遺留分

内縁の妻や夫、連れ子、離婚した時の子どもに相続権はある?京都の弁護士が解説!

2022-09-02
  • 内縁の妻には相続権がないのでしょうか?遺産を受け取れないのですか?
  • 連れ子は親の遺産を相続できないのですか?相続するにはどうしたら良いでしょうか?
  • 離婚した場合、子どもは親の遺産を相続できますか?その場合どのような手続きをとれば良いのでしょうか?

こういったご相談を受けるケースがよくあります。

今回は内縁の夫や妻、連れ子や離婚前の子どもの相続権について、京都の弁護士が解説します。

相続権のない人に相続させる方法や、相続人に相続させたくない方法についてもご説明しますので、お悩みの方はぜひ参考にしてみてください。

1.内縁の夫や妻の相続権

まずは内縁の夫や妻に相続権が認められるのか、みていきましょう。

1-1.内縁関係とは

内縁関係とは、婚姻届を提出していない事実上の夫婦関係を意味します。

婚姻届を提出していないので、夫婦であっても名字も戸籍も異なります。

ただし婚姻して夫婦共同生活をする意思を持ち、実際に夫婦として生活している実態があるので、一定程度までは法律上の「夫婦」としての保護を受けます。

一方、相続に関しては、内縁の夫婦に権利が認められません。

内縁関係の場合、パートナーが死亡しても一切遺産相続ができないのです。たとえばパートナーに子どもがいると、遺産はすべて子どもに相続されてしまいます。

内縁の配偶者は家も預貯金も相続できず、家を退去しなければならない可能性もあります。

1-2.内縁の夫や妻へ相続させる方法

内縁のパートナーへ相続させるには、「遺言書」を作成しましょう。

遺言書があれば、相続権のない人への「遺贈」ができるからです。たとえば自宅不動産や預貯金などを内縁の夫や妻へ遺贈しておけば、他に相続人がいても内縁の配偶者へ一定の遺産を遺せます。

ただし、子どもなどの相続人には「遺留分」が認められます。

すべての遺産を内縁の配偶者へ遺贈すると、子どもから内縁の配偶者へ「遺留分侵害額請求」が行われてトラブルになってしまうリスクも生じます。

内縁のパートナーへ財産を遺言によって遺贈する場合、子どもなどの遺留分権利者にも一定の資産を相続させる内容にするのが良いでしょう。

2.連れ子の相続権

次に「連れ子」の相続権についてご説明します。連れ子とは、結婚相手の前の配偶者との間の子どもを意味します。

例えば、AさんがBさんと結婚するとき、Bさんが前の夫との子どもの親権者になっているとしましょう。この場合、AさんにとってBさんの子どもは連れ子です。

連れ子は自分と直接の血のつながりはないけれど、結婚相手が親権者となっているので一緒に暮らすようになり、自分の子どものように可愛がる方も多数います。

ただし、連れ子には基本的に相続権がありません。あくまで結婚相手の子どもであり、自分とは親子関係がないからです。何の対応もしなければ連れ子に遺産を受け継がせることができません。

結婚後に実子ができていれば、実子にすべての財産が引き継がれてしまい、連れ子が不公平と感じる可能性もあります。

連れ子へ相続させる方法

連れ子へ遺産を相続させる方法は以下の2つです。

■養子縁組をする

連れ子と養子縁組をすると、連れ子とも法律上の親子関係ができます。すると連れ子は「子ども」として第一順位の優先的な遺産相続権を取得します。

実子がいる場合でも実子と同様の遺産相続権を取得できるので、公平に遺産相続できるでしょう。

この場合、実子と養子が話し合って遺産分割の方法を決定する必要があります。

■遺言書を作成する

2つ目の方法は遺言です。たとえば実子がいる場合でも、連れ子と実子に同等の遺産を遺す内容の遺言をしておけば不満は生じにくいでしょう。

実子と連れ子の取得割合を指定したり、特定の遺産を遺贈したりもできます。

3.離婚前の子どもの相続権

ご相談の多い3パターン目として、離婚前の子どもの相続権についてもみておきましょう。

離婚前の子どもとは、前婚の配偶者との間の子どもです。

離婚して親権者にならなかった場合、子どもとは没交渉となるケースもあります。そんなときでも子どもには相続権が認められるのでしょうか?

法律的に、婚姻時に生まれた子どもには基本的に相続権が認められます。その後に親が離婚したとしても子どもは相続権を失いません。特別な手続きを経なくても、親が死亡したら子どもは相続人になります。

親権者にならなかった親が再婚していたら、離婚前の子どもは親の新しい家族(再婚相手や子どもなど)と遺産分割協議を行って遺産分割方法を決定しなければなりません。

■離婚前の子どもに相続させない方法

離婚前の子どもに相続させたくない場合、やはり遺言書が役立ちます。

遺言で「離婚前の子どもには相続させない」「遺産はすべて現在の家族へ相続させる」旨の内容を指定しておけば、離婚前の子どもは相続できません。

ただし、遺留分を侵害すると遺留分侵害額請求が起こる可能性もあるので、一定の遺産は相続させるのが良いでしょう。

4.最後に

京都の益川総合法律事務所では遺産相続のサポートに力を入れて取り組んでいます。お悩みごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

多額の生前贈与を受けている相続人がいる場合の対処方法

2022-07-27

高額な生前贈与を受けた相続人がいる場合、単純に法定相続分に従って遺産分割するだけでは不公平になってしまいます。

公平に分けるには、贈与を受けた相続人の相続分を減らすため、「特別受益持戻計算」をしなければなりません。

生前贈与によって遺産が減って十分な財産を受け取れない場合には、「遺留分侵害額請求」もできる可能性があります。

今回は、多額の生前贈与を受けた相続人がいる場合の対処方法を、遺産分割と遺留分侵害額請求の2パターンに分けて、京都の弁護士がお伝えします。

1.特別受益の持戻計算をする

相続人へ多額の生前贈与が行われると、受贈者には「特別受益」が発生する可能性があります。

特別受益とは、相続人が遺言や贈与によって受ける特別な利益です。

贈与の場合、以下のものが特別受益となります。

  • 婚姻や養子縁組のための贈与
  • 生計の資本としての贈与


1-1.特別受益となる生前贈与の具体例

よくある生前贈与による特別受益の例をみてみましょう。

  • 結婚するときに親から持参金をもらった
  • 結婚するときにパートナーと住む家の資金を出してもらった
  • 養子縁組するときに居住用の不動産を用意してもらった
  • 事業を起こすときに資金を出してもらった
  • 留学費用などの高額な学費を出してもらった
  • 親から高級車を買い与えてもらった

