遺産分割
配偶者居住権についての相続法改正
近年、相続法が改正されて「配偶者居住権」が新設されました。
配偶者居住権とは、夫や妻に先立たれて遺された配偶者が家に住み続ける権利です。
相続時に配偶者が配偶者居住権を取得すると、家の所有権を取得するよりも有利に遺産分割をできる可能性があります。
ただし、配偶者居住権にはデメリットもあるので、正しく理解した上で対応を決めていただいた方がよいです。
そこで、今回は配偶者居住権に関する相続法改正について京都の弁護士が解説します。
1.配偶者居住権とは
配偶者居住権は、相続開始時に被相続人(亡くなった方)の所有する自宅に居住していた配偶者に認められる権利です。
配偶者が配偶者居住権を取得すると、所有権がなくても家に住み続けることができます。
また、所有権は配偶者以外の別の相続人が取得するので、家の権利が「所有権」の部分と「配偶者居住権」の部分に分かれます。
1-1.配偶者居住権が発生するケース
配偶者居住権が発生するのは、以下の場合です。
- 遺産分割で配偶者が配偶者居住権を取得する場合
- 被相続人が遺贈によって配偶者居住権を取得させた場合
- 死因贈与契約によって配偶者が配偶者居住権を取得した場合
ただし、自宅を被相続人や配偶者以外の第三者と共有している場合、配偶者居住権は設定できません。
1-2.配偶者居住権の期間
配偶者居住権の期間は自由に定められます。たとえば10年としてもかまいませんし、終身(配偶者が亡くなるまで)としてもかまいません。期間が短い方が、配偶者居住権の評価額は低くなります。
1-3.配偶者居住権と登記
配偶者居住権は登記できる権利です。
登記しないと配偶者は第三者へ配偶者居住権を対抗できないので、遺産分割などで配偶者居住権を取得したら早めに法務局で登記の申請をしましょう。
2.配偶者居住権には相続税がかかる
配偶者が配偶者居住権を取得した場合、評価額に応じて相続税が課税されます。
配偶者居住権の相続税評価額は、物件価額や配偶者居住権の存続期間、建物の耐用年数等の条件によって変わります。
基本的な計算式は、以下のとおりです。
国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4666.htm
ただし、配偶者が遺産相続する場合には、相続税の配偶者控除が認められ、法定相続分または1億6千万円までの分が控除されるので、実際に配偶者が相続税を納める事例はあまり多くないでしょう。
3.配偶者居住権を取得するメリット
3-1.家に住み続ける権利が保障される
配偶者が配偶者居住権を取得すると、権利が存続する間は家に住む権利が保障されます。
被相続人亡き後の配偶者の生活が守られるメリットがあるといえるでしょう。
3-2.他の遺産を相続しやすくなる
配偶者居住権の評価額は、所有権よりも低くなりますし、配偶者居住権を設定すると子どもなどの他の相続人が所有権を相続します。
遺産分割時、配偶者が配偶者居住権を取得して子どもなどの他の相続人が所有権を取得すると配偶者の遺産取得枠が大きくなり、預貯金などの他の遺産を相続しやすくなるメリットがあります。家に住めるだけではなく、多めの遺産を取得できるので生活を維持しやすくなるでしょう。
3-3.代償金を払わなくても家に住める
配偶者が家の所有権を取得するには、他の相続人へ代償金を払わねばならないケースもあり、払えない場合には家を出ていかざるを得えないケースもありました。
配偶者居住権を取得すれば他の相続人へ所有権を取得させられるので、代償金を払わなくても家に住み続けやすくなります。
4.配偶者居住権の注意点
配偶者居住権を設定する際には以下のような点に注意しましょう。
4-1.配偶者居住権は売却できない
配偶者居住権は配偶者のみに認められる権利なので、売却できません。
たとえば介護施設へ入所するのにまとまったお金を用意したいとき、配偶者居住権を取得した配偶者は家を売ってお金を得ることができません。
配偶者居住権を放棄する代わりに建物の所有者に対価を求めるか、所有者の承諾を得て第三者に賃貸するくらいしか、お金を得る方法がないので注意が必要です。
4-2.修繕などの費用負担の問題がある
不動産を維持していくには、修繕費などの費用が発生するものです。
配偶者が配偶者居住権を取得すると、配偶者と所有者が話し合って費用負担方法を決めなければなりません。
配偶者と所有者の関係が円満でない場合やコミュニケーションをとりにくい場合、費用負担の話し合いがスムーズに進まず精神的負担も大きくなるでしょう。
4-3.所有者による売却が困難になる
配偶者居住権が設定されている家も、所有者は売却できます。ただし配偶者居住権がついている以上、購入者は実際に居住できません。
買い手がつきにくいため配偶者居住権つきの家を売るのは、現実的に難しくなるケースが多数です。
5.配偶者居住権の施行時期
配偶者居住権に関する規定が施行されたのは2020年4月1日であり、現在すでに有効です。配偶者が遺産分割時に希望して全員が合意すれば、配偶者居住権を取得できます。
6.配偶者居住権については弁護士へご相談を
配偶者居住権にはメリットもデメリットもあるので、設定の際には所有者との関係性なども踏まえて慎重に検討すべきです。そのため、弁護士から法律的なアドバイスを受けてから判断されるのが良いです。
京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れていますので、関心や疑問がありましたらお気軽にご相談ください。

当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
お悩みの方は、是非お気軽にお問い合わせ下さい。
遺産相続に強い弁護士の特徴
遺産分割や遺留分など「相続」に関する案件を依頼するなら「遺産相続に強い弁護士」を選ぶべきです。
ひとことで「弁護士」といってもそれぞれ得意分野、専門分野があるので、誰でもよいわけではありません。また、人生にそう多くあるものではない重大事項を任せるのですから、相性も重要です。
今回は遺産相続に強い、頼りになる弁護士の特徴や選び方を京都の弁護士がご紹介しますので、相続案件のご依頼を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
1.遺産相続に強い弁護士の特徴
遺産相続に強い、頼りになる弁護士の特徴として、以下のような点をあげられます。
1-1.遺産相続の解決実績が豊富
1つは遺産相続案件についての解決実績です。
一般的に、数多くの遺産関係事件を解決した経験が多ければ、その分知識やノウハウも蓄積していると考えられます。
これまでの事件を参考にした実践的なアドバイスも期待できるでしょう。
当事務所は1983年創業の老舗法律事務所であり、これまで遺産額が8億円以上の大規模相続の案件や多数の不動産が絡む案件、権利関係が複雑で難しい案件など、多数の案件を解決して参りました。
