遺留分

不動産が生前贈与されていた場合の対処法

2023-02-08

特定の相続人へ不動産が生前贈与されていたら、不動産の贈与が「特別受益」に該当する可能性があります。特別受益になる場合、「特別受益の持戻計算」によって贈与を受けた相続人の遺産取得割合が減ることになります。

また、生前贈与によって他の相続人が取得できる遺産が減ってしまった場合、「遺留分侵害額請求」によって一定額を取り戻せる可能性もあります。

この記事では、不動産が生前贈与されていた場合に他の相続人がとりうる対処方法をお伝えします。不公平な生前贈与が行われて納得できない方などは、ぜひ参考にしてください。

1.不動産の生前贈与が特別受益になるケース

不動産が生前贈与されると、その相続人に特別受益が成立する可能性が高くなります。

特別受益とは、特定の相続人が遺贈や贈与によって受けた特別な利益です。

遺贈や生前贈与が行われた場合、贈与を受けた相続人に特別受益が成立する可能性があります。

生前贈与が特別受益になるのは、その贈与が婚姻や養子縁組、生計の資本として贈与された場合です。例えば、結婚や養子縁組の際に不動産の贈与が行われた場合や、住むための家が贈与された場合などには通常、特別受益が成立すると考えて良いでしょう。

2.特別受益の持戻計算について

特定の相続人が不動産の生前贈与を受けて特別受益が成立する場合、贈与を無視して法定相続分に従って遺産分割すると不公平になってしまいます。特別受益を受けた相続人の財産取得分が多くなってしまうためです。

そこで、特別受益が成立する場合には、「特別受益の持戻計算」を行って特別受益を受けた相続人の遺産取得割合を減らすことになります。

特別受益の持戻計算を適用すると、特別受益を受けた相続人の遺産取得割合を減らして他の相続人の取得分が増えるので、公平に遺産分割しやすくなります。

3.特別受益の持戻計算を適用する方法

特別受益の持戻計算は、どのようにして適用すれば良いのでしょうか?

基本的には、遺産分割の際に、他の相続人が「特別受益の持戻計算を適用したい」と主張しなければなりません。

話し合いによって全員が以下の内容に合意できれば、特別受益を考慮して遺産分割ができます。

  • 特別受益の持戻計算を適用すること
  • 特別受益の持戻計算の方法(財産評価額や各自の遺産取得割合、具体的な遺産分割方法など)

贈与を受けられなかった相続人が特別受益の持戻計算をしたい場合には、遺産分割協議の際に特別受益の持戻計算を適用するよう主張しましょう。

合意できない場合には家庭裁判所で調停や審判を申し立てる必要があります。

4.不動産の生前贈与によって遺留分侵害額請求できるケース

不動産が生前贈与された場合、他の相続人の「遺留分」が侵害される可能性があります。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。

不公平な生前贈与によって遺留分すら受け取れなくなってしまった場合、他の相続人は侵害者(贈与を受けた人)に対し、遺留分侵害額請求を行って金銭で清算を求めることができます。

5.遺留分侵害額請求の対象となる贈与

生前贈与が行われても、すべての贈与が遺留分侵害額請求の対象になるわけではありません。贈与によって遺留分侵害額請求できるのは以下のような場合です。

  • 死亡前1年以内の贈与
  • 当事者が遺留分を侵害すると知って行った贈与
  • 死亡前10年以内の特別受益に該当する贈与

不動産の生前贈与の場合、死亡前10年以内に行われたものであれば遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります。

6.遺留分を請求できる相続人

遺留分はすべての相続人に認められるわけではありません。請求できるのは、「兄弟姉妹やその代襲相続人である甥姪以外の相続人です。つまり、以下のような相続人であれば遺留分侵害額を請求できます。

  • 配偶者
  • 子どもや孫、ひ孫などの直系卑属
  • 親や祖父母、曾祖父母などの直系尊属

一方、兄弟姉妹やその代襲相続人である甥姪は遺留分侵害額請求できないので、遺された遺産の中から遺産分割で遺産を取得するしかありません。

7.遺留分侵害額請求は金銭を求める権利

遺留分侵害額請求は金銭を求める権利であり、遺産そのものの引き渡しを求められるものではありません。

あくまで、「遺留分侵害額」という金銭支払を請求できるだけです。

例えば、不動産が贈与されて遺留分を侵害されたとしても、不動産そのものの引き渡しを求めたり共有にしたりできません。遺留分侵害額を計算して、遺留分侵害額請求を行いましょう。

8.遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権には時効があるので要注意です。「相続開始と遺留分侵害の事実」を知ってから遺留分を請求しないで1年が経過すると、時効が成立して遺留分を請求できなくなってしまいます。

不動産の生前贈与によって遺留分侵害を受けて納得できないなら、早めに遺留分侵害額請求を行いましょう。

相手と話し合っても遺留分侵害額の支払方法について合意できない場合、調停や訴訟で争う必要があります。

9.不動産が生前贈与されて納得できない場合、弁護士までご相談ください

不動産が生前贈与されると、他の相続人の遺産取得分が減ってしまう可能性があります。

そのような場合でも、特別受益の持戻計算をしたり遺留分侵害額請求を行ったりして不公平感を是正できるケースが多数です。

どのように対応するのが最適か、判断しかねる場合には弁護士までご相談ください。弁護士が遺産分割や遺留分侵害額請求の代理人となることも可能です。

京都の益川総合法律事務所では相続人さまの支援に力を入れておりますので、お気軽にご相談ください。

遺言書を見つけた方へ

2023-01-06

遺言書を見つけた場合、その遺言書が法務局に預けられていない自筆証書遺言や秘密証書遺言であれば「検認」を受けなければなりません。検認を受けずに開封するとペナルティが科される可能性もありますし、遺言書を隠したり書き換えたりすると「相続欠格者」になってしまうおそれもあります。

また、遺言書によって最低限の遺産さえ取得できなくなったら、遺留分侵害額請求ができます。

この記事では遺言書を発見した場合の対処方法をお伝えしますので、該当する相続人の方はぜひ参考にしてください。

1.遺言書の検認を受ける

遺言書を発見したとき、発見した遺言書が「法務局に預けられていない自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」だった場合には、家庭裁判所で検認を受けなければなりません。

