていることや心構えなどについて、お話しさせて頂きます。
ざっと読める内容になっていますので、ご一読頂ければ幸いです。
1.じっくりお話しを聞く
初回の法律相談で特に意識していることは、お話しをじっくり聞くということです。
事前にお電話などで、ご相談の大まかな内容を伺っていることもありますが、多くの場合、初回相談をお受けするまで、ご相談内容の詳細までは把握できておりません。
なので、初回の法律相談というのは、私が、ご相談内容の詳細を把握する最初の機会となります。ここで、しっかりお話しを伺わないと、見通しがずれてしまいますし、今後の道筋が誤ってしまうことにもなりかねません。
当事務所が初回無料法律相談を時間無制限で行っておりますが、その理由はこの点が大きく関係します。
特に、遺産相続案件の場合は、ご相談者の方やその御家族のこれまでの人生が関係してくることも多いですし、それ故しっかりお話しを聞く必要があります。
今後の私の活動は、初回法律相談にて、ご相談者の方が、何を望んでおり、どの点を重要視されているかを把握することから始まります。
2.見通しは率直にお伝えする
次に、心がけていることは、見通しは率直にお伝えすることです。
もし、負ける可能性が高いとしても、そのことを率直にお伝えいたします。
なぜ、このことを心がけているかというと、このような見通しを把握した上で、ご依頼頂きたいからです。
弁護士の中には、負ける可能性が高いにもかかわらず、ご相談者に、「勝てると思う」と言って依頼を受ける方もいるとされています。その場合、負けた時には、裁判官や相手方のせいにするようです。
もちろん、勝てる可能性が高いと言った方が、ご相談者の方には優秀な弁護士に見えて、ご依頼頂く可能性が高いのかもしれません。
しかし、私は、嘘をつくのは嫌いですし、勝つのが難しい案件こそ、対策を練って、ご依頼者の方に可能な限り有利な解決を図ることが重要であると考えています。しかし、見通しを率直にお伝えしなければ、このような対策を打つことすらできません。
そのような意味でも、私は見通しを率直にお伝えすることが重要であると考えています。
また、初回の法律相談では、見通しのみならず、ご依頼頂いた場合の今後の流れについても可能な限り詳細にお伝えさせて頂いております。ご相談者の方も、先が見えないとご不安になられると考えているためです。
3.弁護士費用を明確にお伝えする
3つ目に心がけていることは、弁護士費用を明確にお伝えすることです。
弁護士費用については、ご相談者の方も、特に気にされている部分だと思います。
なので、基本的には、その場で、ご依頼頂いた場合の弁護士費用を明確にお伝えするようにしています。
遺産相続案件の場合には、弁護士費用は、スタート段階で頂く着手金と、案件終了時に成功の程度に応じて頂く報酬金になります。
この弁護士費用について、消費税の金額も示した上で、お伝えしております。中々消費税の金額までお伝えする弁護士は少ないようで、ご相談者の方から、こちらが聞く前に弁護士費用の消費税を伝えてもらったのは初めてですと言って頂いたこともあります。
また、後から弁護士費用で予想以上に高いとご相談者の方が感じないように、報酬金については、その時点で分かる範囲で、一番高くなった時の金額をお伝えすることが多いです。
このコラム執筆時点までで、私の記憶する限り、ご依頼者の方から報酬が予想以上に高いと言われたり、報酬で揉めたことはありませんが、これは、初回の法律相談の際に、弁護士費用を明確にお伝えしているからだと考えています。
他の弁護士に弁護士費用で揉めたことがないと言うと、かなり珍しいと言われることが多いです。
もちろんですが、初回のご相談時には、実費(案件解決に実際にかかる、郵便費用や調停等の際の印紙代などの費用)についても明確にお伝えいたします。
4.最後に
今回は、初回の法律相談をお受けするにあたって気をつけていることをお伝えいたしました。
初回の法律相談の際には、私から色々お話しを伺うと思いますが、それがご依頼者の方の満足する解決に繋がると信じています。
これまで、遺産相続案件について、多くのご相談をお受けしてきましたが、ご相談者の方の中でも、何に重きを置くかは人によって異なります。
初回法律相談では、可能な限り、そのご相談者の方の価値観までも把握したいと考えておりますので、多少時間がかかることはご容赦頂ければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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家族信託を途中で解除する(やめること)ができるのか?