解決実績として不足はないと自負しております。
1-2.遺産相続関係の業務を多く取り扱っている
過去にたくさんの遺産相続案件を取り扱っていても、現在はあまり取り扱っていない事務所もあります。積極的でない事務所に依頼しても、良い解決は望みにくいと思われます。
現在においても積極的に遺産分割や遺留分、遺言書作成等の案件に注力している弁護士事務所を選ぶことが重要です。
1-3.研究熱心
遺産相続分野においても、さまざまな法律や制度の変更があります。たとえば最近では相続法が大きく改正され、遺産分割や遺留分、遺言書についての取り扱いが変更されました。
依頼する弁護士を選ぶなら、法改正や制度の改正、判例の変更などについて研究熱心で最新の情報へ更新している人を選びましょう。
1-4.他業種と連携している
遺産相続案件を解決するには、弁護士だけではなく司法書士や税理士の力が必要となるケースが多々あります。
たとえば、相続税に関する税務相談や申告は税理士の業務となります。また、遺産の中に不動産が含まれていれば、司法書士へ登記を依頼しなければなりません。
相続に力を入れている弁護士は、通常税理士や司法書士とも連携して一丸となって案件の解決に取り組んでいるものです。弁護士を選ぶ際には、他業種と連携しているかどうかもチェックしましょう。
当事務所でも遺産相続案件に力を入れている税理士や司法書士と提携していますので、安心してご相談ください。
1-5.リスクも説明してくれる
遺産分割や遺留分請求などを行うとき、依頼者にとって有利な事情ばかりがあるとは限りません。ときにはリスクもあり、不利な状況となっているケースもあるでしょう。
誠実な弁護士は、メリットだけではなくデメリットやリスクも説明してくれるものです。
問題になりそうな点もはっきり指摘してくれる弁護士に注目してみてください(ただし消極的な対応で否定的な意見しか述べない弁護士には依頼すべきではありません)。
1-6.相性が良い、信頼できる
弁護士との相性も重要です。
実際に話してみて話しやすいと感じられる人、信頼感をもてる人を選びましょう。
話しにくい人を選んでしまうと、長い遺産相続案件解決までの道のりの中で、ストレスを感じてしまいます。
2.弁護士を選ぶときに重要な視点
上記以外にも、一般的に弁護士を選ぶ際には以下のような視点が重要です。
2-1.費用が明確である
1つは弁護士費用です。
費用体系が明確でわかりやすいかどうか確認しましょう。
2-2.コミュニケーションをとりやすい
弁護士とコミュニケーションをとりやすいかどうかも確認してください。
たとえば電話がつながりやすいか、つながらなかったとしても折り返してもらえるか、メールの返事は早いか、など弁護士事務所によって対応が大きく異なります。
メールは遅くとも3営業日以内には返信してくれる弁護士事務所がよいでしょう。
2-3.時間的場所的なアクセスが良い
アクセスも重要です。
弁護士に案件を依頼すると何度も通わねばならないので、なるべく交通アクセスの良い事務所を選びましょう。
また、夜間や土日祝日の相談を希望されているのであれば、相談日時についても柔軟に対応してもらえる弁護士事務所が良いです。ご事情に応じて依頼する弁護士事務所を決定しましょう。
3.最後に
当事務所は1983年の創業以来、数々の遺産相続案件を解決してまいりました。現在も法令や裁判例の研究を欠かさず、積極的に遺産分割や遺留分関係の案件を受任しております。
親身かつ迅速丁寧な対応を心がけておりますので、京都・滋賀・大阪・兵庫で弁護士をお探しの方はお気軽にご相談ください。

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遺産分割と遺留分侵害額請求の違い
「遺産分割と遺留分侵害額請求の違いがわかりません」
といったご相談を受けることがあります。
遺産分割と遺留分侵害額請求は、全く異なる内容になります。
遺産分割は、法定相続人が遺産を分け合うことであるのに対し、遺留分侵害額請求権は遺言や贈与で遺留分を侵害された人が金銭的な補償を求めることです。
とはいえ、相続の場面では、「遺産分割」や「遺留分」などいろいろな言葉が出てくるので、混乱してしまうこともあるかと思います。
今回は、遺産分割と遺留分侵害額請求の違いやそれぞれが問題となる場面について、京都の弁護士が解説します。
1.遺産分割とは
遺産分割とは、法定相続人が遺産の分け方を決めることです。
不動産や預貯金などの遺産が残されたとき、遺言がなければ法定相続人が法定相続分に従って分配するのが原則です。
ただし、法律は「法定相続分」という「割合」しか定めていません。具体的にどの相続人がどの遺産を相続するのかは、本人たちが話し合って決めなければなりません。
そのための手続きが遺産分割です。
相続人が話し合って遺産分割を決めるのが遺産分割協議で、話し合いでは決められない場合には家庭裁判所で遺産分割調停や遺産分割審判を行って遺産分割方法を決定します。
2.遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、不公平な遺言書や贈与によって遺留分を侵害されたとき、遺留分権利者が侵害者へ金銭請求を行うことです。
兄弟姉妹以外の相続人が法定相続人となる場合、一定額の遺留分が認められます。遺留分とは、遺言や贈与によっても奪えない最低限の遺産取得割合です。
遺言や贈与によって遺留分まで受け取れなくなると、権利者は侵害者へ「遺留分侵害額請求」を行い、金銭的な補償を求められます。
それが遺留分侵害額請求です。
3.遺産分割と遺留分侵害額請求の違い一覧表
遺産分割と遺留分の違いについて、一覧表でまとめました。
遺産分割 | 遺留分侵害額請求 | |
当事者 | 法定相続人 | 遺留分権利者 |
問題となる状況 | 遺言によって相続方法が指定されていない場合 | 遺留分権利者の遺留分が侵害された場合 |
方法 | 遺産を分け合う。現物分割、代償分割、換価分割、共有等が可能 | 金銭賠償 |
進め方 | 遺産分割協議、調停、審判 | 話し合い、調停、訴訟 |
割合 | 法定相続分 | 遺留分 |
時効や期間制限 | なし | 相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内 |
以下でそれぞれについて、解説します。
3-1.当事者
遺産分割の当事者は「法定相続人」です。
法定相続人となる可能性があるのは、以下の親族です。
- 配偶者
- 子どもや孫、ひ孫などの直系卑属
- 親や祖父母、曽祖父母などの直系尊属
- 兄弟姉妹と甥姪
配偶者は常に法定相続人になりますが、他の相続人には順序があります。
もっとも優先されるのは子どもや孫、ひ孫などの直系卑属で、2番目は親や祖父母、曾祖父母などの直系尊属、3番目が兄弟姉妹と甥姪です。