検認とは、遺言書の内容や状態を裁判所で確かめて記録を残す手続きです。遺言書の破棄や勝手な書き換えなどを防止するために検認が行われます。

検認を受けずに勝手に遺言書を開封すると、5万円以下の過料の制裁が適用される可能性もあります。

ただし公正証書遺言や法務局に預けられていた自筆証書遺言の場合には検認は不要です。

検認の手続きについて詳しくはこちらの記事に書かれているのでご参照ください。

2.遺言書を破棄したり書き換えたりすると相続欠格者となる

遺言書を発見したとき、自分に不利な内容になっていても破棄したり隠したり勝手に内容を書き換えたりしてはなりません。

このようなことをすると、相続欠格者となってしまいます。相続欠格者とは、もともと相続人であっても相続できなくなった人のことです。

遺言書に対して破棄、隠匿、書き換えなどの不正行為をすると、遺産を一切相続できなくなるのでやってはなりません。

遺言書の内容に納得できないときには、次のように遺言無効確認調停を申し立てるか遺留分侵害額請求を行いましょう。

3.遺言無効確認の手続きを行う

「発見された遺言書が無効ではないか?」と疑われるケースも少なくありません。

たとえば以下のような場合、遺言書は無効になります。

3-1.本人が書いたものではない

誰かが勝手に遺言書を書いた場合、その遺言書は無効です。

3-2.自筆証書遺言や秘密証書遺言の要式を守っていない

たとえば、自筆証書遺言で全文を自筆で書かずに一部がパソコンで書かれている、署名押印が抜けている、加筆訂正の方法が法律上の方法と異なるなどの場合、遺言書の全部や一部が無効となる可能性があります。

3-3.遺言書作成当時、本人の意思能力が低下して有効に遺言書を作成できる状態ではない

遺言書の要式は守られていても、遺言書が作成された当時に本人の意思能力が大きく低下していて有効な法律行為をできる状態でなかったら、作成された遺言書は無効になります。たとえば、遺言書作成当時に本人が重度の認知症にかかっていた場合などです。

3-4.誰かが無理やり遺言書を書かせた

人から強要されて書かされた遺言書に効果は認められません。被相続人が特定の相続人やその関係者から脅されて無理やり遺言書を書かされた場合、遺言書の効果が失われる可能性があります。

3-5.遺言無効確認調停を申し立てる

上記のような理由で遺言書が無効と疑われる場合には、家庭裁判所で遺言無効確認調停を申し立てましょう。遺言無効確認調停では、申立人と相手方の間に調停委員が入って遺言が無効かどうかの話し合いを進めます。両者が納得すれば遺言書が無効であることを法的に確認できます。

3-6.遺言無効確認訴訟を申し立てる

調停が不成立になった場合には、遺言無効確認訴訟を提起しましょう。遺言無効確認訴訟で遺言書が無効であることを証明できれば、裁判所が「遺言書は無効」と確認してくれます。

遺言書の検認を受けても遺言書が無効になるケースはあります。遺言書の無効を争う手続きは難しいので、迷ったときには弁護士までご相談ください。

4.遺留分侵害額請求を行う

遺言書が有効でも内容に納得できないケースが珍しくありません。たとえば、自分の遺産取得分が大きく減らされていたら、不公平と感じる方が多いでしょう。その場合、遺留分侵害額請求を行って金銭的な補償を受けられる可能性があります。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される最低限の遺産取得割合です。

兄弟姉妹以外の法定相続人の場合、遺留分すら侵害されたら、最低限遺留分までは金銭によって取り戻すことができます。

遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害した相手へ行わねばなりません。

まずは相手と話し合い、合意できなかったら家庭裁判所で遺留分侵害額調停を申し立てましょう。それでも合意できなければ、遺留分侵害額請求訴訟を提起して遺留分侵害額の請求を進めましょう。

ただし、ご自身で遺留分侵害額請求を行うと、親族間で激しい争いになり、上手く解決できないケースも多々あります。弁護士が交渉や調停・訴訟の代理人をつとめることもできますので、お気軽にご相談ください。

京都の益川総合法律事務所では遺産相続案件に力を入れて取り組んでいます。遺言書を発見して対応方法に迷われた場合には、お気軽にご相談ください。

国際相続について

2022-11-09

国際相続とは、遺産が海外にある場合や被相続人・相続人が海外居住している、あるいは外国籍になっている場合の相続です。

国際相続では日本人の相続とは異なる手続きが必要となるケースが多く、日本法が適用されない可能性さえあります。

どういったパターンでどのような対応が要求されるのか、正しい知識をもって対応しましょう。

今回は国際相続とはどういったものなのか、対処方法を中心に解説します。

国外財産があったり相続人が外国籍になっていたりして対応に困っている方はぜひ参考にしてみてください。

1.国際相続とは

国際相続とは、相続財産や相続関係者(被相続人や相続人)が国外にあったり外国籍になっていたりする場合の相続です。渉外相続ともいわれます。

国際相続の場合、日本法が適用されない場合もよくありますし、相続手続きに必要な戸籍謄本や不動産全部事項証明書などの書類を集められないケースが多くあります。

相続手続きが複雑になり、国内相続に輪をかけて専門的な知識と対応スキルが必要となってくるでしょう。

国際相続の典型的なケース

  • 遺産の一部や全部が外国にある
  • 被相続人が海外居住していた
  • 海外居住の相続人がいる
  • 外国人が日本で死亡した

上記のような場合、国際相続として日本の相続とは異なる対応が必要です。

2.国際相続の準拠法

国際相続が発生すると、どこの国の法律を適用するかがまず問題となります。

適用法律を「準拠法」といいます。

この点については「法の適用に関する通則法」36条・37条により、以下のように規定されています。

(相続)

36条 相続は、被相続人の本国法による。

(遺言)

37条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。

2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。

つまり、基本的には「被相続人(遺言者)」の本国法が適用されます。被相続人が日本人の場合には日本の法律が適用されるものと理解しましょう。

外国の法律が適用される場合

被相続人が外国人の場合には本人の本国法が適用されます。

また、被相続人が日本人の場合でも、遺産が海外に存在する場合には外国法が適用される可能性があります。

海外の法律では遺産の種類によっては「自国の法律を適用すべき」と規定されている場合があるためです。例えば、「金融資産は被相続人の本国法、不動産は所在地の法律」を適用すると規定されていたら、不動産については所在する国の法律を適用しなければなりません。

国際相続を進める際には「どの国の法律が適用されるのか」正確に見定めて、適用法の内容を調べて把握する必要があります。

3.相続人が外国籍の場合

海外居住が長くなって現地国に帰化した場合など、相続人に外国籍の方が含まれる場合には遺産分割協議書作成の際に注意が必要です。

確かに、相続人が外国籍でも被相続人が日本人なら日本法が適用されます。

ただ、相続人が外国籍の場合には遺産分割協議書を作成するための「印鑑証明書」や「住民票」を取得できません。この場合には、現地の結婚証明書や出生証明書などの書類を取得したり、宣誓供述書を作成したりする必要があります。