但し、上記がすべて特別受益になるとは限りません。

例えば、学費を出してもらったケースでは、ご家族の経済状況や他の相続人との取り扱いの差なども考慮して特別受益となるかどうかが決定されます。

特別受益に該当するかどうか判断に迷ったら弁護士へ相談しましょう。

1-2.特別受益の持戻計算とは

特別受益を受けた相続人がいる場合、特別受益の持戻計算を適用して遺産分割を公平に行うことができます。

特別受益の持戻計算とは、受益者の受けた特別受益の分、受益者の相続分を減らすための計算方法です。

持戻計算をすれば、受益者の受け取り分が減って他の相続人の受け取り分が増え、最終的に公平に遺産分割ができます。

1-3.特別受益の持戻計算の具体例

遺産の価額は4,300万円、子ども3人(長男、次男、長女)が相続人となり、長男へ2,000万円の生前贈与が行われていた。

この場合、遺産である4,300万円に長男へ贈与された2,000万円を足します。

すると全体は6,300万円となります。これを法定相続分(3分の1)に応じて割り付け、それぞれの取得分は2,100万円ずつとなります。

但し、長男はすでに2,000万円受け取っているので、100万円しか受け取れません。次男と長女はそれぞれ2,100万円ずつ相続できます。

1-4.特別受益の持戻計算は免除されている可能性も

被相続人は、自分の意思で特別受益の持戻計算を免除できます。

遺言書に「特別受益の持戻計算はしない」と書かれていたら、他の相続人の希望があっても持戻計算を適用できません。

また、20年以上連れ添った配偶者へ居住用不動産が贈与された場合には、被相続人による持戻計算免除意思が推定されます。

1-5.特別受益の持戻計算を適用する方法

特別受益の持戻計算を適用するには、遺産分割協議の場で他の相続人が特別受益を主張する必要があります。

何も言わなければ、法定相続分に応じて遺産分割される可能性が高いと考えましょう。

受贈者が特別受益の存在を否定すると、話し合い(協議)では解決するのは難しくなります。

その場合、家庭裁判所で遺産分割調停や審判を申し立てなければなりません。

審判になると、裁判所が特別受益の有無や金額を判断し、適切な遺産分割の方法を決定します。

2.遺留分侵害額請求をする

生前贈与の額が大きくなると、特別受益の持戻計算を行っても相続人が十分な遺産を受け取れない可能性があります。例えば、全財産を生前贈与されてしまったら、他の相続人は一切遺産を受け取れません。

そのような場合、相続人が「遺留分侵害額請求」により遺産に相当するお金を請求できる可能性があります。

2-1.遺留分の割合

子どもや配偶者が相続人に含まれる場合、遺留分割合は遺産全体の2分の1です。

親や祖父母などの直系尊属のみが相続人になる場合、遺留分割合は遺産全体の3分の1になります。

遺留分権利者が複数いる場合、上記の割合をそれぞれの相続人の法定相続分に応じて分配します。

2-2.遺留分侵害額請求の効果

遺留分侵害額請求をすると、侵害された遺留分を「お金」として取り戻せます。

例えば、3人の子どもが相続人になる場合で遺産額が600万円、亡くなる1年前に長男へ3,000万円の生前贈与が行われていたとしましょう。

この場合、次男と長女にはそれぞれ6分の1の遺留分が認められます(遺留分割合2分の1×各人の法定相続分3分の1)。

そこで長男に対し、3600万円×6分の1=600万円の遺留分侵害額請求権が認められ、次男と長女はそれぞれ長男に対し、600万円の支払いを求めることが可能です。

但し、遺産額の600万円を次男と長女で分割した場合には、次男と長女がそれぞれ300万円ずつ取得していることになるため、長男に対しては、300万円の支払いを求めることができるにとどまります。

2-3.遺留分侵害額請求の方法と期限

遺留分侵害額請求を行使したい場合、それぞれの遺留分権利者が侵害者に対し、任意の方法で請求すれば足ります。

口頭やメールなどでもかまいませんが、内容証明郵便を使うとより大きなプレッシャーをかけられるでしょう。

但し、相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内に請求しなければなりません。時効を確実に止めるには内容証明郵便が最適です。

弁護士を交渉代理に立てるとスムーズに支払いを受けられるケースが多いので、もめてしまいそうなケースではぜひご検討ください。

3.最後に

京都の益川総合法律事務所では、相続人の方々へのサポートに力を入れています。不公平な生前贈与に納得できない方は、お気軽にご相談ください。

「長男に全財産を相続させる」遺言書が作成されていた場合の対処法

2022-07-21

子どもが複数いる場合でも、親が「長男へすべての財産を相続させる」と遺言書を遺すケースが少なくありません。

他の兄弟姉妹からすると、当然「納得できない」と感じるでしょう。

不公平な遺言書が遺された場合、他の相続人には長男へ「遺留分侵害額請求」を行ってお金を取り戻せる可能性があります。

今回は、「長男に全財産を相続させる」などの不公平な遺言書に納得できない場合の対処方法を、京都の弁護士がお伝えします。

1.遺言書が無効になると主張する

遺言書が遺されたとしても、必ず有効とは限りません。遺言書が無効になるケースも多々あります。

無効であれば遺言書による相続分の指定はできないので、長男には全財産の遺産相続権が認められません。民法の定めるとおり、法定相続人が法定相続分に応じて遺産を相続することになります。

遺言書に納得できないなら、まずは遺言書が無効にならないか検討しましょう。

1-1.遺言書が無効になるケースとは

遺言書が無効になる「よくあるケース」としては、以下のような場合があげられます。

①自筆証書遺言で自筆でない部分がある

遺産目録をのぞいて一部でも自筆でない部分があると、遺言書は無効になります。

②自筆証書遺言で、署名押印や日付が抜けている

署名押印や日付のない遺言書、それらの部分が自筆でない遺言書は無効です。

③遺言書が書かれた時点において、認知症が進行しており遺言能力がなかった

自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、遺言書作成時に遺言者の認知症が進行していて判断能力が失われていた場合には遺言書が無効となります。

遺言書の無効を主張するには、長男との交渉、調停、訴訟などの手続きをふまねばなりません。自分たちで対応するとトラブルが拡大してしまうケースが多いので、早めに弁護士へご相談ください。

2.遺留分侵害額請求を行う

遺言書が有効だとしても、「遺留分侵害額請求」を行って最低限の遺産取得分を取り戻せる可能性があります。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる、最低限度の遺産取得割合です。

