遺産分割

遺産分割しない、できない場合のデメリットと対処方法

2023-01-13

「いつまでも遺産分割しなかった場合、どういった問題が生じるのでしょうか?」

といったご質問を受けるケースがあります。

遺産分割そのものには期限がありませんが、放置しておくと相続税の控除を受けられなくなったり、遺産の名義変更や活用ができなかったりする不利益が及ぶ可能性があります。

この記事では、遺産分割をしないデメリットやすぐに遺産分割できない場合の対処方法をお伝えしますので、これから遺産分割する方はぜひ参考にしてみてください。

1.遺産分割できない場合のデメリット

遺産分割ができないと、以下のようなデメリットが発生します。

  • 遺産の名義変更や活用ができない
  • 遺産が失われる可能性がある
  • 相続税の控除を受けられない
  • さらに相続が起こって混乱する

以下で、それぞれについてみてみましょう。

1-1.遺産の名義変更や活用ができない

遺産分割ができないと、遺産の名義変更や活用ができません。

不動産や株式などがいつまでも死亡した被相続人名義のままになってしまい、相続人たちが不動産を賃貸したり売却したりするのも難しくなります。

不動産などの遺産は相続人全員の共有になりますが、共有不動産の場合には共有者の同意がないと活用や処分ができないためです。

結果として、遺産が放置されてしまうケースも少なくありません。活用していなくても不動産であれば固定資産税などの負担は生じるので、デメリットばかりが強調されてしまうでしょう。

1-2.遺産が失われる可能性がある

遺産分割をせずに財産を放置すると、遺産が失われる可能性があります。

例えば、銀行預金には時効があり、請求できるのを知って5年間放置したら時効が成立してしまいます。また、10年放置すると「休眠口座」扱いとなり、公益事業などに預金が使われてしまう可能性もあります。

株式の場合、5年以上保有者が不明な場合には会社が株式買取請求できると規定されています。

以上のように、長期にわたって遺産を放置していると、権利そのものが失われるリスクがあることに注意が必要です。

1-3.相続税の控除を受けられない

遺産分割をせずに放置すると、相続税の控除を受けられないリスクも発生します。

相続税には「配偶者控除」や「小規模宅地の特例」といった控除制度が用意されており、適用すれば税額を低く抑えられます。

ところが、相続税の申告時までに遺産分割できていなければ、こういった控除を適用できません。結果的に相続税額が上がってしまうリスクが生じるのです。

1-4.重ねて相続が起こって混乱する

遺産分割をせずに放置していると、さらに相続が重なって起こり混乱が生じる可能性もあります。たとえば祖父の遺産分割をしないうちに父が亡くなって2代分の相続手続きが必要になる場合などです。

複数の遺産相続が重なると手続きが複雑になる上、相続人の人数も増えてそれぞれの関係は希薄になるので、遺産分割に難航する傾向があります。結果的に遺産分割が行われずに放置され、さらに相続が発生する、という負の連鎖が生じる可能性もあります。

2.遺産分割できていないときの対処方法

相続税の申告期限までに遺産分割できていない場合でも、後で控除を適用してもらうための制度が用意されています。

以下で、相続税の申告期限までに遺産分割できていない場合の対処方法をお伝えします。

2-1.「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する

相続税の申告期限までに遺産分割できない場合、いったん法定相続分に応じて相続税を申告する必要があります。

その際「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を税務署へ提出しましょう。これを提出しておけば、後に遺産分割が整ったときに「相続税の更正請求」ができます。

更正請求をすると、相続税の還付を受けられます。その際には配偶者控除や小規模宅地の特例を適用できるので、税額を抑えられるでしょう。

2-2.3年以内に遺産分割が成立しない場合の対処方法

「申告期限後3年以内の分割見込書」によって相続税控除や特例を適用するには、申告期限後3年以内に遺産分割が成立しなければなりません。

ただ、事案によっては3年以内に遺産分割できない場合もあるでしょう。

そういったケースでは、相続税の申告期限から3年が経過してから2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署へ提出しましょう。そうすれば、「遺産分割できない事情」が止んでから4か月以内に申告を行うことにより、配偶者控除や小規模宅地の特例などの優遇措置を受けられます。

3.早期に遺産分割を成立させるための工夫

早期に遺産分割を成立させるには、どうしたら良いのでしょうか?

自分たちで話し合ってもどうしても早めに遺産分割するのが難しければ、弁護士に相談しましょう。弁護士が間に入れば相続人同士で直接話さなくて良いので、お互いに感情を抑えて話し合いができます。また弁護士は法律に詳しいので、当事者がどのように遺産を分ければ良いか判断しにくい場合でも、法律的に妥当かつ公平な分け方を提案できます。

さらに、弁護士には面倒な相続手続き全般も任せられます。手間を省いてスムーズに相続手続きできることも大きなメリットといえるでしょう。

京都の益川総合法律事務所では、遺産分割案件に力を入れて取り組んでいます。遺産分割がなかなか進まず困っている方がおられましたらお気軽にご相談ください。

共同相続した不動産を分割する方法

2022-12-29

不動産を相続すると、遺産分割協議を行う際に誰か1人の相続人が相続するのではなく、相続人全員の「共有」にしてしまうケースが少なくありません。共有状態のままではデメリットが大きいので、できるだけ早めに分割するようおすすめします。

この記事では相続不動産の共有とはどういった状態なのか、共有不動産を分割する方法をお伝えします。

他の相続人と共有している不動産を分割して分け合いたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

1.相続した不動産を共有する場合とは

まずは共有とはどういった状態なのか、みてみましょう。

1-1.共有とは

共有とは、複数の人が1つのものを共同所有している状態です。

共有していると、各共有者には「持分」という割合的な権利が認められます。そこで共有する人のことを「共有持分権者」といいます。

共有されている場合、対象物の管理や処分などは共有持分権者であってもが勝手に行えません。たとえば、共有物を売却するには共有持分権者全員の合意が必要です。

1-2.相続した不動産が共有になる場合

遺産相続が発生すると、相続不動産が共有になる場面が多々あります。

相続人が複数の場合、所有者が死亡すると不動産は被相続人の死亡と同時に相続人全員の間で共有されます。共有状態を解消するには、遺産分割協議で誰がどのように相続するのか決めなければなりません。

また、遺産分割協議でも1人の相続人を決められず、全員の共有にしてしまうケースがあります。この場合、「共有物分割請求」をしない限り不動産の共有状態が続いてしまいます。

