遺産分割

異父兄弟や異母兄弟に相続権が認められるの?

2023-09-03

異父兄弟や異母兄弟も遺産相続をすることができるのでしょうか?

といったご相談を頂くことがあります。

そこで、今回は、異父兄弟や異母兄弟に相続権が認められるかについて、京都の弁護士が解説します。気になっておられる方は、是非参考になさってください。

1.異父兄妹や異母兄妹とは?

異父兄弟とは、母親が同じで父親が異なる兄妹を言います。

例えば、母親が離婚して、その母親が再婚した場合、前の夫との子どもと、現在の夫との子どもがいることがあります。このような場合には、子ども達は異父兄弟となります。

反対に、父親が離婚して、その父親が再婚した場合、前妻との子どもと、現在の妻との子どもがいることがあり、このような場合には、子ども達は異母兄弟となります。

また、父親が離婚していなくても、父親が認知した子どもがいる場合、妻との子どもと認知した子どもの関係は、父親を共にする異母兄弟となります。

以下では、記載の便宜上、異父兄弟と異母兄弟をともに「異母兄弟」として、記載しますが、異父兄弟にも通じる内容になっております。

それでは、異母兄弟に相続権が認められるのでしょうか?以下では、亡くなった方を分けて記載します。

2.父親(母親)が亡くなった場合

異母兄弟において、父親が亡くなった場合、異母兄弟達にとっては、それぞれ自分の血のつながった父親が亡くなったことになります。

そして、父親が離婚して、前妻との子どもの親権者にならなかったとしても、その前妻との子どもである異母兄弟も、父親の相続人になります

仮に、離婚して以降、父親が前妻との子どもと会っていなかったとしても、その子どもには相続権が認められますし、相続権を取得するために、何か特別な手続きが必要なわけでもありません。

なぜなら、子どもが常に第1順位の相続人であり、これは離婚しようが親権者でなかろうが関係ないためです。

3.異母兄弟姉妹や異父兄弟姉妹が亡くなった場合

それでは、異母兄弟姉妹が亡くなった場合はどうでしょうか。例えば、現在の妻との子どもが亡くなり、前妻との子どもは相続権を取得するのでしょうか。

法律的には、異母兄弟姉妹も相続権を取得しうることになります。

具体的には、亡くなった方に子どもがおらず、両親も既に亡くなっていた場合には、異母兄弟姉妹にも相続権が発生することになります。

そもそも、法律上、配偶者は常に相続人になり、残りの相続について第1順位の相続人は子ども、第2順位の相続人は直系尊属(両親)、第3順位の相続人は兄妹姉妹になります。そして、異母兄弟姉妹もこの第3順位の兄妹姉妹に含まれるのです。

但し、異母兄弟姉妹の相続割合は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続割合の半分とされています。

例えば、父親には前妻との子どもが1人おり、その後再婚して子どもが2人できたとします。そして、再婚して出来た子どものうち、1人が亡くなり、その子には配偶者や子どもがおらず、両親も既に亡くなっていたとします。この場合、前妻との子どもと、再婚後の子どもが兄妹姉妹として相続人になります。但し、前妻との子どもについては、再婚後の子どもの相続割合の半分になります。そのため、前妻との子どもが3分の1再婚後の子どもが3分の2の遺産を取得することになります。

■異母兄弟姉妹や異父兄弟姉妹に相続をさせない方法

異母兄弟姉妹同士は、前妻の子どもと現在の妻の子どもという関係にあるため、会ったことさえないこともあります。そのため、異母兄弟姉妹に、自身の遺産を相続させたくないとの考えに至ることもあるかと思います。

異母兄弟姉妹に相続をさせない方法としては、「遺言書を作成する」方法があります。遺言書において、異母兄弟姉妹とは異なる人に財産を渡す旨記載しておけば、異母兄弟姉妹に遺産が渡ることを防ぐことができます。

亡くなった方の兄弟姉妹には、遺留分という法律上最低限保証されている権利もありませんので、遺言書を作成すれば、異母兄弟姉妹に遺産がいくことは一切ありません。

4.最後に

今回は、異父兄弟や異母兄弟に相続権が認められるのかについて、解説しました。

結論としては、異父兄弟や異母兄弟にも、相続権が認められることになります。

異父兄弟や異母兄弟がいらっしゃる場合には、相続で揉めやすいため、事前に遺言書を作成しておくのが無難です。また、両親が亡くなったが、遺言書が無く、揉めそうと思われた場合などは、早めに弁護士に相談された方がよいです。

京都の益川総合法律事務所では遺産相続のサポートに力を入れて取り組んでいます。お悩みごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

撤回された遺言書の効力が復活する場合とは?

2023-08-11

遺言書を一度作成しても、その後気が変われば、遺言書を自由に撤回することができます。これは、遺言者の最終的な意思を尊重すべきだからです。

それでは、遺言書を一度撤回してしまうと、その遺言書の効力が復活することはないのでしょうか。

今回は、京都の弁護士が、撤回された遺言書の効力が復活する場合について、解説します。遺言書の撤回が問題になっている方などは、是非参考にしてみてください。

1.撤回された遺言書の効力は復活しない(原則)

一度、遺言書の撤回をしてしまうと、その後気が変わって、「撤回の撤回」をしようとしても原則できません。

なぜなら、撤回の撤回を簡単に認めると、法律関係がややこしくなり争いが生じやすくなりますし、これを認めなくても、元の遺言書と同じ内容の遺言書を作成すれば、撤回の撤回と同じ状況を作り出せるためです。

2.撤回された遺言書の効力が復活する場面(例外)

それでは、撤回された遺言書の効力が復活する場面はないのでしょうか?