配偶者や子どものみが法定相続人になる場合、遺留分の割合は2分の1となります。その割合を各法定相続人が法定相続分に応じて取得します。

遺留分侵害額請求権は「お金」で遺留分を取り戻す権利なので、行使する場合には長男へ金銭の請求を行いましょう。

たとえば5,000万円の遺産があって長女に4分の1の遺留分が認められる場合、長女は長男へ1,250万円の請求が可能です。

2-1.遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権には時効があるので注意しましょう。

相続開始と遺留分侵害の両方を知ってから1年以内に請求しないと権利が失われてしまいます。

あとから「請求されていない」などといわれないようにするには、内容証明郵便を使って遺留分侵害額請求書を送付すると安心です。

2-2.遺留分侵害額請求の手順

遺留分侵害額請求を行う際には、以下の手順で進めましょう。

STEP1 請求する

まずは長男に遺留分侵害額を請求しなければ何も始まりません。

長男との関係が良好で、話し合って遺留分を払ってくれそうなら内容証明郵便を使わず、まずは口頭や普通郵便、メールなどで連絡するのも良いでしょう。

一方、長男の態度が強行で支払いを拒否するようなら内容証明郵便を用いましょう。時効が成立しそうな場合にも内容証明郵便を用いるべきです。

STEP2 交渉して合意する

遺留分侵害額の請求書を送ったら、長男側と話し合いを行います。

支払い額や支払い方法について合意ができたら、遺留分侵害額に関する合意書を作成しましょう。分割払いにする場合には、公正証書にしておくようおすすめします。

約束とおり支払いを受けられたら遺留分問題を解決できます。

STEP3 遺留分侵害額の調停を申し立てる

長男と話し合っても遺留分侵害額の支払いについて合意できない場合には、家庭裁判所で遺留分侵害額の調停を申し立てなければなりません。調停では、調停委員が間に入って調整を進めてくれます。

調停で長男を含めた全員が納得すれば、遺留分侵害額の支払いを受けられます。

長男が約束を守らない場合、長男の財産の差し押さえも可能です。

STEP4 遺留分侵害額請求訴訟を提起する

調停でも合意できない場合、訴訟を提起しなければなりません。

判決が出ると、裁判所が長男へ遺留分侵害額の支払い命令を下してくれます。長男が払わない場合でも、長男の資産を差し押さえて遺留分侵害額を回収できます。

3.遺言書があっても異なる方法で遺産分割できる

「長男へ全財産を相続させる」という遺言書があっても、相続人全員が納得すれば別の方法で遺産分割できます。

長男が譲ってくれるなら、他の兄弟も通常の遺産分割で遺産を受け取れるのです。

長男との関係性にもよりますが、場合によっては一度相続人全員でよく話し合ってみるとよいでしょう。

4.最後に

不公平な遺言書が遺されたときには、長男との関係性や遺言書の状態に応じていくつかの選択肢があります。

ベストな方法でスムーズに解決するために、お気軽に京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

相続不動産の評価方法や基準時について

2022-07-13

不動産を相続したら「評価」をしなければなりません。

現金や預金と異なり不動産の価値は日々変動するので、「いつの時点の価値」を基準とすべきかが問題になります。

また相続税を計算する際にも時価とは異なる特殊な計算方法が適用されるので、正しい評価方法を理解する必要があります。

今回は相続不動産の評価方法について、京都の弁護士が解説します。土地や建物、マンションなどの不動産を相続された方はぜひ参考にしてみてください。

1.不動産を評価する「タイミング(時点)」について

不動産の価値は日々変動するので、遺産分割や特別受益となる生前贈与があった場合などには「いつの時点の評価額を基準にすべきか」決めなければなりません。

法律実務では、以下の時点における評価額を採用すべきと考えられています。

  • 遺産分割の場合は遺産分割時
  • 特別受益の場合には相続開始時
  • 遺留分侵害額請求の場合には相続開始時


また税制上、相続時精算課税制度が適用される場合には「贈与時」の評価額が適用されます。

それぞれについて、解説します。

2.遺産分割の場合は遺産分割時

遺産分割が行われる場合には、遺産分割時の「時価」を基準に不動産を評価します。

遺産分割時とは、相続人たちが実際に話し合いを行って遺産分割協議や調停をするタイミングです。そのときの「不動産の時価」を調べて不動産の価額とします。

時価は不動産会社へ無料の査定を申し込めば提示してもらえます。

また、法律実務では、固定資産評価額を基に不動産の時価を判断することも多いです。

具体的には、一般的に土地の固定資産評価額は時価の7割程度とされているため、土地については固定資産評価額に7分の10を掛けた金額を時価とします。対して、建物の時価は固定資産評価額を基準に判断することが多い印象です。

相続人間で意見が割れる場合には不動産鑑定士に依頼して鑑定をしなければならない可能性もあります。

3.特別受益の評価は相続開始時

特別受益がある場合にも不動産の評価が問題となります。

たとえば不動産が生前贈与された場合、贈与時なのか相続開始時なのか特別受益の持戻計算を適用する遺産分割時なのか、3パターンの評価時が考えられるでしょう。

法律実務では「相続開始時の時価」が採用されています。

つまり「被相続人が死亡した時点」における不動産の時価が特別受益で贈与された不動産の評価額となります。

遺産分割の対象となる他の不動産は「遺産分割時の時価」で評価されるので、贈与された財産とは評価時が異なります。

4.遺留分侵害額請求の評価時点は相続開始時

遺留分侵害額請求をするときにも不動産を評価しなければなりません。

遺留分侵害額請求とは、配偶者、子どもや親などの相続人が遺留分を侵害されたときに最低限の遺産保障分である遺留分を取り戻すための手続きです。

遺留分侵害額請求における遺産の評価基準時は「相続開始時」となります。

遺留分侵害額請求を行うタイミングではないので、混乱しないよう注意しましょう。

5.相続時精算課税制度における不動産評価基準時

相続時精算課税制度を適用する際にも不動産の評価方法が問題となります。

相続時精算課税制度とは、親や祖父母などの直系尊属が子どもや孫などの直系卑属へ資産を生前贈与するときに最大2500万円分が非課税となる制度です。

贈与された資産は相続発生時に相続財産に組み入れられてまとめて相続税の課税対象になります。そこで、贈与された不動産がいつのタイミングで評価されるのか、贈与時か相続発生時なのか定めなければなりません。