2.不動産を共有するデメリット、リスク

不動産を共有していると、以下のようなデメリットやリスクが発生します。

2-1.他の相続人の合意がないと管理や処分ができない

1つは、他の相続人の同意がない限り管理や処分ができないことです。大規模修繕や売却、抵当権の設定などを行うには他の相続人全員の同意が必要です。相続人が多数になったり仲が悪かったりすると、同意をとるのは難しくなるでしょう。

そのため、円滑に活用や売却できず、放置されてしまう共有不動産も少なくありません。

2-2.固定資産税の清算でもめる可能性がある

共有不動産の場合、固定資産税はそれぞれの共有持分権者が持分割合に応じて負担しなければなりません。通常は代表者が一括して支払を行い、後で内部的に清算します。

ところが、清算に協力しない共有持分権者がいると、もめごとが発生してしまいます。

2-3.1人の相続人が使用してもめる可能性がある

共有持分権者はそれぞれが単独で共有物件を利用できます。

ただし、利用者は他の共有持分権者へ利用料の支払をしなければなりません。

利用料を払わずに単独使用する相続人がいると、もめごとの種になってしまいます。

2-4.さらに相続が起こって権利関係が混乱する可能性がある

不動産を共有している場合においてさらに相続が起こると、権利者が増えて権利関係が複雑になってしまいます。共有持分権者間でお互いに面識もないため、管理や処分がより難しくなってしまうケースも少なくありません。

3.不動産の共有状態を解消する方法

不動産を共有していると何かと不都合があるので、早めに分割するようおすすめします。

以下では、不動産の共有状態を解消する方法をパターン別にお伝えします。

3-1.遺産分割協議前の場合

遺産分割協議前の場合には、まずは遺産分割協議を行いましょう。

以下の3種類のうち1つの分割方法を選んで分割すれば、不動産の共有状態を解消できます。

①現物分割

不動産を誰か1人がそのまま相続する方法です。土地を分筆してそれぞれの相続人が取得する方法もあります。

②代償分割

誰か1人の相続人が不動産を相続し、他の相続人へ代償金を払って清算する方法です。

③換価分割

不動産を売却して売却金を相続人間で分け合う方法です。

3-2.遺産分割後の場合

遺産分割後の場合には、共有物分割請求を行って共有不動産を分割する必要があります。

共有物分割請求とは、共有となっているものを分割するための手続きです。基本的に各共有持分権者はいつでも共有物分割請求ができます。

■共有物分割の方法

①現物分割

共有不動産を物理的に分ける方法です。土地を分筆して分ける場合も含まれます。

②価格賠償

誰か1人が不動産を取得し、他の相続人へ代償金を払って清算する方法です。

③換価分割

不動産を売却して売却金を持分割合に応じて分け合う方法です。

3-3.共有物分割請求の流れ

①話し合う

相続した不動産を分け合うために共有物分割請求をしたい場合、まずは当事者同士で話し合いましょう。自分の持分を買い取ってもらうか、他の共有持分権者の持分を全部買い取れば、不動産の共有状態から脱却できます。売却して清算してもかまいません。

②場合により、共有物分割調停を申し立てる

話し合っても合意できず解決できない場合には、裁判所で共有物分割調停を申し立てる方法があります。調停では専門知識を持った調停委員が共有物分割の話し合いを仲介してくれます。合意ができれば合意した内容に従って共有不動産を分割できます。

なお、共有物分割においては訴訟前の「話し合い」は必須ですが、調停は必須ではありません。

調停をしても合意に見込みがないなら、協議後にすぐに次のステップの訴訟に移行してもかまいません。

③共有物分割訴訟を提起する

話し合いや調停を行っても合意できない場合、裁判所で共有物分割訴訟を提起しましょう。

訴訟では、裁判所が共有不動産の分割方法を決定してくれます。

4.最後に

京都の益川総合法律事務所では、不動産や相続案件に力を入れて取り組んでいます。お気軽にご相談ください。

亡くなった人を介護していたら遺産相続に影響する?~寄与分と特別寄与料について~

2022-12-23

亡くなった方を献身的に介護した親族がいる場合、その人が相続人なら「寄与分」、相続人でない親族なら「特別寄与料」の請求が認められる可能性があります。

寄与分と特別寄与料はよく似ていますが全く異なる制度なので、それぞれ認められる人や請求方法の違いなど、正しく理解しておきましょう。

この記事では、亡くなった人を介護していた親族がいることが、遺産相続にどのように影響するのかについて解説します。

1.相続人が介護したら寄与分が認められる可能性がある

相続人が被相続人を介護した場合、その相続人には「寄与分」が認められる可能性があります。

寄与分とは、遺産の形成や維持に貢献した相続人がいる場合、その相続人に認められる多めの遺産取得割合です。遺産の維持や形成に特別の貢献をした相続人には寄与分が認められ、遺産分割における遺産の取得割合が増えます。

相続人が被相続人を介護すると、本来なら頼まねばならなかった介護サービスを利用しなくて済むでしょう。

すると、遺産の維持や形成に貢献したといいうるので、介護した相続人に寄与分が認められる可能性があります。

1-1.寄与分の主張方法

寄与分を主張する場合、該当する相続人は遺産分割協議の中で主張しなければなりません。

遺産分割協議の場で他の相続人全員に向けて介護による寄与分を主張し、認められれば寄与分を加味して増額された遺産を受け取れます。

1-2.寄与分を主張する期限

2023年3月までは、遺産分割における寄与分の主張に期限はありません。しかし、2023年4月からは民法が改正され、基本的に相続開始から10年間しか主張できなくなります。

寄与分を認めてもらいたい場合には、早めに遺産分割協議を行って遺産を分ける方が良いでしょう。

2.相続人でなくても介護した親族には特別寄与料が認められる可能性がある

寄与分が認められるのは相続人のみです。

相続人以外の親族が被相続人を介護しても、その親族は寄与分を受け取れません。(ただし、相続人の妻や娘などの親族が介護した場合、相続人の寄与とみなして相続人に寄与分が認められる可能性はあります。)