なお、孫や祖父母、甥姪などは常に相続人になるわけではありません。
孫の場合には「子どもが先に死亡している場合」、甥姪の場合には「兄弟姉妹が先に死亡している場合」に代襲相続人となります。
対して、遺留分が認められるのは、兄弟姉妹や甥姪以外の法定相続人であり、兄弟姉妹や甥姪が相続人となっても遺留分侵害額請求はできません。
3-2.問題となる状況
遺産分割は、遺言書によって遺産分割方法が指定されていない場合に行うものです。遺産分割しないと、いつまでも遺産分割方法が決まらず名義変更などの手続きができません。
遺留分侵害額請求は、遺言や贈与によって遺留分を侵害されたときに権利者が行えるものです。必ずしなければならないものではありません。
3-3.方法
遺産分割は「現物分割」「代償分割」「換価分割」などの方法で行います。どの方法で分け合うかは相続人の話し合いや調停などの手続きによって決定します。
遺留分侵害額請求は、基本的に「金銭賠償」で解決します。ただし双方が納得すれば、不動産などで代物弁済してもかまいません。
3-4.進め方
遺産分割は、まず法定相続人が全員参加して「遺産分割協議」を行い、話し合いでの合意を目指します。決裂したら家庭裁判所で遺産分割調停や審判を申し立てて解決するのが一般的な流れです。
遺留分侵害額請求は、通常遺留分権利者と侵害者が話し合って遺留分侵害額の支払い方法を決定します。
話し合いが決裂したら遺留分侵害額の請求調停を申し立てて、それも不成立となったら遺留分侵害額訴訟を提起して解決する流れとなります。
3-5.割合
遺産分割の場合、「法定相続分」に応じてそれぞれの相続人が遺産を取得します。ただし話し合いで全員が合意すれば法定相続分に従う必要はありません。
遺留分侵害額請求の場合、請求者の「遺留分」に相当する金銭を請求します。複数の遺留分権利者がいる場合、遺留分の割合は法定相続分より小さくなります。
3-6.時効や期間制限
遺産分割協議には時効や期間制限はありません。相続開始後何年が経過しても遺産分割できますし、放置しているなら早めに行うべきです。
一方、遺留分侵害額請求の場合「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内」に相手へ請求しなければなりません。
4.最後に
遺産分割や遺留分侵害額請求でわからないことがありましたら、お気軽に京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

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法定相続分と遺留分の違い
「法定相続分」と「遺留分」には大きな違いがあり、全く異なるものといっても過言ではありません。
遺産分割協議の際に重要なのは法定相続分、不公平な遺言や贈与があったときに問題になるのが遺留分です。
「法定相続分」と「遺留分」を混同してしまう方も多いです。
今回は法定相続分と遺留分の違いについて、京都の弁護士がわかりやすくご説明しますので、遺産相続された方はぜひ参考にしてみてください。
1.法定相続分とは
法定相続分とは、法定相続人に認められる原則的な相続割合です。
遺産分割を行うときには、基本的に法定相続分に従って相続人が遺産を分配します。
たとえば、配偶者と1人の子どもが相続人になる場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子どもが2分の1です。
ただし、法定相続人が全員納得すれば、法定相続分と異なる割合で遺産分割してもかまいません。
2.遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される最低限の遺産取得割合です。
遺贈や贈与によって遺留分を侵害されると、侵害された遺留分権利者は侵害者に対し「遺留分侵害額」を請求できます。
不公平な遺言や贈与が行われると、配偶者や子どもなどの親しい相続人であっても遺産をまったく、あるいはほとんど受け取れなくなる可能性があります。
それでは相続人の期待が害されるので、親しい相続人には最低限の遺産取得分として遺留分が保障されているのです。
遺留分が侵害されたときに相手に請求できるのは「お金」であり、不動産や株式などの「遺産そのもの」を取り戻すことはできません。
3.法定相続分と遺留分の違い
法定相続分と遺留分にはどういった違いがあるのか、みていきましょう。
3-1.認められる人
まずは「認められる人」が違います。
■法定相続分が認められる人
法定相続人になる可能性のあるのは以下の親族です。
- 配偶者
- 子ども、孫、ひ孫などの直系卑属
- 親、祖父母、曾祖父母などの直系尊属
- 兄弟姉妹、甥姪
配偶者以外の相続人には順序があります。
- 子どもや孫などの直系卑属がもっとも優先される第1順位
- 親や祖父母などの直系尊属が次に優先される第2順位
- 兄弟姉妹と甥姪はもっとも劣後する第3順位
■遺留分が認められる人
遺留分が認められるのは、相続人となった以下の親族です。
- 配偶者
- 子ども、孫、ひ孫などの直系卑属
- 親、祖父母、曽祖父母などの直系尊属
兄弟姉妹と甥姪が相続人になっても遺留分が認められません。
3-2.割合
法定相続分と遺留分では、認められる割合も異なります。
■法定相続分の割合
法定相続分の割合は、誰が相続人になるかで異なってきます。
- 配偶者と子どもが相続人…配偶者が2分の1、子どもが2分の1
- 配偶者と親が相続人…配偶者が3分の2、親が3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人…配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
- 子どものみが相続人…1人なら全部、複数なら人数割
- 親のみが相続人…両親なら2分の1ずつ、両親のいずれかのみなら全部
- 兄弟姉妹のみが相続人…1人なら全部、複数なら人数割
全員分の法定相続分を合算すると1(100%)になります。
■遺留分の割合
遺留分は「最低限度の保障分」なので、全員分を足しても1(100%)にはなりません。
全員分を合わせた遺留分の割合は以下のとおりです。
- 親などの直系尊属のみが相続人(遺留分権利者)…遺産全体の3分の1
- それ以外のケース(配偶者や子ども、孫が相続人に含まれる場合)…遺産全体の2分の1
相続人が複数いる場合、上記の割合を法定相続分で割り算して分配します(ただし配偶者と兄弟姉妹が相続人になる場合、配偶者の遺留分が2分の1です)。
たとえば配偶者と2人の子どもが遺留分権利者となる場合、配偶者の遺留分は2分の1×2分の1=4分の1、子どもたちの遺留分はそれぞれ2分の1×4分の1=8分の1ずつとなります。
3-3.問題となる場面