相続時精算課税制度を適用する場合、生前贈与された資産は「贈与時」のタイミングで評価するので、正しく把握しておきましょう。

6.相続税における不動産評価方法

相続税を計算する際には、時価とは異なる特殊な評価方法を適用します。

6-1.土地の場合

土地の場合には基本的に「相続税路線価」を使って評価します。相続時路線価とは、道路に面した宅地の1平方メートルあたりの単価をいいます。

路線価がわかれば、路線価に土地の面積を掛け算すると不動産の評価額を求められます。

相続税路線価の設定のない場所では、土地の固定資産評価額に一定の倍率を掛け算して評価額を求める「評価倍率」という方法を用います。

相続税路線価や評価倍率を適用すると、不動産の価額は時価の約80%程度になります。

各地の路線価や評価倍率は、下記の国税庁のサイトで公表されています。

https://www.rosenka.nta.go.jp/

6-2.建物の場合

建物の場合には「固定資産税評価額」を用いて評価します。

調べたいときには役所へ行って固定資産評価証明書を申請しましょう。

6-3.マンションの場合

マンションの場合にも土地や建物と基本的な考え方は同じです。

マンションの建物部分(専有部分)については「固定資産評価額」で評価し、敷地権の部分については「相続税路線価」で計算し、双方を合算します。

以上のとおり、現預金と不動産を比較すると、不動産の方が評価額は下がります。

この性質を利用し、生前に現預金を使って不動産を購入すると、遺産の評価額を下げて節税する方が多数おられます。

7.最後に

京都の益川総合法律事務所では遺産相続された方へのサポートに注力しています。

不動産の評価方法に迷われた方、遺産分割や遺留分侵害額請求を行う必要のある方はお気軽にご相談ください。

遺言書の効力、無効になる場合をパターンごとに弁護士が解説

2022-06-14

「遺言書にはどのような効力が認められるのでしょうか?」

といったご相談を受けるケースがよくあります。

遺言書を作成すると相続分の指定や相続人以外の人への遺贈など、さまざまな事項を指定できます。相続トラブルを防ぐ効力もあります。

ただし認知症の方が遺言書を作成すると無効になってしまうリスクがあるので、遺言書を作成されるのであれば、元気なうちに早めに作成される方がよいです。

今回は遺言書の効力、無効になるケースや有効な遺言書を作成する方法について、京都の弁護士が解説します。

1.遺言書で指定できること

遺言書にはさまざまな効力があります。

まずは遺言によって何を指定できるのか、代表的な事項をお伝えします。

  • 相続分の指定
  • 遺産分割方法の指定
  • 一定期間における遺産分割の禁止
  • 遺贈
  • 寄付
  • 子どもの認知
  • 相続人の廃除や取消し
  • 遺言執行者の指定
  • 特別受益持戻し計算の免除
  • 生命保険受取人の指定や変更

遺言書には相続トラブル予防の効力がある

遺言書には相続トラブルを予防する効力も期待できます。

例えば、遺産分割方法を指定しておけば、相続人が遺産分割協議を行う必要がありません。意見が合わなくて対立してしまうトラブルを防げるでしょう。

遺言執行者を指定しておけばスムーズに遺言内容を実現できるので、遺言書が無視されたり放置されたりするトラブルを防げます。

死後にトラブルを防いでご希望を実現したいなら、遺言書の作成を検討しましょう。

2.遺言書が要式違反で無効になるパターン

遺言書に効力が認められない1つ目のパターンは「要式違反」です。

自筆証書遺言の場合、自分で要式を守った遺言書を作成しなければなりません。

要式を守らない遺言書は無効です。

よくある間違いをみてみましょう。

2-1.自筆していない部分がある

自筆証書遺言は、遺産目録の部分以外すべて自筆しなければなりません。

一部でもパソコンを使ったり代筆をお願いしたりすると無効になります。


2-2.日付を入れない

日付を入れ忘れると無効です。「○月吉日」など、日付を特定しない場合も無効になるので必ず年月日まで記入しましょう。


2-3.署名押印を忘れる

署名押印を忘れると遺言書に効力が認められません。


2-4.加除訂正方法を間違える

遺言書を書き間違えたときの加除訂正方法については、法律によって細かいルールが定められています。
きちんと従わないと無効になってしまうので正しい知識をもって対応しましょう。

3.遺言能力がなくて遺言書が無効になるパターン

遺言書の要式を守っていても「遺言能力が失われた状態で作成した」場合、無効になります。

3-1.遺言能力とは

遺言能力とは、遺言書を作成する意味を理解し、死後に遺言書によってどういった効果が発生するのかわかる能力です。

有効に遺言書を作成するには、遺言能力が必要です。

基本的には15歳以上の人に遺言能力が認められますが(民法961条)、認知症が進行して事理弁識能力が低下すると「遺言能力がない」と判断される可能性があります。

遺言能力のない人が作成した遺言書は無効であり、重度な認知症の方が遺言書を作成しても、効力が認められない可能性が高くなります。

3-2.遺言能力があるかどうかの判断基準

遺言能力があるかどうかについては、以下のような要素によって判断されます。

■医学的な診断、医師の意見

まずは医学的な診断や検査結果が重要な考慮要素となります。

例えば、以下のようなものは判断の指標として重要視されるでしょう。

  • 遺言書を作成した当時の診断書、カルテ
  • 要介護認定の有無や程度
  • 要介護認定時に提出された資料
  • 介護施設での記録
  • 介護日誌
  • 長谷川式スケールの点数

■当時の本人の言動

遺言者本人が作成当時、どういった言動をとっていたかも考慮されます。

例えば、日常的に徘徊や妄想など、異常な行動や言動があれば遺言能力がなかったと判断される可能性が高まります。

判断能力が十分だった頃の行動や言動と、実際の遺言内容との間に大きな剥離がある場合にも、遺言能力が怪しまれる可能性があります。

■遺言書の内容や表現

遺言書の内容や表現そのものも遺言能力の判断の指標になります。

例えば、複数の収益不動産や株式の遺産分割方法を指定するなど、複雑な遺言内容であれば高度な判断能力が必要です。難しい、遺言内容であるにもかかわらず本人の能力に不安があれば、遺言能力がないとされる可能性が高まります。

反対に、少額の預金を特定の相続人に残すだけ、全財産を配偶者に残すだけなどの簡単な内容であれば、遺言能力が認められやすいでしょう。

4.遺言書の効力に疑問がある場合には

「遺言書が無効なのではないか」と考えられる場合、まずは他の相続人や受遺者と話し合って遺言書に従うべきかどうか検討されることになります。全員が納得すれば、遺言書を無視して、遺産分割協議で遺産を分けることも可能となります。