例えば、長男の嫁や孫、甥姪などが被相続人を介護しても、本人は遺産を一切受け取れません。

それでは介護した親族が報われないので、法改正によってそういった親族に「特別寄与料」が認められるようになりました。

2-1.特別寄与料とは

特別寄与料とは、介護や事業の手伝いによって、被相続人の遺産の維持や形成に特別の貢献をした親族に認められる金銭請求権です。

相続人でなくても、被相続人を献身的に介護して遺産の維持や形成に貢献した一定範囲の親族には、「特別寄与料」が認められます。すると、その親族は、被相続人の死後に相続人へ「特別寄与料」というお金を請求できます。

特別寄与料を請求しても遺産そのものは受け取れませんが、金銭的な支払を受けられるメリットがあります。

2-2.特別寄与料が認められる親族の範囲

介護したとしても、すべての人に特別寄与料が認められるわけではありません。

特別寄与料が認められるのは、以下の範囲の「親族」に限られます。

  • 配偶者
  • 6親等以内の血族
  • 3親等以内の姻族

血族とは自分と血縁関係のある親族、姻族とは配偶者と血縁関係のある親族です。

例えば、長男の嫁や甥姪、孫などには特別寄与料が認められる可能性があります。

2-3.親族でも特別寄与料を請求できない場合

ただし、上記の親族の中でも以下の人は特別寄与料を請求できません。

  • 相続放棄した人
  • 相続欠格者
  • 相続廃除された人
  • 相続人

2-4.特別寄与料を請求する方法

特別寄与料を請求するには、請求者が相続人へ特別寄与料の支払を求める必要があります。

遺産分割の中ではなく、相続開始後に直接相続人へ請求します。相続人は法定相続分に応じて特別寄与料を負担します。

話し合って特別寄与料の支払について合意できれば、その合意内容に従って特別寄与料が支払われます。

話し合いができない場合、請求者は家庭裁判所で「特別の寄与に関する処分調停(審判)」を申し立てる必要があります。

すると、裁判所が「そもそも特別寄与料が認められるか」、また「認められるとすれば特別寄与料の金額」を定めてくれます。

2-5.特別寄与料を請求できる期間

特別寄与料は以下のうち、早い方の時期までしか請求できません。

  • 相続開始と相続人を知った日から6か月を経過したとき
  • 相続開始から1年を経過したとき

遺産分割の中で主張する寄与分とは違い、特別寄与料を請求できる期間は短期です。

請求したい場合には、早めに対応する必要があるといえるでしょう。

3.寄与分、特別寄与料はトラブルのもとになりやすい

寄与分や特別寄与料を請求する相続人がいると、トラブルになりやすいので注意しましょう。

主張された相続人が寄与を否定して支払を拒んだり、金額に折り合いがつかないケースが多いからです。

寄与分や特別寄与料を請求する場合又は請求を受けた場合には、弁護士に相談しておいた方が良いです。

もめてしまったときには早めに弁護士へ協議や調停、審判などの手続きを依頼しましょう。

4.最後に

京都の益川総合法律事務所では相続問題に積極的に取り組んでいます。

相続問題でお困りの際にはお気軽にご相談ください。

葬儀代を遺産から支払える?控除できる費用とできない費用についても解説

2022-12-16

故人の葬儀を出す場合、遺産から葬儀費用を支出しても良いのでしょうか?

結論的に、遺産から葬儀費用を支払えることが多いです。ただし、すべての費用が控除対象になるわけではありません。

この記事では、そもそも葬儀代を遺産から支払えるのか、また遺産から控除できる範囲などを京都の弁護士が解説します。

親族が死亡して葬儀を出そうとしている方や、すでに葬儀を行った方はぜひ参考にしてみてください。

1.葬儀代を支払う人

そもそも葬儀代は誰が支払うべきものなのでしょうか?

法律上、葬儀代を負担すべき人に明確なルールはありません。一般的には故人の配偶者や子どもが喪主となって葬儀を主宰し、葬儀費用を払うケースが多いでしょう。

ただ、喪主が葬儀費用を払ったとしても、自腹を切るとは限りません。

一時的に立て替えたとしても、以下のような費用から補填するケースが多数です。

  • 香典

葬儀を出すと香典が集まるケースが多いでしょう。香典は遺産ではなく喪主の個人財産になり、喪主が自主的に香典を葬儀費用に充てるケースが多数です。

  • 遺産

香典が不足する場合、遺産から葬儀費用を出すケースが多数となっています。

なお遺産によっても葬儀費用を払えない場合、相続人が等分で負担する場合があります。その場合、喪主が立て替えた費用を後で各相続人へ請求することになります。

2.葬儀代を遺産から払っても構わない

「葬儀代を遺産から支払っても良いのだろうか?」

と疑問をもつ方がおられます。

結論的に、葬儀代は遺産から支払ってかまいません。

法律上も問題ありませんし、税制上も葬儀代を支払った場合には相続税控除が認められています。

預金の仮払い制度を利用して出金したお金で葬儀代を払っても良いですし、喪主が葬儀代を一時的に立て替えた場合には後になって遺産から充当しても問題ないといえるでしょう。

但し、後に他の相続人と揉めることもあるので、事前に他の相続人からの了解を取っておかれた方がよいです。

3.葬儀代は遺産から差し引きできる

葬儀代を遺産から払った場合、遺産分割や相続税申告の際に控除ができます。

3-1.遺産分割の際に控除する方法

遺産分割を行う場合、遺産総額から葬儀代を差し引いた金額が遺産分割の対象になります。

例えば、遺産が1000万円で葬儀費用が100万円かかった場合、残り900万円が遺産分割の対象です。子ども3人が相続する場合、それぞれが300万円ずつの遺産を取得することになります。

3-2.相続税の場合

相続税の場合、遺産総額から葬儀代を差し引いた金額から基礎控除や債務を引いた金額が課税対象遺産となります。

例えば、遺産が5000万円で葬儀費用が200万円、相続人の数が3人、負債がない場合を考えてみましょう。

この場合の課税対象遺産額は5000万円-200万円-4800万円=0円です。

この事案では課税対象遺産額が0円になるので、相続税はかかりません。-

3-3.遺産から差し引きできる葬儀代

葬儀代を遺産から差し引けるとはいえ、すべての費用を控除できるわけではありません。

差し引きが認められるのは以下のような費用です。

  • 死体の捜索や遺骨運搬にかかった費用
  • 遺体や遺骨の回送費用
  • 葬式や葬送の費用(葬儀社へ払った費用など)
  • 火葬や埋葬、納骨の費用
  • お通夜など葬式の前後に必要な行事などにかかった費用
  • 葬儀の際、僧侶などへ読経料として払った費用