法定相続分と遺留分は、問題となる場面がまったく異なります。
■法定相続分が問題となる場面
法定相続分が問題になるのは、「遺産分割」を行うときです。
遺産分割協議や調停、審判では基本的に「法定相続分」に従って遺産を分配します。
ただし遺言書によって相続分が指定されていたら、遺言内容が優先されるので法定相続分は適用されません。
たとえば長男と次男が相続する場合でも「遺産を全部長男に相続させる」と書いてあったら、法定相続分は適用されず、次男はまったく相続できなくなります。
■遺留分が問題となる場面
遺留分が問題となるのは、不公平な遺贈や贈与が行われたときです。
たとえば「長男にすべての財産を相続させる」と遺言が遺されて次男がまったく相続できなくなると、次男は長男へ遺留分侵害額請求ができます。
3-4.請求期限と争いを解決する方法
法定相続分に従って行う遺産分割に期限はありません。
遺産分割協議が成立しない場合、家庭裁判所で遺産分割調停または審判を申し立てて解決を目指します。
遺留分侵害額請求は、「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内」に行わねばなりません。
相手との話し合いで解決できない場合、家庭裁判所で遺留分侵害額の請求調停を申し立て、不成立になったらあらためて地方裁判所(簡易裁判所)で遺留分侵害額請求訴訟を提起する必要があります。
当事務所では遺産相続に関するアドバイスや交渉、調停などの代理サポートに積極的に取り組んでいます。京都・滋賀・大阪・兵庫で相続トラブルにお困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

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遺産分割協議書のひな形(書式、テンプレート)と書き方を弁護士が解説
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
「どのように書けばよいのかわからない」といったご相談も多数お受けします。
そこでこの記事では遺産分割協議書の正しい書き方を、ひな形つきで弁護士が解説します。
これから遺産分割協議書を作成する方はぜひ参考にしてみてください。
1.遺産分割協議書のひな形(書式、テンプレート)
まずは遺産分割協議書のひな形を掲載するので、全体をみてみましょう。


2.遺産分割協議書の書き方
上記のひな形を参考に、遺産分割協議書の書き方のポイントを説明します。
2-1.被相続人の表示
まずは「遺産分割協議書」というタイトルを書いて、被相続人についての情報を表示しましょう。
具体的には以下の内容を書く必要があります。
- 氏名
- 本籍地
- 最後の住所地
- 生年月日
- 死亡年月日
本籍地は「死亡時の戸籍謄本(除籍謄本)」に記載されており、住所地は住民票にかかれている住所です。2つは異なるケースがあるので、間違えないように注意しましょう。
2-2.ひな形にない財産の表示方法
上記のひな形では不動産と預貯金、株式の表記をしましたが、他に現金や自動車を取得する場合もあります。
■現金の表示方法
現金を取得する相続人がいる場合、以下のように記載しましょう。
相続人鈴木一郎は次の遺産を取得する。
【現金】 金3,000,000円
■自動車の表示方法
車検証を確認し、以下の情報で車両を特定しましょう。間違えると車の名義変更ができない可能性もあります。
・車名 ○○○
・登録番号 〇〇1234567
・型式 ABC-D123
・車台番号 L123S-3456789
2-3.後日に発見された財産の取り扱いを定める
遺産分割協議書を作成する場合、「遺産分割後に発見された遺産の取り扱い」についても記載しておくべきです。
取り決めをしておかないと、遺産分割後に新たに財産が発見されたとき、また話し合いのやり直しになってしまいます。
新たな遺産については、できれば「相続人のうち1人」が取得すると定めておくのがよいでしょう。そうすれば、あらためて全員が参加して話し合いをする必要がありません。
上記ひな形では被相続人の配偶者である鈴木花子氏が取得する内容にしています。
ただしどうしても誰が新たな遺産を取得するか決められない場合には、「発見されたときに相続人全員があらためて協議する」と定めておきましょう。
2-4.代償金を払う場合の書き方
不動産を相続する場合、不動産を取得する相続人が他の相続人へ「代償金」を払って清算するケースがよくあります。
その場合、以下のように表記しましょう。
相続人鈴木花子は、第〇条に記載する遺産を取得する代償として、相続人鈴木一郎及び樋口優子に対してそれぞれ金500万円を2022年〇月〇日までに支払う
2-5.換価分割の場合の書き方
不動産を売却して現金で分ける方法を「換価分割」といいます。
換価分割する場合の遺産分割協議書の書き方は以下のとおりです。
■相続人全員で売却する場合
相続人らは次の不動産を売却し、売却代金から売却に伴う諸費用(不動産仲介手数料、登記手続き費用、譲渡所得税その他売却にかかる費用)を控除した残りの金額を、相続人鈴木花子が2分の1、相続人鈴木太郎及び樋口優子がそれぞれ4分の1ずつ取得する
■相続人の代表者が売却する場合
1.次の不動産は相続人鈴木一郎が取得する。
土地と建物の表示
2.前項の不動産を売却し、売却代金から売却に伴う諸費用(不動産仲介手数料、登記手続き費用、譲渡所得税その他売却にかかわる費用)を控除した残りの金額を、相続人鈴木花子が2分の1、相続人鈴木太郎及び樋口優子がそれぞれ4分の1ずつ分配する
3.最後に
遺産分割協議書は、相続人の構成や分け方によって表記方法を変える必要があります。
正しく作成しないと名義変更などの手続きを受け付けてもらえないリスクが発生します。
京都・滋賀・大阪・兵庫で遺産相続をされた方は、益川総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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相続不動産から生じる賃料の分割方法
遺産の中に賃料収入が発生する収益不動産が含まれていると、相続人間で「賃料をどのように分けるべきか」との争いが生じるケースが多々あります。
収益不動産の賃料については、遺産分割前は「相続人全員が法定相続分に従って分配」することとなっており、遺産分割後は「全部、不動産を相続した相続人のもの」となります。
今回は収益不動産の賃料の分割方法を解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
1.遺産分割前の賃料
相続が発生しても、遺産分割協議が成立するまでには時間がかかります。
その間に発生した賃料は誰のものになるのでしょうか?