4.被相続人が外国籍の場合

被相続人が外国籍の場合には、被相続人の本国法が適用されます。

国によって相続に関するルールが異なるので、法律の内容を調べるところから始めねばなりません。

5.国外資産がある場合の遺産分割方法について

被相続人が日本人の場合、国外資産があっても基本的には日本法が適用されます。

相続人が全員参加して「遺産分割協議」を行い、全員が合意して遺産分けを進めましょう。

ただし、国外資産の場合、日本法に従って遺産分割協議をしても必ずしも効力が発生するとは限りません。

諸外国では、遺産に不動産がある場合には「不動産の所在地の法律」を適用し、不動産以外の遺産については「被相続人の住所地の法律」を適用するなど「相続財産の種類によって準拠法が変わる制度」をとっている場合があるからです。

このように、遺産の種類によって適用法を分ける考え方を「相続分割主義」といいます。

相続分割主義が採用されているのは以下のような国々です。

  • アメリカ
  • イギリス
  • フランス
  • 中国など

アメリカの場合、州によっても法律が異なる可能性があります。

相続分割主義の国に不動産がある場合には、その国の法律に従って遺産相続を進めないと財産の引き継ぎができないケースが多く、慎重な対応が要求されます。

遺産の中に海外不動産が含まれていたら、まずは所在地国の法律を調べて「日本の遺産分割協議が有効となるのか」明らかにしなければならないといえるでしょう。

6.相続統一主義の国について

日本のように「すべての遺産について同じ国の法律を適用する」考え方を「相続統一主義」といいます。ただし、相続統一主義にも「住所地法」を適用する場合と「本国法」を適用する場合の2種類があります。

以下でそれぞれの例をご紹介します。

被相続人の最後の住所地の法律を適用する住所地法主義

  • スイス
  • デンマーク
  • チリ
  • アルゼンチンなど

被相続人の国籍法を適用する本国法主義

  • 日本
  • 韓国
  • ドイツ
  • イタリア
  • オランダ
  • ブラジルなど

7.まとめ

国際相続では海外の法律を調べたり海外資産の調査・把握が必要となったりして大変な手間がかかります。詳しい法的知識が求められるので、弁護士への依頼が必須となるでしょう。

京都の益川総合法律事務所では遺産相続に力を入れて取り組んでおり、国際相続の解決実績も十分有しているため、国際相続に対応しなければならない方はお気軽にご相談ください。

遺留分と生前贈与について

2022-09-22

遺留分を算定するときには「生前贈与」が大きく関わります。

「遺留分侵害者」(遺留分を侵害する人)が生前贈与を受けた場合には、生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。

「遺留分権利者」(遺留分を請求する人)が生前贈与を受けた場合には、遺留分侵害額から生前贈与分を控除しなければなりません。

今回は遺留分と生前贈与の関係について解説します。「遺留分侵害者が生前贈与された場合」と「遺留分権利者が生前贈与された場合」とに分けてみていきましょう。

1.遺留分侵害者が生前贈与された場合

まずは、遺留分侵害者が生前贈与されたケースを検討します。

遺留分侵害者とは、相続人の遺留分を侵害する人です。具体的には、被相続人から多額の遺贈や贈与を受けた人が該当します。

遺留分侵害者が生前贈与を受けた場合には、生前贈与分が遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります。

生前贈与の対象には、以下のものが含まれるからです(民法1044条)

  • 遺贈
  • 相続開始前1年間における生前贈与
  • 遺留分を侵害すると知って行われた生前贈与
  • 相続人に対する相続開始前10年間における生前贈与


相続人に対する生前贈与については「相続開始前10年間」のものが遺留分侵害額請求の対象になります。死亡の10年より前に生前贈与が行われたとしても、遺留分侵害額請求の対象になりません。

なお、法改正前は相続人への生前贈与に期間制限がありませんでしたが、法改正により、遺留分侵害額請求の対象が「相続開始前10年間」に限定されました。

近年改正されたばかりで間違えて理解している方もいるので、正しい知識をもって計算を行いましょう。

遺留分と生前贈与、計算の具体例

例えば、父親が2022年9月に死亡したケースで、2013年10月に長男へ不動産が贈与されていたとしましょう。これについては遺留分侵害額請求の対象になります。

一方、2011年8月に次男へ預金が贈与されていた場合、その預金は原則として遺留分侵害額請求の対象になりません。

2.遺留分権利者が生前贈与された場合

次に、遺留分権利者が生前贈与された場合についてみてみましょう。

遺留分権利者とは、遺留分を請求する人です。

遺留分権利者も被相続人の生前に財産の贈与を受けるケースがあります。そのような場合、贈与された財産額を遺留分侵害額から控除する必要があります。

贈与を受けているなら、その分は引き算しないと遺留分侵害額と贈与財産の2重取りになってしまうからです。

遺留分権利者が受ける贈与に関する控除には、10年間などの期間制限がありません。過去に贈与を受けていたら、基本的にすべて遺留分からの控除の対象になります。

遺留分と生前贈与、計算の具体例

例えば、父親が2022年9月に死亡したケースで長男が高額な遺贈を受け取る内容の遺言書が残されていたとしましょう。長女は遺留分侵害額請求を検討していますが、過去に1000万円の預金の生前贈与を受けていました。

この場合、長女は長男へ遺留分侵害額請求できますが、遺留分侵害額からは過去に受け取った1000万円を控除しなければなりません。なお1000万円が贈与された時期は問いません。

3.遺留分侵害額の算定手順

遺留分侵害額を計算する際には、以下の手順で進めます。

STEP1 相続財産に遺留分侵害者への贈与分(相続開始前10年間の分など)を加算する

まずは相続財産を洗い出し、どのくらいの評価額になるのかを明らかにしましょう。

そこへ遺留分侵害者の受けた生前贈与分を加算します。

遺留分侵害者が相続人である場合、加算できるのは基本的に「相続開始前10年間」に行われた生前贈与分のみです。

ただし遺留分を侵害すると知って行われた場合には、10年より前の贈与分を足せるケースもあります。

STEP2 負債を控除する

遺留分からは相続債務を控除します。相続財産に借金などの債務が含まれていたら、引き算しましょう。

STEP3 遺留分割合をあてはめる

遺留分権利者の遺留分割合を当てはめて、具体的な遺留分侵害額の金額を算定します。

STEP4 遺留分権利者の受けた贈与分を控除する

遺留分権利者が生前贈与を受けていた場合、その評価額は遺留分侵害額から控除します。この場合に控除対象となる贈与には年数制限がなく、10年より前の分も控除対象となります。