3-4.遺産から差し引きできない葬儀代

以下のような費用は遺産からの差し引きができません。

  • 香典返し必要となった費用
  • 墓石や墓地購入費用、墓地を借りる費用
  • 初七日や四十九日法要などの費用
  • 遺体の解剖や裁判における特別な処置にかかった費用

4.葬儀代を建て替える場合の注意点

喪主となって葬儀代を立て替える場合には、以下のような点に注意しましょう。

4-1.領収証をとっておく

葬儀費用を立て替えるなら、必ず支払いの領収証を取っておきましょう。後になって遺産から差し引く際、他の相続人から「本当にそんなにかかったのか」などと追及される可能性があるためです。

読経代など領収証の出ないものについては、メモを残しておきましょう。

4-2.預金の仮払い制度を利用する

葬儀代を立て替えるとき、手元資金を使いたくない方もいらっしゃいます。その場合には預金の仮払い制度を利用しましょう。仮払い制度を利用すると、1つの銀行から法定相続分の3分の1または150万円の低い方の金額まで出金できます。

これを葬儀代に充てると良いでしょう。

5.相続放棄した場合

遺産相続したくないので相続放棄する方もおられます。相続放棄する場合には遺産に手を付けてはなりません。遺産の内容となっている預金などを使うと相続放棄できなくなってしまうからです。

では、相続放棄する場合には遺産から葬儀代を払ってはいけないのでしょうか?

そういうわけではありません。

相続放棄しても葬儀代については遺産から支払っても良いことになっています。

但し、遺産から差し引く葬儀代の金額等によっては、相続放棄ができなくなってしまうので、遺産から葬儀代を支払う際には、弁護士に相談し、慎重に検討された方がよいです。

6.最後に

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。遺産の分け方・管理方法などに不安のある方は、お気軽にご相談ください。

他の相続人の妻や子どもを養子縁組されている場合の対処方法

2022-12-09

「兄の妻と子どもが父の養子になっているのですが、そういった養子にも遺産を分け与えないといけないのでしょうか?」

といった趣旨のご相談を受けるケースがあります。

遺産相続の際には、相続税対策などのために養子縁組するケースが少なくありません。養子にも相続権が認められるので、養子縁組が有効である限り基本的には遺産を分け与える必要があります。

ただし、一定のケースでは養子縁組が無効になる可能性もあります。

この記事では、他の相続人の配偶者や子どもが被相続人の養子になっている場合の対象方法や、養子縁組が無効になるケースについて解説します。

1.親族の養子にも相続権が認められる

特定の相続人の配偶者や子どもが、被相続人と養子縁組していると、その家族の遺産取得分が増えてしまいます。

養子にも実子と同様の相続権が認められるからです。

民法上、子どもは第一順位の相続人となっており、優先的に遺産を相続します。

相続人となる「子ども」には実子も養子も含まれますし、親族の養子だからといって相続できなくなる規定もありません。相続分も実子と養子で同等です。

よって、特定の相続人の配偶者や子どもが被相続人と養子縁組していると、その人達にも実子と同等の遺産を与えなければならないのが基本となります。

親族を養子縁組した場合の具体例

父親が亡くなり、子ども3人がおり(長男、長女、次男)、長男の妻と子ども(被相続人の孫)が養子になっていたケース。

この場合、もともとの子ども3人と長男の妻と子ども(孫)の合計5人が相続人となります。

よって、それぞれの相続人の遺産取得割合は5分の1ずつになります。

2.養子縁組が無効になるケース

被相続人と、特定の相続人の配偶者や子どもが養子縁組した場合、養子縁組が無効になる可能性はないのでしょうか?

一定の場合には、養子縁組が無効になる可能性があります。

養子縁組が無効になると相続人が減るので、他の相続人の遺産取得割合が増加します。例えば、先の例で、長男の配偶者と子どもの養子縁組が無効になれば、長男、次男、長女それぞれの遺産取得割合は3分の1ずつになります。

2-1.養子縁組の要件

養子縁組が有効に成立するには、以下の2つの要件を満たさねばなりません。

  • 親子関係を作る意思(縁組意思)
  • 養子縁組の届出をする意思(届出意思)

被相続人などの当事者に親子関係を作る意思がなければ、養子縁組が無効になる可能性があります。

また、養子縁組の届出が相続人などによって勝手に行われ、被相続人が了解していない場合には届出意思を欠くので養子縁組が無効になります。

2-2.養子縁組が無効になるケース

以下のようなケースでは、養子縁組が無効になる可能性があるでしょう。

  • 縁組によって親子関係を作る意思がなく、単に相続税の基礎控除枠を増やして節税するためだけに養子縁組をした場合
  • 当事者の一方が勝手に養子縁組届を作成し、養子縁組が受け付けられてしまった場合

2-3.養子縁組を無効とした裁判例 

裁判例の中にも養子縁組を無効と判断したものがあります。

例えば、養親となった人が日常的に養子縁組に否定的な発言を行っており、養子縁組した当時において認知証などと診断されていて寝たきりで失語症があった場合において、養子縁組が無効と判断された裁判例があります(名古屋家裁平成22年9月3日)。

養子縁組が行われて戸籍が書き換えられているからといって、必ずしも養子縁組が有効とは限らないので即断しないように注意しましょう。

2-4.他の相続人を排除するための養子縁組

養子縁組を行うとき、他の相続人の相続分を減らす目的を有するケースもあります。

他の相続人の相続分を減らす目的がある養子縁組は縁組意思を欠くものとして無効にならないのでしょうか?

この点については、たとえ他の相続人の相続分を排する目的があったとしても、親子としてのつながりを作る意思があるなら養子縁組は無効にならないと判断された判例があります(最高裁昭和38年12月20日)。

他の相続人を排除する目的のみでは養子縁組は無効になりません。

2-5.追認について

養子縁組が行われた時期には当事者に縁組意思や届出意思がなく、養子縁組が無効であっても、その後に追認されれば養子縁組は有効になる可能性があります。

例えば、父親の知らない間に長男が勝手に妻や子どもと父親との養子縁組届けを提出したとしましょう。

この場合でも、事情を知った父親が後から養子縁組を承諾したら養子縁組は有効になりえます。

3.養子縁組の無効を主張する方法

養子縁組の無効を主張するには、まずは家庭裁判所で養子縁組無効確認調停を申し立てなければなりません。

調停で話し合っても合意できない場合、家庭裁判所で養子縁組無効確認訴訟を提起する必要があります。

養子縁組の無効を主張する際には裁判所の複雑な手続きが必要となるので、困ったときには弁護士へ相談しましょう。

4.最後に

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続トラブルの解決に力を入れて取り組んでいます。

これまで養子縁組に関する事案も多数取り扱って参りました。

遺産相続で納得できないことがあれば、お早めにご相談ください。

胎児にも相続が認められるの?京都の弁護士が解説!