法律上、遺産分割前の賃料は「法定相続人が法定相続分とおりに取得する」と理解されています(最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決)。
最終的に遺産分割協議によって収益不動産を特定の相続人が承継するとしても、遺産分割前の賃料は、それぞれの相続人が法定相続分に応じて取得できる権利があります。
1-1.賃料の分け方 具体例
- 収益不動産の賃料が月々10万円、相続人は子ども4人、相続発生時から遺産分割協議成立時まで10か月かかり、最終的に長男が物件を相続したケース
遺産分割協議が成立するまでの間に100万円の賃料が発生します。子どもたち4人にはそれぞれ法定相続分である25万円ずつ受け取る権利が認められます。
1-2.収益不動産の賃料でトラブルを避ける方法
トラブルを避けて円満に解決するには、遺産分割協議が成立するまでの間、賃料をどこか1つの口座(相続人の代表者名義の口座など)で管理し、相続人全員が可視化できる状態にしましょう。清算は月ごとでも遺産分割後まとめて行ってもかまいません。
1-3.特定の相続人が賃料を独占している場合の対処方法
収益不動産を相続すると、特定の相続人が賃料を独占してしまうトラブルも発生します。
上記のとおり、他の相続人には法定相続分とおりに賃料を受け取る権利が認められるので、独占されたら相手へ賃料の取り戻しを請求できます。
まずは独り占めしている相続人に対し、法定相続分に応じた賃料を支払うよう求めましょう。相手が応じない場合には、訴訟を起こして賃料の返還を請求する必要があります。
困ったときには弁護士までご相談ください。
2.遺産分割後の賃料
遺産分割が済んだら、賃料は全額「不動産を相続した相続人のもの」となります。
たとえば長男が不動産を相続したら、遺産分割後の賃料はすべて長男が取得します。
2-1.収益不動産を相続したときの対応
遺産分割で収益不動産を取得したら、以下のような対応を行いましょう。
・相続登記する
まずは不動産の名義変更を行うべきです。不動産を相続した場合、名義変更をしなければ相続を第三者へ対抗できません。
また近いうちに法改正により、相続した不動産の登記が義務化されることが決まっています。ペナルティを避けて自分の権利を明らかにするために、早めに法務局で相続登記を申請しましょう。
・賃借人へ通知する
収益不動産を相続したら、賃借人への通知も行うべきです。
遺産分割協議によって自分が相続人になったことを告げて、今後の賃料は自分名義の口座へ振り込むよう伝えましょう。
賃貸借契約書の巻き直し(名義変更)は必須ではありませんが、権利関係を明確にするために作成し直すことをおすすめいたします。
2-2.敷金について
収益不動産を相続したら、敷金返還債務も相続します。
敷金返還債務は「負債」の一種なので「法定相続人全員へ法定相続分に応じて相続されるのでは?」と考える方もおられるかもしれません。
しかし裁判所は「敷金返還債務は賃貸借契約に付随して大家になった相続人が引き継ぐ」を判断しています(大阪高等裁判所令和元年12月26日)。
よって収益不動産を相続したら、契約終了時に相続人が単独で借主に敷金を返さねばなりません。
なお遺産分割協議の際に「敷金については法定相続人が法定相続分に応じて負担する」と取り決めた場合には、各相続人が敷金を法定相続分に応じて支払うことも可能です。
3.遺言がある場合
遺言により、収益不動産を特定の相続人に相続させると指定されていた場合には、相続開始時から物件の所有者は指定された相続人に確定します。
よって相続開始当初から、賃料は指定された相続人が全額受け取ります。
遺産分割協議も行わないので、法定相続分に応じた分配も行われません。
4.不動産を共有する場合
遺産分割協議の結果、収益不動産を誰が相続するか決められず、相続人全員の「共有状態」にするケースがまれにあります。
共有にすると、遺産分割後も賃料を相続人全員で分配し続けなければなりません。
また共有者全員の合意がないと売却や抵当権の設定などが難しくなり、建物のリフォームの際にも他の共有者と話し合う必要があります。意見が合わずにトラブルになるケースも多いので、おすすめできません。
遺産の中に収益不動産が含まれていたら、特定の相続人を決めて相続手続きを進めましょう。
5.最後に
収益不動産は、遺産分割協議の際にトラブルの火種になるケースがよくあります。
当事務所では相続案件に力を入れて取り組むのみならず、多数の不動産会社の顧問も行っております。
京都・滋賀・大阪で収益不動産が問題になったらお気軽にご相談ください。

当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
お悩みの方は、是非お気軽にお問い合わせ下さい。
海外居住の相続人がいる場合の遺産分割協議
相続人の中に海外居住の人がいる場合、遺産分割協議の際に通常の事案とは異なる対応を要求されます。たとえば海外居住の方は印鑑証明書や実印を用意できないので「サイン証明書」を取得しなければなりません。
今回は海外居住の相続人がいる場合の遺産分割協議の進め方や遺産分割協議書の書き方について解説します。
1.遺産分割協議の進め方と注意点
海外居住の相続人がいる場合でも、遺産分割協議には相続人全員が参加し、全員が合意しなければなりません。とはいえ直接会って話し合うのは中々困難です。今はオンライン会議やメール、電話などの通信手段が充実しているので、こういったツールを用いて話し合いを進めましょう。
トラブルになりやすい傾向も
海外居住の相続人がいる場合、他の相続人において「故人とほとんどかかわっていないのだから取得する遺産を減らすべき」と考えるケースがあります。一方で海外居住の相続人は「法定相続分とおりに分割してほしい」と希望するでしょうから、意見が合わずにトラブルになりやすい傾向にあります。
法律的には海外居住で故人とのかかわりが薄くても、法定相続分を取得する権利が認められます。一方、他の相続人の貢献が寄与分として認めることもあります。
当事者同士ではどうしても折り合いがつかない場合、弁護士を代理人に立てて交渉を進めると解決しやすくなるケースがよくあります。
2.遺産分割協議書作成に際しての注意点
海外居住の相続人がいる場合、遺産分割協議書を作成する段階でも注意点があります。