いったんは家族信託を利用しても、さまざまな事情で解除したいと考えるケースが少なくありません。家族信託の契約は途中解除できるのでしょうか?
当事者同士で合意解除すれば簡単に途中終了できますが、それ以外の場合には解除できない場合もあります。
この記事では家族信託の契約を途中で解除できるのはどういったケースなのか、解除のトラブルを防ぐにはどうすれば良いのかを弁護士が解説します。家族信託を利用してみたい方は、是非参考にしてみてください。
1.家族信託を解除できるケースとは
家族信託の契約は、途中でも終了させることが可能です。
家族信託を途中で解除できるのは以下の2つのケースです。
- 委託者と受託者の間で解約の合意をした場合
- 信託行為で定めた終了事由が発生した場合
以下でそれぞれのケースについて、詳しく確認しましょう。
1-1.委託者と受託者の間で解約の合意をした場合
家族信託の契約は、委託者と受託者との間の信託契約です。
委託者と受託者の双方が合意すれば、合意によって解約が可能です。
家族信託の契約を終わらせたければ、契約の相手方へ解約の打診をしてみると良いでしょう。
ただし、解約するには双方の合意が必要なので、相手方が拒否した場合には合意による解約はできません。また、委託者が高齢者で認知症が進んでしまった場合にも有効な意思表示ができないために解約できない可能性があります。
1-2.信託契約で定めた終了事由が発生した場合
委託者と受託者の双方が合意できず家族信託契約を解約できない場合でも、信託契約であらかじめ定めておいた契約の終了事由に該当すれば契約を解約できます。
たとえば、「受託者が死亡したとき」「○年○月○日」などの具体的な終了事由を定めておくと良いでしょう。
1-3.信託契約を終了させるべき主な事情
家族信託の契約を終了させるべき主な事情として、以下のようなものがあります。
- 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき
- 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき
- 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき
- 受託者が費用等の償還又は費用の前払を受けることができず、信託を終了させたとき
- 信託の併合がされたとき
- 信託の終了を命ずる裁判があったとき
- 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき
- 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた場合において、信託契約の解除がされたとき
- 信託行為において定めた終了事由が生じたとき
1-4.裁判が必要になるケースもある
家族信託の終了事由を契約で定めていなかった場合、契約を途中終了させるには訴訟を起こす必要があります。家族信託契約を終了させる合理的な事情があれば、裁判所が家族信託契約の終了を命じます。
2.家族信託終了後の財産帰属について
家族信託の契約では、委託者や受託者の死亡を終了事由と定めるケースも少なくありません。契約が終了すると、信託財産は誰のものになるのでしょうか?
2-1.残余財産の帰属先
家族信託が終了したときに残っている財産を「残余財産」といいます。
家族信託が終了した場合の残余財産の帰属方法については、信託契約で定めることが可能です。よって信託契約書に「残余財産の帰属先指定」が行われていれば、その内容に従って財産の帰属先が決まります。
一方、信託契約書で残余財産帰属先の指定がない場合や、帰属先に指定された人が権利を放棄した場合、委託者に権利が戻ります。委託者が死亡していればその相続人が帰属権利者となります。
委託者も委託者の相続人もいない場合、残余財産は「清算受託者」のものとなります。
2-2.受益者が財産をもらえるわけではない
家族信託で利益を受ける権利者は受益者です。ただ家族信託の契約が終了したとき、受益者が財産を受け取れるわけではありません。受益者が相続人でもない場合には一切の権利を受け取れない可能性もあります。
受益者に財産を帰属させたい場合には、契約書にその旨記載しておくべきといえるでしょう。
2-3.残余財産の帰属先は契約で決められる
家族信託の残余財産については、帰属先を予め契約で定められます。
委託者や受託者の死亡などによって家族信託が意図せず終了してしまった場合に備え、契約において帰属先の指定を行っておきましょう。
3.家族信託の設定や解除は弁護士へ相談を
家族信託契約を設定する際にはトラブルを防ぐため、契約の終了事由まで見据えて内容を決定しておくべきです。
また、どのようなスキームで家族信託契約を設定するかも非常に重要です。法律の専門知識がないと、適切な対応は困難となるでしょう。家族信託を利用したいときには、弁護士へ相談するようおすすめします。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続関係の案件に力を入れて取り組んでいます。家族信託を利用してみたい方や方法がわからない方などは、お気軽にご相談ください。

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