この場合について、民法第1025条が規定しています。

第1025条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

民法の規定上、錯誤や詐欺、強迫によって遺言書を撤回してしまった場合にのみ、撤回の撤回によって、元の遺言書の効力が復活することになります。

それでは、錯誤や詐欺、強迫によって遺言書を撤回してしまった場合以外は、元の遺言書の効力が復活することはないのでしょうか?

これが問題になったのが、最高裁平成9年11月13日判決です。

■最高裁平成9年11月13日判決

この裁判では、第1遺言が第2遺言によって撤回され、そして第3遺言には、「第2遺言を無効とし、第1遺言を有効とする」との記載がされていました。

先ほどの民法の規定を前提にすると、遺言者は、錯誤や詐欺、強迫によって第1遺言を撤回したわけではないので、第3遺言によって、第1遺言の効力を復活させることはできないはずです。

もっとも、遺言者の最終的な意思は、第1遺言を有効にしたいとの内容であることが第3遺言から明らかでした。それなのに、第1遺言の復活を認めないのでよいのかという点が問題意識になります。

裁判所は、「遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法1025条ただし書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の効力の復活を認めるのが相当と解する」と判示しました。

要は、遺言書の内容からして、遺言者が一度撤回した遺言書の復活を希望することが明らかな時は、元々の遺言書の効力を復活させるとの内容です。

そして、この裁判では、第3遺言の記載からして、第1遺言の復活を希望していることが明らかであるとして、第1遺言の復活を認めています。

なお、この裁判では、第1遺言の復活が認められましたが、仮に、第1遺言の復活を認めなければ、どうなるのでしょうか?この場合は、第3遺言によって、第2遺言も無効になっているので、遺言書がないケースと同様、法定相続分に応じて相続を行うことになります。

3最後に

今回は、撤回された遺言書の効力が復活する場合について、解説しました。

上でご説明した裁判の事例についても、そもそもちゃんと第3遺言を作っておけば、争いが生じない事例でした。

このように、遺言書の撤回方法を間違えると、相続人が揉めるのを防ぐために作成した遺言書が、かえって相続人が揉める原因にもなってしまいます。

この記事では、遺言書の撤回や取消の方法などについては、詳しく解説していませんが、こちらについては、「作り直された遺言書の効力~遺言書の撤回と取消について~」で解説しています。気になった方は、是非参考になさってください。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。

もし、お困りの方がおられましたら、お気軽にご相談下さい。

相続人に未成年の子どもがいる場合の対処法

2023-07-15

遺産分割協議を行う際に、相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者自身が遺産分割協議を行うことができるのでしょうか?

また、親権者が未成年者の代理人として、遺産分割協議を行うことができるのでしょうか?

未成年者が相続人になるケースもあり、その際の対応に困ることもあるかと思います。

今回は、相続人の中に未成年の子どもがいる場合の対処法について、京都の弁護士が解説いたします。

1.未成年の子どもは自身で遺産分割を行えるのか?

遺産分割協議は、相続人全員で合意をする必要があるため、未成年者も含めて協議を行う必要があります。

それでは、未成年者は、自身で遺産分割を行えるのでしょうか?

結論としては、未成年者は自身で遺産分割を行うことはできません

なぜなら、未成年者は、自身で法律行為をすることができないためです。

法律行為(契約など)については、通常、親権者が法定代理人として、未成年者に代わりに行うことになります。

2.親権者が代理人として遺産分割を行えるのか?

それでは、親権者が未成年者の代理人として、遺産分割を行うことができるのでしょうか?

結論としては、原則として、親権者が、遺産分割を行うことはできません。親が未成年者の代理人として、遺産分割を行っても、その遺産分割が無効になってしまいます。

なぜなら、多くのケースでは、未成年者が相続人になる場合、親権者である親も相続人となっており、親と子どもの利益が相反するためです。

例えば、お父さんとお母さん、お子さん1人の家庭で、お父さんがお亡くなりになったとします。この時、相続人は、お母さんとお子さんです。この場合、お母さんが遺産を多く取得すればお子さんの取得出来る遺産は減りますし、一方、お子さんが多く遺産を取得すれば、お母さんの取得できる遺産が減ることになります。

このように、相続人であるお母さんの立場と、お子さんの立場は、利益が相反するのです。

そのため、法律上、親権者が未成年者の代理人として、遺産分割を行うことは原則禁止されているのです。

ただし、以下の場面では、例外的に、親権者が子どもの法定代理人として、遺産分割を行うことが許容されています。

■親が代理人になることができる例外的な場面

①親権者が相続人とならない場合

親権者が相続人にならない場合、親権者が未成年者の代理人として、遺産分割を行うことができます。例えば、父母が離婚後、母が親権者となり、父が亡くなった場合には、母は相続人とはならないため、子どもの法定代理人として遺産分割を行うことができます。

②親権者が相続放棄をした場合

親権者が相続放棄をした場合には、親権者は子の法定代理人として、遺産分割を行うことができます。ただし、自身が相続放棄をするのであれば、お子さんも相続放棄をすることになる可能性が高いので、あまり現実的な場面ではないです。

※上記の①②の場合にも、親権者である親が法定代理人として関与できるのは、子ども1名についてだけであり、他の子どもには法定代理人として関与することはできません。

3.特別代理人の選任申立

それでは、相続人の中に未成年の子どもがいる場合には、どうすればよいのでしょうか?