2022-12-01

「被相続人が亡くなったときにまだ生まれていなかった『胎児』にも相続権が認められるのでしょうか?」

基本的には胎児にも相続権がみとめられます。ただし、胎児が相続するには一定条件を満たさねばなりません。

すべてのケースで胎児が相続できるわけではないので、これを機会に正しい知識を持っておきましょう。

この記事では胎児に相続権が認められるのか、京都の弁護士が解説します。

妊娠中に配偶者がお亡くなりになって、相続人になった場合などにはぜひ参考にしてみてください。

1.胎児にも相続権が認められる

妊娠中に配偶者などが亡くなって相続人になったら、「生まれてくる子どもにも相続権があるのだろうか?」と疑問に感じる方もいらっしゃるでしょう。

結論的に、生まれる前の胎児にも相続権が認められます。理由をご説明します。

まず基本的に、遺産相続権などの権利を取得するには権利能力が必要です。胎児には権利能力がないので、本来なら遺産相続できないとも考えられます。

しかし、民法886条には以下の規定があります。

民法886条 (相続に関する胎児の権利能力)

胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。

2項 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

このように胎児には本来権利能力が認められませんが、相続については「すでに生まれたものとみなされる」ので、例外的に権利能力が認められるのです。

以上より、胎児にも相続権が認められる可能性があります。

2.胎児に相続権が認められる条件

ただし、すべてのケースにおいて、胎児に相続権が認められるわけではありません。

胎児に相続権が認められるには、胎児が「生きて生まれてくる」必要があります。

民法886条2項において「胎児が死体で生まれた場合には適用しない」と規定されているからです。残念ながら死産だった場合などには胎児は生まれていないので、遺産を相続できません。

3.胎児が相続人になる具体的なケース

胎児が相続人になるのは、具体的に以下のような場合です。

3-1.妻の妊娠中に夫が死亡した

典型的なケースは妻の妊娠中に夫が死亡した場合です。

この場合、胎児が無事に生まれてくれば、遺産相続権を取得します。

相続人は妻と子どもの2人になるので、法定相続分は妻が2分の1、子どもが2分の1になります。

3-2.出産前に離婚した

胎児が生まれる前に親が離婚した場合にも胎児に相続権が認められる可能性があります。

妻の妊娠中に離婚し、その後に元夫が死亡した場合です。

この場合、元妻(母親)は元夫(父親)と他人になっているので、元妻には相続権が認められません。

一方、子どもには相続権が認められます。よって子どもが無事に生まれてくれば、父親の遺産を相続できます。

3-3.胎児が生まれて間もなく死亡した

胎児が生まれてすぐに死亡した場合には遺産相続権が認められるのでしょうか?

結論的に、生まれた後にたとえ数分でも生きていれば、相続権が認められます。

すぐに死亡しても「子どもはいる」扱いになり、相続が発生するのです。ただし、胎児は死亡しているので、胎児の権利や財産は母親が相続します。

例えば、夫が死亡して3000万円の遺産が遺されたとしましょう。

妻が妊娠しており出産しましたが、子どもは数分で死亡しました。この場合、子どもの相続分も妻が相続するので、結局妻が3000万円の遺産を相続します。

4.胎児が遺産分割協議に参加する方法

胎児が遺産相続する場合、遺産分割協議の進め方が特殊になるので間違えないように注意しましょう。

子どもと母親の双方が遺産相続する場合、母親が法定代理人として遺産分割協議を進められません。母親と子どもの利益が対立してしまうからです。

子どもの取得分を減らすと母親の遺産取得分が増える(子供の取得分が増えると母親の相続分が減る)ので、適正な遺産分割を期待できません。このように利益が対立することを「利益相反」といいます。利益相反を認めると子どもの権利が害されるので、親であっても子どもを代理できないのです。

利益相反する場合、母親が胎児の代理人として遺産分割協議を進められないので、家庭裁判所で「特別代理人」を選任しなければなりません。

特別代理人が選任されると、特別代理人を子どもの代理人として遺産分割協議を進められます。

特別代理人には候補者を立てることができるので、相続関係のない親族などを選ぶと良いでしょう。

5.胎児が不動産を相続する方法

胎児が不動産を相続したら、相続登記をしなければなりません。

胎児が相続登記するときには、法定代理人である母親が代理してできます。出生届前の胎児には名前がないので、登記申請者名は「亡A妻B胎児」などと記載します。

但し、胎児が生まれる前に登記して、万一その後に胎児が死亡すると、相続がなかったことになってしまうので再度名義変更しなければなりません。

胎児に不動産を相続させるとしても、できれば生まれてから対応するのが好ましいといえるでしょう。

6.最後に

京都の益川総合法律事務所では遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。お悩みごとがありましたらお気軽にご相談ください。

遺産を独り占めされた時の対処法

2022-11-16

特定の相続人が遺産を独り占めしてしまう事案が珍しくありません。

例えば、被相続人(父親)と同居していた長男が父親の預貯金通帳などを取り込んで開示しない場合などです。中には遺産を使い込んでいるケースもみられます。

遺産は法定相続分に応じて分配するのが原則なので、独り占めは認められません。

この記事では、遺産を独り占めされたときの対処方法をお伝えしますので、是非参考にしてみてください。

1.遺産を開示してもらえないときの対処方法

特定の相続人が預貯金などの遺産を取り込んで開示しない場合、以下のように対応を進めましょう。

1-1.金融機関へ連絡して口座を凍結してもらう

まずは、被相続人名義の金融機関へ連絡を入れて、口座を凍結してもらうのが先決です。

口座が凍結されると、相手は勝手に口座から預金を出金できなくなります。

使い込みなどの不正行為を防止するため、早めに口座凍結しましょう。

1-2.残高証明書を依頼して遺産額を調べる

次に金融機関へ「相続開始時の残高証明書」の発行を依頼しましょう。

残高証明書とは、ある一定時における預金残高を示す証明書です。

基本的には、相続開始時の残高証明書に記載されている金額が遺産額となり、遺産分割の対象になります。

1-3.取引明細書を取得して使い込みがないかチェックする

特定の人が遺産を取り込んで開示しない場合、その相続人が遺産を使い込んでいる可能性もあります。

使い込みは残高証明書を見ただけではわかりません。「取引明細書」を取得して、詳細を調べましょう。取引明細書とは、一定期間における入出金や引き落とし、振込などの明細が書かれている書類です。