話し合っても合意できないなら、家庭裁判所で遺言無効確認調停を申し立てられることになります。

それでも合意が難しければ、最終的に地方裁判所で遺言無効確認訴訟が提起されます。

5.最後に

遺言書を作成するのであれば、適切な方法で作成する必要があります。

遺言書の有効性を巡ってトラブルが発生すると、熾烈な争いに発展して紛争が長期化するケースも多々あります。

いずれの場合でも、弁護士によるサポートが必要になるので、困ったときには京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

作り直された遺言書の効力~遺言書の撤回と取消について

2022-04-26

一度は遺言書を作成しても、後に気が変わって書き換えたり破棄したりしたい状況があるものです。

  • 遺言で多めに相続させた子どもと不仲になってしまった
  • 遺言で少なめに相続させた子どもから、献身的に介護を受けたのでもっと多くの遺産を遺したい
  • 事業承継をするケースで、後継者が変わった
  • 財産を使ったので、遺産内容が変わってしまった

民法は、遺言の撤回や取消を認めていますが、撤回、取消にも一定のルールがあります。近年、最高裁判所で遺言の撤回についての新判断も出ています。

今回は、京都の弁護士が遺言書の撤回や取消の方法についてお伝えします。

遺言書を作成される方のみならず、発見された遺言書の効力を知りたい方にもお役に立つ内容ですので、是非ご確認ください。

1.遺言書の撤回、取消は自由にできる

いったん遺言書を作成しても、遺言者は自由に撤回や取消ができます(民法1022条)。

撤回部分は全部であっても一部であってもかまいません。

(遺言の撤回)

第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

反対に、1度遺言書を作成すると撤回しない限り以前の内容が有効なままとなります。もし、遺言書作成時と状況が変化したり気が変わったりしたら、早めに遺言書を撤回しましょう。

以下では法律の定める遺言撤回に関するルールをご紹介します。

2.以前と異なる内容の遺言書を作成する

遺言を撤回したい場合、以前と異なる内容の遺言書を作成するのが基本です。

以前と異なる内容の新しい遺言書を作成すると、自然に以前の遺言書の効力が失われます(民法1023条)。遺言書は「日付の新しいもの」が優先されるのです。

第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

ただし以前の遺言書のすべての部分が無効になるとは限りません。

新しい遺言書と以前の遺言書で「矛盾する部分」のみが無効になります。

遺言書の一部のみを書き換えたい場合には、法的には、以前の遺言の中で「変えたい部分のみ」を新しい遺言書に書き込めば足ります。

但し、以前の遺言と新しい遺言の「矛盾する部分」がどこかが争いになり得るので、当事務所としては、遺言書を書き換える時は、全部を書き換えることをおすすめしています。

3.遺言書を破棄する

以前に書いた遺言書を破棄したら、遺言書を撤回したことになり効果は失われます(民法1024条前段)。

第1024条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

■遺言書を破棄する方法

遺言書全体を撤回、取り消したい場合には、破って捨てるのが確実です。

破棄の方法があいまいな場合、自分では撤回したつもりでも撤回が認められない可能性があり、注意しなければなりません。

■遺言書を破棄する方法についての最高裁判例

最高裁判所において、遺言破棄の効果が争われた事例をご紹介します(最判平成27年11月20日)。

このケースでは、遺言者が遺言書作成後、遺言書の一部に赤斜線を引きました。

第1審と第2審は、「赤斜線が引かれても元の文字を判読できる以上、民法1024条前段の『故意に遺言書を破棄したとき』に該当せず、遺言は有効」と判断しました。

一方で最高裁判所は「遺言は無効」と判断しました。

理由は以下のとおりです(判決文をわかりやすく編集しています)。

「赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引くと、一般的には遺言書全体を不要として全ての効力を失わせる意味の表れとみるのが相当である。故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段の『故意に遺言書を破棄したとき』に該当するというべきで、本件遺言を撤回したものとみなされる。したがって遺言は効力を有しない」

この最高裁判決により、遺言書の一部に赤斜線を引いた場合には、遺言書全体が無効となることが確認されました。但し、このような曖昧な方法により遺言書を破棄すると争いの種になるので、好ましい方法ではありません。

4.遺贈の目的物を破棄する

遺言者が遺贈の目的物を破棄した場合にも、遺言書が無効になります(民法1024条後段)。

たとえば相続人へ骨董品などの動産を遺贈したけれども、その後気が変わって壊したら遺言の該当部分は無効です。

また遺贈した不動産を売却したり預貯金を使ってしまったりした場合にも遺言書の効力は失われます。

5.撤回の撤回はできない

遺言書を1度撤回しても、再度気が変わって「撤回の撤回」をしたい状況も考えられます。

しかし撤回の撤回は認められません(民法1025条)。

1度撤回した後に再度効果を復活させたい場合には、あらためて別の遺言書を作成する必要があります。

第1025条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

■例外的に撤回の撤回ができるケース

詐欺や強迫によって遺言書を撤回した場合、例外的に撤回の撤回も認められます。

遺言書を撤回したい場合、間違った対応をすると上記の最高裁の事例のように撤回の効力があいまいになってしまいます。遺言書作成後に気が変わったときや状況に変化があったときには、弁護士のアドバイスを受けて撤回、取消を行うのが確実です。

6.最後に

当事務所では遺言書作成に関するサポートや遺言書の効力を争う事案について積極的に取り組んでいます。この2つの内容については一見矛盾するように見えるかもしれませんが、遺言書の効力を争う事案に取り組んでいるからこそ、そのような紛争にならない形での遺言書作成に関するサポートができると自負しております。

お困りの方はお気軽にご相談ください。

遺産相続に強い弁護士の特徴

2022-04-12

遺産分割や遺留分など「相続」に関する案件を依頼するなら「遺産相続に強い弁護士」を選ぶべきです。

ひとことで「弁護士」といってもそれぞれ得意分野、専門分野があるので、誰でもよいわけではありません。また、人生にそう多くあるものではない重大事項を任せるのですから、相性も重要です。

今回は遺産相続に強い、頼りになる弁護士の特徴や選び方を京都の弁護士がご紹介しますので、相続案件のご依頼を検討している方はぜひ参考にしてみてください。

1.遺産相続に強い弁護士の特徴

遺産相続に強い、頼りになる弁護士の特徴として、以下のような点をあげられます。

1-1.遺産相続の解決実績が豊富

1つは遺産相続案件についての解決実績です。

一般的に、数多くの遺産関係事件を解決した経験が多ければ、その分知識やノウハウも蓄積していると考えられます。

これまでの事件を参考にした実践的なアドバイスも期待できるでしょう。

当事務所は1983年創業の老舗法律事務所であり、これまで遺産額が8億円以上の大規模相続の案件や多数の不動産が絡む案件、権利関係が複雑で難しい案件など、多数の案件を解決して参りました。