結論としては、家庭裁判所に対して、特別代理人の選任を申し立てることになります。特別代理人とは、未成年者などの代わりに、遺産分割などの特定の法律行為をするために選任される代理人のことを言います。

3-1.裁判所の管轄

特別代理人選任の申立は、「子の住所地の家庭裁判所」に行うことになります。

3-2.必要書類

  • 特別代理人選任申立書
  • 未成年者の戸籍謄本
  • 親権者の戸籍謄本
  • 特別代理人選任候補者の住民票又は戸籍附票
  • 利益相反が分かる資料(遺産分割協議書案など)
  • 利害関係人からの申立の場合には、利害関係を証明する資料

などです。

3-3.費用

  • 収入印紙800円分(子ども1人につき)
  • 連絡用の郵便切手

3-4.特別代理人の選任者

遺産分割のために、未成年者の特別代理人の選任申立がされる場合には、弁護士、司法書士、親族等のいずれかが選任される可能性が高いです。

多くの場合には、弁護士か司法書士が選ばれている印象ですが、遺産分割調停中において、既に遺産分割の内容が定まっており、その内容が未成年者に不利益でない場合には、相続人でない親族などが選ばれることも多い印象です。

■参考:特別代理人選任(親権者と子との利益相反の場合)

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_11/index.html

4.最後に

今回は、相続人の中に、未成年の子どもがいた場合の対処方法について、解説しました。

益川総合法律事務所では、遺産分割をはじめとした遺産相続案件に注力しています。

お困りの際には、お気軽に当事務所までご相談ください。

遺産相続の際における老朽化した建物の取扱いについて

2023-07-09

遺産の中に、老朽化した建物がある場合、遺産の評価の際に老朽化した建物の解体費用を考慮できるのでしょうか?

また、遺産分割前に、老朽化している相続建物を解体することは認められているのでしょうか?

この記事では、遺産相続の際における老朽化した建物の取扱いについて、京都の弁護士が解説します。相続財産の中に、老朽化した建物がある方は、是非参考になさってください。

1.遺産の評価の際に建物の解体費用を考慮できるのか?

それでは、遺産の中に老朽化した建物がある場合、遺産の評価額を決める際に、その建物の解体費用を考慮できるのでしょうか。

建物の解体費用を考慮できるのであれば、建物の価格は0円と評価して、その上解体費用も差し引くことになります。

これが問題になる典型的な場面は、下記の通りです。

■問題になる典型的な場面

①遺産分割において、相続人の一人が老朽化した建物に加えてその建物が存在する土地の取得を希望している場合に、その相続人が、土地建物の評価にあたって、解体費用を考慮すべきと主張する場面

②遺言書によって、その老朽化した建物も含めて遺産全部を相続人の一人が取得して、他の相続人が遺留分侵害額請求をした際に、遺産全部を取得した相続人が、老朽化した建物の解体費用を考慮すべきと主張する場面

このように、老朽化した建物の解体費用を考慮できるかは、遺産分割においても遺留分においても、どちらのケースでも問題になります。なお、遺留分については、「遺留分侵害額請求をしたい方へ」という記事で詳しく解説していますので、興味がある方は、参考になさってください。

そして、老朽化した建物であっても、遺産の評価の際に、建物の解体費用は考慮できないのが一般的です。

なぜなら、遺産分割においても、遺留分においても、遺産をそのままの状態で評価すべきであり、建物の解体については、遺産取得後の事後的な事情にすぎないためです。

但し、相続人全員が同意した場合には、建物の解体費用を考慮することができます。そのため、建物の解体費用を考慮したいのであれば、まずは他の相続人にその申し出を行ってみるのがよいでしょう。

特に、遺産分割の場合には、だれもその老朽化した建物の取得を望まない場合、その建物が相続人全員の共有になってしまいます。他の相続人も、その老朽化した建物が共有になってしまうぐらいなら、建物の解体費用を考慮した方がマシだと考えることもありますので、遺留分の場合に比べれば、解体費用を考慮してもらえる可能性は高いでしょう。

2.遺産分割前に建物を解体することはできるのか?

それでは、遺産分割前に、老朽化している建物を解体することはできるのでしょうか?

他の相続人全員が同意している場合は、遺産分割前であっても、老朽化している建物の解体を行うことが可能です。

一方、相続人の中に、1人でも解体に同意していない人がいる場合には、原則として、建物の解体は許されていません。なぜなら、遺産分割が完了するまでは、その老朽化している建物も、相続人全員の共有状態になっているためです。

この不動産の共有の話については、「共同相続した不動産を分割する方法」という記事で、詳しく説明していますので、興味がある方は参考になさってください。

そして、他の共有者の同意なく、建物の解体を行ってしまった場合、他の共有者から損害賠償請求を受けてしまったり、最悪の場合、建造物損壊罪で刑事告訴などがされかねませんので、注意が必要です。

一部例外として、建物が今にも倒壊して隣家に迷惑がかかりそうな場合などには、共有者全員の同意がなくても、保存行為として、建物の解体が許容されることはありますが、その判断が難しい上、例外的なケースですので、弁護士に相談の上、行って頂くのがよいでしょう。

3.最後に

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。

老朽化した建物を含めて、相続問題でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

特別受益は常に考慮される?特別受益の持ち戻し免除について解説

2023-07-02

遺産分割を行う際に、高額な生前贈与を受けた相続人がいると、「特別受益」に該当する可能性があります。

そして、「特別受益」を受けた相続人がいる場合、特別受益の持ち戻し計算を行って、その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。

それでは、このような特別受益は常に考慮されるのでしょうか?

今回は、「特別受益の持ち戻し免除」といわれる事柄について、京都の弁護士が解説します。遺産相続において、特別受益が問題になりそうな方は是非参考にされて下さい。

1.特別受益とは

まず、前提として、特別受益について、簡単に説明します。

特別受益とは、特定の相続人が生前贈与や遺贈などによって受けた利益のことをいいます。

高額な財産を生前贈与されたり、遺贈を受けた相続人がいる場合、その財産を無視して、法定相続分通りに遺産分割をすると、不公平になってしまいます。

そこで、生前贈与や遺贈を受けた相続人がいる場合その相続人の遺産からの取り分を減らすことになります。その計算を、「特別受益の持ち戻し計算」といいます。

その相続人が受けた生前贈与などが、特別受益に該当する時は、特別受益の持ち戻し計算が行われて、その相続人の遺産からの取り分が減ることになるのです。

特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係について」という記事で、詳しく解説していますので、興味がある方は参考にされて下さい。

2.特別受益の持ち戻し免除とは

それでは、相続人の中に特別受益を受けた人がいる場合、常にこの特別受益が考慮されるのでしょうか?