STEP5 遺留分権利者が負担する負債額を加算する

遺留分権利者が負債を負担する場合には、遺留分侵害額に加算できます。

4.遺留分侵害額請求は弁護士へお任せください

遺留分侵害額請求を行うときには、弁護士へ依頼するのが得策です。遺留分侵害額の計算は非常に複雑で、素人判断では間違ってしまうケースも多いからです。

また、遺留分侵害額請求をすると相手とトラブルになり、もめて解決できなくなる事例も多々あります。できるだけスムーズに遺留分侵害額を払ってもらうには、弁護士による助けが必要といえるでしょう。

京都の益川総合法律事務所では遺産相続や遺留分の問題に積極的に取り組んでいます。

不公平な遺言や生前贈与に納得できない方、遺留分侵害額請求をしたい方がおられましたら、時効が成立する前に、お早めにご相談ください。

被相続人が会社経営者や資産家の場合における遺留分の注意点

2022-09-15

被相続人(お亡くなりになった方)が会社経営者や資産家などの場合、後継者へ遺産を集中させる遺言や生前贈与が行われるケースが多々あります。

不公平な遺言や贈与に納得できない場合には、「遺留分侵害額請求」を行って、金銭で遺産を取り戻すことができます。

今回は、被相続人が会社経営者や資産家の場合の遺留分に関する注意点をお伝えします。

後継者以外の相続人の方はぜひ参考にしてみてください。

1.遺留分とは

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。

遺言や贈与が行われると、法定相続人であっても遺産をほとんどあるいはまったく受け取れない可能性もあります。

そんな時でも、相続人の「遺産を取得できるだろう」という期待を保護するため、一定範囲の相続人には遺留分が保障されます。

親が会社経営者や資産家で、後継者へ遺産を集中させる遺言を遺したり生前贈与したりしていても、後継者以外の子どもには遺留分が認められます。

後継者へ「遺留分侵害額請求」をすれば最低限の遺産は確保できるので、「遺産は受け取れない」とあきらめる必要はありません。

2.遺留分侵害額請求の方法

遺留分侵害額請求を行うときには、侵害者へ通知をしなければなりません。

一般的には、内容証明郵便を使って遺留分侵害額請求を行うケースが多数です。

相手方が遺留分侵害額の支払いに応じたら、話し合って金額や支払い方法を取り決めましょう。

合意ができたら遺留分に関する合意書を作成し、約束通りに支払いを受けると遺留分を取り戻せます。

3.遺留分侵害額請求の注意点

遺留分侵害額請求を行う際には、以下の点に注意しましょう。

3-1.遺留分は金銭で取り戻す権利

遺留分侵害額請求は、基本的に「お金」による清算を求める権利です。

遺産そのものを返してもらう権利ではありません。例えば、相手が「お金の代わりに株式を渡す」と言ってきても、応じる必要はありません。

但し、相手との話し合いによる代物弁済は可能です。相手が不動産や株式などの現物で遺留分を支払いたいと希望し、こちらが了承すれば現物で遺留分を清算できます。

3-2.後継者による経営が困難となるケースもある

遺留分侵害額請求を行うと、後継者による経営の支障となる可能性があります。

その結果、会社が倒産してしまったりこれまで受け継がれてきた資産を売却しなければならなくなったりするケースも多いので、事業や資産を遺したい方の意に反する結果となるリスクが発生します。

事業や資産を遺して穏便に解決する方法を探るためには、相手との妥協点を見出さねばなりません。

自分で交渉すると適切な解決が難しくなるケースが多いので、弁護士までお任せください。

3-3.期間制限に要注意

遺留分侵害額請求には期間制限もあります。

具体的には、「相続開始と遺留分侵害」の両方を知ってから1年以内に相手へ請求しなければなりません。

確実に1年以内に請求を行ったことを証明するためにも、内容証明郵便を使って遺留分侵害額請求を行うべきといえます。

迷っている間に1年が経過して権利を失ってしまう方もいるので、早めに対応しましょう。

また、遺留分侵害額請求を行ったあとには「債権の時効」が適用されます。遺留分侵害額請求をしてから、5年間で消滅時効にかかります。

なお、遺留分の期間制限については「相続開始から10年」という時効もあります。これにより相続開始や不公平な遺言の存在を知らなくても、相続発生後10年が経過したら遺留分侵害額を請求できなくなります。

3-4.トラブルになりやすい

遺留分侵害額請求を行うと、トラブルが生じやすいので注意が必要です。親族間でやり取りすると、どうしても感情的になりやすいためです。

その結果、自分で相手に遺留分侵害額を行っても、スムーズに支払いを受けられないケースが少なくありません。

もともと不仲ではなかった相続人同士でも、遺留分侵害額請求をきっかけに断絶してしまう事例も多々あります。

遺留分侵害額の返還方法について話し合いで解決できない場合、家庭裁判所で遺留分に関する調停を申し立てなければなりませんし、調停も不成立になったら地方裁判所で遺留分侵害額請求訴訟を提起しなければなりません。

自分たちで遺留分侵害額請求を行うと、スムーズに解決するのは難しくなるリスクが高くなるといえるでしょう。

4.遺留分侵害額請求は弁護士へ相談を

会社経営者や資産家の相続案件で遺留分侵害額請求を行うと、金額も大きくなるケースが多く事業にも大きな影響が及ぶので、トラブルが拡大しやすい傾向があります。

当初から弁護士に任せる方が、よりスムーズに解決できるでしょう。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続案件に注力していますので、まずはお気軽にご相談ください。

内縁の妻や夫、連れ子、離婚した時の子どもに相続権はある?京都の弁護士が解説!

2022-09-02
  • 内縁の妻には相続権がないのでしょうか?遺産を受け取れないのですか?
  • 連れ子は親の遺産を相続できないのですか?相続するにはどうしたら良いでしょうか?
  • 離婚した場合、子どもは親の遺産を相続できますか?その場合どのような手続きをとれば良いのでしょうか?