解決実績として不足はないと自負しております。

1-2.遺産相続関係の業務を多く取り扱っている

過去にたくさんの遺産相続案件を取り扱っていても、現在はあまり取り扱っていない事務所もあります。積極的でない事務所に依頼しても、良い解決は望みにくいと思われます。

現在においても積極的に遺産分割や遺留分、遺言書作成等の案件に注力している弁護士事務所を選ぶことが重要です。

1-3.研究熱心

遺産相続分野においても、さまざまな法律や制度の変更があります。たとえば最近では相続法が大きく改正され、遺産分割や遺留分、遺言書についての取り扱いが変更されました。

依頼する弁護士を選ぶなら、法改正や制度の改正、判例の変更などについて研究熱心で最新の情報へ更新している人を選びましょう。

1-4.他業種と連携している

遺産相続案件を解決するには、弁護士だけではなく司法書士や税理士の力が必要となるケースが多々あります。

たとえば、相続税に関する税務相談や申告は税理士の業務となります。また、遺産の中に不動産が含まれていれば、司法書士へ登記を依頼しなければなりません。

相続に力を入れている弁護士は、通常税理士や司法書士とも連携して一丸となって案件の解決に取り組んでいるものです。弁護士を選ぶ際には、他業種と連携しているかどうかもチェックしましょう。

当事務所でも遺産相続案件に力を入れている税理士や司法書士と提携していますので、安心してご相談ください。

1-5.リスクも説明してくれる

遺産分割や遺留分請求などを行うとき、依頼者にとって有利な事情ばかりがあるとは限りません。ときにはリスクもあり、不利な状況となっているケースもあるでしょう。

誠実な弁護士は、メリットだけではなくデメリットやリスクも説明してくれるものです。

問題になりそうな点もはっきり指摘してくれる弁護士に注目してみてください(ただし消極的な対応で否定的な意見しか述べない弁護士には依頼すべきではありません)。

1-6.相性が良い、信頼できる

弁護士との相性も重要です。

実際に話してみて話しやすいと感じられる人、信頼感をもてる人を選びましょう。

話しにくい人を選んでしまうと、長い遺産相続案件解決までの道のりの中で、ストレスを感じてしまいます。

2.弁護士を選ぶときに重要な視点

上記以外にも、一般的に弁護士を選ぶ際には以下のような視点が重要です。

2-1.費用が明確である

1つは弁護士費用です。

費用体系が明確でわかりやすいかどうか確認しましょう。

2-2.コミュニケーションをとりやすい

弁護士とコミュニケーションをとりやすいかどうかも確認してください。

たとえば電話がつながりやすいか、つながらなかったとしても折り返してもらえるか、メールの返事は早いか、など弁護士事務所によって対応が大きく異なります。

メールは遅くとも3営業日以内には返信してくれる弁護士事務所がよいでしょう。

2-3.時間的場所的なアクセスが良い

アクセスも重要です。

弁護士に案件を依頼すると何度も通わねばならないので、なるべく交通アクセスの良い事務所を選びましょう。

また、夜間や土日祝日の相談を希望されているのであれば、相談日時についても柔軟に対応してもらえる弁護士事務所が良いです。ご事情に応じて依頼する弁護士事務所を決定しましょう。

3.最後に

当事務所は1983年の創業以来、数々の遺産相続案件を解決してまいりました。現在も法令や裁判例の研究を欠かさず、積極的に遺産分割や遺留分関係の案件を受任しております。

親身かつ迅速丁寧な対応を心がけておりますので、京都・滋賀・大阪・兵庫で弁護士をお探しの方はお気軽にご相談ください。

遺産分割と遺留分侵害額請求の違い

2022-04-05

「遺産分割と遺留分侵害額請求の違いがわかりません」

といったご相談を受けることがあります。

遺産分割と遺留分侵害額請求は、全く異なる内容になります。

遺産分割は、法定相続人が遺産を分け合うことであるのに対し、遺留分侵害額請求権は遺言や贈与で遺留分を侵害された人が金銭的な補償を求めることです。

とはいえ、相続の場面では、「遺産分割」や「遺留分」などいろいろな言葉が出てくるので、混乱してしまうこともあるかと思います。

今回は、遺産分割と遺留分侵害額請求の違いやそれぞれが問題となる場面について、京都の弁護士が解説します。

1.遺産分割とは

遺産分割とは、法定相続人が遺産の分け方を決めることです。

不動産や預貯金などの遺産が残されたとき、遺言がなければ法定相続人が法定相続分に従って分配するのが原則です。

ただし、法律は「法定相続分」という「割合」しか定めていません。具体的にどの相続人がどの遺産を相続するのかは、本人たちが話し合って決めなければなりません。

そのための手続きが遺産分割です。

相続人が話し合って遺産分割を決めるのが遺産分割協議で、話し合いでは決められない場合には家庭裁判所で遺産分割調停や遺産分割審判を行って遺産分割方法を決定します。

2.遺留分侵害額請求とは

遺留分侵害額請求とは、不公平な遺言書や贈与によって遺留分を侵害されたとき、遺留分権利者が侵害者へ金銭請求を行うことです。

兄弟姉妹以外の相続人が法定相続人となる場合、一定額の遺留分が認められます。遺留分とは、遺言や贈与によっても奪えない最低限の遺産取得割合です。

遺言や贈与によって遺留分まで受け取れなくなると、権利者は侵害者へ「遺留分侵害額請求」を行い、金銭的な補償を求められます。

それが遺留分侵害額請求です。

3.遺産分割と遺留分侵害額請求の違い一覧表

遺産分割と遺留分の違いについて、一覧表でまとめました。

 遺産分割遺留分侵害額請求
当事者法定相続人遺留分権利者
問題となる状況遺言によって相続方法が指定されていない場合遺留分権利者の遺留分が侵害された場合
方法遺産を分け合う。現物分割、代償分割、換価分割、共有等が可能金銭賠償
進め方遺産分割協議、調停、審判話し合い、調停、訴訟
割合法定相続分遺留分
時効や期間制限なし相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内