結論としては、被相続人(亡くなった方)が、「特別受益の持ち戻し計算免除」の意思表示をしていた場合には、特別受益は考慮されなくなります

例えば、被相続人が遺言書で、「特別受益の持戻し計算を免除する」と記載していれば、その相続人の特別受益は考慮されなくなります。

このように、被相続人が遺言書などで、「特別受益の持ち戻し計算免除」の意思を表示している場合には、特別受益を考慮せずに、遺産を分配することになるのです。

また、被相続人が、遺言書などで明示的には意思を表示していないとしても、黙示的な、持ち戻し免除の意思表示が認められて、特別受益を考慮しないことがあります

黙示的な、持ち戻し計算免除の意思が認められやすいのは、下記のような場合です。

■黙示の持ち戻し計算免除の意思表示が認められやすい場合

①被相続人が生前贈与の見返りに利益を受けている場合

②相続人全員に生前贈与をしていたり、遺贈をしている場合

③家業を受け継ぐ相続人に対して、家業に必要な財産を渡している場合

④病気その他の理由により、その相続人が、相続分以上の財産を必要とする特別な事情ある場合。配偶者の老後の生活を支えるための贈与も含む。

⑤被相続人の居住する地方の社会的慣行や風習として、財産を渡している場合

このように、特別受益の持ち戻し免除の意思表示が認められる場合には、特別受益は考慮されなくなるのです。

3.夫婦間の持ち戻し免除意思の推定規定

婚姻期間の長い夫婦間の贈与の場合には、持ち戻し免除の意思が推定されることがあります。

具体的には、①婚姻期間が20年以上の夫婦が、②居住用不動産の贈与又は遺贈をした場合には、持ち戻し免除の意思が推定されます。

これは、婚姻期間の長い夫婦の一方が、他方に対して居住用不動産を生前贈与したり遺贈したりする場合には、通常それまでの長年の貢献に報いるとともに、老後の生活を図る目的であると考えられるためです。

もちろん、あくまで持ち戻し免除の意思が推定されるにすぎないので、被相続人が異なる意思表示をしていた場合には、特別受益として考慮されることになります。

4.遺留分侵害額請求の際には考慮されない

遺留分とは、兄妹姉妹以外の法定相続人に認められた、最低限の遺産取得割合をいいます。

例えば、被相続人が、生前贈与や遺言書によって、財産のほとんどを相続人の一人に渡した場合には、他の相続人の遺留分を侵害することになります。

この場合には、遺留分を侵害された相続人が、財産を譲り受けた相続人に対して、遺留分侵害請求を行うことができます。

この遺留分については、「遺留分侵害額請求をしたい方へ」という記事で、詳しく解説しているので、興味がある方は参考にされて下さい。

そして、この遺留分請求の際には、先ほど解説した、特別受益の持ち戻し免除は問題になりません

なぜなら、被相続人による持ち戻し免除の意思の問題を、遺留分制度にも適用させると、各相続人に遺留分という最低限度の権利を認めた意味が無くなってしまうためです。

そのため、「特別受益の持ち戻し免除の意思」が問題となるのは、主として遺産分割の話の際なります。

5.最後に

特別受益が問題になる場合、相続人間での話合いは難しいことが多いです。

なぜなら、被相続人から財産をもらった相続人と、他の相続人の間で、それぞれが考える解決の方向性に大きな差があることが多いためです。

京都の益川総合法律事務所では、今回の特別受益も含めて、遺産相続案件に注力しております。

遺産相続でお困りの際には、お気軽にご相談ください。

死亡退職金は遺産分割の対象になる?相続財産に含まれるかを解説

2023-06-24

退職金制度のある会社に勤めていた方が、退職前にお亡くなりになった場合には、ご遺族に死亡退職金が支給されます。

このような場合に、死亡退職金が相続財産に含まれて、遺産分割の対象になるか否かが問題になります。

そこで、今回は、死亡退職金が遺産分割などの対象になるかについて、京都の弁護士が解説します。死亡退職金が問題になっている方は、是非参考にしてみてください。

1.死亡退職金が遺産分割の対象になるか

死亡退職金には、大きく分けて、故人への賃金の後払いとしての性質と、ご遺族の生活保障としての性質の2つの性質があります。

そして、故人への賃金の後払いとしての性質を重視すれば、死亡退職金が遺産に含まれるという方向に近づきます。

一方、ご遺族の生活保障としての性質を重視すれば、死亡退職金は遺産とは別物であるとの考えに近づきます。

そして、実務上、死亡退職金が、相続財産に含まれて遺産分割の対象になるかは、亡くなった方の勤務先の規定次第になってきます。

そこで、以下では、場合を分けて解説していきます。

1-1.受取人が定められている場合

被相続人が公務員ではなく、企業に勤めていた場合、退職金制度を設けている会社の多くは、死亡退職金の受取人やその順位を定めています。

このような場合、配偶者→子ども→父母→孫→祖父母→兄妹姉妹などの順に受取人を定めており、配偶者がいる場合には、子どもは一切死亡退職金を取得できないことが多いです。