こういったご相談を受けるケースがよくあります。

今回は内縁の夫や妻、連れ子や離婚前の子どもの相続権について、京都の弁護士が解説します。

相続権のない人に相続させる方法や、相続人に相続させたくない方法についてもご説明しますので、お悩みの方はぜひ参考にしてみてください。

1.内縁の夫や妻の相続権

まずは内縁の夫や妻に相続権が認められるのか、みていきましょう。

1-1.内縁関係とは

内縁関係とは、婚姻届を提出していない事実上の夫婦関係を意味します。

婚姻届を提出していないので、夫婦であっても名字も戸籍も異なります。

ただし婚姻して夫婦共同生活をする意思を持ち、実際に夫婦として生活している実態があるので、一定程度までは法律上の「夫婦」としての保護を受けます。

一方、相続に関しては、内縁の夫婦に権利が認められません。

内縁関係の場合、パートナーが死亡しても一切遺産相続ができないのです。たとえばパートナーに子どもがいると、遺産はすべて子どもに相続されてしまいます。

内縁の配偶者は家も預貯金も相続できず、家を退去しなければならない可能性もあります。

1-2.内縁の夫や妻へ相続させる方法

内縁のパートナーへ相続させるには、「遺言書」を作成しましょう。

遺言書があれば、相続権のない人への「遺贈」ができるからです。たとえば自宅不動産や預貯金などを内縁の夫や妻へ遺贈しておけば、他に相続人がいても内縁の配偶者へ一定の遺産を遺せます。

ただし、子どもなどの相続人には「遺留分」が認められます。

すべての遺産を内縁の配偶者へ遺贈すると、子どもから内縁の配偶者へ「遺留分侵害額請求」が行われてトラブルになってしまうリスクも生じます。

内縁のパートナーへ財産を遺言によって遺贈する場合、子どもなどの遺留分権利者にも一定の資産を相続させる内容にするのが良いでしょう。

2.連れ子の相続権

次に「連れ子」の相続権についてご説明します。連れ子とは、結婚相手の前の配偶者との間の子どもを意味します。

例えば、AさんがBさんと結婚するとき、Bさんが前の夫との子どもの親権者になっているとしましょう。この場合、AさんにとってBさんの子どもは連れ子です。

連れ子は自分と直接の血のつながりはないけれど、結婚相手が親権者となっているので一緒に暮らすようになり、自分の子どものように可愛がる方も多数います。

ただし、連れ子には基本的に相続権がありません。あくまで結婚相手の子どもであり、自分とは親子関係がないからです。何の対応もしなければ連れ子に遺産を受け継がせることができません。

結婚後に実子ができていれば、実子にすべての財産が引き継がれてしまい、連れ子が不公平と感じる可能性もあります。

連れ子へ相続させる方法

連れ子へ遺産を相続させる方法は以下の2つです。

■養子縁組をする

連れ子と養子縁組をすると、連れ子とも法律上の親子関係ができます。すると連れ子は「子ども」として第一順位の優先的な遺産相続権を取得します。

実子がいる場合でも実子と同様の遺産相続権を取得できるので、公平に遺産相続できるでしょう。

この場合、実子と養子が話し合って遺産分割の方法を決定する必要があります。

■遺言書を作成する

2つ目の方法は遺言です。たとえば実子がいる場合でも、連れ子と実子に同等の遺産を遺す内容の遺言をしておけば不満は生じにくいでしょう。

実子と連れ子の取得割合を指定したり、特定の遺産を遺贈したりもできます。

3.離婚前の子どもの相続権

ご相談の多い3パターン目として、離婚前の子どもの相続権についてもみておきましょう。

離婚前の子どもとは、前婚の配偶者との間の子どもです。

離婚して親権者にならなかった場合、子どもとは没交渉となるケースもあります。そんなときでも子どもには相続権が認められるのでしょうか?

法律的に、婚姻時に生まれた子どもには基本的に相続権が認められます。その後に親が離婚したとしても子どもは相続権を失いません。特別な手続きを経なくても、親が死亡したら子どもは相続人になります。

親権者にならなかった親が再婚していたら、離婚前の子どもは親の新しい家族(再婚相手や子どもなど)と遺産分割協議を行って遺産分割方法を決定しなければなりません。

■離婚前の子どもに相続させない方法

離婚前の子どもに相続させたくない場合、やはり遺言書が役立ちます。

遺言で「離婚前の子どもには相続させない」「遺産はすべて現在の家族へ相続させる」旨の内容を指定しておけば、離婚前の子どもは相続できません。

ただし、遺留分を侵害すると遺留分侵害額請求が起こる可能性もあるので、一定の遺産は相続させるのが良いでしょう。

4.最後に

京都の益川総合法律事務所では遺産相続のサポートに力を入れて取り組んでいます。お悩みごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

多額の生前贈与を受けている相続人がいる場合の対処方法

2022-07-27

高額な生前贈与を受けた相続人がいる場合、単純に法定相続分に従って遺産分割するだけでは不公平になってしまいます。

公平に分けるには、贈与を受けた相続人の相続分を減らすため、「特別受益持戻計算」をしなければなりません。

生前贈与によって遺産が減って十分な財産を受け取れない場合には、「遺留分侵害額請求」もできる可能性があります。

今回は、多額の生前贈与を受けた相続人がいる場合の対処方法を、遺産分割と遺留分侵害額請求の2パターンに分けて、京都の弁護士がお伝えします。

1.特別受益の持戻計算をする

相続人へ多額の生前贈与が行われると、受贈者には「特別受益」が発生する可能性があります。

特別受益とは、相続人が遺言や贈与によって受ける特別な利益です。

贈与の場合、以下のものが特別受益となります。

  • 婚姻や養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与


1-1.特別受益となる生前贈与の具体例

よくある生前贈与による特別受益の例をみてみましょう。

  • 結婚するときに親から持参金をもらった
  • 結婚するときにパートナーと住む家の資金を出してもらった
  • 養子縁組するときに居住用の不動産を用意してもらった
  • 事業を起こすときに資金を出してもらった
  • 留学費用などの高額な学費を出してもらった
  • 親から高級車を買い与えてもらった