以下でそれぞれについて、解説します。

3-1.当事者

遺産分割の当事者は「法定相続人」です。

法定相続人となる可能性があるのは、以下の親族です。

  • 配偶者
  • 子どもや孫、ひ孫などの直系卑属
  • 親や祖父母、曽祖父母などの直系尊属
  • 兄弟姉妹と甥姪

配偶者は常に法定相続人になりますが、他の相続人には順序があります。

もっとも優先されるのは子どもや孫、ひ孫などの直系卑属で、2番目は親や祖父母、曾祖父母などの直系尊属、3番目が兄弟姉妹と甥姪です。

なお、孫や祖父母、甥姪などは常に相続人になるわけではありません。

孫の場合には「子どもが先に死亡している場合」、甥姪の場合には「兄弟姉妹が先に死亡している場合」に代襲相続人となります。

対して、遺留分が認められるのは、兄弟姉妹や甥姪以外の法定相続人であり、兄弟姉妹や甥姪が相続人となっても遺留分侵害額請求はできません。

3-2.問題となる状況

遺産分割は、遺言書によって遺産分割方法が指定されていない場合に行うものです。遺産分割しないと、いつまでも遺産分割方法が決まらず名義変更などの手続きができません。

遺留分侵害額請求は、遺言や贈与によって遺留分を侵害されたときに権利者が行えるものです。必ずしなければならないものではありません。

3-3.方法

遺産分割は「現物分割」「代償分割」「換価分割」などの方法で行います。どの方法で分け合うかは相続人の話し合いや調停などの手続きによって決定します。

遺留分侵害額請求は、基本的に「金銭賠償」で解決します。ただし双方が納得すれば、不動産などで代物弁済してもかまいません。

3-4.進め方

遺産分割は、まず法定相続人が全員参加して「遺産分割協議」を行い、話し合いでの合意を目指します。決裂したら家庭裁判所で遺産分割調停や審判を申し立てて解決するのが一般的な流れです。

遺留分侵害額請求は、通常遺留分権利者と侵害者が話し合って遺留分侵害額の支払い方法を決定します。

話し合いが決裂したら遺留分侵害額の請求調停を申し立てて、それも不成立となったら遺留分侵害額訴訟を提起して解決する流れとなります。

3-5.割合

遺産分割の場合、「法定相続分」に応じてそれぞれの相続人が遺産を取得します。ただし話し合いで全員が合意すれば法定相続分に従う必要はありません。

遺留分侵害額請求の場合、請求者の「遺留分」に相当する金銭を請求します。複数の遺留分権利者がいる場合、遺留分の割合は法定相続分より小さくなります。

3-6.時効や期間制限

遺産分割協議には時効や期間制限はありません。相続開始後何年が経過しても遺産分割できますし、放置しているなら早めに行うべきです。

一方、遺留分侵害額請求の場合「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内」に相手へ請求しなければなりません。

4.最後に

遺産分割や遺留分侵害額請求でわからないことがありましたら、お気軽に京都の益川総合法律事務所までご相談ください。

生前贈与に対して遺留分請求できるケースと順序について

2022-03-29

生前贈与が行われた場合、一定範囲の相続人は受贈者(贈与を受けた人)に対して、「遺留分侵害額」を請求できる可能性があります。

ただし、すべての生前贈与が遺留分侵害額請求の対象になるわけではありません。

今回は、生前贈与に対して遺留分侵害額請求できる場合とできない場合、請求する順序について、京都の弁護士が解説します。

1.遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害されたときに権利者が侵害者へ金銭による清算を求めることです。

兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」が認められるので、遺贈や生前贈与によって遺留分を侵害されたら侵害者へ遺留分侵害額というお金の請求ができます。

遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与は、以下のようなものです。

1-1.相続人以外の人への生前贈与

■基本的には死亡前1年以内に贈与された財産が対象

相続人以外の人へ生前贈与された場合、基本的に「死亡前1年以内に行われた贈与」のみが遺留分侵害額請求の対象となります。

例えば、お亡くなりになった方が「相続人ではない孫」へ「死亡の6か月前」に不動産を贈与した場合、贈与財産は遺留分侵害額請求の対象になります。

一方、贈与時期が1年より前の場合、遺留分侵害額請求はできません。例えば、相続人でない孫へ「死亡の2年前」に不動産を贈与されていたとしても、相続人は遺留分を主張できません。

■当事者が遺留分侵害を知っていた場合

ただし当事者双方が「遺留分を侵害する」と知りながらあえて贈与契約を締結した場合には、死亡の1年より前に行われた贈与も遺留分侵害額請求の対象になります。

例えば、被相続人が長男の嫁に不動産を贈与した場合、被相続人も長男の嫁も「贈与によって相続人の遺留分を侵害する」と認識していれば、贈与時期が古くても相続人は遺留分を請求できます。

1-2.相続人への生前贈与

■基本的には死亡前10年以内に贈与された財産が対象

婚姻や養子縁組、生計の資本として贈与を受けた人が相続人の場合、基本的には「死亡前10年以内に行われた生前贈与」が遺留分侵害額請求の対象になります。

相続法改正前は時期の制限がありませんでしたが、改正によって10年に制限する規定が設けられています。

■当事者が遺留分侵害を知っていた場合

相続人が生前贈与を受けた場合も、被相続人と生前贈与を受けた相続人双方が「遺留分を侵害する」と認識しながら贈与契約を締結した場合、10年より前の贈与も遺留分侵害額請求の対象になります。

2.遺留分侵害額請求の順番

複数の生前贈与が行われると、遺留分侵害額請求をする順番を決めなければなりません。

例えば、長男に3,000万円分の不動産が贈与され、その後長女に2,000万円分の不動産が贈与されるケースを考えてみましょう。

この場合、次男はどちらに対してどれだけの遺留分請求をすればよいのでしょうか?

2-1.死亡時期に近いものから先に請求する

生前贈与に対する遺留分侵害額請求は「新しいものから」先に対象となります。

つまり死亡時期に近い生前贈与から順番に遺留分侵害額請求をしなければなりません。

例えば、長男に3,000万円分の生前贈与が行われ、その後長女に2,000万円分の生前贈与が行われた場合、次男はまずは長女に対して、遺留分侵害額請求を行う必要があります。

長女の支払い分だけでは遺留分侵害額に足りなかった場合、残りを長男へ請求します。

2-2.生前贈与が同時期に行われた場合

生前贈与が同時期に複数の人へ行われた場合には、どのように請求するのでしょうか?