民法の規定からすれば、配偶者と子どもの取得割合が1対1になるはずですが、会社の退職金規定では、受取人について民法と異なる定めがされているのです。

このように、受取人について、民法と異なる規定となっている場合には、死亡退職金が受取人固有の財産になるため、遺産分割の対象になりません

なぜなら、受取人について、わざわざ民法と異なる規定を定めている場合、その死亡退職金がご遺族の生活保障を目的としていると判断されるためです。

1-2.国家公務員の死亡退職手当

国家公務員の方が在職中に亡くなった場合には、ご遺族に死亡退職手当が支給されます。

死亡退職手当も、本来被相続人がもらうはずだった退職金をご遺族が取得するという点で、死亡退職金と意味合いは変わりませんので、ここでは同じものと思って頂いて構いません。

国家公務員の死亡退職手当の場合にも、国家公務員退職手当法という法律で、受取人の範囲や順位を定めていますが、配偶者がいる場合には、子どもは一切手当を受け取れないなど、民法と異なる規定となっています。

そのため、国家公務員の死亡退職手当についても、受取人固有の財産となるため、遺産分割の対象にはなりません

1-3.地方公務員の死亡退職手当

地方公務員の方が在職中に亡くなった場合にも、ご遺族に死亡退職手当が支給されます。

地方公務員の死亡退職手当についても、死亡退職金と同じものだと思って頂いて構いません。

地方公務員の死亡退職手当については、その内容を条例で定めることになっています。但し、総務省から、国家公務員の制度に準じて作成するように、条例案が示されていることから、多くの条例では、受取人が民法と異なる規定となっています。

そのため、地方公務員の死亡退職手当についても、多くの場合には、受取人固有の財産になるため、遺産分割の対象にはなりません

1-4.受取人の定めがない場合

退職金制度を設けている会社の場合、退職金規定などで死亡退職金の受取人を定めていることが多いでしょうが、仮に会社が死亡退職金の受取人を定めていなかった場合、どのように扱われるのでしょうか

この点については、最高裁判決がないため、実務上の判断が分かれているところです。結局は、その死亡退職金が、賃金の後払いとしての性質が大きいのか、遺族の生活保障としての性質が大きいのかを個別に判断するしかありません。

■類似事案の最高裁判決

退職金の支給規程のない法人が、理事長の死亡後に、同人の妻に死亡退職金を支給する旨の決定をして、これを支払った事案については、最高裁判決があります。

この判決では、①元々法人には退職金の支給規程が存在していないこと、②それにもかかわらず、法人が妻に死亡退職金を支払う旨の決定をして支払ったことなどを重視して、死亡退職金が相続財産に含まれないと判断しました。このような場合には、ご遺族の生活保障としての性質が大きいためです。

この最高裁判決は、あくまで、その法人に元々退職金の支給規程がなかった事案です。

退職金の支給規定があったにもかかわらず、死亡退職金の受取人の規定がなかった場合とは、一線を画すと考えられます。なぜなら、元々その会社に退職金の支給規程がある場合、賃金の後払いとしての性質も大きくなってくるためです。

2.死亡退職金が特別受益になるのか?

上記の通り、死亡退職金(手当)は多くの場合、相続財産とは別物であり、遺産分割の対象になりません。

但し、相続人の一人が死亡退職金を受け取った場合、これが特別受益にあたり、その相続人の遺産の取得分が減るのではないかが問題となります。

この特別受益については、「遺産分割と生前贈与の関係」という記事で、詳しく解説していますので、気になる方は参考にされて下さい。

死亡退職金が、特別受益(又はそれに準ずるもの)に該当するか否かについては、その死亡退職金支給規定の内容や、当該退職金支給の目的等に照らして、特別受益に該当するかが事案毎に判断されることになります。

但し、多くのケースでは、死亡退職金が、ご遺族の生活保障を目的とした制度に依拠して支出されたものであることが考慮され、特別受益(又はそれに準ずるもの)に該当しないと判断されている印象です。

3.死亡退職金の取り扱いで迷ったら弁護士へ相談を

今回は、死亡退職金が相続財産に含まれて、遺産分割の対象になるのかを解説しました。

遺産相続が発生した場合、死亡退職金の判断のみならず、多くの判断が必要となってくるものです。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力していますので、相続に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。



相続人の中に音信不通の人や行方不明者がいる場合の対処法

2023-06-16

遺産分割協議を進める際に、音信不通や行方不明の相続人がいる場合、その人を省いて遺産分割協議を行ってもよいのでしょうか?

今回は、相続人の中に音信不通や行方不明の相続人がいる場合の対処方法についてお伝えします。相続人の立場になられた方は、是非参考にされて下さい。

1.遺産分割は相続人全員で行う必要がある

遺産分割協議は、相続人全員で合意をする必要があります。もちろん、相続人の中に、相続放棄などをしている人がいる場合には、その相続人の合意は不要です。

そのため、基本的には、音信不通や行方不明の相続人がいたとしても、その方を省いて、遺産分割の合意をすることはできません。

それでは、音信不通や行方不明の相続人がいた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

2.相続人の中に音信不通の人がいる場合

音信不通の方の住所などが分かっているかどうかで対応も変わってくるので、以下では場合を分けて、ご説明していきます。

2-1.住所などが分かっている場合

音信不通の方の現住所が分かっている場合には、まずは、お手紙を書いてみることをお勧めします。その方は、被相続人がお亡くなりになったことも知らないと思うので、被相続人がお亡くなりになったことと、遺産分割協議を行う必要があることなどを記載しておくことが考えられます。