但し、上記がすべて特別受益になるとは限りません。

例えば、学費を出してもらったケースでは、ご家族の経済状況や他の相続人との取り扱いの差なども考慮して特別受益となるかどうかが決定されます。

特別受益に該当するかどうか判断に迷ったら弁護士へ相談しましょう。

1-2.特別受益の持戻計算とは

特別受益を受けた相続人がいる場合、特別受益の持戻計算を適用して遺産分割を公平に行うことができます。

特別受益の持戻計算とは、受益者の受けた特別受益の分、受益者の相続分を減らすための計算方法です。

持戻計算をすれば、受益者の受け取り分が減って他の相続人の受け取り分が増え、最終的に公平に遺産分割ができます。

1-3.特別受益の持戻計算の具体例

遺産の価額は4,300万円、子ども3人(長男、次男、長女)が相続人となり、長男へ2,000万円の生前贈与が行われていた。

この場合、遺産である4,300万円に長男へ贈与された2,000万円を足します。

すると全体は6,300万円となります。これを法定相続分(3分の1)に応じて割り付け、それぞれの取得分は2,100万円ずつとなります。

但し、長男はすでに2,000万円受け取っているので、100万円しか受け取れません。次男と長女はそれぞれ2,100万円ずつ相続できます。

1-4.特別受益の持戻計算は免除されている可能性も

被相続人は、自分の意思で特別受益の持戻計算を免除できます。

遺言書に「特別受益の持戻計算はしない」と書かれていたら、他の相続人の希望があっても持戻計算を適用できません。

また、20年以上連れ添った配偶者へ居住用不動産が贈与された場合には、被相続人による持戻計算免除意思が推定されます。

1-5.特別受益の持戻計算を適用する方法

特別受益の持戻計算を適用するには、遺産分割協議の場で他の相続人が特別受益を主張する必要があります。

何も言わなければ、法定相続分に応じて遺産分割される可能性が高いと考えましょう。

受贈者が特別受益の存在を否定すると、話し合い(協議)では解決するのは難しくなります。

その場合、家庭裁判所で遺産分割調停や審判を申し立てなければなりません。

審判になると、裁判所が特別受益の有無や金額を判断し、適切な遺産分割の方法を決定します。

2.遺留分侵害額請求をする

生前贈与の額が大きくなると、特別受益の持戻計算を行っても相続人が十分な遺産を受け取れない可能性があります。例えば、全財産を生前贈与されてしまったら、他の相続人は一切遺産を受け取れません。

そのような場合、相続人が「遺留分侵害額請求」により遺産に相当するお金を請求できる可能性があります。

2-1.遺留分の割合

子どもや配偶者が相続人に含まれる場合、遺留分割合は遺産全体の2分の1です。

親や祖父母などの直系尊属のみが相続人になる場合、遺留分割合は遺産全体の3分の1になります。

遺留分権利者が複数いる場合、上記の割合をそれぞれの相続人の法定相続分に応じて分配します。

2-2.遺留分侵害額請求の効果

遺留分侵害額請求をすると、侵害された遺留分を「お金」として取り戻せます。

例えば、3人の子どもが相続人になる場合で遺産額が600万円、亡くなる1年前に長男へ3,000万円の生前贈与が行われていたとしましょう。

この場合、次男と長女にはそれぞれ6分の1の遺留分が認められます(遺留分割合2分の1×各人の法定相続分3分の1)。

そこで長男に対し、3600万円×6分の1=600万円の遺留分侵害額請求権が認められ、次男と長女はそれぞれ長男に対し、600万円の支払いを求めることが可能です。

但し、遺産額の600万円を次男と長女で分割した場合には、次男と長女がそれぞれ300万円ずつ取得していることになるため、長男に対しては、300万円の支払いを求めることができるにとどまります。

2-3.遺留分侵害額請求の方法と期限

遺留分侵害額請求を行使したい場合、それぞれの遺留分権利者が侵害者に対し、任意の方法で請求すれば足ります。

口頭やメールなどでもかまいませんが、内容証明郵便を使うとより大きなプレッシャーをかけられるでしょう。

但し、相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内に請求しなければなりません。時効を確実に止めるには内容証明郵便が最適です。

弁護士を交渉代理に立てるとスムーズに支払いを受けられるケースが多いので、もめてしまいそうなケースではぜひご検討ください。

3.最後に

京都の益川総合法律事務所では、相続人の方々へのサポートに力を入れています。不公平な生前贈与に納得できない方は、お気軽にご相談ください。

「長男に全財産を相続させる」遺言書が作成されていた場合の対処法

2022-07-21

子どもが複数いる場合でも、親が「長男へすべての財産を相続させる」と遺言書を遺すケースが少なくありません。

他の兄弟姉妹からすると、当然「納得できない」と感じるでしょう。

不公平な遺言書が遺された場合、他の相続人には長男へ「遺留分侵害額請求」を行ってお金を取り戻せる可能性があります。

今回は、「長男に全財産を相続させる」などの不公平な遺言書に納得できない場合の対処方法を、京都の弁護士がお伝えします。

1.遺言書が無効になると主張する

遺言書が遺されたとしても、必ず有効とは限りません。遺言書が無効になるケースも多々あります。

無効であれば遺言書による相続分の指定はできないので、長男には全財産の遺産相続権が認められません。民法の定めるとおり、法定相続人が法定相続分に応じて遺産を相続することになります。

遺言書に納得できないなら、まずは遺言書が無効にならないか検討しましょう。

1-1.遺言書が無効になるケースとは

遺言書が無効になる「よくあるケース」としては、以下のような場合があげられます。

①自筆証書遺言で自筆でない部分がある

遺産目録をのぞいて一部でも自筆でない部分があると、遺言書は無効になります。

②自筆証書遺言で、署名押印や日付が抜けている

署名押印や日付のない遺言書、それらの部分が自筆でない遺言書は無効です。

③遺言書が書かれた時点において、認知症が進行しており遺言能力がなかった

自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、遺言書作成時に遺言者の認知症が進行していて判断能力が失われていた場合には遺言書が無効となります。

遺言書の無効を主張するには、長男との交渉、調停、訴訟などの手続きをふまねばなりません。自分たちで対応するとトラブルが拡大してしまうケースが多いので、早めに弁護士へご相談ください。

2.遺留分侵害額請求を行う

遺言書が有効だとしても、「遺留分侵害額請求」を行って最低限の遺産取得分を取り戻せる可能性があります。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、最低限度の遺産取得割合です。