相続開始前後の取引明細書を見て不自然な出金や送金などがあれば、使い込みが疑われます。特に一時にまとまった金額が出金されている場合には、何に使ったのか相手に説明させる必要性が高いといえます。

2.遺産を使い込まれたときの対処方法

遺産の独占者が使い込んでいた場合には、以下のように対応しましょう。

2-1.使い込まれた金額を計算する

まずは、使い込まれた金額を計算しなければなりません。

取引明細書を見て使途不明金を確認し、合計しましょう。

2-2.返還請求を行う

使い込まれたと考えられる金額を計算できたら、相手に使い込まれたお金の返還請求を行いましょう。相手と話し合い、合意ができれば返還を受けられます。

使い込み金の返還を受ける際には、口約束ではなく合意書を作成しましょう。書面化しておかないと後で紛争を蒸し返される可能性があります。

2-3.合意できない場合

使い込まれたお金の返還について相手と話し合っても合意できない場合には、以下のように対応することが一般的です。

まずは、使途不明金のみならず、全体として遺産分割調停を申し立てて、使途不明金を含めて遺産に関する全体解決を試みます。

調停の中で、当該使い込みをした相続人が、使途不明金の自己使用を認めた場合には、調停内で処理することができますが、自己使用を認めない場合には、この段階で別途訴訟提起をすることを検討することになります。

当該使い込み部分のみ、訴訟提起をする場合には、不当利得や不法行為を理由として訴訟提起をします。

但し、相手方が自己使用を認めていない場合にも、当該調停の中で合意が成立することはあるので、実際には、調停の流れをみながら訴訟提起をするかを検討することとなります。

なお、時効が差し迫っている等の事情がある場合には、調停を経由せずに、速やかに使途不明金に関する訴訟提起を行うこともあります。

このように、使途不明金がある場合には、様々な選択肢の中から対応を検討する必要があるので、早期に弁護士にご相談頂いた方がよいと考えています。

2-4.使い込みの証拠となるもの

預金を使い込まれたときに訴訟などで返還を求めるには証拠が必要です。

使い込みの証拠となるものとして、以下のようなものを集めましょう。

  • 残高証明書
  • 取引明細書
  • 医療機関から発行してもらう診断書
  • 看護日誌などの医療記録
  • 介護施設に残された記録
  • 介護認定を受けた際の資料
  • 要介護度、要支援度を示す資料

残高証明書や取引明細書は、「使い込まれた金額」を証明するための証拠です。金融機関から取り寄せましょう。またこれらだけでは使い込まれた金額がわからないので、不正出金と疑われる取引額を合計して「使い込み金額の計算書」を作成する必要があります。

医療機関や介護施設での記録は「被相続人本人が使っていないこと、及び被相続人の意志に基づかない出金であることを裏付ける証拠」です。使い込みが行われると、相手から「本人が使った」や「本人の意志に基づいて出金した」と主張されるケースが多いため、反論を封じるのに「本人が使ったのではない証拠」や「本人の意思に基づいて出金したのではない証拠」が必要になります。

3.最後に

遺産を独り占めする相続人がいると、相続トラブルが大きくなりがちです。困ったときには早めに専門家へ相談しましょう。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続に関する案件を多数解決してきた実績があります。独り占めや使い込み問題でお困りの方は、是非とも一度ご相談ください。

国際相続について

2022-11-09

国際相続とは、遺産が海外にある場合や被相続人・相続人が海外居住している、あるいは外国籍になっている場合の相続です。

国際相続では日本人の相続とは異なる手続きが必要となるケースが多く、日本法が適用されない可能性さえあります。

どういったパターンでどのような対応が要求されるのか、正しい知識をもって対応しましょう。

今回は国際相続とはどういったものなのか、対処方法を中心に解説します。

国外財産があったり相続人が外国籍になっていたりして対応に困っている方はぜひ参考にしてみてください。

1.国際相続とは

国際相続とは、相続財産や相続関係者(被相続人や相続人)が国外にあったり外国籍になっていたりする場合の相続です。渉外相続ともいわれます。

国際相続の場合、日本法が適用されない場合もよくありますし、相続手続きに必要な戸籍謄本や不動産全部事項証明書などの書類を集められないケースが多くあります。

相続手続きが複雑になり、国内相続に輪をかけて専門的な知識と対応スキルが必要となってくるでしょう。

国際相続の典型的なケース

  • 遺産の一部や全部が外国にある
  • 被相続人が海外居住していた
  • 海外居住の相続人がいる
  • 外国人が日本で死亡した

上記のような場合、国際相続として日本の相続とは異なる対応が必要です。

2.国際相続の準拠法

国際相続が発生すると、どこの国の法律を適用するかがまず問題となります。

適用法律を「準拠法」といいます。

この点については「法の適用に関する通則法」36条・37条により、以下のように規定されています。

(相続)

36条 相続は、被相続人の本国法による。

(遺言)

37条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。

2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。

つまり、基本的には「被相続人(遺言者)」の本国法が適用されます。被相続人が日本人の場合には日本の法律が適用されるものと理解しましょう。

外国の法律が適用される場合

被相続人が外国人の場合には本人の本国法が適用されます。

また、被相続人が日本人の場合でも、遺産が海外に存在する場合には外国法が適用される可能性があります。

海外の法律では遺産の種類によっては「自国の法律を適用すべき」と規定されている場合があるためです。例えば、「金融資産は被相続人の本国法、不動産は所在地の法律」を適用すると規定されていたら、不動産については所在する国の法律を適用しなければなりません。

国際相続を進める際には「どの国の法律が適用されるのか」正確に見定めて、適用法の内容を調べて把握する必要があります。

3.相続人が外国籍の場合

海外居住が長くなって現地国に帰化した場合など、相続人に外国籍の方が含まれる場合には遺産分割協議書作成の際に注意が必要です。

確かに、相続人が外国籍でも被相続人が日本人なら日本法が適用されます。

ただ、相続人が外国籍の場合には遺産分割協議書を作成するための「印鑑証明書」や「住民票」を取得できません。この場合には、現地の結婚証明書や出生証明書などの書類を取得したり、宣誓供述書を作成したりする必要があります。