そのようなお手紙を書いても、何も返信が無い場合には、これ以上ご自身で連絡を取って頂いても進展がないと思います。

そのため、①弁護士に依頼してその方に書面を送付する、又は②家庭裁判所の遺産分割調停などを申し立てるのがよいです。

というのも、これまで相続人からの連絡を無視していた方も、弁護士や家庭裁判所からの連絡であれば、無視してはいけないと考え、対応をすることも多いからです。

2-2.住所などが分からない場合

音信不通の方の現在の住所などが分からなくても、その方の本籍地や過去の住所地が分かっている場合には、現在の住所を調べることができる可能性があります。

相続人同士であれば、市役所に対して、戸籍や住民票の第三者請求という方法をとることができます

その方の本籍地が分かっている場合には、本籍地の市役所に対して、戸籍の附票の第三者請求を行えば、現在の住所が判明する可能性があります。

また、過去の住所地が分かっている場合には、過去の住所地の市役所に対して、住民票の第三者請求を行えば、現在の住所が判明する可能性があります。

もちろん、このような方法をご自身で取ることが煩わしければ、弁護士にご依頼頂ければ、この辺りの処理も弁護士が行うことが可能です。

■参考:住民票や戸籍の証明の第三者(本人以外の方)の請求

https://www.city.fuchu.tokyo.jp/kurashi/tetuduki/sekyu/daisansya.html

3.相続人の中に行方不明の人がいる場合

相続人の中に、音信不通を超えて、行方不明者がいる場合には、不在者財産管理人の選任申立を行うことが必要になってきます。ここでいう、「不在者」とは、従来の住所や居所を去って、容易に戻る見込みのない人をいいます。

3-1.裁判所の管轄

不在者財産管理人の選任申立は、「不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所」に行うことになります。

3-2.必要書類

  • 不在者財産管理人選任申立書
  • 不在者の戸籍謄本及び戸籍附票
  • 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
  • 不在の事実を証明する資料
  • 不在者の財産に関する資料
  • 利害関係を証明する資料(戸籍謄本など)

などです。

もし、ご自身で申立をされる方は、管轄の家庭裁判所に必要書類等の確認をされれば、対応してもらえるかと思いますので、申立前に一度確認した方がよいかと思います。

3-3.費用

  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手

不在者の財産内容からして、不在者財産管理人が不在者の財産を管理するために必要な費用(不在者財産管理人に対する報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合には、申立人が予納金を納付しなければいけないことがあります。

3-4.不在者財産管理人に選ばれる人

遺産分割のために、不在者財産管理人の選任申立がされる場合には、弁護士又は司法書士が不在者財産管理人に選ばれることが多いです。

■参考:不在者財産管理人選任(裁判所)

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html

4.最後に

今回は、音信不通や行方不明の相続人がいた場合の対処方法について、ご説明いたしました。

今回のケースと同じく、相続人の中に海外居住の方がいる場合や、認知症の方がいる場合には、相続人絡みで問題になります。

このようなケースについては、「海外居住の相続人がいる場合の遺産分割協議」、「相続人に認知症の人がいる場合の対処法」で解説しているので、気になる方は参考にされて下さい。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。

対応に迷ったときなどは、お気軽に当事務所までご相談ください。

遺言書と矛盾する行為をした場合にも、遺言書は有効なの?

2023-06-09

一度作成した遺言書は、その内容を書き直したり、破棄しない限り、必ず効力を有するのでしょうか?

例えば、ある不動産を相続人の一人に相続させるとの遺言書を作成した方が、その後その不動産の違う人に贈与した場合にも、その遺言書は有効なのでしょうか。

今回は、遺言内容が、遺言書作成後の遺言者の行為と矛盾する場合の、遺言書の効力などについて解説します。被相続人の作成した遺言書の効力について知りたい方や、遺言書を書き直した方が良いか迷っている方にお役に立つ内容ですので、是非参考にされて下さい。

1.遺言書の撤回、取消のルールについて

まず、前提として、遺言書を作成しても、遺言書の撤回や取消は、自由にできます

これは、遺言書を作成する方の、最終意思を尊重すべきであるとの考えがあるためです。

一旦、遺言書を作成しても、その後、気が変わったり、事情が変わることもあるかと思います。その場合には、遺言書を作り直して頂く形で構いません。

この辺りの話は、「作り直された遺言書の効力~遺言書の撤回と取消について~」で詳しく解説していますので、気になった方は、こちらをご確認ください。

2.遺言者が遺言内容と矛盾する行為をした場合

それでは、遺言書作成後に、遺言者が遺言内容と矛盾する行為をしても、その遺言書は必ず有効なのでしょうか。

民法では、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合には、その抵触する部分については、前の遺言を撤回したものとみなすと規定されています(民法第1023条2項)。要は遺言書作成後に、遺言者が遺言内容と「抵触」する行為をした際には、その遺言書の「抵触」する部分が撤回されたものとしますという規定です。

この規定は、遺言の法律上の撤回を認めることにより、遺言者の最終意思を重視することを目的にしたものです。

ここで、遺言書と「抵触」という意味が問題になりますが、最高裁判決において、「抵触とは、単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含する」とされています。

分かりづらいので、かみ砕いて説明します

上記判決は、遺言内容と後の行為が同時に実現するのが絶対に不可能な場合だけじゃなくて、さまざまな事情から観察して、後の行為が、前の遺言と両立させない趣旨のもとにされたことが明らかな場合にも「抵触」するとしています。

まだ少し、わかりづらいので、具体例を用いて、ご説明します。

■具体例

具体例①

例えば、ある不動産を相続人の一人に相続させるとの遺言書を作成した方が、その後その不動産の違う人に贈与したとします。

この場合には、遺言内容(ある不動産を相続人の一人に相続させる)と、後の行為(その不動産を違う人に贈与)を同時に実現するのが絶対に不可能です。亡くなる前に、違う人に不動産をあげているのですから、遺言によって、その不動産を相続人の一人に渡すことはできません。

なので、遺言内容が、後の行為と「抵触」することになるので、遺言書が撤回したものとみなされます。

具体例②

これは、先ほどの最高裁判決で、問題になったケースです。

その事案では、遺言者に、子どもがいなかったため、Aさんから一生面倒をみてもらうことを前提に、遺言者がAさんと養子縁組をした上で、保有する不動産をAさんに相続させるとの遺言書を作成していました。そして、遺言者が、Aさんと同居して共同生活を送っていました。