配偶者や子どものみが法定相続人になる場合、遺留分の割合は2分の1となります。その割合を各法定相続人が法定相続分に応じて取得します。

遺留分侵害額請求権は「お金」で遺留分を取り戻す権利なので、行使する場合には長男へ金銭の請求を行いましょう。

たとえば5,000万円の遺産があって長女に4分の1の遺留分が認められる場合、長女は長男へ1,250万円の請求が可能です。

2-1.遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権には時効があるので注意しましょう。

相続開始と遺留分侵害の両方を知ってから1年以内に請求しないと権利が失われてしまいます。

あとから「請求されていない」などといわれないようにするには、内容証明郵便を使って遺留分侵害額請求書を送付すると安心です。

2-2.遺留分侵害額請求の手順

遺留分侵害額請求を行う際には、以下の手順で進めましょう。

STEP1 請求する

まずは長男に遺留分侵害額を請求しなければ何も始まりません。

長男との関係が良好で、話し合って遺留分を払ってくれそうなら内容証明郵便を使わず、まずは口頭や普通郵便、メールなどで連絡するのも良いでしょう。

一方、長男の態度が強行で支払いを拒否するようなら内容証明郵便を用いましょう。時効が成立しそうな場合にも内容証明郵便を用いるべきです。

STEP2 交渉して合意する

遺留分侵害額の請求書を送ったら、長男側と話し合いを行います。

支払い額や支払い方法について合意ができたら、遺留分侵害額に関する合意書を作成しましょう。分割払いにする場合には、公正証書にしておくようおすすめします。

約束とおり支払いを受けられたら遺留分問題を解決できます。

STEP3 遺留分侵害額の調停を申し立てる

長男と話し合っても遺留分侵害額の支払いについて合意できない場合には、家庭裁判所で遺留分侵害額の調停を申し立てなければなりません。調停では、調停委員が間に入って調整を進めてくれます。

調停で長男を含めた全員が納得すれば、遺留分侵害額の支払いを受けられます。

長男が約束を守らない場合、長男の財産の差し押さえも可能です。

STEP4 遺留分侵害額請求訴訟を提起する

調停でも合意できない場合、訴訟を提起しなければなりません。

判決が出ると、裁判所が長男へ遺留分侵害額の支払い命令を下してくれます。長男が払わない場合でも、長男の資産を差し押さえて遺留分侵害額を回収できます。

3.遺言書があっても異なる方法で遺産分割できる

「長男へ全財産を相続させる」という遺言書があっても、相続人全員が納得すれば別の方法で遺産分割できます。

長男が譲ってくれるなら、他の兄弟も通常の遺産分割で遺産を受け取れるのです。

長男との関係性にもよりますが、場合によっては一度相続人全員でよく話し合ってみるとよいでしょう。

4.最後に

不公平な遺言書が遺されたときには、長男との関係性や遺言書の状態に応じていくつかの選択肢があります。

ベストな方法でスムーズに解決するために、お気軽に京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

相続不動産の評価方法や基準時について

2022-07-13

不動産を相続したら「評価」をしなければなりません。

現金や預金と異なり不動産の価値は日々変動するので、「いつの時点の価値」を基準とすべきかが問題になります。

また相続税を計算する際にも時価とは異なる特殊な計算方法が適用されるので、正しい評価方法を理解する必要があります。

今回は相続不動産の評価方法について、京都の弁護士が解説します。土地や建物、マンションなどの不動産を相続された方はぜひ参考にしてみてください。

1.不動産を評価する「タイミング(時点)」について

不動産の価値は日々変動するので、遺産分割や特別受益となる生前贈与があった場合などには「いつの時点の評価額を基準にすべきか」決めなければなりません。

法律実務では、以下の時点における評価額を採用すべきと考えられています。

  • 遺産分割の場合は遺産分割時
  • 特別受益の場合には相続開始時
  • 遺留分侵害額請求の場合には相続開始時


また税制上、相続時精算課税制度が適用される場合には「贈与時」の評価額が適用されます。

それぞれについて、解説します。

2.遺産分割の場合は遺産分割時

遺産分割が行われる場合には、遺産分割時の「時価」を基準に不動産を評価します。

遺産分割時とは、相続人たちが実際に話し合いを行って遺産分割協議や調停をするタイミングです。そのときの「不動産の時価」を調べて不動産の価額とします。

時価は不動産会社へ無料の査定を申し込めば提示してもらえます。

また、法律実務では、固定資産評価額を基に不動産の時価を判断することも多いです。

具体的には、一般的に土地の固定資産評価額は時価の7割程度とされているため、土地については固定資産評価額に7分の10を掛けた金額を時価とします。対して、建物の時価は固定資産評価額を基準に判断することが多い印象です。

相続人間で意見が割れる場合には不動産鑑定士に依頼して鑑定をしなければならない可能性もあります。

3.特別受益の評価は相続開始時

特別受益がある場合にも不動産の評価が問題となります。

たとえば不動産が生前贈与された場合、贈与時なのか相続開始時なのか特別受益の持戻計算を適用する遺産分割時なのか、3パターンの評価時が考えられるでしょう。

法律実務では「相続開始時の時価」が採用されています。

つまり「被相続人が死亡した時点」における不動産の時価が特別受益で贈与された不動産の評価額となります。

遺産分割の対象となる他の不動産は「遺産分割時の時価」で評価されるので、贈与された財産とは評価時が異なります。

4.遺留分侵害額請求の評価時点は相続開始時

遺留分侵害額請求をするときにも不動産を評価しなければなりません。

遺留分侵害額請求とは、配偶者、子どもや親などの相続人が遺留分を侵害されたときに最低限の遺産保障分である遺留分を取り戻すための手続きです。

遺留分侵害額請求における遺産の評価基準時は「相続開始時」となります。

遺留分侵害額請求を行うタイミングではないので、混乱しないよう注意しましょう。

5.相続時精算課税制度における不動産評価基準時

相続時精算課税制度を適用する際にも不動産の評価方法が問題となります。

相続時精算課税制度とは、親や祖父母などの直系尊属が子どもや孫などの直系卑属へ資産を生前贈与するときに最大2500万円分が非課税となる制度です。

贈与された資産は相続発生時に相続財産に組み入れられてまとめて相続税の課税対象になります。そこで、贈与された不動産がいつのタイミングで評価されるのか、贈与時か相続発生時なのか定めなければなりません。