この場合についても、民法によって請求方法が定められています。

同時に複数の生前贈与が行われた場合、遺留分は「目的の価額の割合に応じて」負担します。

つまり、贈与された財産額に応じて割合的に負担する、という意味です。

例えば、長男へ3,000万円の不動産、長女へ2,000万円の不動産が贈与され、次男の遺留分侵害額が1,000万円とします。

この場合、次男は長男に対して600万円、長女に対して400万円の遺留分侵害額を請求できます。

3.遺言によって遺留分侵害額の順番を指定できる

複数の生前贈与が行われた際の遺留分侵害額請求の順番は法律によって定められていますが、贈与者が遺言を遺すと順序を変更できます(民法1047条1項2号但書)。

同時期に複数の贈与が行われたとき、遺言者が「こちらの贈与から先に遺留分侵害額請求するように」と指定しておけば、権利者が按分して請求する必要はありません。

例えば、長男と長女へ同時に不動産が贈与されたとき、遺言で「先に長男へ遺留分侵害額請求するように」と指定されていたら、次男は先に長男へ遺留分侵害額請求を行います。

4.遺留分侵害額請求は弁護士へご相談を

生前贈与に対して遺留分侵害額請求を行うには、贈与が行われた証拠を集めて遺留分侵害額の計算も行わねばなりません。相手が拒否してトラブルになるケースも多々あります。

弁護士にご相談いただけましたら適正な遺留分侵害額を計算できますし、ご自身で交渉するよりも、代理交渉によってスムーズに解決できる可能性があります。

京都・滋賀・大阪・兵庫で遺留分トラブルに悩まれている方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

相続不動産から生じる賃料に対する遺留分請求

2022-03-23

遺贈や贈与された財産の中に、賃料収入が発生する「収益不動産」が含まれていると、得られた賃料に対しても遺留分を請求できるのでしょうか?

実は収益不動産の賃料に対する遺留分請求の可否は、民法改正前後で変わってきます。

今回は収益不動産の賃料と遺留分の関係について、民法の改正内容もあわせて、京都の弁護士が解説します。

1.民法改正で「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」へ

遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限度の遺産取得割合です。

遺言や贈与によって相続人の遺留分が侵害されると、侵害された相続人(権利者)は侵害者へ遺留分を請求できます。

ただし遺留分の請求方法は、民法改正によって変更されたので、それぞれについて簡単に確認しましょう。

1-1.改正前の民法は遺留分減殺請求

改正前の民法において遺留分を請求する方法は「遺留分減殺請求」でした。

遺留分減殺請求権とは、遺産そのものの取り戻しを求める権利です。

たとえば不動産が遺贈された場合、不動産そのものを請求できます。

結果として不動産は請求者と侵害者との共有となります。

1-2.改正後の民法は遺留分侵害額請求

改正後の民法で遺留分を請求する方法は「遺留分侵害額請求」です。

遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分を「お金」で清算してもらう権利です。

たとえば不動産が遺贈された場合でも、不動産そのものの引き渡しや共有は請求できません。遺留分に相当する「お金」の支払いを求められるだけです。

改正前の民法が適用されるのは2019年6月30日までに相続が発生した場合、改正後の民法が適用されるのは2019年7月1日以降に相続が発生した場合です。

2.改正前の「遺留分減殺請求」なら収益不動産の賃料を請求できる

民法改正前の遺留分減殺請求権の場合、行使すると同時に不動産が遺留分権利者のものとなって権利者との共有状態になります。

共有不動産からの賃料は共有持分権者が共有持分に応じて取得できるので、遺留分権利者にも取得する権利が認められます。

2-1.賃料分配方法の具体例

たとえば毎月の収入が30万円の物件があり、遺留分減殺請求によって不動産が「遺留分権利者3分の1、侵害者3分の2」の共有になったとしましょう。

この場合、遺留分権利者には毎月10万円の賃料を得る権利が認められます。

2-2.賃料を得られる時期は「遺留分減殺請求をした日から」

遺留分権利者が賃料を得られるのは「遺留分減殺請求を行った日から」に限られます。

相続発生後、遺留分減殺請求を行うまでの賃料は受け取れません。

収益不動産に対して遺留分減殺請求をするなら、早めに行った方がよいでしょう。

3.改正後の「遺留分侵害額請求」の場合は賃料請求できない

民法改正後の遺留分侵害額請求の場合、権利者は収益不動産からの賃料は受け取れません。

改正前の民法にあった「遺留分減殺請求をした場合の果実(収益不動産の賃料など)」についての規定も削除されています。

遺留分侵害額請求権は、あくまで「金銭的な清算を求める権利」です。

遺産そのものを返還してもらう権利ではありません。

不動産そのものに対しては権利が認められないので、そこから発生する賃料についても権利が認められないのです。

4.遺留分減殺請求できるケースとは

収益不動産の賃料を請求できるのは改正前民法の「遺留分減殺請求」に限られますが、現時点において遺留分減殺請求できるケースはどういったケースなのでしょうか?

遺留分減殺請求には「時効」が適用されるので、「相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内」に請求しなければ、権利が消滅してしまいます。

改正民法が施行されたのは2019年7月1日であり、すでに1年半以上が経過しています。

現在まで遺留分減殺請求を行っていない場合、時効消滅してしまっている可能性が高いでしょう。

現時点において遺留分減殺請求できるケースは、多くないと考えられます。

ただし以下のような場合には、現在でも遺留分減殺請求権が時効消滅していない可能性があります。

  • 2019年6月30日までに相続が発生したが、被相続人と生前交流がなく死亡の事実を最近まで知らなかった
  • 2019年6月30日までに相続が発生したが、不公平な遺言書や生前贈与の事実を最近知った
  • 相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内に遺留分減殺請求を行ったが、その後相手が応じないので交渉や調停、訴訟などが継続している

上記に該当するなら、遺留分減殺請求を行った以後の収益不動産の賃料を請求できる可能性があるでしょう。

5.遺留分に関するご相談は弁護士へ

遺留分減殺請求や遺留分侵害額請求を行うと、相手に拒否されて大きなトラブルになるケースが少なくありません。

特に収益不動産が対象となる場合、「評価」して適正金額を求める必要があります。

収益不動産の評価方法は一般の住居とは異なり複雑なので、一般の方には正しく算定するのが難しいケースも多く、トラブルの種になりがちです。

弁護士へご相談いただけましたら、各遺産の適正な評価方法や遺留分の割合、遺留分侵害額をお伝えできます。相手との交渉を代行すればスムーズに解決しやすくなるメリットもあります。

京都、滋賀、大阪、兵庫で遺留分に関してお悩みの方がおられましたら、ぜひとも一度ご相談ください。

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