4.被相続人が外国籍の場合

被相続人が外国籍の場合には、被相続人の本国法が適用されます。

国によって相続に関するルールが異なるので、法律の内容を調べるところから始めねばなりません。

5.国外資産がある場合の遺産分割方法について

被相続人が日本人の場合、国外資産があっても基本的には日本法が適用されます。

相続人が全員参加して「遺産分割協議」を行い、全員が合意して遺産分けを進めましょう。

ただし、国外資産の場合、日本法に従って遺産分割協議をしても必ずしも効力が発生するとは限りません。

諸外国では、遺産に不動産がある場合には「不動産の所在地の法律」を適用し、不動産以外の遺産については「被相続人の住所地の法律」を適用するなど「相続財産の種類によって準拠法が変わる制度」をとっている場合があるからです。

このように、遺産の種類によって適用法を分ける考え方を「相続分割主義」といいます。

相続分割主義が採用されているのは以下のような国々です。

  • アメリカ
  • イギリス
  • フランス
  • 中国など

アメリカの場合、州によっても法律が異なる可能性があります。

相続分割主義の国に不動産がある場合には、その国の法律に従って遺産相続を進めないと財産の引き継ぎができないケースが多く、慎重な対応が要求されます。

遺産の中に海外不動産が含まれていたら、まずは所在地国の法律を調べて「日本の遺産分割協議が有効となるのか」明らかにしなければならないといえるでしょう。

6.相続統一主義の国について

日本のように「すべての遺産について同じ国の法律を適用する」考え方を「相続統一主義」といいます。ただし、相続統一主義にも「住所地法」を適用する場合と「本国法」を適用する場合の2種類があります。

以下でそれぞれの例をご紹介します。

被相続人の最後の住所地の法律を適用する住所地法主義

  • スイス
  • デンマーク
  • チリ
  • アルゼンチンなど

被相続人の国籍法を適用する本国法主義

  • 日本
  • 韓国
  • ドイツ
  • イタリア
  • オランダ
  • ブラジルなど

7.まとめ

国際相続では海外の法律を調べたり海外資産の調査・把握が必要となったりして大変な手間がかかります。詳しい法的知識が求められるので、弁護士への依頼が必須となるでしょう。

京都の益川総合法律事務所では遺産相続に力を入れて取り組んでおり、国際相続の解決実績も十分有しているため、国際相続に対応しなければならない方はお気軽にご相談ください。

遺産分割と生前贈与の関係について

2022-11-03

遺産分割を行う際、高額な生前贈与を受けた相続人がいたら、「特別受益」になる可能性があります。

特別受益を受けた相続人がいる場合、特別受益の持戻計算を行って各相続人の相続割合を修正する必要があります。

生前贈与を受けた相続人がいると、特別受益の持戻計算を巡って相続人同士でトラブルになるケースも少なくありません。スムーズに遺産相続できるよう、正しい知識をもって対応しましょう。

今回は、生前贈与により特別受益が成立する範囲や、生前贈与を受けた相続人がいる場合の対処方法についてお伝えします。

1.特別受益が成立する範囲

特別受益とは、特定の相続人が遺贈や贈与によって受けた利益です。

高額な財産を遺贈されたり生前贈与を受けたりした相続人がいる場合、遺贈や贈与された財産を無視して法定相続分通りに遺産分割すると、不公平になってしまいます。そこで、遺贈や生前贈与を受けた相続人がいる場合、その相続人の遺産相続分を減らせるのです。

その計算方法を「特別受益の持戻計算」といいます。

特別受益が成立するのは、以下のような遺贈や贈与が行われた場合です(民法903条)。

  • 遺贈
  • 婚姻や養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与

生前贈与が特別受益になる場合、贈与が行われた時期に制限はありません。相続開始の10年前でも20年前でも、相続人へ贈与が行われたら特別受益の持戻計算の対象になります。

■特別受益と遺留分の期間の違い

特定の相続人へ生前贈与が行われると、「遺留分侵害額請求」の対象になる可能性もあります。

遺留分侵害額請求とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められる遺留分が侵害されたとき、侵害された金額の支払いを求めることです。

遺留分侵害額請求の場合、対象となるのは「相続開始前10年間の特別受益」です。つまり相続開始前10年間の期間制限が適用されます(民法1044条3項)。

これに対し、特別受益の持戻計算の場合には10年の期間制限がありません。

特別受益と遺留分侵害額請求では「生前贈与が行われた時期」の考え方が違うので、間違えないように注意しましょう。

2.特別受益の持戻計算の基準時

生前贈与が行われたために特別受益の持戻計算を行う際には、贈与財産を評価しなければなりません。

例えば、不動産が贈与されたときには、贈与時と相続開始時と遺産分割時で価値が変動するでしょう。いつの時点の評価額を基準時とすべきか定める必要があります。

生前贈与が行われた場合の贈与財産の評価時は、基本的に「相続開始時」と理解されています。

例えば、生前贈与された不動産の価額が、以下の通りだったとします。

  • 贈与時…1500万円
  • 相続開始時…2000万円
  • 遺産分割時…2300万円

この場合、不動産は2000万円の評価の資産として計上します。

現預金の場合

現金や預金の場合、不動産のように価額が変動しません。

しかし、貨幣価値が変わるので、贈与された価額をそのまま適用すると不都合が生じるケースも考えられます。

そこで、理屈上は、物価変動率を考慮して、生前贈与時の価値を相続開始時の価値にスライドさせて調整を行うこととなりますが、実務上このような処理をすることは滅多にありません。

3.生前贈与が行われるとトラブルが大きくなりやすい

生前贈与が行われると、一部の相続人が「特別受益の持戻計算を行うべき」と主張し、他の相続人は「特別受益を受けていない」と反論するなどして、もめてしまうケースが多々あります。相続人同士で話し合っても解決できない場合には、遺産分割協議が成立しません。

家庭裁判所で遺産分割調停を行う必要があります。

調停では調停委員が間に入って話し合いを進めてくれますが、調停でも解決できない場合には遺産分割審判になって、裁判官が遺産分割の方法を指定します。

審判になると特別受益があったのか、特別受益の評価額なども裁判官が判断するので、ようやく最終的に決着がつきます。

このように、生前贈与が行われると相続トラブルが大きくなりやすいので、スムーズに解決するために弁護士に依頼するようおすすめします。

4.配偶者への贈与の場合の推定

特別受益の持戻計算が適用されると、相続人同士でトラブルになってしまうケースが少なくありません。

もめごとを回避するためにはどうすれば良いのでしょうか?