しかし、その後、遺言者とAさんが仲違いをして、同居を解消した上で、養子縁組の解消も行い、Aさんが遺言者の面倒をみなくなりました

但し、遺言書を書き直したり、破棄したりはされておらず、その遺言書は残されたままになっています。

最高裁判決は、このような場合にも、遺言書が有効なのかが争われた事案でした。

このケースでは、遺言書で対象とされた不動産を他者に贈与したというわけではないので、遺言書の内容と、後の行為(養子縁組の解消や同居の解消など)を同時に実現するのが絶対に不可能というわけではありません。

なぜなら、養子縁組の解消や同居の解消を行っても、その不動産をAさんに相続させるのは、理屈上は可能だからです。

しかし、このようなケースだと、遺言者は、養子縁組の解消や同居の解消などをした時点で、既に自己が保有する不動産をAさんに相続させる気はなかったと考えられます。

そのため、上記判決においては、これらの事情を考慮して、養子縁組の解消や同居の解消などが、前の遺言書と両立させない趣旨の行為であることが明らかであるとして、遺言書が撤回されていると判断しました。

このように、遺言書と、遺言書作成後の行為が「抵触」するとして、遺言書の撤回をみとめた事例はありますが、これはかなり珍しい事例と評価できるかと思います。

なぜなら、このような遺言書の撤回は、相続人などの法律上の地位に重大な影響を及ぼすものですし、遺言者本人が撤回や取消しの意思表示をしたわけでもないのに、遺言書を撤回したとみなすのは、慎重に判断すべきとされやすいためです。

3.遺言書作成上の注意点

上記のように、遺言書作成時と異なる事態が生じた場合、その遺言書が撤回したとみなされるのか否か、その遺言書をどのように解釈すべきなのか等の争いが生じやすいです。

せっかく、争いが生じないように遺言書を作成しているのに、その遺言書が原因で争いが生じてしまっては本末転倒です。

そのため、遺言書作成時と異なる事態が生じた場合には、遺言書を書き直したり、又は当初の作成時から、後にいかなる事態が生じてもその遺言書の効力に疑義が生じない形で作成しておくのが望ましいといえます。

4.最後に

益川総合法律事務所では、遺言書作成に関するサポートや遺言書の効力を争う事案に積極的に取り組んでいます。

この2つの内容については、一見矛盾するように見えるかもしれません。しかし、遺言書の効力を争う事案に取り組んでいるからこそ、そのような紛争が生じにくい形での遺言書作成のサポートができると考えております。

お困りの方は、当事務所までお気軽にご相談頂ければ幸いです。

遺産相続時における株式の価値はどうやって評価するの?

2023-05-19

「遺産分割や遺留分の時に、上場していない株式の価値はどうやって評価するのでしょうか?」といったご相談を受けるケースがあります。

お亡くなりになった方(被相続人)が会社経営者であった場合などは、未上場株式の価値が問題になることも多いです。

今回は、遺産相続時における、株式の評価方法について、京都の弁護士が解説します。相続の際に株式価値が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。

1.上場株式の場合

上場株式の場合、株価が公表されているため、当該価格をもとに、株式数を掛けて、株式の価格を割り出せばよく、さほど問題は生じません。

どの時点の株価を使用するかという、評価時点は問題になりますが、一般的に遺産分割の場合には遺産分割時の株価を、遺留分の場合には相続時点(お亡くなりになった日)の株価を使用します。

この辺りの、遺産の評価時期の話は、「相続不動産の評価方法や基準時について」というコラムで記載しておりますので、気になる方は参考にされて下さい。

2.非上場株式の場合

非上場株式の場合、上場株式の場合と異なり、相場というものがありません。そのため、過去のご依頼者の方の中にも、「上場していない株式の評価は0でしょうか?」と誤解されていた方もいらっしゃいます。

しかし、非上場株式であっても、その評価が0になるわけではありません。そうでないと、どれだけ資産を有して、利益が出ている会社の株式でも評価が0になってしまい、不当な結論になるためです。

そして、非上場株式の評価方法としては、下記の方法があげられます。

2-1.インカムアプローチ(収益還元方式・配当還元方式)

インカムアプローチとは、その会社が将来獲得することが期待される収入や利益に基づいて、株価を評価する方法です。

この手法は、会社の将来の利益獲得能力を加味できる点で優れていますが、将来の計画性が必要となり、事情計画や将来情報に対するバイアス(偏り)を排除することが難しく、客観性が問題となることが多いです。

2-2.マーケットアプローチ(類似業種比準方式)

マーケットアプローチとは、その会社と同業の株価が判明している会社(上場している会社)との時価総額を比較したりすることによって、株価を評価する方法です。

要は、株価が判明している同業他社との比較によって、株価を割り出そうとする方法です。

この手法は、株価が判明している類似会社との比較によって株価を割り出すものであるため、評価の客観性の点で優れていますが、類似する上場会社がないようなケースでは使用できませんし、その会社独自の特徴については、株価に反映させることが出来ない点で一定のデメリットはあります。

2-3.コスト・アプローチ(純資産方式)

コスト・アプローチとは、その会社の純資産をもとに株価を評価する方法です。

この手法は、帳簿上の純資産をもとに株価を割り出すものであるため、評価の客観性の点で優れていますが、将来の利益獲得能力などを加味することが出来ない点で、一定のデメリットがあります。