2-1.「印鑑証明書」の代わりに「サイン証明書」を用意する
遺産分割協議書には、基本的に実印で押印すべきです。そうでないと不動産の名義変更ができませんし、預金払い戻しなども受け付けてもらえないケースが多いからです。
しかし海外在住者には日本の住民票を抹消している人も多く、その場合実印がなく印鑑証明書も取得できません。
実印や印鑑証明書がない場合「サイン証明書」を用意する必要があります。
サイン証明書とは、申請者が領事の面前で署名を行い、領事が「たしかに面前で署名した」と証明するものです。
サイン証明書を取得するには、本人が居住国の日本領事館などの「在外公館」へ出向いて申請しなければなりません。
サイン証明を遺産分割協議書に添付すれば、不動産の名義変更などの手続きを進められます。
2-2.住民票の代わりに「在留証明書」を用意する
不動産の登記申請時には、相続人の住民票も必要です。海外居住で住民票を抹消していたら、住民票を取得できません。
その場合「在留証明書」を取得しましょう。
在留証明書は在留国の日本領事館で取得できます。パスポートや運転免許証などの証明書類を提示すれば発行してもらえるので、サイン証明書の手続きを行う際に、同時に申請するとよいでしょう。
2-3.日本国籍を抜いている場合
海外生活が長い方の場合、居住国で国籍を取得して日本国籍を抜いている場合もあります。
日本人ではなくなると「外国人」扱いとなるので戸籍がなくなり、戸籍謄本や戸籍附票を取得できません。また日本人ではないので、現地の日本領事館に行ってもサイン証明書や在留証明書を発給してもらえません。そのままでは遺産分割協議書を作成できず、遺産の名義変更に必要な戸籍も揃えられない問題があります。
日本国籍を抜いた相続人がいる場合には、現地の公証人の面前で「宣誓供述書」に署名し、認証してもらって各種手続きに対応するのが一般的です。宣誓供述書には、相続に必要な事項をまとめて記載します。
なお印鑑証明や住民票の制度がある国であれば、そういった証明書を相続手続きに使えます。
3.海外から相続人調査や相続財産調査を行う方法
海外居住の相続人がいる場合でも、国内に相続人がいれば相続人調査や相続財産調査を国内の相続人に任せるとよいでしょう。
しかし海外居住の相続人しかいない場合、こういった国内での手続きが非常に煩雑で困難です。
相続人調査の方法としては、被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本類を取得しなければなりません。海外からでは申請に膨大な手間と費用がかかってしまうのです。
困ったときには国内の弁護士などの専門家に任せましょう。労力や時間をかけずに済みます。
また海外居住の状態では、遺産の調査も困難です。預金の確認のためには金融機関へ行かねばなりませんし、不動産の確認のためには法務局や役所へ申請しなければなりません。負債の調査も困難となるでしょう。
やはり国内の弁護士へ依頼するのが得策です。なお財産調査については、国内に他の相続人がいる場合でも、信用できない場合には別途弁護士に財産調査を依頼される方もいます。
4.海外居住の相続人が相続したくない場合
海外居住の相続人の場合、遺産に関心がなく相続を希望しないケースもあるでしょう。
その場合「自分のために相続があったことを知ってから3か月以内」であれば相続放棄ができます。
3か月以内に財産調査を終えるのが難しい場合、熟慮期間伸長の申立をすれば期間を数か月延ばしてもらえる可能性があります。
海外居住で財産調査に時間がかかりそうな場合、期間内に熟慮期間伸長の申立を行いましょう。
相続放棄や熟慮期間伸長の申立も弁護士が承りますので、お気軽にご相談ください。
5.最後に
相続人に海外居住者が含まれていると、遺産分割協議の進め方が一気に複雑になってしまいます。困ったときにはお気軽に弁護士までご相談ください。

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相続人が遺産を使い込んだ場合の対処方法
「親と同居していた兄弟が親の預貯金を使い込んでいたのですが、取り戻せるでしょうか?」というご相談を受けることがよくあります。
故人と同居していた相続人による預貯金の使い込みが発覚したら、他の相続人には返還請求をする権利が認められます。ただし使い込まれた時期や相手の対応により、とるべき手段が異なってきます。
今回は相続人による預貯金などの遺産の使い込みが発覚した場合に取り戻す方法を、弁護士が解説します。
1.使い込まれた遺産は取り戻せる
親と同居していると財産にアクセスしやすいので、無断で使い込んでしまうケースも少なくありません。
使い込まれる遺産は「預貯金」が大半ですが、株式や投資信託を勝手に売却されて使い込まれたり、保険を勝手に解約されて解約返戻金を使い込まれるケースもあります。故人が賃貸物件を所有していた場合、同居の相続人が家賃を自分のものにしてしまうパターンも多いですし、親が認知症にかかった場合には、親の実印を持ち出して勝手に不動産を売却してしまう方さえいるようです。
財産が使い込まれた場合、使い込まれてしまった被相続人は使い込んだ相手に対し金銭請求の方法で取り戻しを請求できます。財産に対する権利もないのに勝手に使い込むのは「不法行為」となり「不当利得」とも評価できるからです。
相続人は、このような被相続人が使い込んだ相手に対して有する権利を相続するので、この権利を行使して相手へ金銭の支払いを請求できます。なお使い込んだ相手が相続人ではない第三者であっても返還請求は可能です。
請求できる金額は法定相続分に応じた割合になる
相続人が複数いる場合、それぞれの相続人が請求できる金額は「法定相続分」に応じたものとなります。
たとえば父親が死亡して3人の子どもが相続する事案において、父親と同居していた長男が300万円の預金を使い込んだとしましょう。他の相続人である次男や長女は、長男へ対してそれぞれ100万円ずつ(3分の1)の請求ができます。長男にも100万円の相続権があるので、全額の取り戻しを請求できるわけではありません。
2.遺産使い込みの証拠
使い込まれた遺産の取り戻しを請求するには、使い込みの証拠が必要です。
2-1.使い込まれた遺産に関する証拠
「使い込みの事実や使い込まれた額」を証明する証拠の例を挙げます。
- 故人の預金通帳や取引履歴