具体的には、被相続人が特別受益の持戻計算を免除できます。

例えば、遺言書などで「長男への贈与について特別受益持戻計算を免除する」と書き残していれば、特別受益の持戻計算は適用されません。

また、20年以上連れ添った配偶者へ居住用の不動産を贈与した場合には、特別受益の持戻計算の免除意思が推定され、基本的に免除されます。

被相続人が特に「特別受益も持戻計算を免除する」と意思表示しなくても、持戻計算の免除意思が推定されるのです。

5.まとめ

生前贈与が行われると、相続人同士でトラブルになって解決が困難となるケースも多々あります。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいますので、お悩みの際にはお気軽にご相談ください。

祭祀承継と相続について

2022-10-26

仏壇や神棚、墓地などの「祭祀財産」は遺産分割の対象になりません。

遺産分割協議で承継者を決めるのではなく、「祭祀承継者」へと承継されます。

今回は、祭祀財産の承継方法や相続税との関係について解説しますので、仏壇やお墓などの取り扱いに迷われている方はぜひ参考にしてみてください。

1.祭祀財産とは

祭祀財産とは、先祖を祀るための財産です。

祭祀財産は、遺産分割の対象になりません。遺産分割協議とは別に、祭祀承継者を決める必要があるので注意しましょう。

祭祀財産には以下の3種類があります。

1-1.「祭具」

祭具とは、祭祀(先祖を祀る儀式など)に使用するものを意味します。例えば、仏像、仏壇や位牌、神棚などです。但し、仏壇が建物と一体化している場合の仏間は祭具に含まれず建物の一部となります。

1-2.「系譜」

系譜は、いわゆる家系図です。先祖代々の人の氏名やつながりなどがかかれています。

巻物や掛け軸などとして代々受け継がれているケースがあります。

1-3.「墳墓」

墳墓は先祖の遺骨や遺体が葬られている設備です。例えば、墓碑や墓地、霊屋、埋棺などが該当します。

2.祭祀財産を承継する人

人が死亡して祭祀財産が遺された場合、誰が祭祀財産を承継するのでしょうか?

祭祀財産は「祭祀主宰者」が承継すると考えられています。祭祀主宰者とは、法事などの先祖を祀る儀式を執り行い、祭祀財産を管理する人です。

祭祀主宰者となって祭祀財産を承継する人を「祭祀承継者」といいます。

先祖代々伝わるお墓や仏壇仏具、家系図などは遺産分割の対象にならず、「祭祀承継者」が承継しなければなりません。

3.祭祀承継者を決定する方法

祭祀承継者は、以下の方法で決定します。

3-1.先代による指定

まずは、先代の祭祀主宰者による指定内容が優先されます。例えば、遺言などによって次の祭祀承継者が指定されていたら、その人が次の祭祀主宰者として祭祀財産を承継します。

3-2.慣習

先代による指定がない場合には、慣習によって祭祀承継者が決まります。

例えば、地域的な慣習や一族に伝わる慣習があれば、それらの基準で祭祀承継者を決めましょう。

指定がない場合、相続人による話し合いで祭祀継承者を決めることも可能です。

遺産分割協議とは別に、祭祀承継者について話し合って次の祭祀主宰者を決定しましょう。

3-3.家庭裁判所が指定

故人が祭祀承継者を指定しておらず慣習もなく相続人の話し合いによっても祭祀承継者が決まらない場合には、家庭裁判所が祭祀承継者を指定します。

まずは、関係者が家庭裁判所へ祭祀承継者指定調停を申し立てて、そちらで話し合うのが通常です。調停が不成立となったら審判へ移行して、裁判官が次の祭祀主宰者(祭祀承継者)を指定します。

4.祭祀主催者が行うべきこと

祭祀主宰者は以下のような職務を行わねばなりません。

  • 祭祀財産の管理

仏壇や仏具、神棚や家系図などの祭祀財産を引き継ぎ、適切な方法で保管する必要があります。

  • 法事などの祭祀の実施

法事などの祭祀は祭祀主宰者が中心となって執り行わねばなりません。但し、法要の開催は法律上の義務ではないので、実際には行わない人もいます。実施しなくても罰則はありません。

  • 祭祀財産を維持するための支払い

お墓などの祭祀財産を維持するには、管理料金を支払わねばなりません。傷みが発生したら修繕費もかかるでしょう。こういった祭祀財産を維持するための支払いは、祭祀承継者がしなければなりません。

5.祭祀財産には相続税がかからない

祭祀財産には相続税がかかりません。

税制上、非課税の資産と位置づけられているからです。祭祀承継者になったからといって相続税が上がってしまうことはありません。高額な仏壇や仏具、お墓などを引き継いでも相続税との関係は心配する必要は基本的にないといえるでしょう。

但し、祭祀財産といいながら換金目的で高額な仏壇仏具などを購入した場合、相続税を免れるための行為と考えられるので、相続税の課税対象となります。

6.祭祀主宰者が決まらない場合の対処方法

6-1.祭祀承継者指定調停を申し立てる

祭祀主宰者が決まらない場合には、家庭裁判所で「祭祀承継者指定調停」を申し立てましょう。

調停を申し立てると、裁判所の調停委員が間に入って祭祀承継者を誰にするか話し合うことができます。話し合っても決まらない場合、裁判官が審判によって次の祭祀承継者を指定してくれます。

6-2.祭祀財産を処分する

祭祀承継者になるとお墓の管理などをしなければならないので、親族の誰も祭祀承継者になりたくないケースがあります。その場合、祭祀財産を処分するのも一つの方法です。

例えば、古いお墓から魂を抜いて永代供養に付すと、その後はお墓の管理をしなくて済みますし、管理料金も払わずに済みます。いわゆる「墓じまい」をする方法です。

ただ、他の親族の意見を聞かずに勝手にお墓を処分すると後でトラブルになってしまう可能性があります。お墓を処分する際には、親族全員の意見を聞いて、全員が納得した状態で行いましょう。

京都の益川総合法律事務所では相続案件に力を入れて取り組んでいますので、お困りの際にはお気軽にご相談ください。

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