相続時精算課税制度を適用する場合、生前贈与された資産は「贈与時」のタイミングで評価するので、正しく把握しておきましょう。

6.相続税における不動産評価方法

相続税を計算する際には、時価とは異なる特殊な評価方法を適用します。

6-1.土地の場合

土地の場合には基本的に「相続税路線価」を使って評価します。相続時路線価とは、道路に面した宅地の1平方メートルあたりの単価をいいます。

路線価がわかれば、路線価に土地の面積を掛け算すると不動産の評価額を求められます。

相続税路線価の設定のない場所では、土地の固定資産評価額に一定の倍率を掛け算して評価額を求める「評価倍率」という方法を用います。

相続税路線価や評価倍率を適用すると、不動産の価額は時価の約80%程度になります。

各地の路線価や評価倍率は、下記の国税庁のサイトで公表されています。

https://www.rosenka.nta.go.jp/

6-2.建物の場合

建物の場合には「固定資産税評価額」を用いて評価します。

調べたいときには役所へ行って固定資産評価証明書を申請しましょう。

6-3.マンションの場合

マンションの場合にも土地や建物と基本的な考え方は同じです。

マンションの建物部分(専有部分)については「固定資産評価額」で評価し、敷地権の部分については「相続税路線価」で計算し、双方を合算します。

以上のとおり、現預金と不動産を比較すると、不動産の方が評価額は下がります。

この性質を利用し、生前に現預金を使って不動産を購入すると、遺産の評価額を下げて節税する方が多数おられます。

7.最後に

京都の益川総合法律事務所では遺産相続された方へのサポートに注力しています。

不動産の評価方法に迷われた方、遺産分割や遺留分侵害額請求を行う必要のある方はお気軽にご相談ください。

遺言書の効力、無効になる場合をパターンごとに弁護士が解説

2022-06-14

「遺言書にはどのような効力が認められるのでしょうか?」

といったご相談を受けるケースがよくあります。

遺言書を作成すると相続分の指定や相続人以外の人への遺贈など、さまざまな事項を指定できます。相続トラブルを防ぐ効力もあります。

ただし認知症の方が遺言書を作成すると無効になってしまうリスクがあるので、遺言書を作成されるのであれば、元気なうちに早めに作成される方がよいです。

今回は遺言書の効力、無効になるケースや有効な遺言書を作成する方法について、京都の弁護士が解説します。

1.遺言書で指定できること

遺言書にはさまざまな効力があります。

まずは遺言によって何を指定できるのか、代表的な事項をお伝えします。

  • 相続分の指定
  • 遺産分割方法の指定
  • 一定期間における遺産分割の禁止
  • 遺贈
  • 寄付
  • 子どもの認知
  • 相続人の廃除や取消し
  • 遺言執行者の指定
  • 特別受益持戻し計算の免除
  • 生命保険受取人の指定や変更

遺言書には相続トラブル予防の効力がある

遺言書には相続トラブルを予防する効力も期待できます。

例えば、遺産分割方法を指定しておけば、相続人が遺産分割協議を行う必要がありません。意見が合わなくて対立してしまうトラブルを防げるでしょう。

遺言執行者を指定しておけばスムーズに遺言内容を実現できるので、遺言書が無視されたり放置されたりするトラブルを防げます。

死後にトラブルを防いでご希望を実現したいなら、遺言書の作成を検討しましょう。

2.遺言書が要式違反で無効になるパターン

遺言書に効力が認められない1つ目のパターンは「要式違反」です。

自筆証書遺言の場合、自分で要式を守った遺言書を作成しなければなりません。

要式を守らない遺言書は無効です。

よくある間違いをみてみましょう。

2-1.自筆していない部分がある

自筆証書遺言は、遺産目録の部分以外すべて自筆しなければなりません。

一部でもパソコンを使ったり代筆をお願いしたりすると無効になります。


2-2.日付を入れない

日付を入れ忘れると無効です。「○月吉日」など、日付を特定しない場合も無効になるので必ず年月日まで記入しましょう。


2-3.署名押印を忘れる

署名押印を忘れると遺言書に効力が認められません。


2-4.加除訂正方法を間違える

遺言書を書き間違えたときの加除訂正方法については、法律によって細かいルールが定められています。
きちんと従わないと無効になってしまうので正しい知識をもって対応しましょう。

3.遺言能力がなくて遺言書が無効になるパターン

遺言書の要式を守っていても「遺言能力が失われた状態で作成した」場合、無効になります。

3-1.遺言能力とは

遺言能力とは、遺言書を作成する意味を理解し、死後に遺言書によってどういった効果が発生するのかわかる能力です。

有効に遺言書を作成するには、遺言能力が必要です。

基本的には15歳以上の人に遺言能力が認められますが(民法961条)、認知症が進行して事理弁識能力が低下すると「遺言能力がない」と判断される可能性があります。

遺言能力のない人が作成した遺言書は無効であり、重度な認知症の方が遺言書を作成しても、効力が認められない可能性が高くなります。

3-2.遺言能力があるかどうかの判断基準

遺言能力があるかどうかについては、以下のような要素によって判断されます。

■医学的な診断、医師の意見

まずは医学的な診断や検査結果が重要な考慮要素となります。

例えば、以下のようなものは判断の指標として重要視されるでしょう。

  • 遺言書を作成した当時の診断書、カルテ
  • 要介護認定の有無や程度
  • 要介護認定時に提出された資料
  • 介護施設での記録
  • 介護日誌
  • 長谷川式スケールの点数

■当時の本人の言動

遺言者本人が作成当時、どういった言動をとっていたかも考慮されます。

例えば、日常的に徘徊や妄想など、異常な行動や言動があれば遺言能力がなかったと判断される可能性が高まります。

判断能力が十分だった頃の行動や言動と、実際の遺言内容との間に大きな剥離がある場合にも、遺言能力が怪しまれる可能性があります。

■遺言書の内容や表現

遺言書の内容や表現そのものも遺言能力の判断の指標になります。

例えば、複数の収益不動産や株式の遺産分割方法を指定するなど、複雑な遺言内容であれば高度な判断能力が必要です。難しい、遺言内容であるにもかかわらず本人の能力に不安があれば、遺言能力がないとされる可能性が高まります。

反対に、少額の預金を特定の相続人に残すだけ、全財産を配偶者に残すだけなどの簡単な内容であれば、遺言能力が認められやすいでしょう。

4.遺言書の効力に疑問がある場合には

「遺言書が無効なのではないか」と考えられる場合、まずは他の相続人や受遺者と話し合って遺言書に従うべきかどうか検討されることになります。全員が納得すれば、遺言書を無視して、遺産分割協議で遺産を分けることも可能となります。

話し合っても合意できないなら、家庭裁判所で遺言無効確認調停を申し立てられることになります。

それでも合意が難しければ、最終的に地方裁判所で遺言無効確認訴訟が提起されます。

5.最後に

遺言書を作成するのであれば、適切な方法で作成する必要があります。

遺言書の有効性を巡ってトラブルが発生すると、熾烈な争いに発展して紛争が長期化するケースも多々あります。

いずれの場合でも、弁護士によるサポートが必要になるので、困ったときには京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

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