- 故人の証券会社における株式や投資信託などの取引明細書
- 故人の保険解約の履歴
- 故人が所有していた不動産の全部事項証明書や売買契約書
- 賃料が入金されていた通帳や取引明細書
2-2.使い込まれた時期の被相続人の状態を示す証拠
「故人が自らの意思で贈与したものだ」「故人が自分で使った」などと反論されることが多いため、「使い込みがあった時期に被相続人が自分では対応できなかった事情」を示す証拠も集めましょう。なお、仮に、故人が自らの意思で贈与していた場合には、生前贈与という別の問題が生じることになります。
- 介護記録
- 要介護認定の際の資料、介護認定通知書
- カルテや診断書
- 入院した際の記録
3.使い込まれた遺産の請求方法、手順
STEP1証拠を集める
まずは使い込みの証拠を集めましょう。証拠がないのに請求しても、相手はまず返還に応じないでしょうし、使い込まれた金額も計算できません。
STEP2相手に直接請求する
証拠が揃ったら、相手に直接請求しましょう。話し合いで解決できれば、速やかに支払いを受けられます。
相手が応じない場合の取り戻し方法は遺産が使い込まれた時期によって異なるので、パターン別にご説明します。
STEP3-1使い込み時期が死後の場合
同居の相続人によって預金などの遺産が使い込まれた時期が死後の場合、相手が納得しなくても遺産分割の話の中で同時解決できます。協議がまとまらない場合、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てて、他の遺産と合わせて話し合いによる解決を目指しましょう。
調停が不成立になったら審判になり、裁判官が使い込まれた財産も含めて遺産分割方法を決定してくれます。
STEP3-2使い込み時期が生前の場合
使い込まれた時期が生前の場合、使い込んだ相続人の同意がない限り遺産分割と同時には解決できません。
相手へ直接請求しても払ってもらえない場合、民事訴訟を提起する必要があります。
そして、訴訟で使い込みの事実や使い込まれた金額を証明できれば、使い込んだ相手への請求が認められることになります。
ただし、使い込みに関する訴訟を起こしても遺産分割はできないので、他の遺産については別途遺産分割協議を進めるか、調停や審判を申し立てる必要があります。
4.時効に注意
遺産を取り戻す権利である「不法行為にもとづく損害賠償請求権」や「不当利得返還請求権」にはそれぞれ時効があります。
不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効期間は「損害と加害者を知ってから3年」、不当利得返還請求権の時効期間は「権利発生後10年または権利行使できると知ってから5年の早い方」です。
証拠集めにも時間がかかるので、早期に対応しなければ遺産の取り戻しが難しくなってしまいます。使い込みが発覚したらすぐにでも返還請求の準備を開始しましょう。
当事務所では遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。京都・滋賀・大阪で遺産の使い込み問題にお困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

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遺産分割調停の申立方法、必要書類や費用、流れを解説
遺産分割協議で話し合っても合意できないなら「遺産分割調停」を申し立てる必要があります。調停になると裁判所の調停委員が間に入って調整してくれるので、相続人同士では合意できない場合でも合意できるケースがよくあります。
今回は遺産分割調停の申立方法や必要書類、流れについて、京都の弁護士が解説します。
1.遺産分割調停を申し立てるべき場面
以下のような状況になったら、遺産分割調停の申立を検討すべきです。
遺産分割協議が決裂した
他の相続人と遺産分割協議を行い、話し合っても合意できないなら家庭裁判所の力を借りるべきです。遺産分割調停を申し立てましょう。
無視されて話し合いを進められない
他の相続人と連絡をとれない、無視されてそもそも遺産分割協議を始められない場合にも遺産分割調停を申し立てて解決へ進めましょう。
2.遺産分割調停を申し立てる方法
遺産分割調停を申し立てる方法、手順をお伝えします。
必要書類
- 申立書
裁判所に書式が用意されているので、利用して作成しましょう。
裁判所に提出する分のほか、相手方へ送るコピーを相手方の人数分、裁判所へ提出する必要があります。
- 被相続人の出生時から死亡時までの連続するすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本(全部事項証明書)
本籍地のある役所へ申請して取得します。戸籍謄本類は不動産の名義変更などの際にも必要です。
- 相続人全員の戸籍謄本と住民票または戸籍附票
戸籍謄本や戸籍附票は本籍地のある役所で取得します。住民票は住所地の役所で取得しましょう。
- 相続関係説明図
被相続人と相続人の続柄などをわかりやすく記載した家系図のような表です。自分で作成する必要があります。
- 遺産目録(土地遺産目録、建物遺産目録、現金・預貯金・株式等遺産目録)
どのような遺産があるのかを示す表です。裁判所に書式があるので利用して作成しましょう。
- 遺産に関する資料
不動産登記事項証明書や固定資産評価証明書、預金通帳や残高証明書のコピーなどの資料が必要です。
遺産分割調停にかかる費用
- 被相続人1名について1,200円の収入印紙
たとえば両親が死亡した場合で2人分の遺産分割調停を申し立てる場合には、2,400円の収入印紙が必要です。
- 連絡用の郵便切手
各家庭裁判所によって必要な切手の金額や組数が異なります。申立先の家庭裁判所へ事前に問い合わせて確認しましょう。
申立先の家庭裁判所の管轄
遺産分割調停の申立先は、「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
相手方が複数いる場合、そのうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てることができます。調停が始まると何度も通わねばならないので、できるだけ近い裁判所へ申し立てるとよいでしょう。
誰が申立人、相手方になるのか?