2-4.混合方式

混合方式とは、上記で説明した方式を組み合わせて、株価を評価する手法です。

実務上、この混合方式を採用することが多いです。

この手法であれば、上であげた各手法の良い面を組み合わせながら、株価を算定することができます。

実際、混合方式を用いる場合には、上記の各方式で評価をした後、当該評価結果を比較検討しながら、最終的に総合評価して、株価を算出することになります。

もちろん、この総合評価の仕方も問題にはなりますが、少なくとも、上記の各方式一つで評価するよりは、合理的に株価を評価できる手法かと思います。

3.実務上の流れ

実際上、相続人間で、非上場株式の価値が争いとなった場合には、当事者間で合意を目指すことになります。

そして、当事者間で合意が出来なければ、裁判所において、鑑定を求めていくことになります。

この鑑定は、裁判所から選任された公認会計士によってなされることになりますが、鑑定を用いる場合には、事前に双方が鑑定を尊重する旨が確認されることが多いです。

4.最後に

今回は、相続時における株式の評価方法について解説しました。

遺産に未上場株式が含まれている場合、株式の価値が問題になることが多く、中々ご自身のみで対応することは難しいかと思います。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。

株式の価値が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

遺言能力とは?認知症の高齢者が作成した遺言書は有効なのか。

2023-05-12

亡くなった方の遺言書が出てきた場合、遺言書作成当時、被相続人に遺言能力という能力があったかが問題になることがあります。

遺言書作成時に、被相続人が高齢で、認知症などにより物忘れや記憶障害があった場合には、特に問題になります。

この記事では、遺言能力とは何かや、認知症の方が作成した遺言書が有効か否かなどについて、京都の弁護士が解説します。遺言能力が問題になりそうな方は、是非参考にされて下さい。

1.遺言能力とは

遺言能力とは、遺言書作成時に、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る能力を言います。要は、遺言書を作成する意味を理解に、その遺言書によってどのような効果が発生するのかが分かる能力のことです。

この遺言能力というものがなければ、有効に遺言書を作成することができません。

民法上も、「遺言書は、その遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」とされており、遺言書作成には、遺言能力が必要なことを規定しています。

そのため、遺言能力がない人によって作成された遺言書は、無効となります。

2.遺言能力が問題になりやすいケース

一般的に、遺言能力が問題になりやすいのは、遺言書作成当時、被相続人が高齢で、なおかつ、認知症や統合失調症、意識障害などの精神上の障害を有しているケースです。

このような状況下で、相続人の一人のみに全財産を与えるなど、一人を優遇した内容の遺言書を作成した場合には、遺言能力の争いが生じやすいです。

なお、公正証書遺言という、公証人が立ち会って作成された遺言書であっても、遺言能力が無いと判断されているケースも多くあり、公正証書遺言であれば、必ずしも遺言能力が認められるというわけではありません。

3.遺言能力が争われた場合の判断基準

上記の通り、認知症の方が作成した遺言書が有効かは、遺言能力が認められるか否かによって決まります。

そして、被相続人の遺言能力について、当事者間で合意に至らなかった場合には、遺言無効確認調停や訴訟の中で争われていくことになります。この中で、遺言書の無効を主張する側が、遺言書作成当時、被相続人は遺言能力を有しておらず、遺言書が無効であることを主張立証していく必要があります。

遺言能力については、下記の事情を総合的に考慮して、判断していくことになります。

以下では、一つずつ説明していきます。

3-1.精神上の障害の内容及び程度

まず、一番重要になってくるのは、被相続人が有していた精神上の障害の内容とその程度です。

精神上の障害の内容としては、認知症、統合失調症、意識障害などが挙げられますが、実務上多くの場合は、認知症が問題となってきます。認知症の中でも、その原因により、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レヴィ小体型認知症などに分けられます。

そして、一言に認知症と言っても、その症状の程度(重さ)は人によって異なってきます。

そのため、その症状の程度を裏付けるために、遺言書作成当時又はその前後の、医師の診断書やカルテ、頭部の画像データ、要介護認定の際の資料、介護施設における介護記録などを、証拠として提出していくことになります。

3-2.遺言内容の複雑性

次に、遺言能力が争いとなった時には、遺言内容の複雑性についても、判断要素になってきます。

例えば、遺言書の内容がかなり複雑で理解が難しいものであれば、遺言者にはそれに相応する高い理解能力が要求されることになります。

そのため、遺言書の内容の複雑性については、当該案件において要求される遺言能力の程度を検討する上で重要な要素となってきます。

3-3.遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等

次に、遺言能力が争いとなった時には、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等も、判断要素になってきます。

例えば、「長女に自分の全財産を相続させる」という遺言書が問題となっている時に、遺言書作成当時、被相続人と長男の関係は円満であり、会う回数も多かった一方、長女とは疎遠であったとします。

このような場合に、被相続人において「長女に自分の全財産を相続させる」との遺言書を作成する動機や理由が全くありませんし、当時の人的関係や交際状況からしても、違和感があります。また、遺言に至る経緯としても突拍子もないものとなります。

このように、遺言の動機や理由、その当時の人的関係や交際状況、遺言に至る経緯等からして、そのような遺言書を作成することが通常考えられない場合には、被相続人が遺言能力を有していなかったことを推認させる一つの要素となります。

かかる要素については、同じく遺言の無効事由である、「本人が作成した遺言ではなく偽造である」との主張とも被る要素となります。こちらについて、興味がある方は、「遺言書の偽造が疑われる場合の判断要素は何か?」という記事も参考にされてください。

3-4.年齢

最後に、被相続人が遺言書を作成した当時の年齢が問題になることもあります。

例えば、被相続人が100歳の時に当該遺言書を作成した場合には、遺言能力がなかったのではないかという考えに結びつきやすいです。

但し、高齢でも元気な方もいらっしゃるため、実務上、さほど重視されている要素ではありません。

4.最後に

今回は、遺言能力という問題について解説しました。

当職においても、ご依頼者の方に不利な遺言書が作成されており、かつ被相続人が高齢の時に当該遺言書を作成していた場合には、一度は遺言能力の主張を検討しています。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力しています。

遺言書が問題になっている方などは、是非お気軽にご相談ください。

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