遺産分割調停には「相続人が全員参加」しなければなりません。相続人は「申立人」または「相手方」になっている必要があります。もめていない相続人がいる場合でも、その人と共同で申立をしないなら相手方に含めなければなりません。突然家庭裁判所から呼出状が届いたら、対立していなくても気分を害して不和になってしまう可能性があります。
争っていない共同相続人がいるなら、事前に遺産分割調停を申し立てる予定を告げて共同で申し立てるのがよいでしょう。
3.遺産分割調停の流れ
STEP1申立
まずは遺産分割調停の申立を行います。
STEP2書類審査
家庭裁判所で提出された書類の審査が行われます。不備があれば追加提出や訂正の連絡があります。
STEP3呼出状が送られる
家庭裁判所から当事者全員へ第1回調停期日への呼出状が送られます。
STEP4第1回期日
呼出状に記載された日時に第1回目の期日が開かれます。申立人と相手方は別々の待合室で待機し、調停委員から交互に呼び出されます。
お互いの意見は調停委員を通じて伝えられるので、直接話し合う必要はありません。
1回で解決できるケースはほとんどなく、多くの場合には2回目の期日の予定を入れて終了します。
STEP5続行期日
2回目以降も遺産分割方法についての話し合いを続けます。調停委員から調停案を示されるケースもあり、当事者全員が納得すればその内容で調停が成立します。
STEP6調停成立
調停が成立したら、その日は書類を受け取らずに帰宅します。
1~3日程度で家庭裁判所から調停調書が送られてきます。調書があれば、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどの相続手続きを進められます。
STEP7不成立になったら遺産分割審判へ
調停が不成立になったら、手続きは遺産分割審判へ移行します。
審判になると訴訟に似た手続きとなり、お互いが書面で主張や証拠提出を行い、最終的に裁判官が遺産分割方法を決定します。
4.遺産分割調停を有利に進めるために
遺産分割調停を有利に進めるには、法的知識はもちろんのこと、調停委員との折衝方法や折り合いをつけるべきタイミングの判断など、専門的なスキルが必要です。
ご自身のみで対応されるよりも相続トラブルに詳しい弁護士に依頼するほうが有利に運びやすいでしょう。弁護士に依頼すれば調停申し立ての手続きを任せられて手間も省けますし、ご自身のみで対応された場合思わぬ落とし穴にはまることもあり得ます。
当事務所はこれまで多数の遺産相続案件を取り扱い、解決してきた京都所在の弁護士事務所です。遺産分割協議が決裂してしまい、調停申し立てをご検討されている方はお早めにご相談ください。

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遺産分割でトラブルになりやすい家族の特徴やパターン
遺産分割の際、特にトラブルになりやすいパターンがいくつかあります。
多くのご家庭で遺産分割トラブルが起こっており、当事務所でもこれまでに多数のご相談をお受けしてきました。
今回は遺産分割で争いが生じやすい家族の特徴や対処方法について、弁護士の経験を踏まえてお伝えします。
1.子どもだけが相続人
両親のうち片方のみが亡くなった段階では、あまり遺産相続トラブルが生じません。残った親が多くを相続するケースが多く、子どもたちも「お母さん(お父さん)が相続するなら」と考えて納得しやすいからです。
ところが両親ともに亡くなって子どもたちだけが相続人になると、非常に相続トラブルが起こりやすくなります。子どもたちにはそれぞれの家庭や都合がありますし、兄弟姉妹に対するこれまでの不満が溜まっている場合も多いためです。
遺言書があれば子どもたちの相続争いを回避できますが、なければ遺産分割調停や審判で決着をつけるしかなくなるケースも少なくありません。
2.遺産のほとんどが実家である
遺された遺産が実家のみ、あるいは実家以外にほとんど財産がない場合にも相続争いが生じやすい傾向があります。
実家しか遺されなかった場合、まずは誰が実家を相続するかで問題になります。
また実家を相続するなら、他の相続人へ代償金を払わねばなりません。
長男が両親と同居していたケースなどでは、他の相続人への代償金支払いをしぶることもあり、話し合いが難しくなりがちです。
代償金を支払うとしても「いくらにするのか」合意できない場合や、代償金を払いたくても資力がない場合などもあります。
どうしてももめて解決できない場合、家を売って現金で分けるしかなくなる可能性もあります。
3.介護した相続人と疎遠な相続人がいる
親が亡くなったとき、献身的に介護した相続人と疎遠な相続人がいると、トラブルが生じやすい傾向にあります。介護した相続人の方が「自分はこんなに介護したのに疎遠な相続人と同じ相続割合になるのは納得できない」と考えるからです。
法律的に、献身的に介護した相続人には「寄与分」が認められて遺産相続割合が増える可能性があります。しかし寄与分が認められるかどうか、どの程度の寄与分が認められるべきかについては専門的な判断が必要で、ご自身たちで決めるのは簡単ではありません。
介護した相続人と疎遠な相続人がいて問題を解決できない場合には、家庭裁判所での調停や審判で決着をつけざるを得なくなります。
4.被相続人が再婚している
被相続人(亡くなった方)が再婚していて前婚の際に子どもがいる場合、相続トラブルが発生しやすい状況となります。
この場合、前婚の際に生まれた子どもと死亡時の家族の配偶者や子どもに相続権が認められるので、一緒に遺産分割協議をしなければなりません。
死亡時の家族は「前婚の際の子どもに遺産を渡したくない」と考えます。一方、前婚の際の子どもは「権利があるならきちんと受け取りたい」と考えることが多く、意見が一致しにくくなっています。
法律的には前婚の際の子どもにも死亡時の家族の子どもと同じだけの相続分が認められます。話し合いでどうしても解決できない場合、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てて話し合う必要があります。
5.子どもがいない夫婦
子どもがいない夫婦の一方が死亡したときに遺言書を残していないと、トラブルになる可能性があります。
子どもがいない場合、相続人は配偶者と亡くなった方の親又は兄弟姉妹になります。
すると、配偶者と親(配偶者にとっては義母や義父)、又は配偶者と兄弟姉妹(義兄弟、義姉妹)が共同で遺産分割協議をしなければなりません。もともと不仲なケースはもちろん、疎遠だった場合などにも話し合いを進めにくくなる傾向があります。
自分たちだけでは解決しにくい場合、弁護士を間に入れて遺産分割協議を進める方法もあります。どうしても解決できない場合には家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てましょう。
6.内縁の配偶者がいる
被相続人に内縁の配偶者がいる場合にも遺産相続トラブルが発生しやすい傾向があります。
法律上、内縁の配偶者には遺産相続権が認められません。被相続人に実子がいれば実子がすべての遺産を相続します。内縁の配偶者が相続不動産に居住している場合には、不動産からの明渡し等を求められる可能性があります。
子どもや親兄弟がおらず内縁の配偶者のみ遺されたケースでも、内縁の配偶者が遺産を受け取れるわけではありません。まずは家庭裁判所で相続財産管理人を選任して、指定された期間内に相続財産分与の申立を行う必要があります。
7.最後に
遺産相続トラブルに巻き込まれてしまったら、早めに適切な対応をしないと争い事がどんどん大きくなってしまうものです。お困りの際には弁護士がアドバイスやサポートをいたします。
当事務所は相続案件に力を入れており解決実績も多数ありますので、相続問題にお困りの方がおられましたらお気軽にご相談下さい。

当事務所は、1983年創業の老舗法律事務所です。
遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書作成など、遺産相続案件に強い法律事務所であると自負しております。
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